さて、今回はアニメについてです。「ガルビオン」に続き、ちょっとどころか、かなりマイナーなロボットアニメ「ゴッドマジンガー」を見た感想です。
ゴッドマジンガー
1984年4月~1984年9月、日本テレビ系列で放映。全23話。東京ムービー新社製作。
あらすじ
平凡な生活に退屈していた火野ヤマトはある日、不思議な呼び声に導かれて古代世界に飛ばされてしまう。そこはドラゴニア帝国の侵略により危機をむかえたムー王国だった。ヤマトは女王アイラの祈りと神殿の石像の神秘の力によって呼び寄せられたのだ。そしてヤマトはその石像と一体化、ムーの守護神ゴッドマジンガーとなり、ドラゴニア軍と壮絶な戦いを繰り広げていく。
『マジンガーZ』のイメージを継承しつつ舞台を超古代に移し壮大な物語を展開した永井豪の原作を、アニメ化にあたりキャラクターデザインに『キャッツアイ』の平山智、作画監督に『六神合体ゴッドマーズ』の本橋秀之、音楽には羽田健太郎を迎え洗練されたロボットファンタジー作品となっている。
スタッフ
原作:永井豪/シリーズ構成:小野田博之/キャラクターデザイン:平山智/OP、EDデザイン:芝山努/脚本:辻真先、並木敏、大野木寛、塚本裕美子、星山博之、田口成光/演出:早川よしお、遠藤徹哉、井内秀治、板野亀吉、井戸瑞徹 ほか/作画監督:本橋秀之/音楽:羽田健太郎/プロデューサー:初川則夫、加藤俊三
放送された時代
『ゴッドマジンガー』が放映された1984年当時のロボットアニメの状況です。1969年生まれの私は当時15歳くらいで、バリバリのアニメマニアでした。そんな私の個人的見解ですが、『ゴッドマジンガー』の当時の立ち位置を考えます。
ゴッドマジンガーが始まった84年4月の時点で放映されていたのが、特装機兵ドルバック、銀河漂流バイファム(この2作は前年10月開始)、重戦機エルガイム、超攻速ガルビオン(この2作は84年2月開始)、ビデオ戦士レザリオン(3月開始)。
ゴッドマジンガーと同じ4月開始が、超時空騎団サザンクロス、巨神ゴーグです。この年に劇場版アニメ『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』のヒットがあったものの、機動戦士ガンダムをきっかけとして始まった、リアルロボットアニメブームもやや翳りが見えてきた時代です。
マジンガーと聞けば、大抵の人はマジンガーZやグレートマジンガーを思い浮かべると思います。このゴッドマジンガーも永井豪原作ではありますが、それらとは全く関係のない物語です。84年当時の中高生が子供の頃大ヒットしたのがマジンガーZで、マジンガーの名前を使ってヒットを目論んだのでしょうか。なお、Wikipediaによると、永井豪自身はほとんど製作に関わっていないとのこと。
一応ロボットアニメという括りで語っていますが、厳密にいえばゴッドマジンガーはロボットではなく、大映特撮映画『大魔神』のような存在です。普段は石像ですが、きっかけを得て動き出すというものです。リアルロボットアニメと少し毛色が違うということで、同時期の巨神ゴーグに近しいものがあるかもしれません。
ちょっと珍しいのがアニメ放映と同時に、永井豪によるマンガ版、3人の作家がリレー形式で描く小説版が作られたこと。アニメ放送と同時にマンガが連載されるのはよくあることですが、永井豪によるマンガ版は全4巻描き下ろしで刊行されました。
小説版は全10巻で、永井泰宇(1,4,7,10巻)、団龍彦(2,5,8巻)、園田英樹(3,6,9巻)が担当。小説版が同時進行するのも珍しくて、メディアミックスのはしりといえるかもしれません。
Wikipediaによると、アニメ、マンガ、小説とそれぞれ内容が異なるとのことです。当時私は小説版を読んでいたのですが、お色気満載で対象年齢は高めだった印象です。
放映当時は最初の方は見ていましたが、あまり面白くなくて途中で見るのをやめてしまいました。小説も途中でやめてしまったので、最後がどのような終わりだったのかは知りません。
感想
今回、改めてこの作品を見てまず思ったのが、面白くない。見ている途中で寝てしまうこともあったくらいです。なぜこんなに面白くないのだろうと思ったのでした。
ムー王国なのに
まずストーリーは現代の高校生 火野ヤマトがムー王国に召喚されることから始まります。ヤマトのいる時代が未来と言われているので、このムー王国は過去の世界であるとわかります。しかし、このムー王国がきちんと描かれていなくて、時代や文明、国の大きさなど全くわかりません。王国のスケール感が全くないわけです。ムー王国と言われると、約1万2000年前まで太平洋上に存在したと言われるムー大陸を思い浮かべますが、そういった存在には全くふれられておりません。
そのムー王国はドラゴニア帝国に侵略を受けていて、それに対抗するためにヤマトが召喚されたのですが、このドラゴニア帝国も正体は不明。物語は攻撃を受けているムー王国を守るため、ドラゴニア帝国と戦うという構図で進みます。後になぜムー王国を狙っているのかはわかるのですが、それについては後述します。
ムー王国もドラゴニア帝国も国の規模が描かれておらず、ホイホイとお互いの国に行けるので、非常に小さい地域で争っているように思えます。そして、登場人物もかなり限られています。
ムー王国側は主人公のヤマト、女王アイラ、宰相ムラジ、ムーの4剣士、アイラおつきの少女マドマくらいで、後はその他多数の人。途中でヤマトの妹カオルが呼び寄せられますが、数話で元の世界に帰ります。
ドラゴニア帝国側は、黄金王ドラド、その息子エルド、”シャーマン部隊”隊長ヨナメ、恐竜軍団を率いるブラー、エルドの腹心ヨミト、後はシャーマン部隊とその他一般兵士といったところ。
国と国で戦っているにもかかわらず、限られた登場人物だけで話が進むので、非常にスケールの小さい話になっています。最初の頃は、恐竜軍団がムーの町や砦を襲撃するような話もあるのですが、途中からはムーの女王がおつきのマドマと単独行動したり、ヤマトが単独で敵の基地に侵入したりと、小さなグループで対決しているようです。
マンガ版ではもっとスケールが大きそうなのですが、アニメ版はかなり国や人物の設定を単純にしています。これは低年齢層を狙っているからなのかもしれません。それゆえに子供だまし的なところが見られます。
ゴッドマジンガーが戦うのは
ゴッドマジンガーは大魔神的で、普段は石像なのですが、ムー側がピンチになるとヤマトを呼び、ヤマトが乗り込む(マジンガーZ的なコクピットではなく、ライディーンのフェードイン的です)ことで動き出します。
ゴッドマジンガーについて書かれている文章を読むと、ヤマトがマジンガーと一体化すると書かれているものもあるのですが、一体化というより操縦しているような感じに描かれています。ただ、操縦桿があるわけでもなく、何をどう動かしているのかはわかりません。ただ、操縦しているような感じで上半身だけ描かれています。
最初の頃はマジンガーがヤマトを呼び、ヤマトが乗り込むのですが、途中からマジンガーは神殿からいなくなり、どこかからやってくることになります。それにあわせてピンチになればやってきたり、ヤマトが呼べばやってくるようになります。このあたりのマジンガーがよくわからなくて、大魔神的なムー王国の守護神なのか、ただヤマトのためだけの存在なのか。そもそもなぜヤマトが選ばれし者なのかも描かれていません。多分ロボットものとしては、一番重要なところですが、そのへんがうまく描けていません。
マジンガーと戦うのは恐竜軍団。マジンガーが剣を使えば簡単にやっつけられるのですが、なかなか剣は使わずに取っ組み合います。ドラゴニアの恐竜は最初の頃は、ドラドが蘇らせているということでしたが、足りなくなったので恐竜工場で作るようになります。恐竜がゴッドマジンガーに剣で切られると、メカが見えるというシーンもあって、このへんはきちんと描かれています。
恐竜軍団は目からビームが出たりもしますが、基本的に決め手がなくて毎回負けます。このあたりがロボットものとして、全く面白くないわけです。最後にエルド王子が巨大ロボット兵器・ライガーを作り戦うことになるのですが、面白いのはこの戦いだけともいえます。
それにしてもドラゴニア帝国はロボットを作ることが出来る文明レベルで、ムー王国は必死に石像に祈っているレベル。同じ世界でこんなに文明レベルの差があるのも不思議な話。ムー王国は古代世界の国としても、ドラゴニア帝国はどういう出自かくらいは描いて欲しいところです。最初はわからないとしても、後半くらいで宇宙からやって来たとかくらいはあっても良いのにと思います。
光宿りしもの
ドラゴニア帝国がムー王国に攻め込む理由として、「光宿りしもの」の存在があります。それを手に入れれば、全世界のみならず、未来をも支配できるというもの。
このあたりの話がきちんと出来ていなくて、最初はアイラの父、先代の国王が「光宿りしもの」を隠したということでした。それがなぜか途中から、「光宿りしもの」そのものではなくて、そのありかを示す石版を隠したということになります。それ以降、物語はこの石版の奪い合いが中心となります。
そのありかも古代文字で書かれていて、先代の国王が隠したわけではなさそう。色々意味不明です。
そして最後にエルドがこの「光宿りしもの」を手に入れるのですが、結局は拒否されてしまいます。あれ、手に入れば全世界を手にできるといっていたのに、なぜ? 結局、その説明はありませんでした。
そもそもムー王国にこの「光宿りしもの」があるので、ムー王国が全世界のみならず未来をも支配出来ているはずです。それなのにドラゴニア帝国の存在があるとすれば、完全に矛盾しています。
それをわざわざ隠したというのも、それを奪い合うというストーリーも意味不明ですね。
タイムリープものとして
タイムリープとは時間跳躍のことで、タイムスリップと同じ意味です。筒井康隆の小説「時をかける少女」で初めて使われた言葉とのことです。エンディングテーマにこの「タ~イムリ~プ」という言葉があって、非常に印象的です。さて、タイムリープやタイムスリップ、タイムトラベルものは、小説や映画でもたくさんあります。そこで問題になってくるのは、タイムパラドックスです。現在から過去に戻って何かをした時に、元の現在に変化が起きてしまうということです。
過去に戻って父と母の出会いを邪魔したら、自分の存在が消えてしまうかも、というのが有名な映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で描かれています。
で、ゴッドマジンガーでは未来からムー王国の時代にヤマトが来るわけです。そもそもヤマトが存在していた未来は、ドラドが「光宿りしもの」を手に入れられなかった未来です。ドラドが「光宿りしもの」を手に入れていれば、元のヤマトの世界は存在しない世界なわけです。
要はヤマトがムー王国を助けなくても、未来は平和な世界がやってくることが確定しているわけです。それでは物語にはならないので、「光宿りしもの」の奪い合いが描かれるわけですが、そもそも設定がおかしいのです。
ムー王国とヤマトの住む未来はつながらずに、単純な異世界召喚ものにした方がわかりやすかったんじゃないかと思います。そもそもヤマトが未来から来たことに、全く意味がないのですから。持ちこんだのがラグビーボールだけで、ヤマトのいた時代の知識などが役に立ったシーンなどありませんでしたから。
打ち切りなのか?
最後にWikipediaによると、「当初は24話構成での放送だったが、7月29日にロサンゼルスオリンピックの開会式が放送されることになり、第23話と第24話を再構成して1話分とし、全23話となった」とあります。
最後がエルドを倒して終わりで、その後がどうなったのか描かれておりません。1話短縮となったから描かれなかったのか、当初から描くつもりはなかったのか。「ガルビオン」のように、あからさまな打ち切りではないだけに、モヤモヤの残る終わりかたです。
その後のヤマトとアイラ、ムー王国、「光宿りしもの」もどうなったのでしょうね。
まとめ
ということで、色々と面白くない理由というか、このアニメの理解できないところを上げてみました。
まとめてみると、ムー王国という壮大なスケールがありそうな設定は全く活きておらず、限られた登場人物だけで話が進む、スケールの小さい物語。マジンガーの設定もよくわからない。そもそもなぜヤマトが選ばれし者なのかも描かれていません。
マジンガーと恐竜の対決は面白みがありませんし、恐竜が攻めてきた時に4剣士が颯爽と戦いに出ていくのも意味不明。剣で巨大な恐竜を倒せるわけはないのに。ロボットを作ることの出来るドラゴニア帝国とお祈りしてるだけのムー王国。文明レベルの差がこんなにあるのに、それらが説明もされないから何が何だかわかりません。
物語の中心となる「光宿りしもの」の設定も途中から変化して、色々意味不明です。そもそも「光宿りしもの」を隠すということが、存在の矛盾を呼んでいます。また、タイムリープものとして、完全に破綻しています。
結局、ゴッドマジンガーってどんな作品なの? と聞かれれば、よくわからないとしか答えようがありません。はたして何を目指して作られたのか。
1つ考えられるのが、この時代のロボットアニメはリアル志向になりすぎていて、子供(小学校低学年くらい)が置き去りにされていたかもしれないということ。それゆえに子供にも分かりやすい作品を目指し、設定や登場人物を単純化したのかもしれません。
しかし、出来上がったものは、嫌いな言葉ですが、子供だましな作品だったのかと。
評価
総合
ストーリー
作画
主題歌
総合、ストーリーと物語的な部分では、評価は低いです。
作画に関しては、さすが東京ムービーといったところで、絵に破綻したところはありません。お得意の見せ場で劇画調の止め絵になるのも、見た目としては効果的です。
作画監督が「六神合体ゴッドマーズ」のキャラクターデザイナー・作画監督を手がけた、本橋秀之さん。エルドなんかは、どことなくゴッドマーズのキャラ風に見えます。ただ、子供向けとして考えた場合、ヨナメやシャーマン部隊が色っぽすぎますね。
主題歌は評価している人も多いのですが、ロボットものとしてはどうなのか。エンディング曲は良いとして、オープニング曲はちょっとバラードすぎて、勇ましさがないですね。マジンガーの名を名乗るならねぇ。