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小説「太陽の牙ダグラム」を読んで【アニメノベライズを読む】

さて、今回はソノラマ文庫から出版された『太陽の牙ダグラム』全2巻を読んだ感想です。

アニメ「太陽の牙ダグラム」

『太陽の牙ダグラム』(たいようのきばダグラム)は、1981年(昭和56年)10月23日から1983年(昭和58年)3月25日までテレビ東京で全75話が放送された、日本サンライズ製作のSFアニメ(ロボットアニメ)。

高橋良輔のロボットアニメ初監督作品。同時期、若者の間で好評を博した『機動戦士ガンダム』や『伝説巨神イデオン』を意識し、子どもたちだけでなく、その父親層までも視聴者に取り込むことを目的とし、単なる勧善懲悪ではなく実際にあり得るのと同じ独立戦争をテーマとし、その発端から終結までを描く。「ガンダム」と異なり、本作の主人公は分離主義側である。登場人物たちはそれぞれの政治的使命や信念に基づいて行動し、単純な悪役が存在しないリアルなストーリーを追求している。そのため、少年向けアニメには珍しく複雑な社会構造を背景とした重厚な政治ドラマや戦略的駆け引きが展開される。

以上、wikipediaからの引用。

私が住んでいた和歌山県では当時、テレビ和歌山が少し遅れて放送していた記憶があります。途中、放映時間帯が変わって見なくなってしまったので、リアルタイムでは全話見ていません。ただ、十数年ほど前に、ネットだかレンタルDVDだかで、全話改めて見ました。

私のアニメ「ダグラム」の評価は非常に高いです。特に終盤の政治補佐官ルコックの政治的暗躍とその末路、武力による衝突を避けた政治的決着は、非常に地味な絵面ですが、骨太で味わいのある大人になってこそわかる物語です。

プラモデルなどの売れ行きが好調なため、当初の予定より延長され全75話の大河ストーリーとなったのですが、しっかりとしたドラマを描ききれた反面、後から見るとちょっと長くて手軽に楽しめない作品となってしまったのが残念です。

小説「太陽の牙ダグラム」

救出作戦開始の時刻が迫った。C・Bアーマーに乗り組むクリンの眼下にデロイアの行政庁舎がくっきりと浮かびあがっている。地球からの独立を目指す反乱軍の手に陥ちたその建物の中に、クリンの父、地球連邦評議会議長 ドナン・カシムが囚われているはずだ った。《父さん、必ず救い出すぜ。そのためにぼくはデロイアに来たんだ》 先行機に続いてクリンのC・Bアーマ ―も巨大な翼を広げて滑空を開始した。救出作戦は成功した。だがクリンの見たものは、反乱軍の首謀者と談笑する父親の姿だった。反乱事件は、日増しに高まる独立運動を抑圧し、植民星デロイアを地球の支配下にとどめようとするクリンの父が打った芝居にすぎなかったのだ。打ちのめされたクリンは一人、デロイアの街を彷徨った。
デロイアの独立に賭けるクリンの青春を描く人気アニメの原作小説全2巻。

著者:星山 博之
イラスト:塩山 紀夫
文庫:ソノラマ文庫
出版社:朝日ソノラマ
発売日:1983/10/31

デロイア最大の大陸バルミナに渡ったサマリン博士は、首都ドガ市の北東 にある鉱山にゲリラの地下本部を置き、ドガ市進攻の準備を進めていた。“太陽の牙”の名を与えられたクリンたちのグループは、指令を受けて敵・政府軍の通信網の切断と武器の調達・配布に連日の出動を重ねた。新たにリニア・キャノンを装備して威力が倍加したダグラムの名声は戦闘の度ごとに高まり、今や敵・味方を問わずゲリラ側のシンボルとみなされるようになっていた。だが、ダグラムに搭乗するクリンの胸 中にはさまざまな思いが去来した。行政長官としてドガ市防衛の任についているのは義兄のレーク・ボイドである。そしてドガ市の近郊の野戦病院にはクリンを追ってパルミナに来たデイジーがいた。──人気アニメの原作小說・全2巻、完結編!

著者:星山 博之
イラスト:塩山 紀夫
文庫:ソノラマ文庫
出版社:朝日ソノラマ
発売日:1984/3/31

読んだ感想

さて、全75話の大河ストーリーをノベライズにしたのが、今回読んだソノラマ文庫版「太陽の牙ダグラム」です。第1巻発売当初から全2巻と銘打たれていて、あの長大な物語をどうやって全2巻にまとめているのか、リアルタイムでこの小説を読んでいない私は、ずっと疑問でした。

アニメを見たのは十数年前、細かいストーリーは覚えていないので比較は難しいのですが、物語としてはあらすじを追っただけのように感じました。アニメでも序盤ダグラムが活躍するまでけっこう話数が費やされるのですが、それと同じく第1巻の中盤までダグラムは動かずです。その後はダイジェスト的に話は流れていきます。全体的に細かい戦闘は描かれず、ポイントとなる戦闘だけが描かれ、「太陽の牙」が辿る道程を追っていく感じです。

アニメでは首都カーディナルから始まり、パルミナ大陸にわたり、最終的に北極ポートを目指す流れですが、小説ではパルミナ大陸でドガ市を攻略するところがクライマックス。その後、ドナン・カシムはデロイア人民解放政府が出来たところで死亡しています。

アニメ終盤の重要キャラ、Jロックは少し顔を出す程度、ルコックは名前だけでてくるが政治的暗躍はほぼ描かれず、デスタンはリタとの関係で名前が出るくらいと、残念ながらほぼ描かれずに終わってしまいます。

ただし、クリンの幼馴染でクリンに思いを寄せるヒロイン・デイジーの行動はしっかりと描写されています。アニメではあまり存在感はありませんでしたが、小説では地球からデロイアへクリンを追っての旅立ち、ジャーナリスト・ラルターフとの行動、野戦病院での活動、クリンとの再会と端折ることなく、きっちりと描かれています。また、途中登場するリタも割としっかり描かれていて、数少ない女性キャラはフォローされています(キャナリー以外)。

このあたりからもわかるように、小説版はバトル的要素かなり少なめ、政治的要素少々で、クリンを中心とした青春物語として作られているように感じました。特に重要なのが、クリンとドナンの考え方の対比でしょうか。最後の病院での会話が素晴らしい。「わしはお前たち家族の良き父親である前に、地球の父であろうとしたのだ」

父の信念に基づく行動に対して、疑問を抱く息子。「どうして父さんは人間を信じないの」

人間は自分勝手で変わりやすいものだという父。そんなことは無いという息子。現に自身の秘書官ラコックの変様を挙げつつ、病気に侵された自身は私利私欲を捨て、地球の父であろうとした、と父。「息子であるお前が敵に回ってもだ」とも。

「クリン、自分のこうと信じた道を生きろ……ただ、わしの言ったことも忘れるな」といって息を引き取るドナン。この病床のシーンには、グッと込み上げてくるものがあります。さらにこのシーンの塩山紀生が描くイラストが素晴らしい。

アニメはデロイアに傀儡政権が誕生するところから始まり、デロイアの独立で終わる政治ドラマですが、小説はクリンが父の行動に疑問を持ち敵対勢力に参加、父親の死亡により、自身の考えを改めて見つめ直すという青春ドラマです。

アニメノベライズとしては物足りなくて、改めてアニメが見たくなります。そういう逆の意味では良いノベライズですし、父と子の物語としてみると、ちょっと違った楽しみ方ができるそんな小説だと思いました。

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