さて、今回はソノラマ文庫から出版された『戦闘メカ ザブングル』全2巻を読んだ感想です。
アニメ「戦闘メカ ザブングル」
『戦闘メカ ザブングル』(せんとうメカ ザブングル)は、1982年(昭和57年)2月6日から1983年(昭和58年)1月29日まで、名古屋テレビを制作局として、テレビ朝日系で毎週土曜17:30から18:00(JST)に全50話が放送された、日本サンライズ制作のロボットアニメである。英語表記は、Xabungle。日本サンライズ創立10周年記念作品。(wikipediaより)
wikipediaの「戦闘メカザブングル」の項はちょっと詳しく書かれすぎていて、なかなか概要が掴みづらいので、冒頭のような引用のみ。ザブングルが作られた時代背景的には、ガンダム(とガンプラ)の大ヒットによるロボットアニメのリアル路線化があり、テレビ枠的には「ダイオージャ」からの小学生くらいにも受ける作品をという要望もあって、低年齢層にも受け入れられやすいだろうユーモアロボットアニメになったようです。
リアルタイムで見ていた人間としては、やはり掟破りのアニメという印象が強いです。主役メカの交代がその代表で、言ってしまえば「おもちゃを売るのためのアニメ」で、タイトルにもなっている主役メカを交代させるなんて、すごいことをやるなぁと。ただ、この主役メカの交代がうまく行ったからなのか、これ以降の富野アニメは主役メカ交代が必須となりました。確かに1年間同じ主役メカを売るよりも、半年間で交代したほうが、売るものが増えるしね。
物語としては支配階級と被支配階級の惑星レベルでの闘争なんだけど、キャラクターをコメディ的に動かして、本当なら重くなる内容を軽く見せているといったところでしょうか。アニメはリアルタイムで見ただけで、それ以後見ていないので印象だけで書いているのですが、当時は1冊3000円する記録全集を買っていたくらいなので、それなりにハマっていたアニメでした。ただ、後半、ヒロイン的立場のエルチが洗脳され、主人公と敵対する話が続いたところで興味を失ってしまって、最後の方はよく覚えていません。
映画「ザブングルグラフィティ」も映画館に見に行ったくらいですが、その時はもう次作「聖戦士ダンバイン」にハマっていたような。
小説「戦闘メカ ザブングル」
おれの住んでいるゾラ星には奇妙な掟がある。三日三晩逃げ切れば、どんな悪事も帳消しになり、盗んだ物もそいつの物になるという掟だ。だがおれは、何年経とうが灰色のウォーカーマシンに乗った男を許すつもりはなかった。奴は細々と暮らす以外には何の能もないおれの親父とお袋を殺したのだ。
復讐を遂げるためにはウォーカーマシンが必要だった。無論盗み出す。旅に出てからというもの、ドジをしでかし、空腹に苦しむだけだったおれも、ラグたちに会って以来、運が向いて来たようだった。スッタモンダの挙句、交易船に忍び込み、ウォーカーマシン ”ザブングル”に乗り込むことに成功したのだ。後は逃げまくるだけだ。頼むぜ、おれのザブングル!
人気のTVシリーズを素材に、快調に書き下ろす全2巻。
著者:鈴木 良武
イラスト:湖川 友謙
文庫:ソノラマ文庫
出版社:朝日ソノラマ
発売日:1982/11/30
親の仇のティンプを追ってイノセントの巨大な交易ドームに入ったおれたちは、ドームの片隅で芝居興行を開始した。今度ばかりはおれやダイクやブルメも遊んでいた訳ではない。張り切るエルチたちの説得で女装して舞台に立つことになったのだ。しかし本当に世の中、わからない。赤やピンクのレオタードに身を固め、ブロンドのカツラをかぶったおれたちはやんやの喝采を浴び、おまけにおれは入国審査官のイノセントにほれられてしまったのだ。おれを女と信じて想いをよせる彼・ボ ニルは、花束や食料以上のものをおれに与えてくれた。イノセントの世界へおれを導き、イノセントの謎を、砂漠の星ゾラの謎を、エルチが夢見る地球の謎を知る手がかりを与えてくれたのだ。──人気のTVシリーズを素材に書き下ろす全2巻、完結編。
著者:鈴木 良武
イラスト:湖川 友謙
文庫:ソノラマ文庫
出版社:朝日ソノラマ
発売日:1983/05/25
読んだ感想
アニメ放送時に第1巻が出版されて、リアルタイムで読んだ記憶はあるのですが、内容はすっかりと忘れていました。覚えていたのはアニメと展開が違って、最終的に宇宙へ行ったよなというくらい。再読してまず驚いたのが、一人称小説だったこと。この頃はまだソノラマ文庫作品では珍しかったのではないでしょうか。新井素子はすでに大人気で、少女小説では新井文体を真似た作品が沢山投稿されていたらしいですが、少年向けジュブナイルでは、珍しかったと思う。私が読んでいた作品で思い当たるのは、高千穂遙のダーティペアシリーズくらいでしょうか。あれはジュブナイルではないですが。
物語の舞台はアニメの設定に基づき、西部劇的な乾いた荒野が大陸の大半を占める惑星ゾラ。人々はブルーストーンを掘り、それを交換し物やサービスを享受している。この世界には窃盗・殺人など何をしても3日間逃げ切れば不問にされる3日間の掟と呼ばれるルールがあるのですが、主人公ジロンは謎の男に両親を殺されるも、3日間を超えて、その男を追い続けます。自身は3日間の掟を無視して復讐しようとしつつ、3日間の掟にしたがって盗んだものを自分のものにするという、今にして思えばひどい話だなと思ったりもします。物語は人のものを奪ったり奪われたり、人を騙したり騙されたりの繰り返し。3日間の掟があるがゆえに、3日間逃げ切れば勝ちの世界なので、そうなるのは必然でしょう。
物語としては、ジロンはウォーカーマシン・ザブングルをかっぱらおうとして、ランドシップ(戦艦のようなもの)アイアンギアーに忍び込み無事盗み出す。ザブングルを盗まれたアイアンギアーではそれを取り返そうとするも艦長が不慮の事故で死亡、右腕だった男に交易品すべてを盗まれてしまう始末。ジロンは仲間となったサンドラッドのメンバーとともにアイアンギアーとともに行動することに。
ジロンの両親を殺した男ティンプは、支配階級であるイノセントとつながりがあり、どうやら交易商人たちの争いの裏にはその男が深く関わっているよう。支配階級であるイノセントの暮らすドームの一つを爆破してしまい、追われる身となるジロンたちアイアンギアーのメンツ。夜逃げのように逃げるアイアンギアーだったが、イノセントのドームに入り込み、イノセントの人間と関わっていくうちに、惑星ゾラの成り立ちやイノセントの存在理由を知ることに。
最終的にイノセント内にも派閥争いがあって、イノセントを支配者として君臨させたい派閥とゾラで暮らす人間との交流を図りたい派閥の対立に巻き込まれるジロンたち。派閥争いが一件落着のあとは、元の惑星ゾラに戻るわけですが、惑星ゾラの成り立ちやブルーストーンの存在理由を知った主人公たちはさて如何に?という結末です。
アニメでは、アイアンギアーの頭領でヒロイン的立場のエルチがイノセントの洗脳を受けて、ジロンたちと戦うことになるのですが、小説ではそういった展開もなく、シンプルに惑星ゾラとイノセントの存在理由が物語の核心となっています。一人称小説でジロン目線でコメディ的なシーンも多いのですが、どちらかというとSF的な、一度地球から離れた人類が戻ってきたら環境が変わってしまっていたので、人類再生プログラム的な物語です。
アニメと全く違う物語なのですが、これはこれで面白かったです。ただ、主人公の復讐があっけなく終わってしまい、盛り上がるはずのポイントなのにもったいないと思いつつも、物語の方向性がただの復讐譚ではなく、3日間の掟を破ってでも行動する人間性の回復を管理者たるイノセントが待望しており「地球の荒廃と人類の弱体化」からの復活だとすれば、これは良いノベライズだったのではと思うわけです。
惜しむらくはザブングルがあまり活躍しないことでしょうか。小説ではロボットのバトルってあまりいらないですよね。先日読んだ「太陽の牙ダグラム」のノベライズでもやはりロボットバトルの描写は少なかったものです。これはアニメと小説の見せ方の違いもあるので、仕方がないといえば仕方がないかもです。
もうひとつ、アニメと違うところがアイアンギアーにいる踊り子たちの存在。アニメではそれほど重要な役どころではなかったように思うのですが、小説ではかなり重要な役どころをになっています。女性に対する免疫がないイノセントに、ジロンたちが女装してカンカン踊りを見せたり、踊り子たちがストリップ?的な踊りを見せたりすることで、鼻血ブ―となるのが物語のポイントとなります。
個人的にはイノセントにも女性がいるはずなので、ここまで女性に対して免疫が無いことは無いと思うのですが、このあたりは少年向け的な盛り上げ方なのでしょうか。もちろんエロくはないのですが、女性の裸を見て云々という展開は読者サービス的なものと捉えるべきなのでしょうか。
最後に作者の鈴木良武はwikipediaによると、ザブングルの前段階の企画から中心となって動いていた人。アニメは富野由悠季が色々とアイデアを出すことで、あのようなコメディ的な内容になったようですが、もともとの構想は小説のほうがひょっとしたら色濃く残っているのかもと思ったりもします。
先日読んだダグラムもそうですが、アニメとは違いますが「これはこれで面白い」そんな小説です。アニメも見たくなってきました。