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自転車に初めて乗れたときの感動を覚えていますか? 阿羅本 景『止まらないで自転車乙女』を読んで

今回は自転車をテーマとしたライトノベル『止まらないで自転車乙女』を読んだ感想です。

明治期からの「女性は自力・自立・先進を育む『しくろおとめ』たれ」という理念を持ち、自転車を教育の一環としている、白輪館女学院。現在この学校では、自転車に乗れて当然という風潮が。しかし、自転車に乗ることが出来ない少女3人が入学した。この学校では自転車に乗れないと、単位がもらえず、留年になるという規則が。そこで担任の教師は、娘と幼馴染の秋山陸をコーチにして、自転車の乗り方を教えてもらうことに。

女子中学生3人に、主人公の高校生男子が自転車の乗り方を教えるというストーリー。典型的な萌えとハーレム設定に、意味のないお色気シーンなどもあり、良くも悪くもライトノベルといった作り。

しかし、ライトノベル的要素を取り払ったときに浮かび上がる、物語はなかなか良い。落ちこぼれ少女たちが這い上がる、王道的なストーリーと言って良いでしょう。

1度目の試験はあっさりと不合格となるのですが、ここまではわりと退屈な展開。しかし、そこからの挽回が面白い。コーチと少女たちの信頼、また少女たちの絆が生まれてくる合宿所での展開が、丁寧に描かれていて(余計とも思えるお風呂シーンもあるのですが)、少女たちの心の底に抱えていた思いがよくわかります。

クライマックスとなる、合宿所から学校までの約40kmの自転車走の描き方は、自転車乗りからすると、かなりリアルに描かれていると分かります。一般道の走り辛さ、補給の取り方など、わかっている人が書いたものだなと。

ロードバイクに乗る人間からすると、40kmは、ちょっと出かけるくらいの距離でしょう。しかし、やっと乗れるようになった自転車での、40kmはかなりの挑戦です。もともと体力もない少女たちなので、最後にはバテてしまうことになります。そこに待っていたのは…

落ちこぼれ少女たちが見せた頑張りに、最後は拍手を送りたくなりました。最初はご都合主義的に思える、主人公へのコーチ依頼が、実はしっかりとした理由があり、終盤にはこのハーレム設定にも、きちんと意味があったと明かされます。少女たちの成長の物語ではあるのですが、実は主人公である少年の、過去との決別の物語でもあるのです。

自転車の描かれ方に物足りなさを感じたり、お約束のようなお色気シーンが余計に感じますが、扱っているテーマやストーリーには、意外と正統派な物語であると思うのでした。

ライトノベルに拒否反応を起こす方やロードレース小説を期待する方には、オススメはできません。自転車にあまり興味の無い方のほうが、楽しめるのでは無いかと思います。

私の場合はこれを読んで、初めて100kmという距離を走った時のことを思い出しました。あの時は奈良県大和郡山市から和歌山市まで、約100kmを走りました。あの時の不安感や、疲れ、辛かったこと、そして、達成感。自転車で遠くへでかけることの楽しさを、改めて思い出させてもらいました。

なお、自転車が乗れないという方は、宮尾岳「並木橋通りアオバ自転車店 2巻」の第3話に、自転車に乗ることができる練習方法が描かれてます。

この方法なら、わりと早く自転車に乗れるようになるようですよ。

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