さて、今回の読書メモは、高千穂遙のロードレース小説「ペダリング・ハイ」を読んだ感想です。
高千穂遙といえば、アラフィフ世代にとっては、アニメ化もされた「クラッシャージョウ」や「ダーティペア」の作者。現在では「自転車で痩せた人」や「ヒルクライマー宣言」などの実用書や「ヒルクライマー」「グランプリ」などで、自転車大好き作家として有名でしょうか。
自身もロードバイクに乗り、ヒルクライムレースに参加するほどの人なので、自転車に関する描写は的確です。また、レースの駆け引きなども、リアルに描かれており、自転車好きな方が読んでも違和感を感じることはないでしょう。
ストーリーは無理矢理ロードバイクを買わされてしまった大学生が、ロードレースの世界にハマっていく、青春成長小説です。トレーニングの繰り返しとレースを描いている点で、以前紹介した神野淳一「アウターxトップ」と同じようなテイスト。
主人公・竜二はとにかく、優等生タイプ。育ちの良さがうかがえ、体力もあり、年長者の言葉はしっかりと聞き、自分なりに理解を深め、モノにしていきます。こんな優れた素質を持った少年を、周りの大人たちは丁寧に育てていきます。
ロードバイクの乗り方に始まり、トレーニング場所の提供やメニューの作成、レースでの駆け引きなど、周りの大人たちが経験を生かし、成長の一番の近道を少年に与えていくわけです。そして、竜二はそれに答え、活躍する。挫折することもなく、また最大の難関と思われた、父との関係もあっさりとクリア。少々出来すぎた話で、少年の成長物語としてみたときには、物足りなさが残ります。
主人公と父親の関係や、各登場人物の背景が描かれている点でいえば、「アウターxトップ」よりは、こちらの方が少し物語に深みはあるでしょうか。ただ、この小説の読み方としては、少年の成長を楽しむというよりも、少年を取り巻く大人たちの物語として読む方が楽しめます。
かなり昔の話ですが、プリンセスメーカーという育成シミュレーションゲームがありました。孤児の少女を自分の娘として育て上げていくというもので、さまざまな経験をさせ、パラメーターを上げ、18歳になった時にプリンセスになれるか、他の職業になるかといったゲームです。何故かこれを思い出しました。
いかにして、少年を育てていくか。そこには大人たちの過去の思いがあり、自分たちの夢を少年に託すという意味もあるでしょう。少年の成長物語だけを見ると、それほど面白くありませんが、周りの大人たちの熱量を感じたときに、面白く感じられるかもしれません。そういう意味で言うと、私のようなアラフィフ世代が読むと楽しめるのではと思います。
ちなみに自転車に関するリアリティもありますが、走行ルートも事細かく地名が書かれていて、多分東京に住んでいる人には、そこの部分でもリアリティを感じられるでしょう。坂の斜度やルート選びなど、分かる人には分かる楽しさがあると思います。地方住みには、全く分からなくて、くどい印象もあるのですが。
自転車が好きな方、ロードレースが好きな方には、オススメです。また、ロードバイク乗り始めの方も、ロードバイク入門書として楽しめます。
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