さて、今回の読書メモは、小学6年生の女の子が、お父さんといっしょに自転車日本横断をする物語、「おーい 日本海!すみ子の自転車日本横断」です。
前回の読書メモでは、同じ作者の「エリアは北へ―自転車の旅1000キロ 」を書きました。その時にちょっと触れたのですが、作者の山口理さんのデビュー作がこちらの本です。
出版されたのが1995年で、いまは絶版のよう。こちらも図書館にあったので、借りました。あとがきによると、この話は実体験を元にした創作とのことです。
幼い頃に父とかわした約束、「一緒に自転車で旅行に行こう」。小学6年生になった、主人公のすみ子はそんな約束を、すっかりと忘れています。ある日突然、父が自転車を買ってきて、一緒に犬吠埼から新潟の直江津まで、一緒に行こうと。300kmの自転車旅行です。
小学6年生の女の子にとっては、父親との関係が微妙になってくる頃です。最初は断るものの、お気に入りの日本海の写真を見ていると、やはり行ってみたいと思うように。
それほど体力もないすみ子は、出発までに縄跳びでトレーニング。2週間後には、いよいよ出発です。トレーニングの時から、父親の態度がちょっと冷たい。こちらから声をかけても、聞こえていないのか、反応がないこともしばしば。
実際に旅が始まっても、父との距離感が微妙です。父親もあまりすみ子のことは考えず、自分のプラン通りに旅を進めようとします。旅館を予約せずに行き、泊まるところがなかったり、坂道ですみ子を待たずに、先に行ってしまったりと。読んでいると、ちょっとこの父親の態度に腹が立つところもあります。
最難関は標高約960mの碓氷峠。苦しみながらも、すみ子は上りきることになります。しかし、途中にアクシデントが。すみ子の転倒がきっかけで、父が脚にケガを負ってしまいます。ここから父との関係性が、少し変わってきます。父のがんばる姿を目にした、すみ子の心に少しの変化が。
この本は自転車旅の物語ですが、父と子の物語でもあります。旅が終わる頃には、すみ子と父との距離が、ぐっと縮まります。すみ子の物語と言うよりは、子を持つ父の物語に感じたのは、やはり私の年によるものなのか。
旅を通しての成長物語ではありますが、成長したのは父親だったかもしれません。5日間約300kmの自転車旅で、「エリアは北へ―自転車の旅1000キロ 」に比べると、ちょっとあっさりとした旅に感じてしまいますが、自転車旅の楽しさや苦しさが、余すところなく描かれています。
児童書ということで、大人が読むことはあまりないでしょうが、大人が読んでも充分楽しめます。もちろん、小学校高学年から中学生のかたには、オススメです。
この物語の元となった旅も、ノンフィクションとして出版されています。次はこの本を読みたいと思ってます。