さて、今回は『このライトノベルがすごい!2025』を読んだ感想です。このラノに関しては近年はほとんど読んでおらず、ネットで見られるランキングをチェックするくらいでした。今年は20周年記念で振り返り企画があるということで、久しぶりに購入しました。
このライトノベルがすごい! 2025
今年度版は創刊20年を迎える20周年記念号になり、過去20年のライトノベルを振り返る企画や、過去に上位ランクインした人気作家たち20人からのコラムを掲載した特別保存版になります。
また2年連続で文庫部門1位を獲得し、アニメ化も決定した『千歳くんはラムネ瓶のなか』を特集。裕夢さんインタビューのほか、raemzさん描き下ろしのイラストがカバー&ピンナップポスターで登場します。
毎年の恒例、1位獲得作家のインタビューも掲載。今年の“すごい”ライトノベルを紹介する、ガイドブックです。
基本的に単行本に関しては、私はライトノベルと思っていないので、ここでは文庫本ランキングを中心に書いていきたいと思います。ランキングを載せるのは今の時点では避けたいと思いますが、語りたいことがありますので、文庫本ランキングBEST3を載せておきます。
1位 負けヒロインが多すぎる! 著者:雨森たきび/イラスト: いみぎむる/ガガガ文庫
2位 誰が勇者を殺したか 著者:駄犬/イラスト:toi8/角川スニーカー文庫
3位 時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん 著者:燦々SUN/イラスト:ももこ/角川スニーカー文庫
読んだ感想
文庫本ランキングについて
毎年アニメの影響に苦言を呈するような書き込みを見かけるのですが、人気ランキングはいかに沢山の人にタイトルが知られるか、手に取ってもらえるかが重要なので、それは仕方がないと考えています。
その昔、TVでザ・ベストテンという歌番組がありまして、結局曲の良さなんかより、アイドルの人気ランキングになっていたのと同じです。その中で曲自体の良さでランクインするものがあったので、そのあたりをランキングの中から掬うのがツウというものだと思ってます。
で、今回のランキングですが、私としては1位「誰が勇者を殺したか(以下、だれゆう)」2位「負けヒロインが多すぎる!(以下、マケイン)」3位「時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん(以下、ロシデレ)」じゃないかと予想していたのですが、マケイン人気恐るべしというところでした。
「だれゆう」に関しては、出版されたときから評判でしたし、重版が繰り返されているのを知っていたので、これが1位だろうと読んでいました。夏になってマケインのアニメがすごい勢いで盛り上がってきたのですが、さすがに1位を獲るまでとは思っていませんでしたね。
あえて「だれゆう」の敗因を考えるとしたら、出版時期が前年9月で、今年になって第2巻も出ましたがどちらかというと続き物としての魅力が乏しかったので、爆発とならなかったのではないかと思います。
「マケイン」に関しては、私もアニメを楽しく見ましたし、その聖地・豊橋にも行ったくらいに好きです。書店で入荷してもすぐ売り切れて品切れが続いたとか、電子書籍の売上がすごいことになったとかで、この結果は、まぁ納得はできます。特に読書メーターで読了数のランキングで1巻のみならず全巻BEST20くらいまでに入っていたこともあって、売れているだけでなく、実際に読まれているのを実感出来ていましたし。それまでこのラノBEST10に入らずにアニメ化によって面白さが評価された珍しいパターンかなと思います。
で、ちょっと注目したいのが、こういった作品にはなかなか協力者ポイントが入りにくいのですが、少ないながらも入っていたことです。「ロシデレ」や前年1位で今回5位の「お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件」に協力者ポイントが入っていないのを見ると、もし同じように「マケイン」の協力者ポイントが0だったら、「だれゆう」が逆転していました。
「ロシデレ」に関しては、10・20代の支持が圧倒的で、本来のラノベ読者人気はこれだと思います。ただ、前年も3位でアニメ化ブーストが「マケイン」に負けてしまったところが残念ということでしょう。
4位以下に関しては、順位はそれほど興味がなくてBEST20に入る作品はどれも万人受けする面白いもの、21~50位の作品は好みが分かれるけど面白い作品という認識です。いつもはそれほど興味がないのですが、今年はtwitterでフォローしている人たちの感想を見ていて、それがどれくらいの順位に入るのか、私自身が面白そうと思った作品がどう評価されているのかという目線でランキングを眺めました。
面白そうと思っていてBEST20に入っていたのが、『こちら、終末停滞委員会。』『白き帝国』『星が果てても君は鳴れ』『ほうかごがかり』『セピアxセパレート』。面白そうと感じるくらい熱量のあるツイートが多かったので、それがきちんと反映されているなという感想です。
クセが強そうだなと思っていた『宮澤くんのとびっきり愚かな恋』が意外と上位の22位。受賞時のあらすじから、前評判が高いと感じていた『夏目漱石ファンタジア』が出版後、意外と反響が少ないと思っていたら、やはり34位。面白そうと思い購入・読了した『小鳥遊ちゃんは打ち切り漫画を愛しすぎている』が35位で、評価されにくいタイプだよなと実感。
一番残念なのは、こちらも購入・読了した奇書『彼女でもない女の子が深夜二時に炒飯作りにくる話』がランクインしなかったこと。万人受けしないとは思っていたものの、このラノに紹介されていないと、ラノベ史の中に埋もれてしまうので残念と思っていたら、ランクイン作品ガイドのpick upでほんの少しながら拾われていたので、ひと安心。
SFとして注目していた『はじめてのゾンビ生活』もランクインしなかったものの、注目の新作で拾われていたので、ひと安心。逆に言うと私が面白そうと思い、実際購入した作品がランクインしないものの、きっちりと取り上げられていたことに、このラノへの信頼が増すことになりました。
なお、ランキングに関してはBEST50に入っている作品はどれも面白くて、あとは好みであって、これが面白さの評価ではないということは確かだと思ってます。
インタビュー
「千歳くんはラムネ瓶のなか」の裕夢、「負けヒロインが多すぎる!」の雨森たきび、「魔道具師ダリヤはうつむかない」の甘岸久弥、「誰が勇者を殺したか」の駄犬、各氏へのインタビューが載っております。
読んだところ、雨森たきび氏と駄犬氏は私のひと世代下、90年代ラノベを中高生くらいで浴びた世代というのが興味深くて、意外と00年代ラノベの影響が少ないのかなと。裕夢氏は以前から、純文学畑の人で、村上春樹に影響を受けたようなことを読んでいたので、ラノベ作家で一番キライなタイプだなと思って、チラムネに関してはいまだ読む気が起こらないです。
ランキング解説
ランキング解説のところで気になったのは、アンケート回答者の年齢分布です。
twitterでも呟いたのですが、10・20代が約50%でこれはラノベ読者の高齢化と言われているのも頷けるなと。そこで手持ちのこのラノの「アンケート回答者の年齢分布」を調べてみることにしました。一応、このラノは2005(2004年度版)からありますが、アンケート回答者の年齢分布が記載されているのは、2007(2006年度版)からです。この中の10・20代を見てみます。
この結果、このラノ2016までは90%台で推移しているのですが、2017から割合が下がっています。これには2017から単行本部門ができたためというのもあるのですが、それでも70%以上は10・20代がいたわけで。2020年代でさらに高齢化しているわけです。
あくまでアンケート回答者の年齢分布なので、完全にラノベ読者の年齢層と一致するわけではないでしょうが、アンケートに参加するほどの熱心なラノベ読者は高齢化しているのは確かでしょう。なお、高齢化しているのは、00年代の20・30代の多くがそのままラノベ読者として残り、新規の10代の参加が減少しているのではないかと想像しています。
元になったデータは写真のとおり。なお、このラノ2016のデータは合計しても100%にはならないおかしな円グラフになっています。31~40(3%)と40歳以上(1%)で31歳以上が4%なので、10・20代は96%と判断しましたが、ここは参考外としたほうが良さそうです。
WEBランキング・協力者ランキング
webランキングは人気投票で、協力者ランキングこそラノベツウが選ぶ、このライトノベルがすごい!だと思っています。で、今回ランキングを見ていてふと思ったのが、直近に発売された物が強くないか?ということ。たくさん読んでいる人ほど、新しく出版されたもののインパクトが頭の中に残っているのでは?と。
そこで協力者ランキングTOP30の出版月を調べたのですが、TOP30内に7・8月に第1巻が出版されたものは9作品あります。これが多いのか少ないのか。第1巻がこのラノ対象期間の早いうちにでて、続刊がでないとインパクトは薄れ、その面白さは新しく出版されたものより評価が低くなってしまうのではないかという仮説です。「だれゆう」のように圧倒的に万人受けするだろう、面白い作品はこの限りではないですが。
そうなると対象期間の早い時期にでた作品は少し評価を高めに補正してあげたほうが良いのでは、というのが私の考えです。ということで、5位『この物語を君に捧ぐ』(5月)、11位『セピアxセパレート』(1月)、15位『三傑のサッカーは世界を揺らす!』(23.10月)、18位『小鳥遊ちゃんは打ち切り漫画を愛しすぎている』(4月)、27位『十五光年より遠くない』(23.12月)あたりは、要チェックだと思います。
このラノ20周年特別企画
本巻の目玉企画。
20年間のライトノベルを振り返る
前半はこのラノ20年間の振り返り。1位作品を紹介しつつ、注目作もピックアップしていて、00年代からのラノベの簡易版手引としてはこれくらいで十分なのでしょう。個人的には物足りないですが、ページ数を考えると致し方無し。
人気作家コラム「この20年で変わったこと、変わらないこと」
実は一番期待していたのが、この企画。作家のコラムが読めるのは楽しいですよね。ただ個人的な事が多くて、もう少し作家の立場から「ラノベ業界全体を斬る!」みたいな話も読めたら面白かったのですが… そういう意味でいうと、賀東招二氏と平坂読氏のコラムが良かったです。まずは賀東招二氏のコラムから。
今の世の中、あまり批判的なことは書けないので、そこでそういった表面化しない人々の本音に対してどこまで敏感になれるのか、それをどうコントロールして作品に落とし込むのか、そこに作者の個性(魅力)がどう乗っかるのか、あたりが今後も重要になってくるのではと思います。(このライトノベルがすごい!2015 P.130賀東招二氏のコラムより抜粋)
前段で新人のスキルやテクニックがあがり、作品のクオリティの振れ幅が少なくなり、安定して均質化したものが増えていくと思う、に続いての言葉。批判的なことが書かれなくなったときに、作者としてどうするのかという問題提起でと感じます。「表面化しない人々の本音」がポイントですね。以前、twitterで「批判的な意見が許されるのは業界が十分に大きく余裕と安定がある場合で、小さな業界や衰退傾向にある業界ではそれが許されなくなっていく」という書き込みを読みました。出版業界やラノベ業界も衰退傾向に思えるので、これにあてはまるのではないかと改めて思うのです。
次に平坂読氏のコラムから。
たかだが勤続20年のアラフォーの若造がベテランとかレジェンドとか言われてチヤホヤされる世界などスポーツとラノべ業界くらいしかなく、いかにこの業界が未成熟かという証左ではないでしょうか。ライトノベル業界は未だ変化──すなわち「歴史」を語るに値しないと個人的には感じております。「ライトノベル」という言葉が今後残っていくのか、文学史の徒花として一瞬で消え去るかどうかは、キャリ ア20年を迎えながら前線で活動している作家や「このラノ」様にかかっていると思います。お互い頑張っていきましょう!(このライトノベルがすごい!2015 P.134平坂読氏のコラムより抜粋)
『ライトノベル業界は「歴史」を語るに値しない』と強烈です。ただ、これには疑問があって、それならアラフォーでもベテランとかレジェンドとかチヤホヤされるスポーツ業界も未成熟なのか? これだけで未成熟というのは、ちょっと納得はできないですね。ソノラマ・コバルト文庫あたりからの積み重ねもあるので、変化の途中であっても「歴史」を語るに値しなくはない、と私は思います。勤続20年のアラフォーが業界を背負っていく意気込み、として受け取りました。
作品ガイド
このラノが将来読まれる時を考えると、前半のランキングより後半の作品ガイドこそがより重要と考えています。人気作が語り継がれるのは当然なので、そこからこぼれ落ちる作品を如何に本に刻んでいけるのかということです。そういう意味でいうと、殿堂入りシリーズの紹介は、ページ構成を含めてあまりにも手抜きではないかと。このライトノベルがすごい!のでかいロゴの部分、もう少しなんとかならなかったのだろうか。
このラノ2020~2024は読んでいないので、以前のようにジャンル分けでなくて、21~50位のブックガイドがあるのは知りませんでした。以前のようにジャンルごとのほうが、興味のある作品を見つけやすくてよかったのですが、ジャンル分けが難しいのでしょう。
「読むなら今の話題作」が、安定した人気だがランキング上位に入ってこない作品の紹介で、話題作のタイトルに少々の違和感を感じました。ジャンル分けでないとこういう風に取り上げるしかないのですね。
やっぱり一番の注目するところは、「注目の新作」です。個々の作品ガイドはしっかりと読んで少しでも自分の興味に引っかかるようなのは、チェックしておきたいところですね。
まとめ
ということで、つらつらと書いてきました。私はあまり新しいラノベは読まないので、他の人のブログのように自分なりのランキングや投票作品はかけません。ということで、このラノ2025を読んで、興味を持った作品を備忘録的な意味で書いておきたいと思います。
既読作品
負けヒロインが多すぎる! (第3巻まで既読、いずれ続きは読む予定)
誰が勇者を殺したか (第1巻のみ既読、2巻は今のところ興味なし)
小鳥遊ちゃんは打ち切り漫画を愛しすぎている
彼女でもない女の子が深夜二時に炒飯作りにくる話
はじめてのゾンビ生活
夏を待つぼくらと、宇宙飛行士の白骨死体
いずれ読みたいかも
この物語を君に捧ぐ
星が果てても君は鳴れ
セピアxセパレート
宮澤くんのとびっきり愚かな恋
三傑のサッカーは世界を揺らす!
十五光年より遠くない
夏に溺れる
どうせ、この夏は終わる
「多元宇宙的青春の破れ」シリーズ
消せる少女
見た目は地雷系の世話焼き女子高生を甘やかしたら?
以上がこのラノ2025を読んで、読んでみたいと思った作品です。