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【単巻ラノベを読む1】朝田雅康『二年四組 交換日記 腐ったリンゴはくさらない』を読んで

さて、今回は【単巻ラノベを読む】として、「みんなのオススメ単巻ライトノベル 年代順87選」で名前が挙がった作品を読むことにしました。

今回読むのは、第9回SD小説新人賞佳作受賞作、朝田雅康の「二年四組 交換日記 腐ったリンゴはくさらない」です。パズル感覚の小説ということで、ちょっと興味を持って読むことにしました。

二年四組 交換日記 腐ったリンゴはくさらない

著者:朝田 雅康
イラスト:庭
文庫:スーパーダッシュ文庫
出版社:集英社
発売日:2010/10

私立伯東高校。問題児ばかりで構成されたクラス、それが二年四組だ。クラスのボスである委員長は強権を発動し「皆の心をひとつにする」ために交換日記を開始する。日記は誰が書いているのかわからないようにされ、登場するクラスメイトも属性に基づく異名や派閥で表現される。日記には予想外の事件や恋が描かれて…?第9回SD小説新人賞佳作受賞作、パズル感覚で読み明かされる、学園青春小説が登場です!!

読んだ感想

これはなかなか面白い。物語としての謎解きではなくて、あだ名と本名を当てはめてる、パズル感覚の小説です。

2年4組は、問題児ばかり35人が集められたクラスで、派閥あり、恋愛ありで複雑な関係。委員長が「皆の心をひとつにする」ために交換日記を開始する所から話は始まります。日記は誰が書いているのかわからないようにされ、登場するクラスメイトも属性に基づくあだ名や派閥で表現されます。

前半の交換日記では日常の様子が描かれ、あだ名に本名を当てはめてるパズルがメイン。このパズルのために口絵には在籍生徒一覧(キャラクター表)があり、本名が書き込めるようになっています。実際にここに書き込むと、次読む人のためにならないので、コピーするなり、別にメモをとるなりですが。

このパズルを解くために少ない説明を読み漏らさないようしっかりと読んで、属性として与えられたあだ名に本名をあてはめる作業をおこなうことにより、キャラクターへの理解が深まるようになります。普通なら読み飛ばしてしまいそうなところを、注意深く読ませることに成功しているわけです。普通であれば35人の名前を覚えるのは無理ですが、ほとんどの人はメモをとりながら読むので、それが後半に生きる仕組みにもなっています。

ただ、このパズルは、中盤で大体把握ができます。パズルで悩ませようとしているのではなくて、35人のキャラを理解させるための作戦だと思います。帯などでパズル要素を前面に押していたようですが、これは出版側の販売作戦で、パズル要素はおまけ程度の考えでよいかも。ラノベはキャラクター立ちが重要ですが、それをうまく利用してパズル仕立てにしている印象です。

後半は小さな事故をきっかけに、誘拐事件まで連鎖的に展開していくわけですが、このあたりは学園ドタバタ劇といったところ。本名とあだ名が35人分、計70の名前が飛び交うので、名前を覚えるのが苦手な私はちょっと厳しかったですが、本名の埋まったキャラクター表を見ることで、あだ名からその人物の特性まですっと思い出せました。

物語の落としどころとしては、学園ものらしくて良いと思います。ただ人数が多いため、生かし切れていないキャラクターがあるのは残念。このあたりは続編も頭の隅に入れていたのかもしれません。また裏ボスなんかはラノベらしいキャラだけど、学園ものとしては都合よすぎるかなと思ったりもします。

そして交換日記として書かれているわりには、文体が物語風なので不自然にも思えます。ここが1番のマイナスポイントかもしれません。物語として読ませるためには、仕方がないのかもしれませんが。

手紙のやりとりで話が進む書簡体小説のバリエーションで、パズル要素を持たせてキャラへの理解を深めさせ、35人のキャラクター小説として描ききっています。変化球のライトノベルなので万人に受けるとは思えませんが、こういった作品があってもよいはずです。

読書メーターのレビューで「群像劇は各キャラクターを明確に立てて、メリハリつけて演出しないとバラけてしまうが、これはその失敗作の好例」と評した人がいて、なるほどと思いました。普通の小説読みの人ならこう思ってしまうのでしょう。

物語を楽しみたい人にはオススメ出来ませんが、本を読むこと自体を楽しみたい人にはオススメです。意欲的な作品で、ライトノベルならこういうのもゆるされるし、こういったチャレンジはライトノベルならでは。そういう意味で評価したいです。楽しめました。

1度読み終えた後も、35人の本名や特徴、関係性を理解した上で読むとまた面白い。特に序章の生徒振り分け会議における、担任の絶望感と他の先生たちの発言が笑えますね。続編がないのは、残念なところ。パズルなしでの2年4組シリーズ、キャラクターの魅力で群像劇として成り立つのではないかなと思います。

なお、発売当時はスーパーダッシュ文庫のHPにて、在籍生徒一覧のPDFファイルが配布されていたようですが、2020年7月現在ではなくなっております。

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