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【単巻ラノベを読む】時無ゆたか『明日の夜明け』を読んで

さて、今回読んだのは2001年の第6回スニーカー大賞・優秀賞受賞作、時無ゆたか『明日の夜明け』を読んだ感想です。今回はネタバレありでの感想なので、未読の方はご注意ください。

明日の夜明け

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著者:時無 ゆたか
イラスト:石田 あきら
文庫:角川スニーカー文庫
出版社:角川書店
発売日:2001/11

第6回スニーカー大賞 優秀賞受賞。
一週間後に文化祭を控えた夜見月高校。早宮功も展示の準備を終え帰宅しようとした時、校舎を大地震が襲った。崖崩れのうえに電話も不通、さらに触れただけで激痛がはしる霧のため校舎は陸の孤島に。功たちは脱出方法を探すが3年生の松原や教師尾造を死体で発見してしまう。この校舎の中に殺人鬼が!?パニックに陥る生徒たち。しかしそのなかで、ある少女の姿を思い浮かべる女生徒がいた。

読んだ感想

第6回スニーカー大賞というと、先日読んだ長谷敏司『戦略拠点32098 楽園』が金賞を取った年、あちらはガッツリSFでしたが、こちらの作品はホラー・ミステリー風味の学園モノです。

山の上にある学校が、地震によるがけ崩れで孤立してしまうことに。そして、触れると痛みを伴う謎の霧が学校を取り囲み、残された生徒たちは校内に避難する。しかし、校内には教師の死体が。次々と殺されていく生徒たち、はたして殺人鬼は誰なのか。といったのが、大まかなストーリーです。クローズドサークルもののミステリーとも受け取れますし、殺人鬼が1人ずつ殺していくさまはホラー小説のようです。

で、読み始めてから終章を読む前までずっと、めちゃくちゃ小説だなと思っていました。地震で学校の周りの崖が崩れて孤立することや、触れると痛みをともなう謎の霧に覆われることは、ありえないことだけど、いかにもライトノベル的でこれはいい。おかしいなと思うのが黒坂凪那という少女が、いきなり校舎の中に駆け込んでいくという謎の行動をとったのに、誰もそのことを追求しようとしないこと。死体のあった教室が開かない(結局簡単に作り出せる状態だった)からというだけで、誰も凪那を怪しいとも考えないというのは、あまりにもおかしいと思うのです。

さらに教室の照明をつけて回ったあと、突然照明が消えます。この照明が消えたあとの状態がよくわかりません。廊下は暗くて、一人の少女が暗所恐怖症でそれを怖がるのに、他の人間は普通にウロウロしています。窓から光が差し込んでいるのならそれほど暗くはないはずで、暗所恐怖症が発動する暗さのようにも思えません。一瞬霧が晴れたような描写があるときもあるのですが、階段の先が見えないくらいの暗さなのに、行動できてしまうのはどうなんだろう。

それに殺人鬼が校内にいると考えたあとの行動がめちゃくちゃです。まとまって行動するなり、教室に閉じこもるなりすれば良いのに、変に動き回ります。夜明けまで待てばなんてセリフをいいつつも、みんなでまとまって安全に隠れていようともしないのはなぜか。もちろんそれなら物語にはならないのですが、そのうえで個々が孤立する状況にしていくのであればわかりますが、作中ではすすんで一人ひとり行動しています。

しかもお互い相談しないというか、考えていることを他者に伝えずに行動してしまう。友達とか幼なじみとか設定はあるのに、なんかよそよそしいのです。明らかに怪しく思える、話すと事故に合うためにクラスメイトから魔女と呼ばれる少女は、思わせぶりな発言ばかりでこれも真意を語らず。しかも魔女と呼ばれる少女や飛び降り自殺した少女など、学校の怪談的なものを匂わせておいて、後半からはゾンビものになってしまうのもなんかヘンです。

もっと根本的なことで言えば、それほど遅くない時間帯(冒頭では夕方とある)に地震が起こっているのに、学校に残っている先生、それだけって。生徒より残っている先生が少ない学校ってありえるのかな。もう、めちゃくちゃだなと。

あとは物語の内容ではないのですが、場面の切り替わりが多くて非常に読みにくいのです。切り替わるときが空白行1行だけで、ページの終わりから新しいベージになるときに切り替わっている場合は、戸惑ってしまいます。もう少し空白行をとって、切り替わったことをはっきりさせてほしいと思いました。ただ、これは意図的なのでしょうね。ただ読みにくいです。

もうひとつ冒頭にある学校の図があまりにも適当というか、おかしいのです。この学校、廊下の真ん中に階段があって、廊下がひたすら広いのでしょうか。しかもL字の短い棒の位置に教室はあるのかどうか分からないし、もしあったとしたら、L字の長い棒から短い棒へ行く廊下のつながりがよくわかりません。

以上、読んでいてすごいストレスの溜まる小説でした、終章を読むまでは。終章のひとつ前の第7章で、殺人犯の正体が明かされます。まぁ、だいたい想像のとおりです。

で、終章で語られるのは、結局、地震があった以降の話は、現実の世界の話ではなかったというオチ。ようはこのストレスの溜まる部分は、すべて現実基準で考えるとダメというわけです。夢というわけではないですが、現実と切り離された世界、リアリティが曖昧であって当然だったわけです。第7章の最後あたりで、偽りの未来だとか、なんとか言われていて、これはパラレルワールド的な物語で、それのキッカケが地震と謎の霧かと思ったのですが、そこまでSF的な設定はありませんでした。

ただ、単純な夢オチではなくて、登場人物全員がこの経験を共有しているよう。で、物語の中で死ぬことが、現実世界への帰還(現実世界での目覚め)につながっています。夢でもなく、パラレルワールドでもない、でも経験は共有されていて、現実世界との繋がりもある、というわけでどういう世界での話なのか、私にはよく理解できませんでした。自殺した少女が時間を切り取ってどうこうともありましたが、これもいまいちよく理解できず。

でも、この強引さというか、終章での結末の付け方は面白いなと思いました。理解は出来ないのですが、なにか「つまらない」のひと言で済ませられない、この感じ。ライトノベルをたくさん読んでいると、本当につまらないと思う作品に多々出会います。この作品もストレスは溜まるし、言ってみれば夢オチの変型バージョンだし、これはスゲェ的なものは全くありません。でも、なんかただのつまらない作品と違うのです。

この記事を書くのはとても大変でした。思い浮かぶところはストレスの溜まるところばかりだったのに、不思議と読後感は悪くなかったから、記事としてまとめにくかったのだと思います。なぜなんだろうと2日ほど考えていたのですが、この物語には希望があるから読後感が良かったのだと思い至りました。

夜明けが来ればきっと良い明日が来る。そういう希望・メッセージがしっかりとあるからこそ、スニーカー大賞優秀賞を受賞できたのではないかと。

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