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電撃コラボレーション『4月、それは──××××』を読んで【ラノベ・アンソロジー】

さて、今回は電撃コラボレーションの『4月、それは──××××』を読んだ感想です。

こちらの作品はもともと雑誌の付録です。紙版を手に入れるのは古書店やヤフオク・メルカリなどを利用する必要があります。ただ、電子書籍化されていますので、そちらであれば簡単に読むことができます。

電撃コラボレーション

もともとは雑誌『電撃hp』『電撃文庫MAGAZINE』誌上にて行われた企画で、「電撃作家陣が同じテーマ&同じシチュレーションのもと、コラボレーション作品を描く」がメインコンセプトです。wikipediaによると、かなりの企画が開催されているようです。

その中で電撃文庫創刊15周年記念企画として、2008年に『まい・いまじね~しょん』『MW号の悲劇』『最後の鐘が鳴るとき』の3企画が文庫化されました。その後『電撃文庫MAGAZINE』では「まるごと1冊“電撃文庫”」として、アンソロジー企画がそのまま付録になることもあったようです。

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4月、それは──××××

「4月、それは──」に続く言葉を考えてタイトルとし、そこから湧き上がったイメージを作品にすべし、というミッションに、電撃文庫の豪華作家・イラストレーター陣が挑んだ!! 果てしないほどにオリジナリティーを求める魂の競(狂)演! 絶対保存版の1冊を心ゆくまで堪能せよ!!

電撃文庫MAGAZINE2009年5月号の「まるごと1冊“電撃文庫”」付録。現在は電子書籍で読むことができます。

収録作品
4月、それは──旅の始まり 花 / 時雨沢恵一
4月、それは──永遠のかなたの国 檸檬の終末 / 古橋秀之
4月、それは──わたしの嫌いな月 地上の翼 人の翼 / 鈴木鈴

4月、それは──寿命。 僕の小規模な奇跡 / 入間人間
4月、それは── きっかけの季節 Run! Girl, Run! / 柴村仁
4月、それは── 多感な季節 わたしが恋したNGINNE / 壁井ユカコ

4月、それは──桜舞い散る季節 とある馬と桜の物語 / 佐藤ケイ
4月、それは──変化の季節 マトリョーシカ / 来楽零
4月、それは──地球侵略の季節 春のうららの地球侵略 / 渡瀬草一郎

4月、それは──いつか来る春 サエズリ図書館のサトミさん。 / 紅玉いづき
4月、それは──嘘の季節 4人の親友 / 藤原祐
4月、それは──死にたくなる季節 電話の向こうの虚偽と真実 / 中村惠里加
4月、それは──眠気漂う季節 俺とサランラップと春眠暁を覚えずな彼女 / 水瀬葉月

読んだ感想

今回のお題は『「4月、それは──」に続く言葉を考えてタイトルとし、そこから湧き上がったイメージを作品にすべし』とのことで、かなり自由に物語が展開できるようになっています。

4月、それは──旅の始まり 花 / 時雨沢恵一

4月と聞くと、旅立ちの季節ということで、1本目が「旅の始まり」って安易なタイトルだなと思いましたが、見事斜め上を行っていました。まさかこんな話を1本目に持ってくるとは。

言ってみれば終末もので、朝起きたら他の人は死んでしまっていたパターン。青森県竜飛岬から温かい南の地を目指して旅する物語で、最後に希望が見えたと思ったら……

さすが時雨沢恵一と唸るしかない、面白い作品でした。

時雨沢 恵一(しぐさわ けいいち) 2000年に『キノの旅』でデビュー。現在も続く『キノの旅』は電撃文庫のみならず、ライトノベルを代表するシリーズ作品と言え、アニメ化もされています。それ以外にも「学園キノ」「アリソン」など人気作多数。現在は電撃文庫「ソードアート・オンライン」のスピンオフ作品「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」が人気です。

4月、それは──永遠のかなたの国 檸檬の終末 / 古橋秀之

古橋秀之というとSFのイメージだったのですが、こんな可愛らしい作品を書くなんて驚きです。桜の樹の下で文学談義っぽいものをする文系学生の話。レモン風味のちょっと酸っぱい恋愛物語。ベッタリな恋愛モノは苦手ですが、こういうのは嫌いではないですし、むしろ好き。

古橋 秀之(ふるはし ひでゆき) 1995年『ブラックロッド』でデビュー。法政大学 金原瑞人創作文芸ゼミ出身で作家としての評価は高いのですが、代表作として知られている作品はあまりないような気がします。『ブラックロッド』『ブラッドジャケット』『ブライトライツ・ホーリーランド』の「ケイオス・ヘキサ」三部作が代表作。

4月、それは──わたしの嫌いな月 地上の翼 人の翼 / 鈴木鈴

天狗と人力飛行機を飛ばそうとする少年の話。ちょうど今季の朝ドラ「舞いあがれ!」で人力飛行機の話を見たところなので、ひとりで飛ぶのは難しいだろうなと思いながら読みました。こちらも可愛らしい作品です。

4月は始まりの季節だと思うですが、どちらかというと別れのイメージが強い作品だなと。人力飛行機で飛んだ少年は新しい世界への旅立ちなんだけど。それを見送った女性側の話なので、よりそう感じるのかも。

鈴木 鈴(すずき すず) 2002年『吸血鬼のおしごと The Style of Vampires』でデビュー。現在は作家集団「GoRA」所属。

4月、それは──寿命。 僕の小規模な奇跡 / 入間人間

余命1年となった大学生が、想いを寄せていた女性(人妻)に告白しに行く話。ライトノベルっぽくない文学臭がするというか、ちょっと苦手な感じ。主人公の行動にあまり理解できず、面白さがよくわかりませんでした。

(いるま ひとま) 2007年『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん 幸せの背景は不幸』デビュー。電撃文庫で途切れることなく作品を発表し続けながら、メディアワークス文庫でも活躍。多作なイメージの作家です。

4月、それは── きっかけの季節 Run! Girl, Run! / 柴村仁

タイトル通り、新しい季節にきっかけを得て、走り出す物語。新しい出会い、心機一転といった4月のイメージ通りの小気味よい作品。あとがきによると著者的には満足できていないようですが、こういうストレートな作品は必要だと思います。

柴村 仁(しばむら じん) 2004年『我が家のお稲荷さま。』でデビュー。2009年の『プシュケの涙』が評判となり、その後は一般文芸の分野に進出。メディアワークス文庫で作品を多数発表しています。

4月、それは── 多感な季節 わたしが恋したNGINNE / 壁井ユカコ

これはちょっと捻ったSF作品。ンギネの正体については、途中である程度は想像できますが、それがわかった上でも面白いです。ただ、4月というテーマでなくても成り立つ話だなと思っていたら、あとがきで……

(かべい ゆかこ) 2003年『キーリ 死者たちは荒野に眠る』でデビュー。ライトノベルでの代表作は「キーリ」「鳥籠荘の今日も眠たい住人たち」。現在は「2.43 清陰高校男子バレー部」など、ライト文芸のジャンルでも活躍。

4月、それは──桜舞い散る季節 とある馬と桜の物語 / 佐藤ケイ

異色作。今なら「ウマ娘」の大ヒットで、競走馬に興味を持っている若い人も多いでしょうけど、2009年の時点で、人の出て来ない「馬と桜」の話なんて、すごいチャレンジだなと思いました。競馬好きには色々と泣ける話。ただ、馬の名前がエターナルチェリーボーイで「永遠の童貞」、いろいろな意味を持たせた名前ですが、日本の競走馬なら文字数オーバー。ま、どうでもよいけど。

佐藤ケイ(さとう けい) 2001年『天国に涙はいらない』でデビュー。ライトノベルの分野で意識的に「萌え」を取り上げたパイオニア的存在らしい。デビュー作以外の代表作に『私立!三十三間堂学院』。

4月、それは──変化の季節 マトリョーシカ / 来楽零

今回はこれがベスト1。それまでのふっくら体型・穏やかな性格から、新学期になって性格が一変してしまった女子生徒。以前から気になっていた男子に、自身は多重人格だと打ち明けるのですが……

出会いが過去のトラウマを越えるきっかけとなり、新しい出発となる。まさしく4月の物語。

来楽 零(らいらくれい) 2005年『哀しみキメラ』デビュー。代表作はデビュー作ですが、『ロメオの災難』という個人的に大好きな作品の作者。現在は作家集団「GoRA」所属。

4月、それは──地球侵略の季節 春のうららの地球侵略 / 渡瀬草一郎

地球を侵略にやってきた宇宙人のサムイ漫才が続く、ちょっと懐かしい感じのするSFコメディ。バカバカしくって、かなり好みの分かれるタイプの作品でしょう。梶尾真治や草上仁などの、80年代SF短編を思い出しました。わりと好きです。

渡瀬 草一郎(わたせ そういちろう) 2001年に『陰陽ノ京』でデビュー。代表作に『空ノ鐘の響く惑星で』があります。現在は小説家になろうにて、「猫神信仰研究会」名義で活動しています。

4月、それは──いつか来る春 サエズリ図書館のサトミさん。 / 紅玉いづき

図書館で働くサトミさんと、演劇を諦め帰郷しようとする青年の話。演劇への未練を断つべく戯曲集を寄贈したいという青年。諦めようとする青年にサトミさんは……

年を経て小学生からオバサン、ババアなどと呼ばれるようになったサトミさんが、最後に明かしたことにビックリ。

紅玉 いづき(こうぎょく いづき) 2006年『ミミズクと夜の王』でデビュー。童話・児童文学っぽいイメージの作家(勝手な印象です)

4月、それは──嘘の季節 4人の親友 / 藤原祐

4月1日エイプリルフールをネタにした、なんとも強烈な作品。女子高生4人の物語なのですが、読んでいて女子高生が怖くなる話でした。

藤原 祐(ふじわら ゆう) 2003年に『ルナティック・ムーン』でデビュー。代表作に『レジンキャストミルク』など。現在はカクヨムで執筆。その連載作『レリック/アンダーグラウンド』がコミカライズされています。

4月、それは──死にたくなる季節 電話の向こうの虚偽と真実 / 中村惠里加

オレオレ詐欺をネタにした、ちょっと不思議な作品。誰かが嘘をついているのだろうと疑って読んでいたのですが、最後が斜め上というか、ちょっと理解できない終わり方でした。

中村 恵里加(なかむら えりか) 1999年『ダブルブリッド』でデビュー。発表作品は少なく、デビュー作が代表作。2013年の『見る人』(電子書籍のみ)発売以後、目立った活動はありません。

4月、それは──眠気漂う季節 俺とサランラップと春眠暁を覚えずな彼女 / 水瀬葉月

ちょっと変わったシチュエーションの、正統派ラブコメと言ってよいのだろうか。好きな人の近くにいると眠くなってしまう女子高生の物語。席替えのあと、隣の人が気になるっての言うのは、学生の永遠のテーマ。サランラップを使う発想といい、ちょっと変だけど面白い作品でした。

水瀬 葉月(みなせ はづき) 2004年『結界師のフーガ』でデビュー。代表作はアニメ化もされた『C3 -シーキューブ-』。

まとめ

お題の縛りが厳しくないので、バラエティあふれるアンソロジーでした。好みの分かれる作品はあるものの、ハズレ無しの作品集と言っていいのではないかと思います。

恋愛ネタの来楽零作品が一番のお気に入りです。それ以外にも、可愛らしい恋愛作品の古橋作品、出会いをきっかけに心機一転のストレートな柴村仁作品、好きな人の近くにいると眠くなるといった変な設定の 水瀬葉月作品と、どれも面白かったです。

変化球な作品としては、やっぱり時雨沢恵一が1番。これをトップバッターに持ってくるところがすごいです。もうひとつ変化球で言えば、「競走馬と桜」を描いた佐藤ケイ作品も異色ながらも楽しめました。

好みが分かれるだろうなと思いつつ、ちょっと80年代短編SFコメディを思い出した、渡瀬作品も好きです。エイプリルフールをネタにした藤原祐が面白くもあり、怖い作品でした。

これまでの電撃コラボ作品にあった、伏線回収(伏線でもなんでもない)のような作品がないのが良かったと思います。無理やり関連付けた物語がなくても、1冊の作品(アンソロジー)としてイメージはしっかり確立することを、改めて見せてくれたような気がします。

もともとは雑誌の付録ですが、現在は電子書籍でも読めるので、これはおすすめです。

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