さて、今回は富士見ミステリー文庫から出版された単巻ラノベをまとめたものです。
富士見ミステリー文庫は、2000年11月から2009年3月までの約9年間、富士見書房が刊行していたライトノベルレーベルです。ライトノベルでミステリーを!と取り組んだレーベルですが、あまり受け入れられることがなく、途中からLOVE寄せと呼ばれる恋愛路線への変更もあり、ミステリー作品がないのがミステリーなんて揶揄もされました。
一方、桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』、ラノベ三大奇書のひとつ中村九郎『ロクメンダイス、』を出版するなど、魅力的な単巻ラノベが多いのも事実です。レーベル全315作中、単巻モノは52作品。5回に分けて紹介します。なお、データは「ラノベの杜」のデータベースを元に、amazon.co.jpなどを参考にさせていただいてます。
また、既読作品には星印でオススメ度を添えてあります。未読のものは未評価で、今後読み終わり次第、評価をつけていく予定。あくまでも個人的な好みです。
面白い。読んで損は無し。
面白い。楽しめます。
それなりに面白いかも。
時間があれば、読んでみるのも一興。
大雑把な評価ですが、もし読んだことがないものがあれば、参考にしてください。
菜子の冒険 猫は知っていたのかも。 / 深沢美潮
著者:深沢美潮
イラスト:ひさいちよしき
発売日:2000/11
飯倉菜子は16歳。女流ミステリーの大家・神乃瀬志帆を母に持つ。高級住宅街に愛犬クレイ、トラップと、のほほん暮らすお嬢様(?)。追っていた猫・ルカナンが逃げ込んだのは、よりによってヘンクツでならすキヌ婆さん宅。しかし、菜子は婆さんのようすがいつもと違うことに気がつく。
菜子は確信した──「あれはキヌばあさんじゃない!」
母の新米担当編集・仁とともに〈偽者〉の謎を追う菜子。
たぶん、ルカナンだけが真相を知っているんだよね!?
かわいっくて、純な16歳の推理と冒険、そして恋愛。
お騒がせお嬢様探偵の誕生!!
創刊ラインナップのひとつ。近所のお婆さんの様子が変だという気付きから、地域の歴史をたどることになり、隠された財宝の話へという展開が面白いです。ミステリでありながらも、キャラクターの成長をしっかりと描いていて、ジュブナイル・ヤングアダルト的にもよくできた作品だと思います。現在だと児童文庫(青い鳥文庫やミライ文庫)に収録されてもおかしくないですね。
整理番号が「FM01-01」と、この作品こそが富士見ミステリー文庫の1番目の作品となります。『フォーチュン・クエスト』でライトノベルを代表する作家の一人、深沢美潮さんを創刊ラインナップのさらに1番目に迎えているということで、富士見ミステリー文庫の力の入りようがわかります。
オススメ度:
2008年に講談社YA!ENTERTAINMENTより新装版が出版されています。電子書籍は講談社版のようです。
月が射す夏 コバヤシ少年の生活と冒険 / イタバシマサヒロ
著者:イタバシマサヒロ
イラスト:江川達也
発売日:2000/11
僕は小林少年。理由はどうであれ、こんな名前を付けた両親には腹が立つ。だけど、両親以上にむかつくのが、幼なじみの織田さやかだ。あいつは「コバヤシ少年!」と呼び捨てにして、楽しんでいる。それでも、あの切れ長の瞳でにらまれると、憎たらしいけど、背筋がぞくっとしてしまうんだ。
まあ、僕たちのそんな状況なんておかまいなしに事件は起きる。僕の母親が失跡したんだ。「月に帰ります」という謎の手紙を残して……。これをきっかけに、夏休みを利用した母探しの旅が始まった。
中学最後の夏休み。そのひと時で成長していく少年の姿を描く、甘酸っぱい青春ミステリー。
創刊ラインナップのひとつ。後のLOVE寄せにつながる、青春ミステリLOVE風味な作品です。物語自体は「月に帰ります」と書き置きを残していなくなった、母の過去や出自の謎を巡るものですが、主人公の少年と幼馴染の少女の恋愛未満の淡い物語でもあります。さすが「BOYS BE……」の原作者といったところで、中学生男女間の微妙な関係が良いですね。
イタバシマサヒロ氏は90年代の「週刊少年マガジン」で人気のあった『BOYS BE……』の原作者で、恋愛物の名手。イラスト担当の江川達也氏も『東京大学物語』が有名な、こちらも恋愛物の名手ということで、編集部的に創刊時から恋愛要素を積極的に取り入れようという狙いがあったのではと考えられます。
オススメ度:
Heaven’s game ゲームデザイナーは眠れない / 高山浩
著者:高山浩
イラスト:藤城陽
発売日:2000/11
俺、桜沢大は17歳。高校を中退してから、ちっちゃなゲーム製作会社「ブライト・システム」にテストプレイ要員として拾われた。
新人歓迎会の夜、ひとりで会社に戻った俺は見てしまった。新作ゲームの中だけに存在するはずの短剣を、胸に突き刺して息絶えている女性の姿を──。
ゲームの犯人が魔法を使って、人を殺したんじゃないか?
新作ゲームソフトの開発をめぐり、渦巻く巨大な陰謀……。
最先端業界に秘められた暗部をリアルに描き出すサイバー・サスペンス。
それでも、きみはゲームデザイナーになりたいか?
創刊ラインナップのひとつ。高校中退のフリーターを主人公に、ゲームソフトハウスを舞台にしたミステリです。作者がゲーム業界の人なだけあって、業界に関する蘊蓄的なものが詳しい。作成中のゲームになぞられたような殺し方をされた女性、その裏にはソフトハウス買収の噂があり、さらには……といった内容です。主人公が特殊能力を持ち、それを使って犯人を探すというのは、ミステリとしてはちょっとズルいかなとも思います。
オススメ度:
Blood the last vampire 闇を誘う血 / 藤咲淳一
著者:藤咲淳一
イラスト:中村悟
発売日:2001/01
生きてるって、そんなにえらいことなの?
なぜ死んじゃあ、ダメなの?
生きることに希望を失った少年、叶居歩。彼は殺人現場を目撃する。数百メートル離れた双眼鏡越しの視界での出来事だった。
レンズの先ではセーラー服姿の少女が日本刀で人を斬っていた。あまりに常識離れした光景。しかし、それは惨劇の始まりにしか過ぎなかった。
その人斬りの少女、音無小夜が歩の学校に転校してきたからだ。それから、歩の周りで奇怪な失踪事件が続発する。
「BLOOD」と小夜の物語。その全ての謎が今、明かされる。
衝撃と戦慄の学園ホラー!!
オススメ度:未読。
エンジェル・ダスト 天使が降ってきた夏 / マツノダイスケ
著者:マツノダイスケ
イラスト:とよた瑣織
発売日:2001/04
インターネットが普及し、ぼくたちの生活に欠かせないものとなっている現在。ネットの「終点」ってどこにあるの? 宇宙みたいに異次元空間にむかって増殖しているのか、それとも誰も想像のつかない世界に繋がっているんだろうか──。
女子高生・栄子はチャット内ではアイドル的存在だったがある日を境に、ネット内に自分の情報が「氾濫」していることに気づく。いったい情報の発信源はどこ?
手をさしのべてくれたのは無機質な「ネット世界」の住人だったが……。
ネットでしか話すことができないヒロへ、つのる恋心の行方は──。渾身のSFサスペンス。
インターネットが当たり前になりつつある時代の物語です。チャットにハマる女子高生が知らぬ間にネットアイドル的な存在に祀り上げられ、ストーカーも現れる。一方、父の女遊びによる家庭崩壊状態の中、母の失踪。ネットによる顔の見えない人物を原因とした恐怖や、母の失踪に関連する不思議な現象を描くサスペンスです。読後感としては眉村卓の幻想小説っぽくて、60~70年代ジュブナイルSFを00年代風にアップデートしたような感じです。
マツノダイスケ氏は80年代後半アイドル的人気のお笑いコンビ「ABブラザーズ」で活躍し、その後小説家に転身。相方は中山秀征でした。学生時代「ABブラザーズのオールナイトニッポン」を聞いていたので、ちょっと懐かしい人の印象です。
オススメ度:
月光少女アンティック・ナナ 満月の長い夜 / 吉田縁
著者:吉田縁
イラスト:北野玲
発売日:2001/04
「絶対に開けないでくれ」
失踪した叔父の言葉を忘れたわけじゃない。でもオレは、預かったスーツケースを開けてしまった。そこにアンティックド ールを見つけた時から、オレ・諏訪カオルの平凡な日常は吹っ飛んだ。ナナと名乗ったその人形は、いきなり「『悲しみ』を狩れ」なんて言い出すし……。
そんなある日、「殺される、助けて!」と書かれた手紙が届いた。驚いたオレは、ナナを連れて差出人・時子が住む三重の漁村に向かう。だが、捜し出した彼女は記憶を失っていた。いったい彼女に何があったんだ?
超絶美少女が謎を呼ぶ、ネオ・ロマンティック・ホラー登場!
オススメ度:未読。
マンイーター / 吉村夜
著者:吉村夜
イラスト:篁龍士
発売日:2001/05
突然報された親友の死。それは、陰惨な虐めが原因による自殺であった。その事実を知った一之瀬武士は、友人を死に追いやった奴らに激しい殺意を抱いた。意外にも簡単にそいつらは判明し、彼らに対する復讐を決意した武士。だが、実際に行動 を起こすことはなかなかできなかった。
そうして、悶々とした日々を過ごしていた武士は、ある日インターネットを検索中に、復讐請負サイトというものを発見し、ワラにもすがる思いで、そこに復讐の依頼をしてしまう。しかし、それは新たなる惨劇の始まりであったのだ!
背徳のサスペンス・ホラー!
オススメ度:未読。
閉鎖のシステム / 秋田禎信
著者:秋田禎信
イラスト:黒星紅白
発売日:2001/05
鳩時計の鳩を、また見逃した。八時、九時、そして今。──俺は鳩に負かされている。残業と勝ち続ける鳩にため息をつき、撞久屋市論悟はつぶやいた。
「死んじゃおうかな。いや、こんなんで死んじゃ駄目か」
その日、巨大ショッピングモール『プラーザ』に異変が起きた。停電。シャッターが降り、静謐が支配するビルに残されたのはそこに店を出す論悟、香澄に、高校生の康一と教子。まるで、出口のない迷路のような『ブラーザ』を、彼らはさまよう。そして、暗闇の中、突然に犯罪は始まった。『プラーザ』に犯人が? 閉ざされた空間で緊迫は高まっていく!!
90年代ライトノベルの人気作「魔術士オーフェン」シリーズの秋田禎信が描く、ちょっと不思議な単巻作品。奇書といってもよいでしょう。面白いどうこうより、よくわからないという感想です。メインとなる人物の思考や行動原理がよくわからなくて、狂人の独り言を延々と読まされているようです。物語の結末も投げっぱなしで、ミステリとしてはモヤモヤだけが残ります。
オススメ度:
黄金の血脈 / 伊吹秀明
著者:伊吹秀明
イラスト:川添真理子
発売日:2001/06
橘みつきはミステリーマニアの高校2年生。目下の悩みは、ストーカーにつきまとわれていることだ。しかし、謎めいた転校生・笠城拓海に関わったことで、彼女はさらに厄介な連続殺人事件へと巻き込まれて行く。事件の陰に見え隠れする拓海の血塗られた過去、時を同じくしてエスカレートするストーカー行為、そして黄金の仮面をつけた奇妙な死体達。それらのカードが意味するものは!?
錯綜する二つの事件の行き着く先に、いったい何が待ちうけているのか。
日常と非日常を疾走する、みつきと拓海の青春微熱ミステリー、ここに登場!!
ストーカーに付きまとわれている少女と過去に何かあったらしい転校生の少年。二人がコンビを組んで活躍するわけでなく、二つの物語が大きなうねりになることもなく、物語が散漫になってしまった印象です。黄金の仮面を付けた死体、錬金術、オカルティズム、謎の組織と、面白そうな要素がありながらも、そちら方面には深く立ち入らず終わってしまったのが残念です。
オススメ度:
七不思議学園の風来坊 / イタバシマサヒロ
著者:イタバシマサヒロ
イラスト:小笠原智史
発売日:2001/07
私立希望ヶ丘学園中等部に、ひとりの転校生がやって来た。「スナフキンタ、という。特技はギター演奏……」
背中のギターを胸元に回し弾き出すと、クラスのみんなは呆気にとられた──。
ぼさぼさのおかっぱ頭に、ぎょろりとした金魚みたいな目玉。お世辞にもカッコいいとは言えない風貌だ。
しかも、キンタが転校早々、学園の七不思議にまつわる事件が発生する!
キンタの行くところ、次々と発生する事件また事件。彼は自ら捜査を開始したが……。
摩訶不思議なロマンティック学園ミステリー登場。
学校の七不思議にまつわる場所で起こる事件の犯人を、風変わりな転校生と新聞部部長の少女が探す物語。前作『月が射す夏』に比べると青春恋愛要素が少なめの、正統派学園ミステリです。ギターを背負い、ボサボサのおかっぱ頭にギョロ目といった、奇をてらったような主人公の特徴があまり活きていないような気がします。スナフキンのイメージなのはわかるのですが、行動自体が面白いので、見た目なんかはもっと普通でも良かったのになと。主人公に比べると、ヒロインとその後輩、先生なんかのキャラは良かっただけに、もったいないなと。
オススメ度:
超探偵ハヤブサ 隼は舞い降りた / 紙谷龍生
著者:紙谷龍生
イラスト:あらいずみるい
発売日:2001/08
「地上最強の名探偵」と呼ばれる男がいた。みずからを“隼”と化して犯罪者を狩り立てるための秘術〈隼流探偵術〉を使い、生涯を名探偵であることに捧げた一族──1200年の歴史の中つねに犯罪者と戦い続けた〈隼一族〉の当主、隼秀人である。
その秀人の弟子、隼直人が師匠の名代として、〈東洋のクリスティー〉吉原雅の出版記念パーティーに現れた。五人の名探偵が招待された孤島。そこには、彼らへの復讐に燃える犯罪者たちも招待されていたのだった。
復讐劇の幕は上がり、地上最強の弟子と、世界の怪人たちの壮絶な戦いが始まった。直人の隼流探偵術の技が冴える!
オススメ度:未読。
とりあえずまとめ
以上、富士見ミステリー文庫創刊の00年から01年8月までの11作品の紹介でした。