さて、今回は富士見ミステリー文庫から出版された単巻ラノベをまとめたもの、第3弾です。
なお、既読作品には星印の評価を添えてあります。未読のものは未評価で、今後読み終わり次第、評価をつけていく予定。あくまでも個人的な好みです。
面白い。読んで損は無し。
面白い。楽しめます。
それなりに面白いかも。
時間があれば、読んでみるのも一興。
大雑把な評価ですが、もし読んだことがないものがあれば、参考にしてください。
ホーム・チェリー・ホーム / 結城貴夜
著者:結城貴夜
イラスト:水上カオリ
発売日:2003/03
天涯孤独のおっとり女子高生熊坂実桜はひとり暮らし。けれど、代々伝わる古い家には秘密がある。妖怪が棲んでいるのだ。
「うるさいったらないねぇ」
「ふーんだ! お前なんか実桜の膝の上に乗れないくせに!」
「膝の上に乗って喜ぶのは赤ん坊と小さな獣だけだよ」
「ケモノ!? オレは妖だ、一緒にするないっ!」
頼もしくて粋な兄さん「後神」。元気いっぱい、小動物のようで可愛い「ひそか」。ふたりのおかげで、実桜は毎日楽しく暮らしている。
なごみ系三人が、不思議な事件をのほほんと(?)追う! ほんわか妖怪ミステリー!
おっとりした女子高生が、学校で起こった不思議な事件の謎を解く物語で、殺人の起こらない日常の謎系です。朝の持ち物検査で取り上げられた物品が、仕舞っていたロッカーからなくなる、だれが盗んだのか?ということをきっかけに、学校における先生の人間関係や生徒の学校に対する不満などをあぶり出しつつ、学園青春物語としてうまくまとめていて面白いです。ミステリとしてすごいとか、感動するとかじゃないんだけど、堅実に纏まっていてうまいなと。なお一応妖怪も出てくるけど、それほどストーリーにかかわらず、主人公の少女のバックアップ係といったところです。
作者の結城貴夜さんという名前はあまり聞いたことがなくて、この作品しか発表されていないのですが、すでに名のしれた作家の別名義かな?とも思います。著者紹介では本作がデビュー作とありますが、あとがきで『「ミステリー書きませんか」と話を頂いた』とあるので、すでに別ジャンルでデビューしている作家と考えられます。
オススメ度:
パズルアウト / 深見真
著者:深見真
イラスト:武田みか
発売日:2003/12
人の心に何か異常が起きた時、他人が治療するのは限りなく難しい。──しかし。人の心を、『目に見える形』で操作できる異能者が存在するとしたら! それができる異能者を、『象徴心理療法士』と呼ぶ──。
私立紫苑学園高等部に通う阿場城址郎は、『象徴心理療法士』である。しかし彼は、学園の誰も寄せつけず、孤独に日々を過ごしていた。
そんな城址郎に、アスタロトという腹話術人形を抱えた内気な少女・宮脇奈々が、勇気を振り絞って友人の悩みを相談した。人に無関心だった城址郎は、奈々に引きずられて世界の扉を開いていくが──。
斬新なイマジネーションが冴えわたる、学園サイコティック・ミステリーOUT!!
人の心を目に見える形で操作できる超能力を持つ象徴心理療法士が、連続自殺事件を解決する物語。心の問題を目に見える形にして、アクションもの的に解決するのが面白いです。それでいて心理学・哲学用語を多用して、扱いの難しい心の問題を単純化しすぎていないところもよいのです。LOVE寄せ以降の作品だと甘く見ているとびっくりするかも。
オススメ度:
仮面は夜に踊る / 名島ちはや
著者:名島ちはや
イラスト:フミオ
発売日:2004/01
帝都歴・××年──。様々な難事件に悩まされ、凶悪事件が時に紙面を騒がせることを憂えた政府は、ある特殊な規制を一部緩和した。それは、探偵などに対する優遇措置と拳銃携行の許可だ。
そんな中、名探偵の誉れ高い如月文人のもとには、Juvenile Detectivesと呼ばれる少年少女を集めた探偵団が付き従い、活躍していた。それでも昨今帝都を騒がす、“夜の支配者”と呼ばれる怪盗を捕らえることはできていなかった。
ある日、如月探偵を迎えに出たJ・Dの団長・坂口正一郎と副団長の如月忍、一人娘の如月未来は、“夜の支配者”の奸計により捕まってしまう。辛くも忍の機転で逃れたが、“夜の支配者”とJ・Dとの本格的な対決は間近に迫っていた──。
正統派少年探偵団が縦横無尽に活躍する、第3回富士見ヤングミステリー大賞佳作受賞作!!
江戸川乱歩の少年探偵団オマージュ作品。言ってみれば少年探偵団vs(黄金仮面ならぬ)銀仮面なんですけど、少年探偵団の副団長の生い立ちや銀仮面の娘を絡めて、ちょっと変化を与えています。単純な探偵vs怪盗で終わらなくって、繰り返されるライバル関係を描いていて、ちょっと構成が凝っているのがポイントです。
オススメ度:
呪の血脈 / 加門七海
著者:加門七海
イラスト:CLAMP
発売日:2004/02
好奇心が猫を殺す──この事件もちょっとした好奇心がきっかけだったのかも知れない……。
大学で民俗学を学ぶ宮地紀之は諏訪信仰の野外調査のさなか、北アルプス山中で鎌が幹に打ち込まれた奇妙な神木を発見する。いけないことと知りながら、学問的興味からその鎌を木から削り出してしまう宮地。だがその行為を村人に発見されて、彼は神木に神を再び封印するための“祭”に参加させられることになってしまう。
とりあえず儀式が執り行われるまでの間に、祭について調べて回った宮地は、件の村の神主の血筋をもつ高藤正哉とその妹の梓の存在を知り、連絡を取る。が、それが忌まわしき“裏”の祭りを引き起こしてしまう“出会い”になることを彼はまだ知らなかった……。異才・加門七海により描き出される“祭”の真の姿! 迫真のネオ・モダンホラー登場!
山奥の村に伝わる神木にさされていた薙鎌を抜いたことから始まる怪奇・幻想的な体験。民俗学者と神の血をひく家系の男。二人が微妙な関係性を持ちながら、裏の祭りに巻き込まれていきます。新宗教の預言者、諏訪大社、鹿島神宮、香取神宮などが関わり、そして鹿・鹿・鹿。主人公の見る幻想的な風景や心象が丁寧に描かれる、民俗学ホラー。
オススメ度:
人形はひとりぼっち The doll hunter / 中島望
著者:中島望
イラスト:藤谷
発売日:2004/02
私、昨日までの日常が、今日も続くんだと思ってた──。
人間のクローンを作ることが法律で禁止された近未来の日本。ある日、高校2年生の成嶋唯と友人の真下久美子は、夜の公園で人気アイドルがサイレンサー付きの銃で射殺される姿を目撃する。
撃ったのは、事なかれ主義の最低な担任教師だと思っていた雑賀誠!? そんな雑賀は唯たちに、自分が違法クローンを狩るドールハンターであり、違法クローンを射殺したのだと告げる。さらに、唯たちは口封じのため脅されて、雑賀の仕事を手伝わされることになってしまう……。
(違法とはいえ相手は人間なのに。そんなクローンを殺すなんて……私にはできない!!)
過酷な運命に翻弄されていく唯たちに、出口はあるのか!?
儚き少年少女の刹那的な日常を描き出す、近未来メランコリック・ミステリー登場!!
LOVE寄せ以降の作品なのに、バンバンと人が殺され、グロいシーンもあって、意外とハードボイルドな物語です。クローン人間を作る技術が確立し、それらは違法とされる時代、クローンは「人形」と呼ばれ人権はなく狩られる存在。二人の女子高生が人形が狩られるシーンを目撃したことから、クローンを狩る組織に無理やり取り込まれていきます。ドールハンターの非情さ、クローン第1世代として生み出された人たちの苦悩が描かれていて、物語にグイグイと引き込まれていく面白さ。正体をつかみにくい第1世代クローン、その証明方法があまりにも辛いです。
ただ面白いんだけど、設定がツッコミどころ満載なのも事実です。そこに目をつむれれば、ということになります。
オススメ度:
リリカルレストラン あした天使の翼をかりて……/ 大倉らいた
著者:大倉らいた
イラスト:四谷嘉一
発売日:2004/04
パパが天国に行った日、私はあの人に出逢った。泣いている私に、ぬくもりをくれた天使さま──。
あれから数年、ほんの少しの勇気が私に〈イタリアンの貴公子〉と呼ばれる瑛人さんと見習いシェフの航平、そしてずーっと探し続けていた〈幻の本〉との出会いをもたらしてくれた。
いくつかの事件で、少しずつ明らかになる天才シェフ・瑛人さんの過去──。
「料理は推理に等しい……という言葉は知っているかな?」
解けない謎に頭を悩ます私に、瑛人さんは天使のような笑顔でこう言った。
女子高生りりかと謎多き天才シェフたちの、ふわりと心を包み込む、モダンとロマンのミステリー。
現在のライト文芸につながるような、持ち込まれる謎をシェフが解明するタイプの作品です。学園で起こる幽霊騒動、主人公が過去に見た謎の村など、ミステリ好きな女子高生の周りで起こる謎を天才シェフが解き明かします。謎解きだけに重きを置かず、主人公のシェフに対する淡い思いなども絡めて、青春モノにしているのが富士ミスらしさといえるのかもしれません。
小さい謎解きを重ねつつ、主人公とシェフの関係性が深まっていく形でシリーズとして続いていけば、面白さがもっと発揮されるであろう作品だと思うのですが、残念ながら続きは無し。
オススメ度:
式神宅配便の二宮少年 / イセカタワキカツ
著者:イセカタワキカツ
イラスト:マツダ
発売日:2004/07
トーン
スタタタタ
スタタタタ
夜の闇を突き抜けて。屋根から屋根へと踊るふたつの影。あれは、何?
UFO? 妖怪? すーぱーまん?
いえいえ、ぜんぜん違うのです
そう、あなたもひょっとしたら、一度は噂に聞いたことがあるかもしれない。宵闇にまぎれ、式神を用いてあらゆる品を、そして人の心と心をつなぐ運び屋がいるという、そんな話を──
眉目秀麗。永遠の美青年・四季状先生
ようやく12歳。中学にあがったばかりのかけだしの運び屋二宮少年
二人は今夜も月明かりをあびながら、街から街を駆け抜けます。そしてそんな彼らを待ち受ける危機。そして冒険。そして人々の愛……
そう、これはそんな少年と彼を囲む仲間たちのすてきなすてきな物語です。
オススメ度:未読。
描きかけのラブレター / ヤマグチノボル
著者:ヤマグチノボル
イラスト:松本規之
発売日:2004/08
絵を描く以外これといって取り柄のない高校生の僕・遠藤ユキオにとって、神木円という女の子は異分子そのものだった。
憎らしいほど美少女だった彼女の存在は、平凡だった僕の生活をムチャクチャにかき乱した。けして甘い思い出ではない。仲は良くなかった、むしろ悪かった方だ。つまらない誤解が原因で、僕は円から数々の意地悪をされ続けていたのだから。
卒業式も近くなったある日、僕は親友の巧から円のことが好きだと告白された。巧に請われるまま、彼が円にプレゼントするための〈円の絵〉を描くことになった僕。放課後、ひとり美術室に残りカンバスに筆を走らせていた僕は、やがてただひとつの事実に気がつく。
──僕は、円が好きだった。
白いカンバスにひとつひとつ絵の具がのっていくように、ゆっくりとユキオと円の物語が始まる。
不器用な少年と少女が描き出す、ピュアで優しく、そして少しだけせつない青春ストーリー。
当時のラノベとしては珍しい、不思議要素がなく、キャラもそれほどエキセントリックでない、等身大の恋愛物語です。序盤のヒロインが主人公に対して行う悪戯が読んでいて辛いものでしたが、それ以外はグングンと物語に引き込まれていきます。最終的に美少女のヒロインが、なぜ冴えない主人公にそこまで惹かれるのかが少し分かりづらいのですが、好きという感情を抱いてからの4年間を、誤解やすれ違い、明かせない秘密など絡めて、揺れる関係性をきっちり描ききっていて面白いです。ストレートな恋愛小説を求める方におすすめしたい1冊です。
オススメ度:
砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet / 桜庭一樹
著者:桜庭一樹
イラスト:むー
発売日:2004/11
大人になんてなりたくなかった。
傲慢で、自分勝手な理屈を振りかざして、くだらない言い訳を繰り返す。そして、見え透いた安い論理で子供を丸め込もうとする。
でも、早く大人になりたかった。
自分はあまりにも弱く、みじめで戦う手段を持たなかった。このままでは、この小さな町で息が詰まって死んでしまうと分かっていた。
実弾が、欲しかった。
どこにも、行く場所がなく、そしてどこかへ逃げたいと思っていた。
そんな13歳の二人の少女が出会った。
山田なぎさ──片田舎に暮らし、早く卒業し、社会に出たいと思っているリアリスト。
海野藻屑──自分のことを人魚だと言い張る少し不思議な転校生の女の子。
二人は言葉を交わして、ともに同じ空気を吸い、思いをはせる。全ては生きるために、生き残っていくために──。これは、そんな二人の小さな小さな物語。渾身の青春暗黒ミステリー!
私のオールタイムベスト単巻ラノベです。「GOSICK」とともに作者・桜庭一樹が飛躍するきっかけになった作品です。鬱小説なんてよばれたりもしますが、悲しい出来事がありつつも主人公は前を向いていくので、希望のある小説だと思います。永遠の名作。
オススメ度:
現在は角川文庫から出版されています。
ハイスクール・ミッション! トキメキのチャンスは一度だけ!? / 岡村流生
著者:岡村流生
イラスト:ゆい
発売日:2004/11
自由で気ままなミッション系高校、シリウス・ハイスクールに危機が迫っていた。自分好みの校風にするため、野心家の吹雪摩耶は、学園に50億円もの借金を負わせた上で校長になったのだ。その校長に、人知れず立ち向かう集団がいた!!
そんな時、一人の少女が入学する。多少人より転びやすいドジっ娘・夢路蘭は、年上の恋人・竹垣巽と一年ぶりの再会を夢見る新入生。しかし二人の仲を、『昼行灯クラブ』と呼ばる生徒会の、美貌の会長・乾菊奈が邪魔をする。しかも、巽は生徒会の役員に……。愛しい人は菊奈の色香に迷ったの? それならあたしが更正させなくちゃ!
行動を開始した蘭は、菊奈と巽が行う、教師の携帯をすり替えたり、職員会議を盗聴したりの違法っぽいことを目の当たりにする。いったい昼行灯クラブってなんなの!?
恋人との平和な学園生活は、訪れるのか!? 新感覚借金返済ラブコメ・ミステリー登場!!
オススメ度:未読。
僕らA.I. / 川上亮
著者:川上亮
イラスト:BUNBUN
発売日:2004/11
夏休みを前にした終業式の日、僕はテトラポッドの上で目ざめた。なぜか数時間前からの記憶が消えている。これは一体どういうことなんだ?
──人工島の住宅地。沖合には十数年前に閉鎖された工場が寂しく浮かんでいる。僕は姉のリリコ、妹のイクミとの三人暮らしだ。
この日を境に妹が「父さま!」と叫びながら僕の胸へ飛びこんできたり、姉が下着姿で僕のベッドへ潜りこんでくるようになったり。
どうやら僕ら三人には共通の異変が起きており、その異変は沖合の廃工場と関係しているらしい。やがて「新たな少女の人格」の存在が、そして家族の過去と血にまつわる秘密が明らかになり──。
すべての家族、そして儚き愛情を抱く人々に捧げるミステリアス・ラブストーリー!
三つの器(素体)にはそれぞれの意識があり、それとは別の一つの意識が現れ、それぞれの器に割り込むようになり、別の意識が入りこまれた元の意識は記憶がない状態。さてどうすべきか?と問う物語です。SF的な物語ですが、素体とは?突如別の意識が発生したのはなぜ?といったSF的な方面へは進まず、自己犠牲は正しいのか?見た目は同じでも意識が違うことを受け入れられるのか?といったことがテーマになります。
本編にはモヤモヤが残るのですが、あとがきで語られる作者と祖母の旅行エッセイがテーマを補完しつつも面白くて、そこまで含めると楽しめます。
オススメ度:
とりあえずまとめ
以上、富士見ミステリー文庫創刊の03年3月から04年11月までの11作品の紹介でした。