さて、今回は富士見ミステリー文庫から出版された単巻ラノベをまとめたもの、最終回の第5弾です。
なお、既読作品には星印の評価を添えてあります。未読のものは未評価で、今後読み終わり次第、評価をつけていく予定。あくまでも個人的な好みです。
面白い。読んで損は無し。
面白い。楽しめます。
それなりに面白いかも。
時間があれば、読んでみるのも一興。
大雑把な評価ですが、もし読んだことがないものがあれば、参考にしてください。
たましいの反抗記 すてるがかち! / 水城正太郎
著者:水城正太郎
イラスト:ミヤスリサ
発売日:2006/06
「わー、合格だ!合格だ!ひゃー」
「麻紀みたいな馬鹿が合格するわけないじゃない」
「馬鹿ってゆーな! でも入っちゃったんだ──あの……あの日本一の女子校に──」
『自転学園』
世界最大の学園都市。島ひとつがすべて学園なのである。中学・高校・大学までの理想的な一貫教育で、その全貌は謎のベールに包まれ、世の男性の羨望の的となっている。
加治木麻紀が自転学園中等部に運良く合格し、一年が過ぎたある日、学内で探検部が遭難するという大事件が勃発。学内の話題を独占しているなか、麻紀は偶然にも〈学園を統べる魔法の校章〉を手に入れることから、学園内の抗争に巻き込まれてゆく……。
世界標準のスケールで送る、学園ロード・ストーリーが堂々の発進!
反抗する少女たちの冒険と成長の物語。
巨大学園都市を舞台に、それを持つと人を魅了できる校章を巡る闘争が描かれます。ただ、キーアイテムの校章を偶然手に入れる、主人公がちょっと生意気な感じの女子中学生で、これが全くといってよいほど魅力がないのです。
舞台となる学園では学部ごとに組織されていて、学部間での戦いとなる中盤は面白いのですが、物語を引っ張っていく主人公に魅力がないので、物語が大きく盛り上がっていきません。ラノベで主人公キャラに魅力がないのはやはり致命的です。
オススメ度:
さよなら、いもうと。 / 新井輝
著者:新井輝
イラスト:きゆづきさとこ
発売日:2006/06
トコが死んだのは三日前のことだった。
交通事故だった。大型トラックに轢かれたとだけ聞かされた、遺体は見ない方がいいと言われた。
そんな死に方だった。そう、そりゃ言葉では分かっている。人間いつか誰だって死ぬってことは。自分であれ、他人であれ、事故なのか、病気なのか、寿命なのか。
でも、俺は死ぬってことがまだ良く分かっていなかった。そしてもっと分かっていなかったのは、人が生き返るってことで──。
由緒正しい魔法の日記に書かれていた
「お兄ちゃんと結婚したい」
という言葉のせいなのか、妹──トコは生き返り、また俺と暮らすことになったんだ……。新井輝が描くどこにでもいる普通の兄妹の、普通ではない数日間の物語。それは、ちょっと素敵でちょっと切なく心に染みわたっていく──。
妹が生き返ることにより現実が揺らぐ物語です。ただ死んだ妹が生き返り一緒に過ごすのに、実質、主人公と幼馴染の関係が重視されているのは、どうなのだろうと思うのです。妹の存在をどう受けとめればよいのだろうかと考えさせられる訳で。軽妙な会話で物語をサクサクと読まさせてくれるのはさすがなんですが。
『ROOM NO.1301』もそうだったのですが、この作者は普通のようでいて普通でない人物・物語を書くのがうまいなと思うのです。
オススメ度:
うれしの荘片恋ものがたり ひとつ、桜の下 / 岩久勝昭
著者:岩久勝昭
イラスト:ごとP
発売日:2006/06
桜の森の奥、彼女は震えていた。切りそろえられた前髪に、花びらをほつれさせて。
その姿を見た瞬間、僕は──。
立花山学園の一隅に佇む木造学生寮・うれしの荘への入寮日、僕・甘利直志は本多瀬名さんに出会い、恋に落ちた。彼女も新入寮生だった。
ワガママで横暴な従姉妹・鷹姉が寮長だから、甘い生活なんて考えてなかったのに、本多さんと始めた寮生活は、心がざわめくことばかり。
本多さんは、窓際の席が嫌いらしい。何かを決意してこの寮に来たらしい。感動すると、ぱんっと手を叩くクセがあるんだな。……可愛いな。
なぜか鷹姉に邪魔されてばかりだけど、僕は彼女に見つめられるたびに胸を高鳴らせ、彼女を知るたび深い喜びに浸される。
もっと本多さんを見つめていたい。本多さんのことが知りたい。僕は本多さんという女の子の謎を解きたい。そして、彼女を笑顔にしたいんだ。
学生寮でワチャワチャする物語で、日常の謎×ラブコメです。寮内で起こる不思議なことや住人の不思議な行動の謎を解きつつ、ヒロインの出自にまつわる謎を解いていくことに。ミステリとラブコメ、どっちつかずになってしまっているのが残念。物語自体は面白いのですが、文章にわかりづらい/おかしい部分があって、ちょっと苦手なタイプの作品です。
オススメ度:
初恋セクスアリス / 矢野有花
著者:矢野有花
イラスト:桐野霞
発売日:2006/07
高校一年生の香住有紗は、母親が入院するため、夏休みを曾お祖母ちゃんの住む見月島で過ごすことになった。島で泳ぎ放題な楽しい夏休みになるはずなのに、なぜか見月島という言葉は、有紗の胸に不安を呼び起こす。
そんな有紗は見月島で出会った、はとこの高久陽也にいきなり邪魔者扱いされてしまう。いくら彼が将来有望なサッカー選手とはいっても、第一印象は最悪!
しかし、陽也の幼なじみ斎王寺行彦は優しくしてくれ、どこか意識してしまう。彼は東大医学部生にして文学賞を受賞した天才。もしかして、これって運命的な出会い!?
ある日有紗は、行彦と調べ物をするため訪れた祠で、十年前の悪夢を思い出す。その悪夢が、有紗に運命の選択を迫る──。
甘酸っぱい初体験を新鋭・矢野有花が瑞々しく描き出す、ミステリアス・ラブロマンス登場!!
「ひと夏の経験」物のただのラブコメかと思ったら、昔からある祠や生贄、化け物など民俗学的な要素を絡めた少女小説で面白いです。特に化け物退治の方法がバトル的な力での解決でなくて、きちんと民俗学的知識を持って対処している所が良いのです。
終盤になるまでは、タイトルと内容が乖離していて酷いタイトルだなと思っていたのですが、終わってみればタイトル通りの内容でした。初体験する理由が、なかなか斬新です。
オススメ度:
空とタマ —Autumn Sky, Spring Fly— / 鈴木大輔
著者:鈴木大輔
イラスト:原建人
発売日:2006/07
秋は家出の季節である。7回目の家出を決行したオレ、天野空が避難先に選んだのは、田んぼのそばにぽつんと立つ廃倉庫。ダレも来ない秘密の場所だ。あの日、あそこでオレはタマと出会った。
倉庫に着いたオレは、いつものように「わかば」を取り出し、いつものように煙をふかした。「まだ中学生なのに」とか「健康に悪い」とかいった、大人たちのリクツは気にしない。
だが、この日、想定外の事件が起きた。誰もいないはずの廃倉庫に先客がいたのだ。上階に陣どり姿を見せないそいつは、ふざけたことに人気アーティスト「青井春子」の名を騙る。その上さらに、オレのタバコに難癖までつけてきたのだ。ムカつくのでオレはヤツを「タマ」と呼ぶことにした──。
オレとタマと廃倉庫。かくして、オレたちの未来を大きく変える攻防戦は始まった!!
家出少年が、家出先の廃倉庫を巡る攻防戦。主人公の性格がちょっと……なので、序盤は読むのが辛いのですが、その後の質問合戦の展開がスリリングで面白いです。ただ最終的に主人公の自分語りで身の上を明かすので、そのスリリングさが失われてしまったのは残念。
それ以前に物語の内容から考えると、最初から敵の正体は美少女とわかってしまう、表紙や口絵のイラストは失敗じゃないかと思うのです。このあたりは美少女キャラを全面に出すラノベレーベルと物語の相性が悪かった、としか言いようがありません。
オススメ度:
ネコのおと リレーノベル・ラブバージョン / アンソロジー
著者:新井輝、築地俊彦、水城正太郎、師走トオル、田代裕彦、吉田茄矢、あざの耕平
イラスト:駒都えーじ、さっち、しのざきあきら、村崎久都、緋呂河とも、若月さな、深山和香
発売日:2006/12
2005年10月23日。
富士見ミステリー文庫が誇る作家陣が、読者と共に「めちゃ売れ」企画を考えようというイベントが華やかに開催されました。
傍から見れば無謀とも言える題材でひねり出されたのがこの企画。
作家同士でリレー小説をやっちゃおう!これぞ富士見ミステリー文庫の強み! 心意気!!
こんな企画ができるのは富士見ミステリー文 庫だけ!!!
ふとしたことから手に入れてしまった謎の学級日誌がキャラクターたちの手から手へ────
物語は、息つく暇なく驚愕のラストへと向かって疾走します。
世紀の奇書、もしくは富士ミスが生んだ奇跡をご堪能ください。
あらすじに書いているように奇書といってよいでしょう。リレー小説に物語としての完成度を求めるものではないですし、あくまでも作家や編集のお遊び的なものととらえるのが良いかも。内輪ウケというか内輪だけで盛り上がっている感じで、読んでいてちょっと……と思います。
オススメ度:
ヴァーテックテイルズ 麗しのシャーロットに捧ぐ / 尾関修一
著者:尾関修一
イラスト:山本ケイジ
発売日:2007/01
「決してこの扉を開けては駄目よ」
先輩からの忠告が頭に浮かぶ。
メイドの仕事を始めてから5年。シャーロットは主人のフレデリックに対する想いを日増しに募らせていた。彼は人形作家という仕事以上に人形を偏愛していたが、気にならなかった。
だがフレデリックには愛する妻ミリアムがいた。しかし彼女とは一度も会った事がなく、生活している様子もまったく感じられない。
人形への偏愛……姿を見せない奥方……。
とある疑問をもったシャーロットは、好奇心とフレデリックへの想いを抑えられず、ミリアムの部屋の扉に手をかけた。それが恐怖の事件への扉とも知らずに──。
一つの屋敷で起きる三つの時代にまたがる愛と憎しみの物語。最後まで読み終えた時、貴方ばどこまでも暗く深い悪意の存在に震撼する!
ゴシックホラー×ミステリで、キャラがひっぱる物語でなくて、構成で読ませるタイプです。第1部でいわく付きの屋敷に勤めるシャーロットの体験と意外な結末、第2部以降では時代を変えた物語と二転三転する真相が描かれます。途中、どれとどれがつながっているのか、わからなくなるような目眩しを喰らいつつ、最後はすべてきっちりとまとめきっているのがすごいです!
ラノベの範疇で収まっていないタイプの作品で、絶版なのがもったいないです。文句なしに名作だと思います。
オススメ度:
幽霊列車とこんぺい糖 メモリー・オブ・リガヤ / 木ノ歌詠
著者:木ノ歌詠
イラスト:尾崎弘宣
発売日:2007/10
「うそっ! 最悪だ……」
中学二年生の有賀海幸は、7月の焼けつくような日射しの中、思いっきり絶望感を味わっていた。地元のローカル線に飛び込み自殺をするはずが、廃線になっていたから……。
自分に保険金までかけるという海幸の完璧な計画は、変更を余儀なくされてしまう。そんな彼女の前に、突然リガヤと名乗る女子高生が現れた。
タガログ語で“幸せ”を意味する名を持つリガヤは、海幸を廃線の線路の先へと誘う。そこにはポツンと一台の廃棄車両があった──。
「ボクがこいつを『幽霊鉄道』として、甦らせてみせる!」
そう宣言するリガヤとともに、こうして海幸の不思議で先の見えない夏が始まった……。
瑞々しく切なく揺れる少女たちのひと夏を描く、青春ファンタスティック・ストーリー登場!!
百合小説の名作という評価を聞いていましたが、それ以上に少女の持つ狂気、死への渇望などが描かれ、百合小説という括りだけで読む作品ではないと感じました。終盤、海幸とリガヤの立場が入れ替わる展開が素晴らしいです。また、咲き誇るひまわり畑に佇む、放置された列車というコントラストのあるイメージも素晴らしいです。
序盤は桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は~』の影響を強く感じましたが、ひりつくような感じはなくって、甘くて幸せな物語の味わいでした。「こんぺい糖キス」や「ウエディングドレスと全裸ペインティング」など、なかなかインパクトのあるシーンが印象に残ります。
オススメ度:
絶版後、百合小説としての高い評価から、中古市場では高値が続いていましたが、2023年に星海社FICTIONSから新装版となって復刊しました。現在ではこちらのほうが入手し易いです。
イキガミステイエス 魂は命を尽くさず、神は生を尽くさず。 / 沖永融明
著者:沖永融明
イラスト:KEI
発売日:2008/04
そこには二人しかいなかった。
両親は急逝し、撲と妹はおさないころに、二人ぼっちで世界に放り出された。
世界は理不尽で、残酷なことだらけで、冷たく眼前にあった。ただ、現実を生き延びるために、手をとりあうしかなかった。その絆だけが確かだった。決して分かたれることがない唯一の証。
愛なのか、恋なのか、依存なのか、わからない。わからないけど……。
絵本作家・大吾は、白血病を抱える妹・一樹に彼女が不治の病である事実を隠しながら日々を送っていた。そんな彼の目の前に、モノクロームの世界から異界からの使者が現れる。その存在は、自らを生神と名乗り、青年・大吾の生の終わりを告げる。
「君は、今晩死ぬんだ──脳溢血でね。ただし、ある契約をすれば執行猶予を与えよう」
ミステリー大賞の俊英が描く、生と死を切り取った全く新しい物語。
オススメ度:未読。
まとめ
以上、富士見ミステリー文庫創刊の06年6月から08年4月までの9作品の紹介でした。富士見ミステリー文庫の単巻作品の紹介は今回で終了です。