さて、今回は電撃文庫から出版された、ちょっとレアなゲームアンソロジー『蚊─か─コレクション』を読んだ感想です。
蚊─か─コレクション
著者:飯野文彦、小林泰三、田中哲弥、牧野修、森奈津子
イラスト:かんなたかし、ハシモトヒロアキ、せんのあき、菅原健、丸藤広貴、中村聡子
文庫:電撃ゲーム文庫
出版社:メディアワークス
発売日:2002/02
寝入りばなに神経に障る羽音をたてて近寄り、あろうことか人様の血を吸い、おまけに耐え難い痒みを残していく…。まさに人類の敵と言っても過言ではない昆虫、その名は蚊。この作品は、6人の作家が、様々な角度から“蚊”にアプローチした、世にも珍しい蚊の短編小説集。
前代未聞、蚊の探偵が主人公の爆笑ミステリー「赤い家」、蚊にまつわる悲しい風景を描く「か」、蚊と人間との種族を超えたラブロマンス!?「刻印」などなど、目から鱗の物語が君を待ち受ける。昨年夏、スマッシュヒットを博した、PS2ソフト「蚊」のノベライズ、ここに登場!もちろん山田さん一家も出るぞ。
収録作品
赤い家 / 田中啓文、かんなたかし
か / 田中哲弥、ハシモトヒロアキ
刻印 / 小林泰三、せんのあき
虫文 / 牧野修、菅原健
タタミ・マットとゲイシャ・ガール / 森奈津子、丸藤広貴
訪問者 / 飯野文彦、中村聡子
解説 / 佐藤明
痒説 / 中川宏昭
読んだ感想
赤い家 / 田中啓文、かんなたかし
人間探偵と蚊探偵、視点を切り替えながら進む探偵のバディ物。ダジャレがあふれかえるのは、田中啓文らしい作品といえる。根本的なところで、人間と蚊が会話できることに違和感を覚えなければ、楽しめるだろう。
か / 田中哲弥、ハシモトヒロアキ
あまり蚊とは関係のない、元ヤクザのただのヒューマンストーリーと最初は感じた。ただ蚊に血を吸われたときの、蚊に対する憎しみや叩き潰したくなる衝動を、元ヤクザに行わせているんだなと、後から思い直す。その原因となる理由も悲しくて、ただのヒューマンストーリーでなく、しっかりと蚊をテーマしたヒューマンストーリーであったと思う。
刻印 / 小林泰三、せんのあき
2mの大きさの蚊のような化け物が現れる、異星人接触モノ。若干、気持ち悪さが残るが、タイトル回収につながるオチが素晴らしいと思う。
虫文 / 牧野修、菅原健
未読だからわからないけど、後の『ネクロダイバー 潜死能力者』の原型となるのかな。「ネクロダイバー」とか「守護蟲」とか「黄泉書簡」などの造語による、圧倒的な世界観が魅力でぜひ長編で読みたくなる。今回のアンソロジーの中では、一番好き。
ちなみにアニメ『キスダム KISSDUM -ENGAGE planet-』の「ネクロダイバー」とは関係ないようです。
タタミ・マットとゲイシャ・ガール / 森奈津子、丸藤広貴
今だと百合SFといえばよいのだろうか。作中のイラストもそれっぽいし。蚊の姿に変えられた女吸血鬼の物語。これもオチが効いていて、面白くて好き。
訪問者 / 飯野文彦、中村聡子
休日の家に訪れた部下はちょっと変な格好をしていて、小学生の頃の林間学校であった体験談を話す。ホラーというほどではないが、ちょっと怖い不思議な幻想譚。
まとめ
プレイステーション2で発売された、アクションゲーム「蚊」のノベライズではありますが、ゲームとの関係は薄くて、ゲームに登場するキャラクターが名前として使われているくらい。
内容的にはコメディあり、SFあり、ホラーありとバラエティに富んでいて、ゲームアンソロジーとしてではなくて、SFアンソロジーとして楽しめると思う。その点でいうと、メンバー的にも90年代後半から00年代に出版されたアンソロジーシリーズ「SFバカ本」的な一冊といえるかも。
今となっては超豪華メンバーで、万人向けではないが、ちょっと変わった作品が好きな人には刺さるのではと思う。電撃ゲーム文庫というラノベレーベルではなくて、ハヤカワ文庫あたりで出ていてもおかしくはないし、復刊を望む。