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【90年代単巻ラノベを読む15】ろくご まるに『食前絶後!!』を読んで

さて、今回の【90年代単巻ラノベを読む】、90年代後半に「封仙娘娘追宝録」シリーズがヒットした、ろくごまるにのデビュー作『食前絶後!!』を読んだ感想です。

食前絶後(くうぜんぜつご)!!

著者:ろくごまるに
イラスト:九月姫
文庫:富士見ファンタジア文庫
出版社:富士見書房
発売日:1994/01

「雄一、愛しているわ」

くれなずむ放課後の教室。幼なじみの徳湖から受けた突然の告白に、もちろん俺はイエスと答えた。そして徳湖を抱きしめよう…と思ったその時、

「雄一のためにお弁当作ってきたの。食べてね」

徳湖が差し出した弁当を俺はなんのためらいもなく食べた。ところが、弁当の肉ソボロを口にした瞬間広がったのは、「さっぱりとしたアスファルト」味だった。い、一体この弁当はなんなんだー。

どうやら、俺は自分の助平根性のせいで、調味魔導継承者争いに巻き込まれてしまったらしい。そんな俺たちの前におそるべき敵が現われた…。

第四回ファンタジア大賞から飛び出した、異色の学園ファンタジー登場。

ろくごまるには「喪中の戦士」で、第4回ファンタジア長編小説大賞 審査員特別賞を受賞。審査員からも賛否両論の出る問題作だったとのこと。その作品にあった妙なノリと、調理魔導(この時は調味ではなく調理)というアイデアを生かして書かれたのが、この作品のプロローグにあたる部分で、月刊ドラゴンマガジンに掲載されました。

そこでも賛否両論あったようですが無事?描き下ろしを加え、出版されたのが今回紹介する『食前絶後!! 』です。

読んだ感想

この作品を知ったのは、「みなさんがオススメする単巻ラノベ」を調べたとき。タイトルとあらすじから90年代らしいギャグっぽい作品かと思っていたのですが読んでびっくり、設定がぶっ飛んでいるわりに内容は正統派、文章的に多数の実験が散りばめられた異色作でした。

まず調味魔導という設定からぶっ飛んでいます。「砂糖を食べると身体が太るならば、砂糖と同じ甘さを持つものを食べれば、砂糖を食べたのと同じように身体は太る」という、味覚により身体に影響を与える謎効果。この世にあらざる「さっぱりとしたアスファルト」味の肉ソボロが、筋力を増大させたりする反応を人間に引き起こさせるというわけです。わかったようなわからないような。

プロローグではこの調味魔導の正統継承者を巡る戦いが描かれます。この後も「北斗の拳」よろしく正統継承者を巡る戦いが続くのかと思いきや、今度は聴覚を利用する魔術が登場。それを操るのは、天才落語家! 「なまたさう」というわけのわからない言葉が飛び交い、読んでいるこちら側も頭がおかしくなりそうです。

その後は味覚・聴覚以外にも、視覚、触覚、臭覚を利用する魔術があることがわかり、その中でも最強なのが視覚魔法を操るデイレル。このデイレルとの戦いこそが、この小説の中心となります。

第2部まではぶっ飛んだ設定や実験的文章表現に面食らってしまいますが、第3部からはその世界観に馴染んでくるためか俄然面白くなってきます。そしてデイレルとの戦いで問われる最終決断、「親しきひとりを救うため多数を犠牲にするのか、多数の命を救うため親しいひとりを犠牲にするのか」、下した決断は非情ですが、ここはジュブナイルとして重要な問いかけです。

読み終えて物語を見渡してみると、特殊能力の後継者争いから、さらに別の能力を持った勢力が登場、そして真の敵に対して協力して戦う、という少年ジャンプのバトル漫画的な王道ストーリーでした。このあたりが正統派な印象を感じる部分です。

そして、この物語を異色作としている文章表現。

主人公 雄一が思考を疾走させた時の表現が、

・転げながらも俺は体勢を立て直し起き上がる寸前の天詳目掛けて走り拳を奴のあごを持ち上げるようにアッパーを撃つ・

のように中点て囲み、句読点は無しで描きます。一瞬の出来事を読点を無くすことで、一気に緊張感を持って読ませます。短いときは良いのですが、長いときは息が苦しくなるくらいの迫力です。

また、まえがきではこの小説のルールとして、タイトルで時間の経過と誰の視点なのかを明示するという荒技を紹介。そして基本的な会話は大阪弁で、雄一と徳湖の会話は夫婦漫才のよう。料理の味の比喩表現もぶっ飛んでいます。また、調味魔導、聴覚魔術、視覚魔法と5感魔術の中でも、魔導魔術魔法と使い分けるという細かさ。かなり文章表現に凝った作品でした。

この本が出版された94年というと、『スレイヤーズ!』をはじめ剣と魔法のファンタジー全盛時代です。そんな中で学園を舞台にした異能バトル小説。ぶっ飛んだ設定や実験的な文章表現から問題作、異色作と言われたのも当然でしょう。しかし、30年近くたった現在でも面白く読むことが出来ます。オススメする人がいるのも納得の良作です。

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