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【妄想ラノベ史】ライトノベルにおける、不思議要素のない学園ラブコメを探る。その3【00・01年】

さて、今回もライトノベルにおける、学園ラブコメについてあれこれ考えたいと思います。異世界ファンタジーブームも終了し、00年からは富士見書房が富士見ミステリー文庫を創設するなど、多様な作品が生まれることになっていきます。

なお、この記事におけるライトノベルの定義ですが、80年代末の角川スニーカー文庫、富士見ファンタジア文庫を始まりとする、表紙や口絵・本文にイラストのある、10代の少年向けエンタメ小説とします。

00年に出版された人気シリーズ

98~99年の『ブギーポップ』の大ヒットにより、目に見える形で異世界ファンタジーブームは終了したといって良いかもしれません。とは言っても、00年に入っても90年代から続くヒット作も、ペースは遅いものの出版され続けていました。まず00年に出版されていた、人気シリーズをまとめます。

角川スニーカー文庫 水野良『ロードス島伝説』、深沢美潮『フォーチュン・クエスト バイト編』、安井健太郎『ラグナロク』
富士見ファンタジア文庫 秋田禎信『魔術士オーフェン』、庄司卓『それゆけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ』、賀東招二『フルメタル・パニック!』、神坂一『スレイヤーズ』、冴木忍『天高く、雲は流れ』、雑賀礼史『召喚教師リアルバウトハイスクール』、水野良『魔法戦士リウイ』、竹河聖『風の大陸』
電撃文庫 中村うさぎ『ゴクドーくん漫遊記外伝』、上遠野浩平『ブギーポップ』、川上稔『都市シリーズ』、深沢美潮『新フォーチュン・クエスト』

長く続いているシリーズには、学園ラブコメは当然ありません。『フルメタル・パニック!』と『ブギーポップ』が、異世界ではない学園モノです。

90年代からの異世界ファンタジーの流れもまだあったのは確かです。これらは01年も続いています。

00・01年からの新しい動き

さて、00年あたりからは各レーベルに新しい動きが出てきます。

富士見ミステリー文庫

富士見ファンタジア文庫を擁する富士見書房から、00年11月に創刊。創刊時のチラシによると、”既存のミステリーの枠にとらわれない斬新なスタイルで、謎解きのスリル、手に汗握るサスペンス、身も凍るようなホラーを、魅力的なキャラクターと一緒に体験することが出来ます”とあります。

ライトノベルらしいキャラクターを活かしたミステリー・ホラーあたりが創刊時の狙いだったようです。ここで注目したいのが、学園モノが多いことです。ファンタジア文庫が異世界モノを中心としているので、こちらでは現実世界を舞台にした作品を展開したのでしょう。

そして創刊ラインナップの中で注目する作品としては、イタバシマサヒロ『月が射す夏 コバヤシ少年の生活と冒険』です。イタバシマサヒロと言えば、90年代にヒットした、恋愛・ラブコメマンガ『BOYS BE…』の原作者。『月が射す夏』は母親の出自や過去を巡るミステリー仕立てですが、15歳の少年と少女の淡い恋心もしっかりと描いています。いちおう学園青春ミステリーですが、こういう恋愛を絡めた作品が登場したということは重要だと思います。創刊ラインナップの中では評価もされず、あまり話題にもならなかったようですが、今から見るとラノベのターニングポイントを示す作品のひとつといえるかもしれません。

富士見ミステリー文庫は興味深いレーベルで、いずれはこのブログでも詳しく取り上げたいと思っています。

ところで、なぜ「ミステリー文庫」だったのか? が気になるところです。90年代はマンガだと『金田一少年の事件簿』『名探偵コナン』があり、京極夏彦やメフィスト系作家の人気もあったことから、ミステリーを中心としたレーベルを作ったのかもしれません。ファンタジーの次はミステリーだと。

当時の2ちゃんねるの富士見ミステリー文庫に関するスレッドを読んでいると、地雷原だのなんだのといわれています。推理小説を期待した層から見ればとんでもない作品が多かったのかもしれませんが、現代を舞台としたキャラクターノベルと考えれば、目指している方向は間違っていなかったんじゃないかと、今からなら思えます。

ライトノベルとミステリーは相性が悪いなんて当時は言われていたようですが、実はそうではなかったのが最近のライト文芸の作品などを見ればよくわかります。じつは殺人事件が絡むような話がライトノベルにはあわなかっただけじゃないかと。それを証明する作品が、次の角川スニーカー文庫のスニーカー・ミステリ倶楽部から現れます。

角川スニーカー文庫 スニーカー・ミステリ倶楽部

富士見ミステリー文庫から約1年遅れの01年10月。角川スニーカー文庫にスニーカー・ミステリ倶楽部という派生レーベルが創設されます。これは97年から始まった角川学園小説大賞の01年から設けられた「ヤングミステリー&ホラー部門」の受け皿となるレーベルだったようです。

富士見ミステリー文庫と違うのが、すでにミステリー作家として名の通っていた作家たちを集めたアンソロジー作品があったことです。わりとしっかりとミステリーとホラーをやっていこうとしていたようです。ただ、こちらのレーベルは富士見ミステリー文庫に比べ、短命でした(正式な終了年はわかりません)

そんな中、注目すべきなのが米澤穂信『古典部シリーズ』でしょう。学園を舞台にした、日常の謎系のミステリー作品です。スニーカー・ミステリ倶楽部で登場したときはあまり売れなかったようですが、角川文庫に移籍し、後にアニメ化されることになります。このレーベルが残した唯一の爪痕が、米澤穂信という作家だったといえるでしょう。

角川スニーカー文庫ではほかに、01年に乙一の『失踪HOLIDAY』と『きみにしか聞こえない CALLING YOU』が出版されています。ちょっとひねった青春小説と言えばよいのでしょうか。大ヒットとはならなかったものの、それなりに売れ続けたようです。スニーカー文庫の中では異色な作品です。

正統派の流れでは、学園を舞台にロボットを戦わせる三雲岳斗『ランブルフィッシュ』も01年スタート。

荒廃した未来の吸血鬼モノ、吉田直『トリニティ・ブラッド』もこの年。こちらは安井健太郎『ラグナロク』と並ぶ、この当時のスニーカー文庫の代表作。人気なのはやはりアクション・バトルモノなのでしょう。

前後しますが00年の注目作品にヤマグチノボル『カナリア この想いを歌に乗せて』があります。恋愛シミュレーションゲーム(元々は18禁)のノベライズで、のちに『ゼロの使い魔』をヒットさせるヤマグチノボルのデビュー作。『ゼロの使い魔』をヒットさせる前は、恋愛モノを多数書いています。

富士見ファンタジア文庫

富士見ミステリー文庫を創刊した富士見書房ですが、ファンタジア文庫ももちろん継続して人気シリーズを出し続けています。しかし、『フルメタル・パニック』以降は目立ったヒット作がなかったのも確か。

そんな中、2001年に築地俊彦『まぶらほ』がスタート。魔法が存在する世界設定ですが、学園を舞台にしたラブコメがここで登場となります。アクションやバトルががメインだったファンタジア文庫にも、ついにラブコメの流れがきたわけです。もうひとつ豪屋大介『A君 (17) の戦争』も2001年スタート。自虐的ギャグもある異世界転移ファンタジー、もしくはファンタジー世界での架空戦記のようです。

2004年の『ライトノベル☆めった斬り!』において、『まぶらほ』はそれほど取り上げられず、『A君 (17) の戦争』についてはわりと語られています。これは著者の大森望の趣味かもしれませんが、この時点での評価というか、存在感は『A君 (17) の戦争』のほうが上だったのかもしれません。「ついにファンタジア文庫にラブコメが登場した」というような驚きは、当時はなかったのでしょう。しかし、この『まぶらほ』が15年まで続くヒット作になると誰が予想したでしょう。時代はラブコメに動きだしたのです。

電撃文庫

98~00年にかけて『ブギーポップ』が大ヒットした電撃文庫ですが、00年以降も相変わらず攻め続けています。

00年には現在も続く大ヒット作となる時雨沢恵一『キノの旅』がスタート。『ブギーポップ』がヒットして現代モノの流れがきたわけでなく、当の電撃文庫でもファンタジー作品がヒットしているのが面白いところです。

もう一つ見逃せないのが、一色銀河『若草野球部狂想曲』です。第6回電撃ゲーム小説大賞<銀賞>で、なんと高校野球モノ。

また、阿智太郎は98年から『僕の血を吸わないで(全5巻)』、99年から『住めば都のコスモス荘(全5巻)』、00年から『僕にお月様を見せないで (全10巻)』とコメディ路線を続けていて、これがのちの『撲殺天使ドクロちゃん』への流れとなるのかもしれません。

01年に入ると、佐藤ケイ『天国に涙はいらない』。第7回電撃ゲーム小説大賞「金賞」受賞の笑いと涙のシニカル学園コメディとのこと。霊や呪いといった不思議要素はありますが、学園を舞台にしたコメディが前年の『若草野球部狂想曲』に続き、ゲーム大賞に入賞して出版されていることに注目です。

もうひとつ、甲田学人『Missing』もこの年スタート。学園を舞台としたホラー・オカルト作品で、こちらも第7回電撃ゲーム小説大賞<最終選考作>です。

秋山瑞人『イリヤの空、UFOの夏』も00年連載スタートで、01年に文庫版がスタート。現在ではセカイ系の名作と評価されています。SF的な世界で学園を舞台とした、少年と少女の恋の物語とも受け取れる作品。これも学園モノとしても良いでしょう。

というわけで、00~01年にかけての電撃文庫では学園を舞台にした作品が複数登場しています。ゲーム小説大賞受賞作品は編集部の意図として出版されているわけで、明らかに学園モノに流れがきているように見られます。

電撃G’s文庫・電撃ゲーム文庫

電撃文庫のサブレーベルに、電撃G’s文庫と電撃ゲーム文庫がありました。このあたりちょっとややこしくて、94年創刊の電撃ゲーム文庫は当初、テーブルトークRPG関連を主とした文庫レーベル。97年9月を最後に一度、発売は途絶えてしまいます。

で、電撃G’s文庫が97年に創刊され、一般向けギャルゲーの小説版やいわゆる美少女萌えの小説、少女のキャラクターを中心に据えた小説を中心に出版していました。

ところが、99年12月から電撃ゲーム文庫が復活。電撃G’s文庫は電撃ゲーム文庫に吸収される形で、03年に終了しています。99~03年は電撃G’s文庫と電撃ゲーム文庫が混在するのですが、どういう基準でレーベル分けをしていたのかは不明です。

ここでちょっと面白いものを。

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99年の電撃ゲーム文庫復活時の電撃のないしょ話というチラシです。

「ゲームの小説ってつまらない」 そんな常識を変えられるかも・・・。

ないしょなんだけど、 ゲームの小説ってあんまり人気がないんです。だから作っても売れない。理由は単純、つまんないから。でもね、ゲームやってて、もっと先の話が知りたいとか、登場人物がここまでどういう人生を送ってきたんだろうとか、いろいろと考えるじゃない。いいゲームって実はその辺のところまで、細かく設定ができているわけ。映画みたいに。映画だったら小説版もおもしろいし、人気がある。どうしてだろう? そこんところをよーく考えて、ゲームクリエイターの人とじっくり話して、ちゃんとした設定に沿って小説を作ったら、きっとおもしろいものができる。ゲームに夢中で見落としがちなエピソードなんかも見えてくる。プレイ前に読んでも、プレイ後に読んでも、ゲームが2倍楽しくなる、そんな小説があったら読みたいでしょう。だから「電撃ゲーム文庫」作ってみました。ゲーム雑誌を通してクリエイターの皆さんと、太いバイブのある電撃ならではの、今までとは一味違ったゲーム文庫。これで常識変わるかな?

電撃ゲーム文庫復活時の電撃ゲーム雑誌統括編集長のお言葉です。「ゲームの小説ってあんまり人気がないんです。だから作っても売れない。理由は単純、つまんないから」とストレートです。

電撃ゲーム文庫の新創刊ラインナップに『小説 北へ。』という恋愛シミュレーションゲームのノベライズがあるのですが、この作品以外では美少女ゲーム系のノベライズはほぼありません。人気となったのは『幻想水滸伝』や『高機動幻想ガンパレード・マーチ』です。ここから推測すると、電撃G’s文庫の美少女ゲームノベライズは売れない(もしくはつまらない)ので、新しく電撃ゲーム文庫を作ったということなのかもしれません。

この記事では学園ラブコメの歴史を探っているのですが、恋愛シミュレーションゲームなどの美少女ゲームノベライズからのライトノベルへの影響は少ないのかもしれません。ただ、恋愛シミュレーションゲームが作り出した、色々なタイプの美少女がいて主人公(ゲームプレイヤー)が女の子を攻略していくスタイルは、ギャルゲー(エロゲー)を経由して、ハーレムモノとしてライトノベルに還元されていくような気がします。

ファミ通文庫

こちらも電撃G’s文庫とおなじく、恋愛シミュレーションゲームのノベライズが多数ありますが、メインの流れは吉岡平の無責任シリーズなどの従来ながらの路線。ファミ通文庫が変化を見せるのは、02年の野村美月デビューあたりからです。

スーパーダッシュ文庫

00年7月にスタートした、スーパーダッシュ文庫。創刊ラインナップで人気があったのが、文系アクション小説?倉田英之『R.O.D』。こちらは現代が舞台とはいえ、スーパーファンタジー文庫の流れをくむ作品か。

注目したいのが、丘野ゆうじ『ぱられるロイド・ヒトミ』と工藤治『恋虫のブレード』。『ぱられるロイド・ヒトミ』は女性型アンドロイドが登場するコメディモノ。『恋虫のブレード』は学園を舞台にした昆虫恋愛アクションらしいです。

01年には花田十輝『大嫌いな、あの空に。』が登場。こちらは不思議要素のない学園ラブコメ、著者は電撃文庫で『ときめきメモリアル』や『お嬢様特急』のゲームノベライズを手掛けていた人です。単発で終わっていて、他の作品に影響を与えたわけではありませんが、ゲームノベライズを手掛けていた人が、オリジナルで学園ラブコメを出版したのがこれが初めてかもしれません。

01年12月にもうひとつ、寺田憲史『新きまぐれオレンジ・ロード 2002』。80年代に大ヒットしたラブコメマンガのノベライズ。94年にジャンプJブックスから出版されたものの改訂版のようです。

スーパーダッシュ文庫も学園モノ・ラブコメモノにアプローチをかけてきた印象です。

学園モノと恋愛モノ

00年くらいから学園を舞台にした作品が増えて来ました。これを『ブギーポップ』のヒットの影響と考えるか、恋愛シミュレーションゲームの影響と考えるか、それとも両方か。異世界ファンタジー作品も出版されている中で、徐々に学園モノの流れが生まれてきたのが、00~01年あたりのようです。

面白いのが富士見書房で、ミステリー文庫を創刊して学園モノを展開しつつ、ファンタジア文庫で魔法物の学園ラブコメ『まぶらほ』をヒットさせています。ファンタジア文庫では、のちに『生徒会の一存』で日常系をヒットさせるなど、時代の変わり目にヒット作を出しているのがすごいところです。

学園小説大賞を設立したスニーカー文庫、学園モノといって良い『ブギーポップ』をヒットさせた電撃文庫、富士見ミステリー文庫を創設しつつ、『まぶらほ』を展開するファンタジア文庫と時代は確実に学園モノの時代に入ってきたように見えます。

一方、純粋な恋愛モノは相変わらずゲームノベライズ以外はなさそうです。もちろん恋愛要素のある作品は多数あるのでしょうが、それをメインとする作品の登場はもう少しまたなければならないようです。

不思議要素のない学園ラブコメとしては、スーパーダッシュ文庫から花田十輝『大嫌いな、あの空に。』があります。それまでゲームノベライズを手掛けていた著者が、オリジナルで書いたのが不思議要素のない学園ラブコメということが注目ポイントです。ただ、これが流れを作っていったわけではないので、特異点ということでしょうか。

とりあえず00~01年にかけての学園ラブコメの注目作品としては、富士見ファンタジア文庫の『まぶらほ』ではないかと思っています。それなりにヒットして、存在感を見せています。この作品のアニメを数話チェックしたのですが、内容的にはギャルゲー(エロゲー)の影響が大きいように思えます。主人公自身は冴えないものの血筋が良いことから、その種を巡って少女たちとのドタバタをを描く作品です。

学園ラブコメの流れはやはり、純粋な恋愛を描く恋愛シミュレーションゲームの影響よりも、主人公がハーレム状態になるエロゲーの影響が、この時点では大きいように思えます。

つづく

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