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【ラノベの源流を読む6】大和真也「蜜柑山奇譚」シリーズを読んで

さて、今回はたがみよしひさのイラストが印象的な、大和真也の「蜜柑山奇譚」シリーズ全2巻を読んだ感想です。

シリーズ第1巻が88年角川文庫青帯、2巻が90年角川スニーカー文庫(ピンク帯)から発売されています。ライトノベルといってもさしつかえはないのですが、大和真也の出自が新井素子と同じ、第1回奇想天外SF新人賞出身で狭義のライトノベル誕生前から活躍していることから、【ラノベの源流を読む】にカテゴライズしています。

大和真也

1978年、高校3年生で投じた「カッチン」が、第1回奇想天外SF新人賞で佳作入選。同じく佳作入選の新井素子とともに、史上初の現役高校生SF作家として注目を集めた(Wikipediaより)。

雑誌「奇想天外」で短編を数編発表したあと、集英社文庫コバルトシリーズ(コバルト文庫)から文庫デビュー。代表作はコバルトから出版されたジュゼ・シリーズ。ジュゼシリーズを含め、各社から出版されたシリーズはどれも未完で終わっています。

91年以降はほぼ活動されていないようです。

花が散る春 蜜柑山奇譚

著者:大和 真也
イラスト:たがみ よしひさ
文庫:角川文庫・青帯
出版社:角川書店
発売日:1988/08

蜜柑山―そこには神が住むという。香流コンツェルンと旧華族宮根家の血をひく、宮根転布子。目付役の雫石霖、異母弟の竹越健一、結崎麻由、大江晢と蜜柑山の屋敷で暮らしている。転布子は、神と語らうことができる不思議な力を持っていた。そんな力に惹かれるように1人の少女―石動水流がやって来る。一方、物の怪―竜―が日本に侵入しようとしていた。それを阻止するため転布子は、まだ力に目覚めていない水流とともに〈竜退治〉に立ちあがる…新感覚SFファンタジー第1弾。

あらすじとして引用している「BOOK」データベースにはないのですが、第1巻のソデのあらすじの最後に、「最初は読みにくいかもしれません。でも、そのうちあなたは〈大和ワールド〉のとりこに!」とあって、編集者も読みにくいことを自覚していたんだなと思わせます。それくらい第1巻の始まりは、読みにくいんです。

なぜ読みづらいかというと、話の重要なポイントである香流(かなれ)家の系譜がつらつらと語られているから。誰々は誰の娘で、誰々は親戚でと登場人物の関連性をまず読まされるわけです。ここらあたりを読むのが辛いわけですが、ここで人間関係をしっかり把握しておかないと後々さらに訳がわからなくなりますので、ここは重要です。

で、物語はというと宇宙人〈オブザーバー〉や神・ドラゴンなど登場するSF伝奇ファンタジー。これがまたややこしくて、香流家は宇宙人とつながっていて、香流の娘ながら宮根家に入っている転布子(ちょうこ)は蜜柑山の神とつながっています。さらにアメリカでは物の怪が動き出し、その影響で大江晢が蜜柑山の屋敷にやってきます。一応話は香流家=宇宙人と転布子=神の対立かと思わせておいて、イマイチ香流家・宮根家との関係性がわからない石動水流(いするぎみずる)が、蜜柑山にやってきてから話が進みます。

この水流も生まれ育ちに秘密があって、いろいろなところから狙われることになるわけです。でクライマックスでは、水流は竜宮の後継者候補の1人とわかり、もうひとりの後継者に加担する火聖龍との戦いとなります。

第1巻が終わったところで、宇宙人や蜜柑山の神、水流の後継者争いのことなど、よくわからないことが多いままです。それ以外でも香流家は宇宙人とつながっていて、宇宙進出を考えているとか、学生のスキップ制度とか、転布子のお目付け役的人物・雫石霖の能力とか、まぁ説明されないことが多いわけです。それだけ壮大な物語のように感じますが、なかなかすべて受けとめるのは大変です。

また、転布子の家に居候(下宿)する人物が雫石霖、竹越健一、結崎麻由、大江晢に石動水流となかなかの人数。これら若者たちの群像劇でもあるのですが、それぞれのバックグラウンドは複雑で、様々な要素が絡み合います。その上、登場人物の思わせぶりな会話も多くて、文章も解りにくいのですが、その意図するところもわかりにくいのです。

読み終えたあとの素直な感想は、なんかすごそうな話だがよくわからんといったところでした。壮大な物語の序章といったところですが、ちょっと話を広げすぎじゃないかと。もう少しシンプルな物語でいいのにといったところです。

なお、イラストがたがみよしひさで、若者が別荘でウダウダやっているというところに、「軽井沢シンドローム」を思い出しました。あの作品も物語としてはっきりした流れがない若者の群像劇でしたね。

鳥が来る夏 蜜柑山奇譚 2

著者:大和 真也
イラスト:たがみ よしひさ
文庫:角川スニーカー文庫・ピンク帯
出版社:角川書店
発売日:1990/03

火聖龍と剣を交えた水流は、自らの体に眠っている力が覚醒ていくのを感じていた。その頃、宮根邸にはミュリと名のる少女が迷い込んでいた。彼女は、“シェリ”という友人を捜すためにこの地に来たという。転布子たちは、懸命に〈シェリ捜査〉に走りまわる。一方、香流コンツェルンの次期総師候補の葵良馬にとって、宮根邸住人は厄会の種であった。そんな時、良馬は高岳の母・衿子から人捜しを頼まれるが…。新感覚青春SFファンタジー、待望の第2巻。

第1巻で広げた風呂敷をどうやって畳んでいくのか、と思っていたら、ミュリという、宇宙人〈オブザーバー〉につながる少女が登場。前巻から水流が中心となって話が進むのかと思ったら、それはちょっと横においておき、前巻ではただのモブキャラと思われていた高岳がじつは……となり、蜜柑山に住む竹越健一の母の出自がヨーロッパ(ライン川沿いの地)にあって云々となり、さらに話は広がっていきます。

香流家からはその後継者候補・葵良馬も登場し、はたしてこの物語は誰が誰と争っているのか、何がどうなったら物語に決着がつくのか、よくわからない状態です。物語というのは道筋が見えていてほしいもの。蜜柑山が舞台ならそれを中心に話が進めばわかりやすいのですが、もう何がなんだかです。

この物語は全何巻の構想で考えられたものだろうかと考えてしまいました。タイトルが春夏ときているので、四季をとって全4巻なのでしょうか。それにしてもこの壮大さなら収まらないのではないかと思います。結局は未完なので、それら含めてよくわからないのですが。

様々な要素が絡み合い物語が綴られていく、作者のイマジネーションはすごいと思うのです。ただ、この作者のシリーズモノ、すべて未完だそうです。要は面白そうな要素を展開させるだけさせておいて、それをうまく回収できない作家なのではないかと。

ネットで調べてみると、好きな大和作品としてジュゼシリーズを推す人が多いので、大和作品を読むなら、ジュゼシリーズが良さそうです。たがみよしひさのイラストが印象的なだけに残念な作品でした。

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