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【富士見ミステリー文庫を読む】新井輝『ROOM NO.1301』 全15巻を読む

さて、久々の【富士見ミステリー文庫を読む】です。今回は新井輝の『ROOM NO.1301』本編11巻+短編集4巻の合計15巻を読んだ感想。各巻、別個の感想ではなくて、全部を通しての感想です。

本編
『ROOM NO.1301 おとなりさんはアーティスティック!?』
『ROOM NO.1301 #2 同居人は×××ホリック?』
『ROOM NO.1301 #3 同居人はロマンティック?』
『ROOM NO.1301 #4 お姉さまはヒステリック!』
『ROOM NO.1301 #5 妹さんはヒロイック?』
『ROOM NO.1301 #6 お姉さまはストイック!』
『ROOM NO.1301 #7 シーナはサーカスティック?』
『ROOM NO.1301 #8 妹さんはオプティミスティック!』
『ROOM NO.1301 #9 シーナはヒロイック!』
『ROOM NO.1301 #10 管理人はシステマティック?』
『ROOM NO.1301 #11 彼女はファンタスティック!』
短編集
『ROOM NO.1301 しょーとすとーりーず・わん』
『ROOM NO.1301 しょーとすとーりーず・つー』
『ROOM NO.1301 しょーとすとーりーず・すりー』
『ROOM NO.1301 しょーとすとーりーず・ふぉー』

ざっとしたあらすじ

「自分は恋愛には向いていない」と思っている少年・健一が、クラスメイトに告白された日の帰り道、倒れている女性・綾を助ける。そこで導かれたのが、12階建てマンションのあるはずのない13階の部屋。そこで綾と初体験をした健一は、その後出会う人達とも体の関係を持ったりするものの、告白された相手とは付き合うことになっても、キスすらもできない。その後、多くの人たちとの関わりの中での、健一にとっての「恋愛」を求める物語。

タイトルの「ROOM NO.1301」は、13階の住人が集まるサロン的な部屋。13階に来られるのは、謎の金色の鍵を持つ選ばれた人間だけ。物語は13階の住人だけではなく、その周辺の人間が多く関わってくることに。

00年代のラノベでは肉体関係を含む恋愛モノは少なかったと思われます。ただ、直接的な性描写はないため下品なポルノ的作品にはならず、避けることのできない肉体関係を含めた真っ向勝負の恋愛を描いた作品です。

なお、本編11巻と短編集4巻がありますが、今読むとしても、出版順に読むのがベストかと思われます。短編集に登場する人物が、そのすぐ後に本編に登場するため、短編集を飛ばすと人物に対する理解が若干欠けることになるかもしれません。ただ#9と#10の間に刊行された最後の短編集4巻だけは飛ばしても良いかも。#9~#11は怒涛の展開ですので、ここは一気に読むのがおすすめ。

読んだ感想

まず、率直な感想をいうと、かなり面白かったです。私のラノベ・オールタイム・ベスト100に入れて良いと思うくらいに。00年代における異端の名作恋愛ラノベという評価です。

ただ、全巻ずっと面白いかと言うとちょっと違っていて、まず序盤#1~#4までは抜群に面白いです。これは間違いない。主人公健一が次々と女性と関係を持っていく中で、姉の存在がフォーカスされてきて、#4の序盤で衝撃の出来事が起こり、姉はここでフェードアウト。ここまでは良いのですが、そのすぐ後シーナというキャラクターが出てきて、これが曲者だったのです。

シーナは女性として生まれてきたが心は男という性同一性障害で、シーナと日奈という二重人格を持ち、双子の姉・佳奈に恋をしている人物。また、歌もうまくて、健一とシーナ&バケッツというボーカル&ハーモニカの音楽ユニットを組み、後にテレビ番組で取り上げられることになります。こういう非常に魅力的なキャラなのですが、これが物語の流れ上、逆に厄介になってしまったようです。#5以降、さらにキャラが増えていくのですが、健一がシーナに関わりすぎて、物語が停滞しだすことに。

作者はシーナ以外のキャラで物語を動かそうとしていたようですが、シーナをなかなか退場させることができず、やっと物語が動き出すのが#9。だから#5~#8まで、物語の展開がゆっくりというか、停滞気味というかでやや面白みが薄れた印象です。もちろんシーナ以外のキャラ、恋人であるはずの千夜子、その友人ツバメ、13階の住人である刻也や冴子、綾などとの関わりの話もあり楽しいのですが、物語としてはちょっと飽きてきました。

物語が動き出した#9から最終巻の#11は怒涛の展開で、ここは面白い。というわけで、「ROOM NO.1301」は、中だるみがあるけど全部を通して読むと面白いという評価です。この中だるみ部分は、人気があったための引き延ばしかもしれませんが、ここだけが残念ですね。

「ROOM NO.1301」の何が面白いのか?

面白い面白いと書いたのですが、何が面白いのだろうかということです。多分、登場するキャラクターがそれぞれ魅力的であることが、まず第一でしょうか。ラノベにとってキャラの魅力というのは最重要ですが、登場するキャラみんな、どこか欠陥を持っているというとおかしいかもですが、普通じゃない部分があります。

13階の住人は特にそうで、それゆえに13階に住む資格があるといえるのかもしれません。主人公の健一は「自分は恋愛に向いていない」といいつつも、千夜子とはプラトニックに付き合い、冴子とはほぼ毎日に体を重ねることになります。それで自分は普通ではないと思い、普通でないとダメなのかといった自問を繰り返すことに。「普通とは?」ということが、この作品のテーマのひとつではないかと思います。

ラノベらしく、キャラクターたちの会話で物語が進むことも多いのですが、時々会話が哲学的というか、禅問答的というか、読んでいてよくわからなくなってくるところもあるのですが、そんな会話も魅力的ですね。

キャラクターたちの関係性もまた注目するところ。この物語の大きな流れの中で姉弟姉妹関係が重要になってきます。健一と姉・蛍子、シーナ(日奈)と双子の姉・佳奈、健一の父とその姉にも隠されていた関係がありました。日奈と佳奈はうまくいかなかったのですが、健一の周りでは結局は近親相姦があり、物語の最後、後日談では健一と蛍子は二人目の子作りをすることになります。これが肯定的に書かれているのに対して、日奈の思いを拒否した(理解できなかった)佳奈の態度がやや否定的に書かれているのが面白いところです。これも「普通とは?」に繋がりますね。

この普通じゃないと思われる健一を最終的に受け入れる千夜子というキャラも、普通じゃない人間を受け入れることができる、普通っぽいけど普通じゃないキャラということになりますか。

綾を中心とした1301号室に集まった人々と、錦織や早苗など雨音(詳しくは描かれなかった人物)を中心として集まった人々、たぶん12階建てマンションのあるはずのない13階に関わる謎とつながる関係だと思うのですが、ここも興味深いところであります。才能のある人物たちがひとつのグループに集まるというのは、現実世界でも多々見られます。ちなみに雨音の父・ゲンさんは設計者ということなので、ひょっとしたら幽霊マンションを設計したのはこの人だったのではと思ってます。

富士見ミステリー文庫の終焉とともに「ROOM NO.1301」も終了することになるのですが、シーナ編が長く続いたため、最後が急ぎ足だった印象です。もちろん、綺麗にまとまっているとは思いますが、残念と思うことも少しあります。先程書いた幽霊マンションに関わる謎は全く触れられませんでしたし、魅力的なキャラの幾人かはもうちょっと深堀りしてほしかったなとも。

個人的に、シーナ、ツバメ、狭霧に関しては、健一と肉体関係を持って欲しかったなとも。これは別にエロ描写が読みたかったわけではなく、健一がもう少し下衆キャラとして描かれて欲しかったといいましょうか。この三人に関しては、実際に健一と関係を持てる機会があったのに、健一が踏みとどまってしまったのが残念です。シーナに関しては性自認が男なので、ちょっと考えるところではありますが。

ツバメに関しては、健一に対する強いアタリが、関係を持つことによってどう変わるのかと興味がありますし、狭霧に関しては自身で誘ってましたし、狭霧の将来を考えると健一が関わるほうが面白いのにと思うわけです。わりとシーナ編以降、冴子以外と関係を持たなくなって、#9で綾とすることで物語が動き出したのもあり、もう少しいろいろな女性と関係を持ったほうが、最後に活きてくると思うのです。

最後に健一は千夜子に今までの女性関係をすべて話し、それを千夜子が受け入れて大団円となるわけです。でも、その後日談として、姉との第二子づくりが描かれているわけで、下衆はどこまで行っても下衆というか、健一は畜生道を歩むわけです。それならばもっと女性との関係を持っても良かったのにと思うわけです。

最後はちょっと不満が多くなりましたが、全体として面白い作品ととらえています。わりと淡々と進む展開、哲学的?禅問答的?な会話、畜生道を歩む主人公、純愛を求めるわけでなく、コメディ的にするわけでもなく、ひたすら普通ではない恋愛を描いた物語。00年代における異端の名作恋愛ラノベです。

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