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角川スニーカー文庫スニーカー・ミステリ倶楽部について

さて、今回は角川スニーカー文庫のスニーカー・ミステリ倶楽部についてです。

ライトノベルでミステリの話題になると、よく挙がるのが富士見ミステリー文庫とスニーカー・ミステリ倶楽部です。コバルト文庫などの少女小説では80年代から続くミステリの流れがある(赤川次郎の影響か?)のですが、男子向け狭義のライトノベルでは90年代ファンタジー・SF一色となり、ミステリの流れはなくなってしまったようです。謎があればミステリと言うならば、ミステリ要素のあるファンタジー・SFはあるでしょうが、謎解きを中心とした推理小説、探偵小説といったものは、90年代のライトノベルにはほぼ無いようです。

そんな中、2000年に入って突如発生したミステリを冠したレーベルが先程あげたふたつのレーベルです。2000年11月から2009年3月まで続いた富士見ミステリー文庫はそれなりにファンもいるのですが、角川スニーカー文庫スニーカー・ミステリ倶楽部に関しては、あまり語られることはありません。

ネットで検索してみても、出てくるのは短命に終わった、米澤穂信がデビューしたレーベルという話題くらいです。そこで今回ちょっと詳しく調べてみることにしてみました。

角川スニーカー文庫 スニーカー・ミステリ倶楽部とは

まずは角川スニーカー文庫スニーカー・ミステリ倶楽部(以下、スニーカー・ミステリ倶楽部)の基本的なことです。

まず何をしてミステリ倶楽部とするかですが、2001年11月の創刊から始まるスニーカー文庫内サブレーベル作品で、2013年まで使われた角川文庫の分類番号が900番台のものをスニーカー・ミステリ倶楽部とします。「ラノベの杜」のデータベースと、出版された文庫のソデに記載されたリストから探し出しました。

今回、入手が難しい米澤穂信作品以外をすべて集めました。当然のことながらすべて古書で入手です。スニーカー・ミステリ倶楽部として出版された作品数は18作品。シリーズものはアンソロジーが6作、矢崎存美「Dear My Ghost」シリーズが3作、米澤穂信「古典部」シリーズが2作で、これら以外はノンシリーズです。

短命に終わった、スニーカー・ミステリ倶楽部

短命に終わったと語られるスニーカー・ミステリ倶楽部ですが、実際のところ、いつまで続いたのかあまり語られることはありません。そこでスニーカー・ミステリ倶楽部として出版された最後の作品を調べたところ、2003年03月に出版されたアンソロジー『血文字パズル』が最後だったようです。

第1回目の配本が2001年11月なので、わずか1年半くらいで終わっています。富士見ミステリー文庫が9年程続いたことを考えれば、やはり短命だったといえるでしょう。

※富士見ミステリー文庫は2003年12月にミステリから青春恋愛路線(LOVE寄せ)に変更しているので、ミステリ路線としては実質3年ほどといえるかもしれません。

装丁

スニーカー・ミステリ倶楽部の特徴としては装丁を見ると、下1/3が黒帯、中央やや下に英語タイトル、背表紙が黒地に白文字であること。イラストは従来のスニーカー文庫のようなポップ(アニメチック)なものは少なくて、重々しい感じのものが多く、カラー口絵が1ページのみ、本文イラストなしが基本です。装丁を含めてスニーカー文庫というよりも、角川ホラー文庫に近いといえるでしょう。

またマークも角川ホラー文庫と同じく、円形となっています。印刷では分かりづらいですが、通し番号がきちんと振られています。画像は清涼院流水『みすてりあるキャラねっと』につけられたマークを切り抜いたもの。

キャッチフレーズ

映島巡『ダミーフェイス』帯

スニーカー・ミステリ倶楽部のキャッチフレーズは「君しか、解けない。」です。文庫に掛けられた帯やチラシにこのフレーズが使われております。また、チラシには綾辻行人の「混沌の新世紀。新たな謎〈ミステリ〉の、想像の波を──。」が使われております。

アンソロジーが中心

スニーカー・ミステリ倶楽部の特徴は、アンソロジーが毎回配本されたこと。アンソロジーの書き手は普段スニーカー文庫で書いている作家ではなく、名の通ったミステリ作家というのが特徴です。しかもアンソロジーはすべて書き下ろし作品であることから、かなり力を入れていたことが想像されます。

テーマは第1回目名探偵、第2回目殺人鬼、第3回目密室、第4回目時間(アリバイ)、第5回目はミステリを離れてホラー、第6回目ダイイングメッセージとなっています。

なお、スニーカー・ミステリ倶楽部が短命で終わったため、アンソロジー6作品を2冊に再編集し直した単行本が角川書店から2005年に出版、2013年に文庫化されています。

『ミステリ・アンソロジー II 殺人鬼の放課後』と『ホラー・アンソロジー 悪夢制御装置』を中心に、ホラーテイストの作品で再編集された「青に捧げる悪夢」と、ベテラン推理作家の作品でまとめた「赤に捧げる殺意」の2冊です。

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一般文庫に移行した作品

スニーカー・ミステリ倶楽部で出版されたあと、本家の角川文庫に移行した作品が3作品あります。米澤穂信の「古典部」シリーズ2作品が有名ですが、もう1つはというと、とみなが貴和『夏休みは命がけ!』です。

ネットの中古書店で購入する場合、書影にスニーカー文庫版が使われていても、送られてくるのは角川文庫版ということもありますので注意が必要です。特に米澤穂信2作品は高確率で角川文庫版になるかと思います。

『夏休みは命がけ!』角川スニーカー文庫版と角川文庫版

移行ではなくて完全版として、後に加筆修正及び作品を追加して出版されたのが清涼院流水『みすてりあるキャラねっと』。『キャラねっと完全版 愛$探偵ノベル』として出版されています。

完全版に映るモニターにはスニーカー版イラストが表示。

ラインナップ

スニーカー・ミステリ倶楽部のラインナップを配本順にまとめてみました。カッコ内の数字は分類番号です。

タイトルをクリックすると、amazonにジャンプします。

第1回配本 2001年11月

ミステリ・アンソロジー I 名探偵は、ここにいる(S901-1)
Dear My Ghost 幽霊は行方不明/矢崎存美(S902-1)
匣庭の偶殺魔/北乃坂柾雪(S903-1)
氷菓/米澤穂信(S904-1)
ダミーフェイス/映島巡(S905-1)

第1弾は全5作品。アンソロジー『名探偵は、ここにいる』は太田忠司、鯨統一郎、西澤保彦、愛川晶とそうそうたる顔ぶれですべて書き下ろし作品。10代の読者を意識したであろう、読みやすくて楽しい作品集で、ミステリ入門書として最適かと思います。

スニーカー・ミステリ倶楽部『名探偵は、ここにいる』を読んで

『Dear My Ghost 幽霊は行方不明』は、幽霊とともに殺人事件を解決するファンタジックミステリ。『ダミーフェイス』は殺人事件から終盤、伝奇小説的な超展開が楽しい作品。なお、映島巡は永嶋恵美の別名義とのことです。両作品ともライトノベルらしい特徴をもたせたミステリといえます。

『匣庭の偶殺魔』は、多少読みにくさがありますが、新しいことをやってやろうという意気込みを感じる作品。主人公が大学生なので、10代向けよりももう少し上、20代前半までを狙った作品なのかもしれません。なお、あらすじやチラシなどで、第5回角川学園小説大賞奨励賞受賞とありますが、受賞作は別(未刊)で、この作品が受賞した訳では無いとのことです。

角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門 - アジアミステリリーグ
2015年4月26日 角川学園小説大賞「ヤングミステリー&ホラー部門」の歴史を振り返りつつ、北乃坂柾雪『匣庭の偶殺魔』(2001年11月1日刊行)が第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨...

『氷菓』に関しては、アニメもヒットし、もう散々語り尽くされている青春ミステリの傑作。学校内で殺人事件が起こるよりも、こういった「日常の謎」が学園モノにフィットすることを知らしめた作品と言えるのかもしれません。

第1弾に挟まれるチラシには、第2回・第3回配本の予告があります。

第2回配本 2002年02月

ミステリ・アンソロジー II 殺人鬼の放課後(S901-2)
アクアリウムの夜/稲生平太郎(S906-1)
水の牢獄/咲田哲宏(S907-1)
アザゼルの鎖/梅津裕一(S908-1)

第2回配本分は、ホラーテイストが強めの作品。『殺人鬼の放課後』は恩田陸、小林泰三、新津きよみ、乙一が描き下ろしで参加。小林泰三と乙一作品には、ちょっと残酷な描写もあって、そういうのが苦手な人はご注意を。

『アクアリウムの夜』は1990年に単行本として出版された作品を文庫化したもの。青春怪奇幻想ジュブナイル小説の良作です。

稲生平太郎『アクアリウムの夜』を読んで【スニーカー・ミステリ倶楽部を読む】

『アザゼルの鎖』は、聖書の偽典エノク書の記述を模倣した猟奇殺人事件を追う刑事モノ。アンソロジーを除く他のミステリ倶楽部作品が、学生を主人公に対して、こちらは大人が主人公の物語。少年犯罪や虐待をテーマにした異色作で、こちらも迫力があり面白い作品です。

『水の牢獄』は『竜が飛ばない日曜日』で第4回角川学園小説大賞優秀賞を受賞した著者の第2作目。嵐の中のペンションで合宿中の高校生たちが、水の化け物(水潜)に襲われるサスペンスホラー。

第3回配本 2002年04月

ミステリ・アンソロジー III 密室レシピ(S901-3)
Dear My Ghost II 幽霊は身元不明/矢崎存美(S902-2)

第1回配本時の予告では、アンソロジーほか2点となっていたのですが、アンソロジー以外は1点しか配本されませんでした。

『密室レシピ』は折原一、霞流一、柴田よしき、泡坂妻夫が描き下ろしで参加。タイトル通り密室がテーマ。正統派作品とユーモア作品があって、とっても楽しいアンソロジーです。ただ泡坂妻夫のような超ベテランがなぜ、このアンソロジーに参加したのかが1番のミステリかも知れません。

『Dear My Ghost II 幽霊は身元不明』は、幽霊が見える少年とその守護霊が謎を解くシリーズ第2弾。別人の記憶を持つ記憶喪失らしい男、それに取り付く女の幽霊。この幽霊の正体は如何に、といった物語です。

第4回配本 2002年08月

ミステリ・アンソロジー IV 殺意の時間割(S901-4)
愚者のエンドロール/米澤穂信(S904-2)
夏休みは命がけ!/とみなが貴和(S909-1)
僕の推理とあの子の理屈/村瀬継弥(S910-1)

『殺意の時間割』はアリバイトリックをテーマにしたアンソロジー。赤川次郎、鯨統一郎、近藤史恵、西澤保彦、はやみねかおるが描き下ろしで参加。個人的に当たり外れのあるラインナップのように感じました。

『夏休みは命がけ!』は、仲違いした幼なじみ同士のガンバトルにヤクザ・中国マフィアが絡むサスペンス・アクション。もともとスニーカー文庫で出す予定が、ミステリ倶楽部での出版となったとのこと。ミステリ要素はあまりありません。

『僕の推理とあの子の理屈』は、殺人事件と村に伝わる風習などを絡め、その謎を高校生主人公が解き明かす、ライトな横溝正史風ジュブナイルミステリ。村瀬継弥は、『藤田先生のミステリアスな一年』が東京創元社主催の第6回鮎川哲也賞佳作となりデビューした推理小説作家。富士見ミステリー文庫でも、「着流し探偵」シリーズ2作を出版しています。

『愚者のエンドロール』は説明不要、米澤穂信の古典部シリーズ第2弾。1作目よりこちらの方が個人的には好きです。

第5回配本 2002年11月

ホラー・アンソロジー 悪夢制御装置(S901-20)
Dear my Ghost III 幽霊は生死不明/矢崎存美(S902-3)
みすてりあるキャラねっと/清涼院流水(S911-1)

『悪夢制御装置』はミステリ倶楽部唯一のホラーアンソロジー。 篠田真由美、岡本賢一、瀬川ことび、乙一が描き下ろしで参加。なんとなくイメージするホラーだけと違った、三者三様の恐怖が描かれています。

『みすてりあるキャラねっと』は左開き横書き、カラー口絵も8ページとスニーカー・ミステリ倶楽部の中では装丁も含めて少々異色の作りです。作品自体は「ザ・スニーカー」に連載されたのをまとめたもの。現実世界が舞台でなく、オンライン仮想空間での殺人事件が描かれます。キャラメイクの部分にページが費やされるなど、オンラインゲームがまだ一般的でなかったであろう時代を感じます。

『Dear my Ghost III 幽霊は生死不明』は、幽霊が見える少年とその守護霊が謎を解くシリーズ第3弾。殺人を犯した少年の背後にいる幽霊は誰か?という謎を解くとともに、犯行の背景を紐解く物語。

第6回配本 2003年03月

ミステリ・アンソロジー V 血文字パズル(S901-5)

スニーカー・ミステリ倶楽部最後の作品となった今作、有栖川有栖、太田忠司、麻耶雄嵩、若竹七海と豪華メンバーは相変わらずで、ハズレ無しの満足の1冊だと思います。ダイイング・メッセージをテーマにしています。

装丁は従来と異なりミステリ倶楽部らしさがありません。唯一、それを感じさせるのは背表紙とマークのみです。

スニーカー・ミステリ倶楽部はどこを目指したのか?

さて最後にスニーカー・ミステリ倶楽部は、何を目指していたのでしょうか。

同時期の富士見ミステリー文庫はキャラクターミステリーという新ジャンル確立を目指したとWikipediaにかかれていますが、スニーカー・ミステリ倶楽部は何を目指したのか。既存のミステリ作家によるアンソロジーは、10代の読者にミステリの面白さを伝えようとしているように思えますが、それら以外の作品ではどこを目指したのでしょう。

富士見ミステリー文庫の場合は、ファンタジー色の強い富士見ファンタジア文庫との差別化が1つのポイントとしてありましたが、角川スニーカー文庫の場合、そんなにファンタジーレーベルとしての色はついていないし、本家の角川文庫もあります。あえてスニーカー文庫でミステリレーベルを作る必要はなかったかもと、今のところの思っております。

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