さて、今回はシェアード・ワールド・ノベルズである妖魔夜行の第2弾、『妖魔夜行 悪夢ふたたび……』を読んだ感想です。
悪夢ふたたび……
著者:山本 弘
イラスト:青木 邦夫
文庫:角川スニーカー文庫
出版社:角川書店
発売日:1993/12
深夜の繁華街で少女をさらい、人知れずなぶり殺すものたちがいる──
都会に起こる不思議な出来事を、秘かに解決してくれるというBAR〈うさぎの穴〉。そこに集まる妖怪達のもとへ、次々と異変の知らせが集まっていた。人々の無責任な噂が、また妖怪を生み出したらしい。野良猫を食べ、赤いピアスの少女をさらう残虐な魔物、その名は“いじん”。
妖怪にも感知できない結界に引きずり込み、惨劇の宴を繰り返す彼らを捕らえようと、東京中の妖怪が集結して罠をはる。かつてない規模の戦いが始まる──。シェアード小説第2弾、読みごたえの長編。
収録作
悪夢ふたたび……(初出:コンプRPG vol.6 1993.02.28刊 及び コンプRPG vol.7 1993.05.31刊)
妖怪ファイル
聞き書き妖魔夜行・番外編──僕の周囲の妖怪
読んだ感想
前巻は短編3本で、若干物足りなさがあったのですが、今回は長編ということで読み応えがありました。
今巻でメインとなるのは摩耶。前巻の短編でも山本氏は摩耶を中心に描いており、山本氏は摩耶担当という決まりがあるのでしょうか。たしかに作者がそれぞれ自由にキャラクターを動かしてしまうと、バラツキが出てしまいますし。前巻での加藤というキャラは、下村作品と友野作品ではちょっと印象が違ったので、そのあたりは複数の作家で書く難しさがあるのでしょう。そういう意味では、昔の連続TVアニメの脚本なんかと同じかなと思います。脚本家によって、キャラの性格が変わることがよくあったものです。
話がそれてしまいました。今巻で敵となるのは、”いじん”と呼ばれる外国人風の妖怪。これを〈うさぎの穴〉に集まるメンバーを中心に、日本の妖怪たちが迎え撃つ山本版妖怪大戦争といえるでしょう。ちょっと面白いと思ったのが、妖怪間の連絡にパソコン通信が使われていること。今となっては時代を感じさせますが、93年時点だと、これが最先端の技術を使いこなしている描写になるのでしょう。
物語は外国人労働者が代々木公園で見かけた不思議な一団から始まります。そして街では野良猫が消えていき、赤いピアスをつけた少女たちが行方不明に。ここに都市伝説が絡んでくることになるのですが、ここで描かれるのは外国人への偏見。当時、安価な労働力として海外からやって来る人が増え始めたことが背景にあるのでしょう。噂や都市伝説などが生まれるきっかけとなる、これらの偏見に対する厳しい視線が描かれていて、若者向け文庫における作者の真摯な姿勢が見られます。
そして描かれるのは妖怪の戦いだけではありません。前巻にもあった摩耶とかなたの関係性、お互い「自身の本当の姿」をさらけ出せるのかどうかという、微妙な関係性もあります。また摩耶の潜在意識やそれへの葛藤、最後にそれを乗り越える姿もしっかりと描かれています。
少女行方不明事件に人間の刑事が登場し、前巻ではあまりなかった警察との関わりもしっかり描かれ、事件に対する説得力があります。前巻ではこんな問題が起こっているのに、警察は何しているの?というのがありましたから。
妖怪たちが人間の見えないところで活躍するだけの、ただの妖怪アクション小説で終わっていないところが素晴らしい。妖怪だけでなく、摩耶やクラスメイトの真理亜、そして事件にかかわる刑事網野と、人間側をしっかり描くことで、物語に深みがあって非常に面白い作品と感じました。
ただ、妖魔夜行シリーズは短編集が多いので、次からも若干不安も感じます。同じ世界で同じ妖怪メンバーが、人に危害を与える妖怪を退治するという物語だと、変化をつけるのは難しいんじゃないかと。まだまだ描かれていない〈うさぎの穴〉メンバーもあるので、どういうふうに展開していくのかわかりませんが、今作品を基本とした時に、今後どんな変化球的物語を読ませてくれるのだろうか、また、今作品を上回る正統派な物語が生まれるのだろうか、次も興味を持って読みたいと思います。
妖魔夜行とは
妖魔夜行(ようまやこう)は、1991年から2000年にかけてグループSNE所属の小説家を中心に複数の作家によって書かれ角川スニーカー文庫より発刊された、現代の日本を舞台に、基本設定、登場キャラクター、作品間の時間軸を共有するシェアード・ワールド・ノベルズです。
大半のエピソードでは、渋谷の一角にある妖怪たちが集うバー〈うさぎの穴〉に出入りする妖怪が主人公で、妖怪が原因となった事件を解決していきます。各エピソードの内容は、ホラーを基本としていますが、アクション、パロディ、人間ドラマ、SFなど多岐にわたります。
2000年で終了しましたが、2011年山本弘『闇への第一歩』で復活。しかし、それ以降動きはありません。