さて、今回もアニメについてです。今回は、国内のみならず海外でも根強い人気を誇る『機甲創世記モスピーダ』を見た感想です。
機甲創世記モスピーダ
1983年10月~1984年3月、フジテレビ系列で放送。全25話。タツノコプロ、アニメフレンド制作。
あらすじ
西暦2050年。地球は異星生命体インビットの攻撃を受け、人類はその占領下に置かれてしまった。30年後、火星コロニーにて軍備を固めた人類は地球奪還作戦を行うが、再び大敗を喫してしまう。一人生き残った青年兵士スティックは、地上で出会った地球生まれの青年レイら新たな仲間たちと共に、敵の拠点である「レフレックス・ポイント」を目指す。
スタッフ
製作:吉田健二/企画:井上 明、鈴木敏充/音楽:久石 譲、小笠原寛/シリーズ構成:富田祐弘/文芸担当:庄司菜穂子/メインキャラクター:天野嘉孝/メカニックデザイン:荒牧伸志、柿沼秀樹/美術監督:佐藤広明/作画監督:宇田川一彦、新井 豊/オープニングアニメーション:金田伊功/メカニック監修:窪田正義/プロデューサー:前田和也、木村京太郎、岩田弘(♯1~♯5)、由井正俊(♯4~♯25)/チーフディレクター:山田勝久/制作:フジテレビ、タツノコプロ、アニメフレンド
放送された時代
『機甲創世記モスピーダ』が放映された1983年当時のロボットアニメの状況です。1969年生まれの私は当時14歳くらいで、バリバリのアニメマニアでした。そんな私の個人的見解ですが、『機甲創世記モスピーダ』の当時の立ち位置を考えます。
モスピーダが始まった83年10月の時点で放映されていたロボットアニメが、亜空大作戦スラングル(1月開始)、聖戦士ダンバイン(2月開始)、光速電神アルベガス(3月開始)、装甲騎兵ボトムズ、銀河疾風サスライガー(4月開始)、超時空世紀オーガス、サイコアーマー ゴーバリアン(7月開始)、モスピーダと同じ10月開始が、特装機兵ドルバック、銀河漂流バイファム。ダンバイン、ボトムズ、オーガス、バイファムと後年にも名を残す作品も多く、ロボットアニメ充実の年です。
前年スタートの『超時空要塞マクロス』が、やや落ち着きかけていたリアルロボットアニメブームをふたたび活性化させていた時期の作品です。83年6月にマクロスは終わり、その後番組として『超時空世紀オーガス』がスタート。オーガスが超時空シリーズとしての後継番組であるならば、モスピーダはタツノコプロが作る、もうひとつのマクロス後継番組といえるものでした。
このへんの話はちょっとややこしいのですが、マクロスの制作がビッグウエストとタツノコプロ。ビッグウエストが後番組として東京ムービー新社とオーガスを作り、タツノコプロはマクロスの要素を引き継いだモスピーダを制作。後にマクロス、モスピーダ、(オーガスの後番組であるタツノコプロ制作の)サザンクロスを1本にまとめた『ロボテック』がアメリカやフランスで放映。これはタツノコプロがアメリカの会社とライセンス契約したことによります。
マクロス-オーガス-サザンクロスの超時空シリーズとマクロス-サザンクロス-モスピーダのロボテックサーガがあるので、ややこしいことになっています。後年、マクロスの権利関係で、ビッグウエスト(およびスタジオぬえ)とタツノコプロで訴訟合戦も起こっていますし、ロボテックに絡んで国際商標権問題も発生しています。マクロス絡みは色々と大人の事情が複雑な作品でもあります。
でモスピーダはというと、戦闘機が変形してロボットになることや劇中に歌手が登場することなど、マクロスの後番組であるオーガスよりも、マクロスから引き継いでいる要素が多いです。さらに80年代のオートバイブームに影響を受けてか、オートバイがパワードスーツに変形するという斬新な設定も導入。
なお当時、ロバート・A・ハインライン著『宇宙の戦士』のハヤカワ文庫版表紙絵のパワードスーツ(デザインはスタジオぬえが担当)がガンダムに影響を与えたと言われていましたし、81年の大友克洋のマンガ『武器よさらば』でもパワードスーツが描かれ狭いエリアですが評判を得ています。また模型雑誌『ホビージャパン』では83年から『SF3D(現マシーネンクリーガー)』が掲載され人気を博すなど、この頃のアニメ・プラモマニアにはロボットよりもパワードスーツのほうがよりリアルという印象があったのかもしれません(というか、私はそう思っていました)。
また、このころはロリコンブームでもありました。内山亜紀や吾妻ひでお、レモンピープルとか漫画ブリッコとか、わかる人にはわかるそんな時代です。オーガスに登場するモームやモスピーダのミントは、この流れにあるといえるでしょう。(本来は女の子向けアニメの『ミンキーモモ』なんかも、そういう目で見ている人もいました)。なお、ダンバインのチャム・ファウはちょっと違います。
ということでモスピーダは、変形ロボット、劇中歌手、オートバイ、パワードスーツ、ロリコンなど当時のはやりモノをてんこ盛りな訳ですが、それがうまくいったかというと…
感想
リアルタイムで見ていた時の感想は、詰め込みすぎで消化不良、面白そうな要素満載なのに残念といったものでした。この世界観で、レギオスをなくしてモスピーダのみ、キャラクターもレイとスティックに絞ってシンプルにすれば、ロードムービー的戦争アニメに出来るのでは、なんて考えたものでした。
改めて見ても、やはり同じ感想。そして、だれもが思う違和感は、戦闘機レギオスがあるならオートバイで旅する意味ないじゃないかということでしょう。スティックがレギオスを手に入れた時点で、なぜレフレックスポイントをすぐにでも目指さなかったのか? ジムやイエローなどの第1次奪還作戦の生き残りがいれば、それなりに地形的な情報もあるだろうし、スティックの性格なら1人でも飛んでいきそうです。
こんなことを言い出すと作品が成り立たないので目をつぶるのですが、何かしらの説得してくれる理由が欲しかったなぁと。元々の企画構想段階では機械化歩兵の話だったのを、スポンサーの意向でレギオスを出すことになり、色々と詰め込んでいったために消化不良を起こしてしまうという、失敗作にありがちな話です。
放映当時の雑誌アニメックの記事によりますと、企画段階では全38話の予定だったとのこと。どの段階で放送短縮が決まったのかわかりませんが、企画段階では第1話が第1次地球奪還作戦、実際の1話の内容は6~7話かけたかったと書かれています。ということは実際の制作に取りかかる時点で、ある程度短くなるとわかっていたのかもしれません。
しかし、それにしても終わりが尻切れトンボです。23話の最後でアイシャの正体がわかり、その後話が飛んでレフレックスポイントに突入と、いかにも打ち切られた感じがします。
最後は人が持つ善と悪の心の話になるわけですが、インビットにも善の心(アイシャ・ソルジィ)と悪の心(バトラー)を持っているモノもいるわけで、人類が悪と否定するようなインビットの言動はいまいちよく理解できません。
戦いがすべての元凶と最後にスティックは言っているのですが、インビットとのファーストコンタクトがどうだったのか描かれていないため、最初にどちらが他者を攻撃しようとしたのかわかりません。そのあたりイデオンやマクロスの場合はしっかりと描かれていました。モスピーダでは物語のはじまりが既に侵略されているわけで、地球に既に人が住んでいるところにインビットがやって来たら、それは攻撃するでしょう。
インビットがやって来た時に地球は汚れていて、インビットがそれを浄化したようなセリフも見られましたが、このあたりも意味不明で。インビットはその地にあった進化を遂げるため宇宙を飛び回っているのであって、その星を浄化するために存在しているわけではないでしょうに。
地球側の行動もいまいち理解できません。第3次作戦では地球を破壊してでもインビットを倒そうとするのですが、地球が破壊されても良いのなら、放棄しても良いのではないかと。月や火星に進出して資源があるのであれば、地球を取り戻さずともやっていけるのでは? と考えてしまいます。まぁ、いつ月や火星に襲ってくるかもしれないという不安があるかもしれないですが。
最後はインビットが地球から離れていくという結果。敵を倒すのではなく、この結末はなかなかロボットモノでは珍しいかと思います。敵を地球から追い出したということでは、勝利ということかもしれませんが。ただ異星人接触モノとしては当時すでにイデオンやマクロスがあり、それに比べるとやはり物語としては1段下のような気がします。打ち切りだから未消化というより、元から詰めが甘かったともいえるかもしれません。
最後にモスピーダの魅力はオープニングアニメにすべて詰まっています。これだけ見ればメチャクチャかっこよいのですが。
モスピーダの変形シーン
オートバイがパワードスーツに変形するのが、当時の私が1番魅力に感じたところ。しかし、劇中ではその変形シーンやそもそもオートバイの走行シーンに魅力がありません。
オープニングアニメでのハングオン風に走行するシーンがかっこよくて、こういうのが劇中でも見られるのかと期待したのですが、見事期待はずれ。そんな中、第15話「仲間割れのバラード」だけに、かっこよい変形シーンがあります(開始後3分あたり)。話の内容は横に置いておき、モスピーダの変形シーンを見るならこの1話だけでも良いでしょう。
当時はオープニングアニメを手がけた金田伊功氏が担当したのかなと思っていたのですが、近年、マンガ「青葉自転車店」やメガゾーン23のメカニックデザイン等の宮尾岳氏が担当したことがご本人よりあかされました。自転車やオートバイ、車などにこだわりのある宮尾岳氏らしいこだわりのシーンです。
本当にこの15話の変形シーンはかっこいいので、興味のある方は是非見てください。
評価
総合
ストーリー
作画
メカデザイン
主題歌
作画に関しては若干のムラがあります。それでもクオリティは当時としては安定している方ではないでしょうか。なお最終回の作画は力が入ってます。
主題歌や劇中曲はどれもかっこいいです。