さて、今回は笹本祐一作品「妖精作戦」に対して、以前から思っていた疑問についてです。
先日、twitterでこの疑問についてツイートしました。
炎上覚悟で書くんだけど、
ラノベ史において「妖精作戦」がこれほど重要視されるのがよくわからない。笹本祐一作品だと「ARIEL」のほうが重要ではないか、と常々思っている。
そもそも「妖精作戦」て当時そんなにヒットしたの? 当時ソノラマ文庫よく読んでいたけど、全然知らなかったよ。笹本祐一という作家を知ったのは、獅子王で「ARIEL」が話題になってからだったなぁ。
街の本屋で平積みされていたソノラマ文庫は、菊地秀行や夢枕獏、アニメノベライズが多くて、清水義範作品は棚にズラッと並んでいて、買わなかったけど人気あるんだなと名前だけは知っていた感じ。90年代ラノベへの連続性は「妖精作戦」より「ARIEL」だと思うんだよね。「妖精作戦」が現れたから、なにかが変わったという気はしなくて。
「ARIEL」は特撮・アニメパロディ的なものとして時代の空気感も持っているし、SF的な流れとしてタイラーやヤマモトヨーコにつながるんじゃないかと。山中先生の『「ライトノベル」が生まれた場所』という論文の中に、
>笹本祐一は、デビュー作の『妖精作戦』(1984 年)とそのシリーズがセンセーションを巻き起こし、同時代 の若年層向けエンターテインメント小説に大きなインパクトをもたらしていた。
ってあるんだけど、センセーション起こした?「妖精作戦」はラノベ前史の中において、ちょっと特異な作品という感想。
高畑京一郎の「タイム・リープ」とか桜庭一樹「砂糖菓子~」なんかも似たような感じがする。
以上、5ツイートをまとめて引用しました。つぶやいた当日はそれほど広まらなかったのですが、フォロアーのたくさんいる人にリツイートしていただいたため、数日後にかなり拡散しました。様々な意見が聞けたこともあって、改めてブログにまとめておきたいと思った次第です。
まず、ここで問いたいポイントは2つ。
- ラノベ史において「妖精作戦」がこれほど重要視されるのがよくわからない。
- そもそも「妖精作戦」って当時そんなにヒットしたのか。
なお、ここでは作品の内容や評価よりも、ライトノベル史の中での位置づけを重要視しております。また、私は「妖精作戦」を名作あるいは偉大なる作品であるということを否定しません。そして「妖精作戦」とだけいっておりますが、妖精作戦4部作すべてを指しております。
※私は1969年生まれで80年代をティーンエイジャーとして過ごしました。よって「妖精作戦」が出版された時代をリアルタイムに過ごしております。そのことをあらかじめ知っておいてください。
ラノベ史における「妖精作戦」の重要性
ラノベ史における「妖精作戦」の重要性
まずラノベの歴史において「妖精作戦」の重要性を述べているのは書評家の三村美依氏です。2004年発行の『ライトノベル☆めった斬り!』『ライトノベル完全読本』で、その重要性を説いています。
まずSFファンダムや大学のミステリ研出身でない笹本祐一氏のデビューが重要と言い、「最初からその世界を目指して作家が出てくるというのが重要なの。そのジャンルが確固としたものになった、ジャンルが成立したことを意味すると思うから(『ライトノベル☆めった斬り!』p.090より)」とあります。
注)三村氏は「クラッシャージョウ」シリーズ第1作『連帯惑星ピザンの危機』を「ライトノベルの起源は一般的にはここでしょうね」「ライトノベル的には《トレジャー・ハンター》の登場がいちばん重要だと思う」とも『ライトノベル☆めった斬り!』で述べております。
また『ライトノベル完全読本』内の「ライトノベル30年史」にて、「70年代から80年代のアニメや特撮物を共通基盤にした独特のノリ、型番やスペックをそのまま出すメカの書き込みなど、同時代的情報を共有する小説の流れは本作から始まったといっていい(『ライトノベル完全読本』p.077より)」ともあります。
『ライトノベル☆めった斬り!』『ライトノベル完全読本』が出版されるまでに、ライトノベル史がどのように語られていたかは、今となっては知るよしもありません。ただ、00年代に入りライトノベル史がまとめられた時点で「妖精作戦」が重要であると語られていることから、一般的にラノベ史においてその重要性が広まったと思われます。
歴史を変えた4部作?
「妖精作戦」のラノベ史における評価を高めている言説に、2011~12年にかけて出版された創元SF文庫・新装版の、有川浩氏、小川一水氏、谷川流氏の解説があります。特に第1巻の有川浩氏の解説は非常に熱量があって熱いです。ただ、この第1巻のあらすじの最後に「歴史を変えた4部作開幕」とあり、この部分にモヤモヤしています。
夏休みの最後の夜、オールナイト映画をハシゴした高校二年の榊は、早朝の新宿駅で一人の少女に出会う。小牧ノブ──この日、彼の高校へ転校してきた同学年の女子であり、超国家組織に追われる並外れた超能力の持ち主だった。彼女を守るべく雇われた私立探偵の奮闘むなしくさらわれてしまうが、友人たちは後を追い横須賀港に停泊する巨大原潜に侵入する。歴史を変えた4部作開幕。
一番引っかかっているのがここです。「妖精作戦」は何の歴史を変えたのかと。
有川浩氏は解説に「「現代日本の高校生」としてリアルな主人公は『妖精作戦』以前のSFジュブナイルには存在しないのではないだろうか」とあり、このリアルなキャラクターこそが重要であると述べています。また、「『妖精作戦』は当時初めて現れた、現実世界に生きている等身大の私たちのための物語だった」と、「初めて現れた」と表現しています。
谷川流氏の解説では「このシリーズは今のこの世に溢れているライトノベル(と呼ばれている一群の小説たち)の直系の先祖と言える存在であり、実際、今ではありふれている学園物をモチーフとしたライトノベルは、『妖精作戦』が書かれていなかったら存在しなかったと言っても過言ではないからです」と、「直系の先祖」とまで述べています。
で、ここで考えたいのが、「妖精作戦」の登場以降、等身大の高校生を主役にした物語や学園モノが主流になったのか?また、三村氏が言う「アニメや特撮物を共通基盤にした独特のノリ、型番やスペックをそのまま出すメカの書き込み」が多用されるようになったのか?ということです。
ライトノベル史を少しでもかじったことがある人にはわかっていただけると思いますが、”ライトノベル”という言葉の登場は90年で、当時人気だった「ロードス島戦記」や「スレイヤーズ!」こそがライトノベルの代表作といって間違いはないと思います。
この、これこそがライトノベルと言える作品は学園モノではないですし、「アニメや特撮物を共通基盤にした独特のノリ、型番やスペックをそのまま出すメカの書き込み」が多用されているでしょうか?
90年代のライトノベルはファンタジーとスペースオペラが主流で、学園モノはあまりありません(皆無ではない)。要は90年代のライトノベルにとって、「妖精作戦」は重要ではなかったのではないか?というのが私の考えです。
ソノラマ文庫の歴史を見てみると、クラッシャージョウ、キマイラ、吸血鬼ハンターDが80年代初頭からの人気作です。84年の妖精作戦があり、ハイスピード・ジェシー、青の騎士ベルゼルガあたりが同時期の作品、その後ARIELが人気となるわけですが、妖精作戦以外は、主人公がヒーロータイプです。ソノラマ文庫はファンタジー路線でヒット作を出せず、ロードス島、風の大陸、そしてスレイヤーズへと時代は変わっていくのですが、やはりヒロイックな物語の人気は続くわけです。そして学園モノの時代が来るのはまだまだ先です。
こうやって見ると、妖精作戦だけが特殊で、それ以前もそれ以後もソノラマ文庫を始めとする少年向け小説の流れは、あまり変わっていません。ヒロイックな物語の流れが変わっていれば「妖精作戦」が元祖だといえると思いますし、創元版第1巻あらすじにある「歴史を変えた」という部分にも納得できるのですが、そうではなかったと。
「妖精作戦」は、ラノベの源流ともいえる80年代キャラクター小説から90年代ライトノベルへの流れの中で、実は異質の存在だったと思うのです。言い方を変えると90年代のライトノベルはあまり「妖精作戦」の影響を受けていないかと。もちろん学園を舞台としたものには、影響を受けた作品があるかもしれませんが、それらは大きな流れにはなっていません。
なお、「妖精作戦」以降のライトノベルにおける90年代学園モノ小説としては、朝松健『私闘学園』、松枝蔵人『聖エルザクルセイダーズ』、新城十馬ほか『蓬莱学園』シリーズなどがあります。
ライトノベルは90年代後半に、大きな変化が訪れました。それまでのファンタジー・スペオペ一色から多様化し始めたのです。象徴的な作品としては、『ブギーポップは笑わない』でしょう。それ以外にもミリタリー+学園モノの『フルメタル・パニック!』、少女小説から『マリア様がみてる』、電撃文庫で見逃せないのが阿智太郎『僕の血を吸わないで』などが人気となり、SF、学園モノ、恋愛モノなどなど、ライトノベルを定義するのが難しくなっていきます。そして、ライトノベル評論ブームが起き、ライトノベルの歴史が振り返られるようになりました。
先にも触れた『ライトノベル完全読本』『ライトノベル☆めった斬り!』が2004年に出版されています。多様化したライトノベルの中で過去の作品を振り返ったときに、その存在が光っていたのが、「妖精作戦」ではないかと思うのです。80年代に既に学園モノで面白いものがあったと。そして、その作品に影響を受けた作家がデビューし、その作品の重要性が増してくる、と。
「妖精作戦」は当時にあっては斬新な作品であった、読者に衝撃を与えた、のちに影響を受けた作家が複数名登場することになる、など偉大な作品であることは間違いありません。ただ、ラノベ史においては、ラノベの源流として大きなムーブメントを起こしたわけではなく、90年に登場した狭義のライトノベルへの影響は少ないと思われます。
ということで、私が主張したいのは、ラノベ史において「妖精作戦」を起点とするような論調はおかしいのではないかということです。
ツイートへの反響を受けて
前述のツイートが拡散していく中で、注目するツイートが2件ありました。それ以外は「妖精作戦」の斬新さや、その影響の大きさを語るもので、わりと想定内でした。
まずはこちら。
妖精作戦を最初に読んだのは九州の中学生だった時分ですが、後に東京の転校して私立の男子校に入ったときに雰囲気が妖精作戦の沖田たちに近くて驚いた覚えがありまして。そういう意味でジュヴナイルの人物像をアップデートした功績は大きいと思います。
— FREERADICAL (@ryo_ishii05) April 21, 2024
ジュヴナイルの人物像をアップデートした功績は大きいと思います。
これは有川浩氏の言うところの、『「現代日本の高校生」としてリアルな主人公』のことです。従来のジュブナイルSF、特に眉村卓氏の描くどこか優等生的な学生ではなく、オタク的にバカ話をする男子高校生たちで、確かにアップデートされているなぁと。
ちなみに菊地秀行のエイリアン(トレジャー・ハンター八頭大)シリーズは、お金持ちの高校生が大活躍する物語で、妖精作戦と比較すると面白いかもしれません。今で言うところの、チート高校生・俺TUEEE系です。
もうひとつ。
吉岡平先生が「それまでだったら編集者に削られたパロディやウンチク話を書いて良くなったのは妖精作戦のおかげ」とトークショウで語ってたのを聞いたことある https://t.co/CCUnvXFTr3
— アオイ模型 (@aoi_mokei) April 20, 2024
吉岡平先生が「それまでだったら編集者に削られたパロディやウンチク話を書いて良くなったのは妖精作戦のおかげ」とトークショウで語ってた
これは超重要な話であります。残念なのが、この発言の裏付けが取れないこと。当時の編集者たちが実名でこれを証言してくれたらいいのになぁと思います。
ただ、この話にはちょっと納得いくところがあります。妖精作戦第2作目の『ハレーション・ゴースト』が、「うる星やつらビューティフル・ドリーマー」のオマージュかつ特撮アニメパロディあふれる内容で、「一時期1作目よりも売れた」と新装版あとがきにもあります。
80年代は月刊OUTから始まったアニパロ漫画や、アニメの群衆シーンの中に有名キャラがチラッと映ることが受けていた時代。こういうのを小説で初めてやったのが『ハレーション・ゴースト』で、こういうのもOKというのが編集者の認識になったというのであれば、それはすごいことです。
これは三村氏が言うところの「アニメや特撮物を共通基盤にした独特のノリ」ですね。この面だけで言えば、後続のライトノベルに影響を与えたのは確か、ということになります。ただ、これが難しいのが『ハレーション・ゴースト』が妖精作戦の番外編的なもので、「妖精作戦」(シリーズ)が与えた影響ではなくて、『ハレーション・ゴースト』が与えた影響?と思ったりも。めんどくさい奴でごめんなさい。
ウンチク話については、吉岡平氏以外の作品であまり見かけないかなと思ったりもします。
「妖精作戦」は当時ヒットしたのか?
本当のところ、ヒットしたのかどうかなんて、あまり興味はありません。ただ、あえてこれを問うのは、妖精作戦出版当時の84~85年、私の周りでは「妖精作戦」が話題にならなかったからです。自分の周りで話題にならなかったから、ヒットしていないと言いたいわけではなく、当時を生きていた人間として、それほど衝撃的な作品と言われているのに、大きく取り上げられてなかったよね、と同意を求めたい欲求からです。
センセーションを巻き起こしたのか?
で先日、山中智省先生の朝日ソノラマ・ソノラマ文庫に関する論文を読んで、改めて疑問に思ったところがありました。
上記の論文の中に、
なかでも笹本祐一は、デビュー作の『妖精作戦』(1984 年)とそのシリーズがセンセーションを巻き起こし、同時代の若年層向けエンターテインメント小説に大きなインパクトをもたらしていた。
引用元:「ライトノベル」が生まれた場所―朝日ソノラマとソノラマ文庫(p.16)
この「センセーションを巻き起こし、同時代の若年層向けエンターテインメント小説に大きなインパクトをもたらしていた」という部分が、どうしても納得出来ないのです。
「センセーションを巻き起こし」と評価されるほど、大きな盛り上がりがあったようには思えないのと、なぜ後年ここまで評価される作品を当時知らなかったのだろうという悔恨というか、ムーブメントに乗れなかった悔しさというか、があります。
たとえば当時の菊地秀行作品が「センセーションを巻き起こし」たと言われれば否定しません。ソノラマ文庫の新聞広告などでは、天野喜孝イラストとともに大きく載っていたこと、書店で夢枕獏のキマイラとともに平積みされ、大きく取り上げられてことが記憶にあります。
ここからは個人的なソノラマ史観ですが、84~85年のソノラマ文庫というと、まず夢枕獏「キマイラ・吼」シリーズ、菊地秀行「エイリアン」シリーズ(トレジャーハンター八頭大シリーズ)がすでに人気でした。そこに83年にスタートした菊地秀行「吸血鬼ハンターD」の2巻が84年5月に発売され、人気が上がってきます(85年12月にOVA化)。
84年10月には、斉藤英一朗『ハイスピード・ジェシー メビウスの罠』が出版されています。そのイラストを美樹本晴彦が手掛けたことで話題になり、ヒットした印象です(後に漫画・OVA化もされています)。この時すでに『妖精作戦』は出版されていました(84年8月出版)が、その名前を私は知りませんでした。
85年に『ハレーション・ゴースト』『カーニバル・ナイト』『ラスト・レター』と1年に3冊のハイペースで、妖精作戦シリーズは刊行されたのですが、それほど話題になったようには思えないのです(これはあくまでも個人の感想)。85年に話題になったソノラマ文庫といえば、はままさのり『青の騎士ベルゼルガ物語』が印象に残っています。これは人気のあったアニメ「装甲騎兵ボトムズ」関連なので当然かも知れません。
また『ライトノベル☆めった斬り!』には、大森望氏いわく「笹本祐一の『妖精作戦』は、少なくともSFファンの間では、当時、相当話題になった」とあって、”少なくともSFファンの間では”となっているところに、微妙な表現だなと感じています。
山中論文の中で、以下のようにあります。
『日本SF年鑑1986年版』は1985年の概況として、「従来の若手SF作家が活動の場を新書へと広げていくにつれ、どうやら書き手の世代交代は始まっているらしく、(引用者註:ソノラマ文庫では)菊地、獏に代わって笹本祐一、竹河聖、嵩峰龍二らの新人」が著しい活躍を見せ始めたことに言及している。
引用元:「ライトノベル」が生まれた場所―朝日ソノラマとソノラマ文庫(p.16)
この部分は大森発言と合致していて、『日本SF年鑑1986年版』に取り上げられるほど、SF界隈では若手SF作家として評価されているのがわかると思います。ただ、だからといって「妖精作戦」が「センセーションを巻き起こし」たとまではいえないのではないかと。
例えば出版社側の証言で「妖精作戦」の出版部数がすごかったとか、反響がすごかったとかあれば納得できるのですが、ラノベの歴史に関する本を読んでも、そういった証言も見当たりませんし、数字的な根拠は見つかりません。シリーズは4巻で終わっていて、本当に人気があったのなら、もっと続いていたのでは?とも思ってしまいます。
アニメ化されたとか、雑誌で特集を組まれたとか、熱狂するファンの姿がテレビでとりあげられたとかあれば、もう少し納得できるのですが。注意していただきたいのは、「妖精作戦」を貶めたいのではなく、出版当時どれくらいの人気があったのかを知りたいだけです。
ちなみに「妖精作戦」はNHK-FM「アドベンチャー・ロード」にてラジオドラマ化されていますが、放送されたのは89年。すでに人気のあった「ARIEL」の影響があったとも考えられます。「妖精作戦」はアニメ化もされていませんので、ほんとうにセンセーションを巻き起こしたのかなと思うわけです。
これも前述のツイートの反響の中の一つ。
当時九州の本屋で、発売されたばかりの『ラスト・レター』が、ソノラマ文庫のコーナーで平積み2列で置かれていたのを覚えている。
一番好きな小説は何か、という話を高校時代に読書好きな友人同士で話したら、どちらも『妖精作戦』を挙げたくらい、その世代のある層には刺さった作品だった。 https://t.co/c2bFrfVLnc— ワタリワシ (@watariwashi) April 21, 2024
私の周辺とは違って、「本屋では平積み2列で、友人の間では話題になっていた」ということです。地域によって違うということですね。「本屋では平積み2列で、友人の間では話題になっていた」と「本屋ではそれほど取り上げられず、周辺で読んでいる友人はいなかった」は両立する話です。
だから、どちらか一方をして人気があったなかったを語ることはできないので、客観的なものさしがほしいところです。本当はOUTやファンロードなどの月刊誌の85年あたりを調べればファンの声が拾えるかもしれませんが、そこまでする情熱とお金がないのでごめんなさい。こういうのを収蔵した図書館が近くにあれば調べるんですが。
アニメ化という基準で考える
80~90年代のラノベ(とその源流)の人気を考える時に、アニメ化されたか?というのは、かなり良い目安だと思います。
- クラッシャージョウ
- 吸血鬼ハンターD
- 銀河英雄伝説
- 宇宙皇子
- ARIEL
- ハイスピード・ジェシー
- ロードス島戦記
- 無責任艦長タイラー
- スレイヤーズ!
- 魔術士オーフェン
- それゆけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ
- ブギーポップは笑わない
80年代は映画もしくはOVA、90年代(無責任艦長タイラー以降)はテレビシリーズが多く、90年代後半は上記以外にもたくさんアニメ化はされています。アニメ化前提や同時進行のメディアミックス作品は除いて、80~90年代の人気作の多くはアニメ化されています。なお、銀河英雄伝説や宇宙皇子はラノベ扱いに違和感を覚える方もいると思いますが、ラノベの源流として大目に見てください。
上記のようにアニメ化された作品を並べることで、ある程度のラノベ史は作れると思います。人気があるからアニメ化され、さらに人気を呼んで原作は売れることになります。で、ここで注目してほしいのは、「ARIEL」と「ハイスピード・ジェシー」が現在語られるラノベ史では抜け落ちることが多いことで、ここに「妖精作戦」が入ってくるのです。
こういう事を書くと、「売上でなく作り手に対する影響が大きい作品が重視される」事がわかっていないとおっしゃられる方がいたのですが、当時を知っている側からすれば、あれだけの人気作が抜け落ちて、そっちが取り上げられるの?という感想しかありません。
妖精作戦とARIEL
一番最初に紹介した私のツイートにも書いたように、私が笹本祐一氏という作家を知ったのは「ARIEL」でした。数少ない友人から聞いたのか、当時の私の情報源だった雑誌ファンロードで知ったのかは忘れてしまいましたが、「ARIEL」が面白いと伝わってきました。まだ文庫化される前の雑誌「獅子王」掲載時です。
その当時としては既に時代遅れ感のあったスーパーロボット物のパロディで、シーンNO.を書いていく台本のような書き方。コメディ調でありながらSF的なリアルさもあり、読んでみたらたしかに面白い。これはすごい作品だなぁと思いました。
文庫化されて話題になって、OVA化も決定とトントン拍子で進んでいったように思います。結局、このあたりも私個人の感覚ですが、アニメ化されたことは人気があったことの証明にはなるとは思います。残念ながら時代は異世界ファンタジー物へと流れていっていたので、作品の評価としては、それほど高くなかったのかも(最終的には2005年の星雲賞を受賞しておりますが)。ただ、やはり当時の空気感としては、笹本祐一氏と言えば「ARIEL」だったと思うんです。
ちなみに三村美衣氏は『ライトノベル☆めった斬り!』『ライトノベル完全読本』両書で妖精作戦をプッシュしておりますが、同時にきっちりとARIELも紹介しています。『ライトノベル☆めった斬り!』では、大森氏との会話の中には登場しませんが、ブックガイドではきちんと紹介されています(妖精作戦に比べると熱量は劣りますが)し、『ライトノベル完全読本』では最後に、ARIELのタイトルを出して後の吉岡平『鉄甲巨兵 SOME-LINE』へと続いたことを紹介(ついで感もありますが)しています。このあたりは当時を知っている人間の感覚だなと思うのです。
もうひとつ『ライトノベル完全読本』から。編集者インタビューのコーナーで、ソノラマ文庫石井進氏へのインタビューが掲載されています。その中で「節目となった作品は?」の問いに、初期の作品で石津嵐『宇宙戦艦ヤマト』、赤川次郎『死者の学園祭』。軌道に乗ったのが『クラッシャージョウ』、次に夢枕獏『キマイラ・吼』、菊地秀行『吸血鬼ハンター”D”』『エイリアン』シリーズ、その後は笹本祐一『ARIEL』と語られています。
これを読むと、やっぱり『ARIEL』は重要だと思うんです。
さいごに
グダグダと書いてきましたが、最後に。ライトノベルは定義すらあやふやです。何が起点になるのか、何を名作とするのか、人それぞれだと思います。だから、今回「妖精作戦」についてあれこれ書きましたが、どう取り上げようと、それはラノベ史や名作選をまとめる人しだいなので自由です。
ただ、80年代をティーンエイジャーとして過ごした人間として、あのころの肌感覚を知って欲しかったということです。