さて、今回は久々の読書メモ、パスティーシュの名手といわれる清水義範さんの初期作品、宇宙史シリーズを読んだ感想です。
清水義範
清水義範さんを検索するとパスティーシュという言葉があわせて出てきます。パスティーシュとは模倣芸術のことで、清水さんの場合は、別の作者の文体のパロディだったり、過去の文学作品をネタにしたパロディものだったりします。清水さんはこのパスティーシュという分野の第一人者であり、笑える作品の多い作家です。
90年代にこのパスティーシュという言葉を知り、清水作品を何作か読みました。これらの作品の著書プロフィールを見ると、「1947年生まれ。愛知教育大学卒業。81年に『昭和御前試合』で文壇デビュー、88年『国語入試問題必勝法』で吉川英治文学新人賞を受賞」と書かれていました。あれ? 清水義範さんてソノラマ文庫でたくさん書いていたはずと思っていたのですが、どうやら同姓同名の別人なのかと。
ずっとそう思っていたのですが、ネットが普及しだした2000年頃、調べてみると同一人物であることが判明。ジュブナイル小説は一般文芸と認めないという、出版業界の闇を知りました。
今や小説だけではなく、文章講座的な本も多数出されていて、文芸作家としての地位を確立されております。しかし、私にとって清水義範さんとは、パスティーシュの名手ではなく、ソノラマ文庫でジュブナイル作品を書いていた清水義範さんなのであります。今回はそんな清水義範さんの初期作品 宇宙史シリーズを読んだ感想です。
宇宙史シリーズ
Wikipediaの作品リストには伝説シリーズなんて書かれていますが、これは間違いで正式には宇宙史シリーズです。双葉文庫の著者紹介で”伝説シリーズ4部作”なんて書かれているので、そこから来ているのでしょう。
デビュー作が1977年の「エスパー少年抹殺作戦」、78年に続編の「エスパー少年時空作戦」と単巻作品の「緑の侵略者」を発表、79年から始まったのが宇宙史シリーズです。「禁断星域の伝説」、「黄金惑星の伝説」、「不死人類の伝説」、「絶滅星群の伝説」、「楽園宇宙の伝説」の全5作品。「黄金惑星の伝説」の段階では宇宙シリーズ第2弾と称されていて、「不死人類の伝説」から”宇宙史シリーズ”となっています。
23~24世紀の宇宙を舞台にした、SFというよりもスペースオペラというか冒険活劇もの。同時代の作品に高千穂遙「クラッシャージョウ」シリーズがありますが、あちらほど派手さはありません。
どちらかというと、主人公は紳士的というか品行方正で、「クラッシャージョウ」のように暴れ回りませんし、後年のソノラマ文庫における夢枕獏さんや菊地秀行さんの作品のような下品さというか、エログロ的なものはありません。そういう意味で私の大好きな眉村卓作品に近いテイストで、古き良きジュブナイル作品の香りがします。
ソノラマ文庫より1979年から1980年にかけて発売され後ちに絶版、1999年からハルキ文庫にて復刊されましたが、現在はハルキ文庫版も絶版となっています。ソノラマ文庫版は表紙が加藤直之氏、ハルキ文庫版は川村蘭世氏です。
今回はすべてソノラマ文庫版を読んだ感想です。
禁断星域の伝説
母を殺された怒りから、テクスの警官を殺したホモスの少年タケルは危ないところを謎の老人ヨブに救われ、住みなれた人工都市衛星を脱出して逃亡の生活に入った。タケルはまず司法衛星に潜入して犯罪記録の抹消に成功するが、そこでテクスの神経拷問を受けようとする少女ミカラを救う。
ここ、サモワール星域では、ホモスはテクスに支配され、テクスの巧妙な教育によってだれもそれに疑問を持たない。だが、死んだミカラの父ガムスはホモスの独立を願う反逆の思想家だった。
そしてガムスは、ミカラに<世の始まりに帰れ>という言葉を残していた。――人類のある終末と復活を描く、壮大な宇宙叙情詩!
――ソノラマ文庫版あらすじより
テクスとホモスというふたつの人種の、差別や対立から物語は始まります。主人公の少年タケルはホモスであり、テクスからは虐げられる立場。そのことを疑問に思い行動を起こします。はたしてホモスとテクスは何が違うのか。政治などの国家の重要事項をテクスが独占しているのはなぜか。話はサモワール星域から、人類の始まりの地へ広がっていきます。
ありきたりな人種問題の話から、人類の始まりへ一気に広がっていくスケール感が素晴らしい。テクスが生まれた理由、そしてなぜテクスが行政を管理しているのか、今読んでも全く古くささを感じさせない物語。この作品に関しては、冒険活劇というよりもSFです。
人工都市衛星の設定が「機動戦士ガンダム」のスペースコロニーとほぼ同じで、惑星の名前にザク、ドムとあり、えっと思わせてくれます。この小説の初版発行が79年1月、ガンダムは79年4月放映開始、はたして偶然なのか、どちらがどちらに影響を与えたのか。
ガンダムの名前の成り立ちはWikipediaにも書かれていますが、ザクとかドムの名前はどこから来たのか。ザクは雑魚からとか、足音からという説がありますが、ひょっとしたらこちらの小説が先なのかも。そんなことも考えると楽しいですね。
黄金惑星の伝説
父親が困難な開拓作業にとりくんでいる辺境の惑星ルシャナに、莫大な宝石が埋蔵されているという噂をリュウガ知ったのは、ルシャナへの援助物資を運ぶ輸送船が何者かの手で爆破された原因を追及している時であった。
生き残ったリュウと船長のハリー・ジョイスに、宝石を狙う宇宙海賊のウィル・カーンが、援助物資の輸送を約束する代償にルシャナへの道案内を要求してきたのだ。ハリーはその条件をのんだ。
そして、宇宙開拓者を志す少年、輸送屋、宇宙海賊、ルシャナに亜空間通信法の開発の手がかりを求める科学者等、奇妙なとりあわせの混成チームがルシャナへ再出発することになった。――<禁断星域の伝説の伝説>に続く新鋭の宇宙シリーズ第2弾!!
――ソノラマ文庫版あらすじより
宇宙史シリーズの中で、この作品だけが他作品との関連性が薄いです。当初はシリーズとしての構想はなかったのかもしれません。
財宝の眠る惑星を巡る三つ巴の戦いといったところで、冒険小説の定番的な物語であります。宇宙史シリーズとしての重要度は低く、無理して手に入れなくても大丈夫。オススメ度は低いです。
不死人類の伝説
六世紀にもわたる歴史の空白を乗りこえて人類が地球再開拓にとりくんでから九十年の歳月が流れ、地球近隣星域はほぼ以前の繁栄をとり戻していた。だが、政治情勢は微妙だった。政務局と軍事局の対立が表面化し、すぐれた指導者オブル・シドは不治の病に冒されている。医療局は全力をあげて治療に専念したが、回復不能と知った時、新たにバイライフ計画にとりかかった。
歴史の空白期にも禁止され、人間の不死に挑戦するものといわれるバイライフ計画は極秘裏に進められ、内容はオブル・シドの娘マリアにさえ明かされない。だが、その内容を知ろうと軍事局がマリアに接触を図ったため、事態は急激な展開を迎えることになった。――新鋭の宇宙史シリーズ第3弾!!
――ソノラマ文庫版あらすじより
宇宙史シリーズ第1作「禁断星域の伝説 」の主人公タケル・シドの孫であるマリアが主人公。永遠の命を得ようとするバイライフ計画を巡る物語です。不死人類が残るといわれる惑星でマリアたちが見たものは? そして、マリアたちを狙う軍事局の男 ロック・シャグラとは何者なのか?
生命とは何か、死と何かを問う普遍的な話を、ジュブナイルらしく描いております。主人公の少女マリアが魅力的です。また、第1作目のヒロイン ミカラの登場もうれしい佳作です。
絶滅星群の伝説
2248年、人類は広く宇宙に進出し、空前の繁栄期を迎えていたが、人類の発祥の地・地球では、民族間の対立が激化し、局地的な限定戦争が続いていた。
<ウンザリする戦争ごっこも、もう終わりさ。決定的な新兵器が開発されたそうだ>――こんな噂が長い戦いに倦み疲れた兵士達の間に流れた数日後、雨の降り続く密林地帯に白い粉が散布された。そして噂どおり戦争が終わった後、地球では<戦争風邪>が猛烈な勢いで流行りはじめた。
だが人々はこの事態を気にかけなかった。戦友を風邪で失った一人の兵士と、ミロクにある宇宙保健機構で自殺した一人のウイルス学者以外には。――一人の科学者の誤算が生んだ人類絶滅の危機を描く<宇宙史シリーズ>第4弾!
――ソノラマ文庫版あらすじより
コロナ禍の今だからこそ、オススメの1冊。
地球における戦争で使用された細菌兵器は、致死率は低いものの感染力の強い風邪ウイルス。敵軍の能力を大いに減退させることに成功します。しかし、このウイルスには恐るべき性質があったのです。人間の体内に潜伏し、最大10年の期間をおいて、致死率100%のウイルスへと変異します。このウイルスが体内にあることを確認することは出来ず、接触した人間はほぼ罹患している状況。変異したウイルスに冒された人は次々に死んでいきます。
このウイルスは地球のみならず、近隣の惑星へどんどんと広がっていきます。地球発のこのウイルスにどう対応するのか?
読んでみてびっくり。この現在のコロナ禍と、致死率や規模は違えど状況は非常に似ています。どうすればこのウイルスを封じ込めることが出来るのか、人類を救うためにはどのような方法をとるのか? 非常に考えさせられる作品です。
宇宙史シリーズ屈指の名作といって良いでしょう。宇宙史シリーズを読むなら、第1作目とこの作品がオススメ。むしろ、この2作品だけでも良いです。絶版になっていることが、非常に惜しい作品。
楽園宇宙の伝説
ロト星域の辺境惑星ゴルで、貴重な学術資料のモヒカンガメを狩猟中のサトル・シド、ザーク博士の一行は、ロトの秘密軍に逮捕される。もともとこの狩猟は、ロト政府の禁止命令を無視して行っていたものであった。
だが、連行された基地の規模の壮大さを見、秘密軍総督ホルド・ムッソの野望を聞くにおよんで、サトルは初めて事態の重大さを知った。ムッソは超秘密兵器の開発による全宇宙の統合・征服計画を進めていたのだ。サトルの父ナザレがロック・シャグラを倒して以来保たれていた人類の平和も風前の灯火である。
そしてこれは、宇宙に進出して一千年を経てもなお脱却できぬ、人類の愚かな性なのかもしれなかった。
壮大なスケールで人類の未来史を綴る<宇宙史シリーズ>最終巻!
――ソノラマ文庫版あらすじより
宇宙史シリーズ第3作「不死人類の伝説」の主人公マリアの息子、サトルが主人公。宇宙を舞台にしているものの、昔ながらの冒険もののようです。軍に捕らわれ秘密兵器の開発を知り、恐ろしい計画を阻止しようとする流れは、まさに定番といって良いでしょう。「不死人類の伝説」の続編といっても良くて、テイスト的にも似ています。
繰り返される人類の愚かさとともに、未来への希望を描き、宇宙史シリーズを終わらせています。
まとめ
以上、宇宙史シリーズを読んだ感想でした。
第1作目と4作目がSF、それ以外の3作品が冒険活劇のテイストが強くなっています。
オススメはなんといっても、4作目の「絶滅星群の伝説」です。このコロナ禍の状況と似ているところもあって、リアリティを感じます。第1作目と4作目はリンクしているので、この2冊をセットで読むのがオススメです。
第2作目だけがちょっと凡作でオススメできません。第3作目と5作目がこれもリンクしていて、あわせて読むと楽しめます。
古き良きジュブナイル作品ではありますが、「絶滅星群の伝説」は一読の価値ありだと思います。