前回読んだ長谷敏司『戦略拠点32098 楽園』が面白かったので、積読本となっている、90年代後半から00年代序盤にかけてのスニーカー文庫を何冊か読むことにしました。まずは第1回角川学園小説大賞・大賞受賞作、相河万里『銀河鉄道☆スペースジャック』を読んでみました。
銀河鉄道☆スペースジャック
著者:相河 万里
イラスト:杜若 かきこ
文庫:角川スニーカー文庫
出版社:角川書店
発売日:1997/6
第1回角川学園小説大賞、大賞受賞作品。
あたりもすっかりと暗くなった放課後の廊下で、青山高校二年の遠野二美は、着流しに高ゲタ、腰に剣を下げた男とすれ違う。彼は学校の名物男、北崎一也。彼に一目惚れをした二美は、彼が所属する演劇研究会に入部することにしたのだが…。ところが彼の過去には、とんでもない秘密があった。
まったく新しい感性でおくる、読むと元気になるNEW青春ストーリー登場!!
読んだ感想
面白い単巻ラノベを探す場合、なんらかの賞を受賞した作品を読んでみるのが、とりあえず無難かと思います。ラノベの場合、その多くはデビュー作であることが多いので、その作家の志向や力量が推し量ることもできます。今回この作品を手に取ったのも、1997年から始まる角川学園小説大賞、その第1回目の受賞作だからです。25年前の学園小説大賞・大賞受賞作はいかなるものだったのでしょうか。
タイトルを見たときに、SFもしくはファンタジーを絡めた学園モノかなと思ったのですが、そういった要素はまるでなくって、学校の演劇部を舞台にした青春ストーリーでした。タイトルの『銀河鉄道☆スペースジャック』はそのまま、劇中劇のタイトルで、もちろん宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』のオマージュです。
で、読み終えてまず思ったのが、25年前の作品には、現在ではラノベのテンプレとなっているようなキャラクターはまだ存在しないのだなと。メガネっ娘も、巨乳も、外国人留学生なんかもいなくて、いたって普通の学園モノのキャラクターたちです。そう考えると現在のラノベの特に女性キャラに影響を与えたのは、90年代後半にブームとなった美少女ゲームやPC向けエロゲーなのかと思ったりもします。読んでいる途中から、物語そっちのけで、そんな事を考えていました。
物語は女子高生が主人公で、彼女視点で進行します。イメージとして少女漫画的といいましょうか、かっこいい男子に一目惚れして、同じ部活に入り、紆余曲折を経てひとつの達成感を得るというベタなストーリー。その中で憧れの男子は、つらい過去を演劇という手段で乗り越えていくことに……
あこがれの先輩(ただし留年して同級)、同時期に部活に入ってきた可愛い後輩、先輩の元カノ、先輩をめぐる三角関係などなど、キャラやその配置も今読むと、どれもベタに思えます。25年前ではこれらには、どこか新しさがあったのでしょうか。そのあたりはわかりません。
まあ一番の疑問なのは、着流しに高ゲタ、剣や木刀を持っている理由がよくわからないこと。映画の撮影の為だけなのか。授業中は学生服らしいですけど、それ以外のときに着流しなのか、学生服なのか、描写がなくてよくわかりませんでした。一応、いつも高ゲタだけは履いているようですが、学生服でも木刀を持っていたりと、魅力的な男子なはずがイマイチわからないですね。それを過去の出来事があったからと結びつけるのも難しいですし。
著者の方は演劇を志していた人とのことです。劇中劇の脚本に着流し男子のつらい過去を投影して、役を演じることでそれを乗り越えていくさまを描きたかったのでしょう。演劇にはそれだけの力があると。演劇経験者だけに、発声練習や舞台の設置のシーンにはリアリティがありました。ただ、物語が中途半端で、着流し男子と脚本家の友情はそれなりに見えましたが、着流し男子の恋の行方はくわしく描かれることもなく、主人公女子に興味がありそうな後輩も置き去りと、不満が残りました。
色々と書いてみたのですが、正直なところあまり面白くありませんでした。角川学園小説大賞は何を目指していたのか、この作品を読むだけではわからないですね。