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【名作単巻ラノベを読む13】長谷敏司『戦略拠点32098 楽園』を読んで

さて、今回は名作単巻ラノベを読むです。しばらく一迅社文庫ばかり読んでいたので、ちょっと違うテイストのものが読んでみたくなって、ずっと積んであった、名作と評判の高い、長谷敏司『戦略拠点32098 楽園』を読むことにしました。

戦略拠点32098 楽園

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著者:長谷敏司
イラスト:CHOCO
文庫:角川スニーカー文庫
出版社:角川書店
発売日:2001/11/30

青く深く広がる空に、輝く白い雲。波打つ緑の草原。大地に突き立つ幾多の廃宇宙戦艦。
──千年におよぶ星間戦争のさなか、敵が必死になって守る謎の惑星に、ひとり降下したヴァロアは、そこで、敵のロボット兵ガダルバと少女マリアに出会った。いつしか調査に倦み、二人と暮らす牧歌的な生活に慣れた頃、彼はその星と少女に秘められた恐ろしい真実に気づいた!新鋭が描く胸打つSFロマン。第6回スニーカー大賞金賞受賞作品。

読んだ感想

著者の長谷敏司は、ライトノベルとしては『円環少女』が有名ですが、『あなたのための物語』『BEATLESS』がSF大賞・星雲賞の候補作、『My Humanity』で第35回SF大賞受賞と、現在ではSF作家のイメージが強いです。そんな長谷敏司のデビュー作がこの『戦略拠点32098 楽園』、2001年の第6回スニーカー大賞金賞受賞作です。

まず最近は一迅社文庫ばかり読んでいたので読んでびっくり、同じライトノベルというくくりなのに、作品としての肌触りがまったく違うなと。時代やレーベルの傾向があるとしても、こんなガッツリとしたSFがスニーカー大賞金賞だったのかと。どんなジャンルも飲み込んでしまう、これがライトノベルの奥深さ、面白さだなと改めて感じました。

そういえばスニーカー大賞といえば、第1回では冲方丁、第5回の特別賞に三雲岳斗とSF色が強い作家が名前を連ねています。同時に角川学園大賞があったので、学園モノ・青春モノはそちらに流れたとしても、これは当時の流れだったのでしょうか。90年代はSF冬の時代なんていわれますが、実際にSFコンテストはなく、ライトノベルが結果として、90年代後半から00年代にかけてのSF作家の受け皿になったともいえるのかと。

で、『戦略拠点32098 楽園』は200ページ弱の中編作品。こういった賞レース作品としてはやや短めに感じます。

物語は汎銀河同盟と人類連合が1000年以上争いを続ける世界、汎銀河同盟が〈拠点32098〉と呼ぶ、人類連合が撃破された自軍の戦艦を曳航していく惑星が舞台となります。ここを人類連合の重要拠点とみなし降下して調査しようとする汎銀河同盟、そして降下を阻止すべく激しい抵抗を見せる人類連合。汎銀河同盟の降下部隊で唯一人、惑星に降り立つことが出来たヴァロア。彼がそこで出会ったのが純真無垢な少女マリアと、彼女を守る人類連合の機械化された強化兵ガダルバです。捕らわれたヴァロアは死を覚悟するも殺されることもなく、何故か一緒に生活することに。物語に登場する人物はこの3人のみです。

この惑星の秘密を探ろうとするヴァロアですが、基地のようなものもなく、あるのは落下し墓標と化した朽ちた戦艦と食料となる植物、そして圧倒的な自然。人類連合が守ろうとする、この惑星には何があるのか、そしてただ一人この星で生き続ける少女マリアは何者なのか。序盤、物語は派手な戦いもなく、平和な日常が描かれていきます。

中盤以降も謎の惑星を巡るドラマティックな物語ではありません。少女の正体やこの惑星の存在意義を知ったヴァロアとマリアを守る元兵士であるガダルバの、時には同調し時には反目し合う思考や感傷が、静かに淡々と描かれています。描かれるさわやかな夏の風景とは裏腹に、最後まで非常にセンチメンタルな物語でした。

ライトノベルの面白さは、ハラハラドキドキするような起伏のある物語であることが多いのですが、この物語はそういったものではありません。マリアの存在と「楽園」の意味、兵士はなぜ戦うのか、生きる意味とは何か、忘れることのもつ意味、様々な問いかけがあり、そんな作者の問いかけ(もしくは自問自答)を登場人物と一緒になって考える物語ではないかと。”あ~面白かった”、そんな感想だけでは終わらない作品です。

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