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【90年代単巻ラノベを読む13】岩本 隆雄『星虫』を読んで

さて、今回も【90年代単巻ラノベを読む】です。単巻ラノベの名作としても名前が挙がる、岩本隆雄『星虫(ほしむし)』を読んだ感想です。

星虫

著者:岩本隆雄
イラスト:鈴木雅久
文庫:ソノラマ文庫
出版社:朝日ソノラマ
発売日:2000/6

宇宙に憧れ、将来は宇宙飛行士としてスペースシャトルを操縦することを夢見る高校生・氷室友美。そんな彼女が夏休み最後の夜に目にしたのは、無数の光る物体が空から降ってくる幻想的な光景だった。後に“星虫”と呼ばれるこの物体は、人間の額に吸着することで宿主の感覚を増幅させる能力を持った宇宙生物で、友美もすっかり星虫に夢中になってしまう。ところが、やがて人々の額で星虫が驚くべき変化を始めて―。幻の名作が大幅な加筆の上、復活。

もともと『星虫』は新潮社主催の第1回ファンタジーノベル大賞に応募されたもの。受賞は逃すものの最終候補作に残り、90年に新潮文庫ファンタジーノベル・シリーズから出版されました。

その後絶版になっていたものを加筆修正し出版されたのが、今回読んだソノラマ文庫版です。

星虫 (ソノラマ文庫 い 7-1)
朝日ソノラマ
¥84(2024/04/15 19:32時点)

こちらも07年の朝日ソノラマ廃業とともに絶版、09年に朝日ノベルズより『星虫年代記 1』として、「星虫」、姉妹作「イーシャの舟」、描き下ろし「バレンタイン・デイツ」を収録して発売されています。こちらのバージョンは現在、電子書籍で読むことが出来ます。

約10年おきに版元を変えて出版されています。版元を変えてでも出版され続けるのは、それだけ名作ということでしょう。復刊の都度、加筆修正されているようなので、それぞれのバージョンによって読んだ感想も変わるかもしれません。

今回はソノラマ文庫版を読んだ感想です。

読んだ感想

内容としては、ロマンチックなSFファンタジー。宇宙飛行士を夢見る少女 知美のひたむきさが、まぶしくもあります。

ある日空から降ってきた無数の光。それは人間の額に吸着することで、宿主の感覚を増幅させる能力を持った星虫でした。視力や聴力が増幅され最初は歓迎されるものの、成長とともにおぞましい姿に変化していく。星虫を拒否する意識を持つと、簡単に額から離れ死んでしまうのですが、知美は星虫を拒否することなく、育て続けます。そして、星虫は成長し顔を覆い尽くし、おぞましい姿に。この星虫ははたして侵略者なのか。

縦糸は星虫の進化とそれを受け入れる知美の物語。横糸はエコが進んだ時代でさえも悲鳴を上げる地球と、宇宙へ進出すべきと考える人たちの物語。星虫を人類、星虫を受け入れる/拒否する人類を地球に対比させています。学園ラブストーリー的な要素を持たせつつ、壮大な宇宙進出計画を絡め、少女の成長を描いていく物語は、読み終えてまず、面白いと思いました。ただ、共感は出来ないなとも。

なんといっても主人公の知美の思い込みの激しさがちょっと理解できませんでした。宇宙飛行士になりたいと願うひたむきさはわかるのですが、星虫に対する異常ともいえる理解・愛情が理解できません。それは直感でもあると書かれていますが、普通、額に貼り付いたものから足がはえて動き出したら、気持ち悪いと思うはずです。これを自分の赤ん坊のように思っているのが、とても不思議です。これを母性という言葉でかたづけるのであれば、世界中で星虫を受け入れる人がもっといるはずですし。

知美しか星虫を最後まで受け入れられる能力がなかったといえばそれまでですが、知美と寝太郎以外は星虫が最後まで成長しなかったのであれば、それは特殊なことであり、星虫への理解・愛情は読者としても共感できないということになるのではないかと。面白いながら共感できないのは、この部分の違和感が最初から最後までずっと続くからでしょう。

共感ということを考えなければ、「人類は地球にとって癌である」という会話や、星虫が進化して空を飛ぶシーン、6日目の最後の心中ものっぽい美しさなど素直に面白いと思います。若干、エピローグが冗長で、6・7日目の感動が興ざめしてしまいましたが。

読書メーターのレビューを読んでいると、この作品をジュブナイルと評している人が多いようです。もちろん、もともとそういうレーベルから発売されているので当然なのですが、あえて書いているのは中高生くらいに読んでもらいたいと思っているのか、大人としては共感できない部分があると暗に感じているからなのか。

知美の宇宙飛行士への夢とともに語られる「夢は見るものでなく、かなえるもの」といったメッセージは、どこか青臭く感じた人も多いのかなとも思いました。50歳を過ぎたおっさんが読むには、少し眩しすぎる小説でした。

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