さて、本日も一迅社文庫の作品を読んだ感想です。単巻モノということとラブコメを思わせるタイトルから、なんとなく手に取った『鈍感な僕と鋭い彼女』ですが、これがめっけ物でした。
にのまえあゆむ
2009年の第3回ノベルジャパン大賞で「萬屋探偵事務所」が佳作受賞（受賞時の名義は、にのまえはじめ）。同年、HJ文庫『デウス・レプリカ』でデビュー。HJ文庫と一迅社文庫などで作品を執筆。現在は「小説家になろう」でも、執筆中です。
HJ文庫
デウス・レプリカ 全3巻、2009/9～2010/3
封環世界のグリモワール 2010/9
魔女3人と俺の××な関係 2011/7
インフィニティ・ブレヱド-際限なき救済者- 2013/9
一迅社文庫
鈍感な僕と鋭い彼女 2012/1
異世界の魔法使いがうちに居候中です!? 2012/6
その他
閃乱カグラ~少女たちの青春~ 2013/7、DMC NOVELS
ファンタシースターオンライン2 サイドストーリーズ 2014/6、単行本、一迅社
ファンタシースターノヴァ サイドストーリーズ(仮) 2015/2、単行本、一迅社
七人の女神と紋章世界の漂流者 2015/9、ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ
※作品名をクリックすると、amazonにジャンプします。
鈍感な僕と鋭い彼女
著者:にのまえ あゆむ
イラスト:しらび
文庫:一迅社文庫
出版社:一迅社
発売日:2012/01
「先輩には、未来が視えてるのよ」
彼女・櫛守棗は喜色満面の笑みを浮かべ僕・八塚武宏を指して、そう断言した。
「わたしより年上なのに、そんな子供の空想みたいなことを本気で言ってるんですか?」淡々とした口調で反論した妹の小詠も胡散臭そうに僕を見つめる。
そんな二人の視線を受けて、僕は―とりあえずアイスコーヒーで喉を潤した。そう、僕には小さい頃から、少し先の未来が視える妙な能力が確かにあった。でも、なぜ赤の他人である棗が僕の秘密を知っているのかというと…。
読んだ感想
ただ単巻モノということで、リストアップし購入していた作品。たくさんある一迅社文庫作品の中でとりあえずこれを手に取ったのは、タイトルがラブコメっぽくて、サクッと読めそうだったからです。あらすじを読んでも、どういう展開が待ち受けているのかは全く想像がつきません。しかし読んでみると、意外というと失礼なのですが、これが面白い！
物語は5分ほど先の未来が見える少年・八塚武宏と、すぐれた洞察力を持った少女・櫛守棗（くしもり なつめ）のボーイ・ミーツ・ガールなストーリー。主に登場する人物は武宏と棗以外には、武宏の妹・小詠と謎の人物・箕輪のみ。登場人物をしぼりシンプルな物語ながらも、少年と少女二人の感情の動きを豊かに描いています。
物語の冒頭では、「5分ほど先の未来が見える」というだけの地味な特殊能力を持った少年の悲哀がのべられます。しかし、誰からも信じてもらえなかった能力が、棗によって理屈だてて証明されていく第2章「櫛守棗の異能証明」が良いのです。1章まるまる使って、主人公の特殊能力をじっくりと解き明かしていくというのは、ライトノベルでは珍しいのではないかと思います。
中盤以降は、尖鋭技能育成機構という組織が関わってきます。そして、冒頭からのべられている通り魔事件。事件に巻き込まれた二人の未来はどうなってしまうのか。
ハラハラさせられながらも、終始主人公の（主に恋愛に関する）鈍感さが強調され、ラブコメとしてもなかなか楽しく読めます。物語の結末もさわやかで、気持ちの良い終わり方です。SFっぽい設定と青春恋愛ものを絡めた作品は、ジュブナイル作品としての王道のように感じます。そこに現代っぽいというかラノベっぽいコメディ要素をくわえ、うまくまとめた作品だなと思いました。派手さはないけれど面白い作品を見つけたときは、マイナーレーベル好きとしては、本当に嬉しいです。
最後にこの作品の魅力をもう一つ。正統派ツンデレキャラの妹・小詠がかわいいのです。読書メーターの感想でも、妹を推しているのが多いのも納得のかわいさです。ただ、冒頭15pで妹の裸のイラストは、立ち読み者をレジに向かわせようとする一迅社文庫のあざとさなのでしょうか。こういうのが一迅社文庫らしさなのかな。
