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菊池仁『僕と先輩たちは主にハッケンしています。』を読んで【一迅社文庫を読む】

さて、しばらくは一迅社文庫作品を読んでいこうと思ってます。まず手に取ったのが『僕と先輩たちは主にハッケンしています。』という単巻作品。気軽に読めそうな学園部活ラブコメです。

菊池仁(きくちひとし)

書評家・アンソロジストの菊池仁(きくちめぐみ)とは別人。文庫カバーそでの著者紹介によると、

作家・神奈川県東端在住。『企画室・あなご庵』代表。作家活動の傍ら希少古書と古物蒐集を趣味として多摩丘陵地帯を散策する。2014年現在、日本妖怪の研究本出版準備につき実物標本入手を画策中。

とあります。一迅社文庫での出版は、この作品のみ。その他の作品に、

妖怪これくしょん ~飼って仲良くしよう! 』(2015/1/31、一迅社、単行本)

『僕と先輩たちは主にハッケンしています。』

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著者:菊池 仁
イラスト:彩葉
文庫:一迅社文庫
出版社:一迅社
発売日:2014/12

 何をしてるかわからない、いつも遊んでると思われ、廃部の危機を迎えている部活。それが『大自然および博物学総合研究部』―略して『大博研』。
その一員である僕と、博物学を極めた天才少女・竜子、南米から来た褐色娘・アテナ、そして幽霊のゲンカクは今日も一見どうでもいい、ちょっとした不思議に挑む! 学園部活ラブコメディ☆

読んだ感想

『大自然および博物学総合研究部』、略して『大博研(だいはっけん)』という部活を舞台にしたコメディです。

まず読んで、う~んと悩んでしまった。この作者は博物学と民俗学をごっちゃにしているというか、わかった上でやっているのか、と。「博物学というのは、余所の学校では大概『民俗学』と呼ばれている学問を、それが確立した時代よりもっと古い時代の呼称に言い改めたもの」なんて書いています。これは部活の名前を付けるときに、物語上での学生が勘違いしてつけたもの、と受け止めようとすれば出来なくはないけど、やっぱりおかしい。

ちなみにWikipediaによると、博物学は「自然に存在するものについて研究する学問。広義には自然科学のすべて。狭義には動物・植物・鉱物(岩石)など、自然物についての収集および分類の学問」で、民俗学は「風俗や習慣、伝説、民話、歌謡、生活用具、家屋など古くから民間で伝承されてきた有形、無形の民俗資料をもとに、人間の営みの中で伝承されてきた現象の歴史的変遷を明らかにし、それを通じて現在の生活文化を相対的に説明しようとする学問」とあります。全く別物なのです。人物でいえば博物学が南方熊楠で、民俗学は柳田國男。

博物学と民俗学をごっちゃにしているというか、物語の内容としては民俗学の方がやや近いのです。だからやりたい内容は民俗学なんだけど、フレーズ的に「だいはっけん」を使いたいから、博物学にしたのかなと。ただ、このあたり、どうしてももやもやが残ってしまいます。

もうひとつ「フィールドワーク」という言葉についても、もやもやが残ってしまいました。こちらは現地調査とか実地調査というのが本来の意味。現場にでかけて聞き取りをしたり、採集したりすることです。しかし、物語の中での「フィールドワーク」は、野外行動とか野外訓練のように使われています。

言葉には定義があって、それを共通して認識しているからこそ言葉が通じるはずなのに、それが全く無視して使われているようです。

というわけで、そのようなことが引っかかって、なかなか物語にのめり込めなかったのが、1番の感想です。

そのあたりを考えずに読むとすれば、第2話「妖怪博士の遺稿」が、なかなか面白かったかなというくらい。

資料倉庫を整理していたら、偶然見つけた古い文筺。そのなかに、宇宙人らしきものや謎の金属片と一緒に写った、美人博士の写真があった。その写真は昭和初期に撮られたもののよう。この妖怪博士と呼ばれた美人博士は、はたして昭和初期に宇宙人を捕らえ研究していたのか。大博研のメンバーはこれらの謎を解明することになります。

民俗学というより、郷土史研究のような内容ですが、オチは読めるとしても、なかなか面白いです。

それ以外は、まぁ普通といったところ。先輩である鬼姫竜子は、成績優秀、親分肌、行動的といった感じで、涼宮ハルヒ的といえばよいでしょう。ただ、ハルヒのように暴走はせず、いまいちハジケ切れていない印象。

主人公である(はずの)僕こと熱海ユウ、南米から来た帰国子女の本沢アテナ、なぜか存在する幽霊のゲンカク、鬼姫の幼なじみでいじめっ子キャラの久保と登場するキャラクターが、どれもいまいち魅力的でないのです。熱海ユウなんかは、ハルヒに振り回されないキョンを想像してもらえればわかりやすいでしょうか。また幽霊キャラなんて掘り下げようがいくらでもあるのに、まったくふれていないのがよくわかりません。次巻以降のつもりだったのでしょうか。

そして、第5話夢いろ迷路は、涼宮ハルヒでいうところの「エンドレスエイト」的な物語なのですが、これがよくわかりません。夢とかデジャヴを持ち出しているので、鬼姫だけが感じていることなのか、世界全体が同じ日を繰り返しているのかすら、わかりません。そこからの脱出方法も、一緒に寝て同じ夢を見るという、いきなりファンタジー的な展開で、いまいち理解できず。

物語自体は部活を舞台にした連作短編集といった作りで、大きな物語がないためドラマチックに盛り上がりません。かといってそれぞれのエピソードが楽しいかというとそれほどでもない。一応ラブコメとなっていますが、ラブ成分はほとんど無し。というわけで、全体的に見ると残念な小説としか思えませんでした。

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