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【一迅社文庫の研究 その2】一迅社文庫はどこを目指したのか【一迅社文庫を読む】

さて、今回は一迅社文庫の創刊ラインナップから、一迅社文庫がどこを目指していたのか、探っていこうと思います。

一迅社文庫といえば個人的には、表紙・背表紙には美少女のイラスト、カラー口絵は肌色多め、内容的にもエロ路線が多いというイメージです。それらは最初から目指していたのでしょうか。

一迅社の告知から

創刊ラインナップを見る前に、一迅社側はどういう路線を考えていたのか調べてみました。ただ、なかなか”創刊の言葉”のようなものが見つからず、やっと見つかったのが以下の記事。

こんな可愛い子が女の子のはずがない!エロゲのライター等が参加の一迅社文庫7冊創刊
「コミックREX」や「百合姫」を発行している一迅社からラノベが7冊発売された。新たなラノベのレーベル「一迅社文庫」から発行されたもので、他ラノベで人気の作家やエロゲのライター等が参加しており、『今を輝く強力な作家陣』(一迅社)とのこと。また、7月には少女向けも創刊されるらしい。

この記事の中に「ゲーマーズにあった一迅社の告知」というのがあり、その写真に載っている言葉を文字に起こしてみました。

出典:ASCII.jp x ゲーム・ホビー 「こんな可愛い子が女の子のはずがない!エロゲのライター等が参加の一迅社文庫7冊創刊」より

「一迅社文庫」について

2008年5月20日、弊社より、ティーンズ層と20代の男性読者を主力ターゲットに置いたライトノベルの新しい文庫シリーズを創刊します。◯ジャンルといえば、「独特のアク」が特徴の1つですが、その反面、読者対象が限定され、各レーベルともその「アク抜き」が大きな課題となっていました。

一迅社文庫では、一般的に陥りがちなイラストでの中和を図るだけでなく、文体や登場するキャラクターの個性においても融和を図り、ライトな路線をねらいます。
手に取りやすさを演出するとともに、ヘビーユーザーにも読みごたえのある作品に仕上げ、読者のニーズに答えていきます。

ターゲットの年齢層について

一迅社文庫のターゲットは、10代~20代の男性です。特にティーン層である16歳~18歳を第1ターゲットとして設定しています。この年代は、中学生に比べて金銭的にゆとりがあり、かつ、情報網も発達しています。彼らに対して有効な宣伝告知活動を行うことで、ふだん定期的に購入している商品以外のレーベルにも興味を示す可能性は高く、また口コミによる効果も最も期待される層です。

ターゲットの獲得について

第1ターゲット層の獲得を命題に、現在の流行である学園恋愛ラブコメを基本路線として押さえながら、第2ターゲット層である19歳~20代の男性読者獲得のため、彼らの間で今注目度が高まっている伝奇やミステリー分野の作品も織り交ぜて投入していきます。このように19歳以降をカバーする作品も積極的に投入していくことにより、19歳を越えるとともにシリーズを”卒業”させるのではなく、長期にわたり読者を囲い込み、固定ファンを積み上げていきます。

作家について

新進作家として電撃文庫で活躍中の「杉井光」、富士見ミステリー文庫においてカルト的な人気を誇る「小林めぐみ」「鷹野祐希」、そして新天地を開拓したフランス書院美少女文庫の超人気作家たち「みかづき紅月」「わかつきひかる」など、今を輝く強力な作家陣を用意し、ターゲットのニーズを的確に押さえていきます。

さらに、創刊ラインナップでは、角川スニーカー文庫のヒット作「薔薇のマリア」の作者「十文字青」や、現在TBS系列で好評放映中のアニメ「CLANNAD」の原作〇〇の一人であり、同作品中の人気NO.1キャラクター「藤林杏」を生んだベテランライター「魁」も名前を連ねるなど、場当たり的ではない人選を特徴としています。

※写真の解像度が低いため、分からない文字は◯で示しました。

一迅社の狙いは

まとめてみると、

一迅社文庫のターゲットは、10代~20代の男性。
学園恋愛ラブコメを基本路線とし、伝奇やミステリー分野の作品も織り交ぜて。
他文庫で活躍している作家のみならず、ゲームのシナリオライターも登用。

こういったところでしょうか。ライトノベルレーベルなので、わりと普通のコンセプトといってよいでしょう。注目すべきところとしては、フランス書院美少女文庫から、みかづき紅月、わかつきひかるを登用しているところ。「CLANNAD」の魁を含めて、美少女路線は狙いとしてあったのでしょう。

編集者のブログから

もうひとつ、一迅社文庫の編集担当されている方のブログがありました。

【コラム・ネタ・お知らせetc】  一迅社文庫 5/20創刊します - アキバBlog
5月から毎月20日発売の一迅社文庫の編集担当、T澤と申します。今頃になってライトノベル業界に新規参入と、周囲からも面白がられていた一迅社文庫ですが、スタートを5月にとうとう果たすことになりました。

一迅社文庫のコンセプトは「新発見」

『薔薇のマリア』で知られる十文字青など大ベテランを軸に据えつつも、ホラー業界で知らぬ人はない黒史郎、 ゲーム業界の一部でカルト的人気を誇るジェットコースターどんでん返しの朱門 優など、「たまにはこんな小説も面白いですよ」というシェフのお勧め作品が共存しているのが特徴です。

書店で見かけたら、お目当ての本だけではなく、騙されたと思って一迅社文庫を1冊、または2冊ほど手にとって、 試しに読んでもらえればと思います。他の文庫では目にすることのない、新しい世界が広がる……かもしれません。

他文庫ですでに人気の作家に加え、ホラーの黒史郎、ゲームシナリオの朱門優など、プラスアルファとなる別路線組をプッシュしているようです。創刊と同時に募集された一迅社文庫大賞は、締切が2009年9月30日で、一迅社文庫独自の新人の登場はかなり先のこと。それゆえに他文庫でデビューしている作家以外では、ゲームシナリオを書いている人を”新人”としてデビューさせていこうという方針だったのでしょうか。

創刊ラインナップ

2008年5月20日発売のラインナップは以下の通り。なお、画像をクリックするとamazonにジャンプします。

死図眼のイタカ 杉井光

地方都市・伊々田市を支配する、謎多き女系一族―朽葉嶺家。四つ子の姉妹から一人を跡継ぎとして選ぶ、二十年に一度の儀式が近づいていた。次期当主の婿として育てられた少年、朽葉嶺マヒルの周囲では、儀式が迫るにつれて不可解な少女猟奇殺人が頻発するようになる。やがてマヒルの元に現れる、鴉を連れた黒衣の少女。人ならざる存在“GOOs”を狩る組織の一員、“殲滅機関の遺影描き”―藤咲イタカ。彼女との出逢いによって、マヒルは伊々田市の血塗られた歴史に潜む魔と対峙する…戦慄の伝奇ミステリ。

著者の杉井光は、2006年電撃文庫『火目の巫女』でデビュー。一迅社文庫創刊時点、『神様のメモ帳』や『さよならピアノソナタ』などで、すでに注目されていた作家でした。

この作品は伝奇ミステリということで、ちょっとダークな内容とのこと。

零と羊飼い 西川真音

「あなたたちの中から、一人以上を隕石に向かって打ち出さなければならないわ。猶予はこの数日間…誰をシャトルに乗せるかは、あなたたちが決めて」巨大な隕石が刻々と迫り、地球は破滅の危機にさらされていた。打つべき手は尽き、唯一残った究極の手段は、“受けた力を同じだけの力で跳ね返す能力を持つ”人間を生身で隕石に向かって打ち出すという残酷な計画だった。シャトルに乗れば、地球に生きて帰れる確率は0%―対象者として選ばれ、なかば強制的に集められた少年たち。閉ざされた地下巨大研究施設の中で、静かに死のゲームの幕が明けた…。

2005年発売されたパソコンゲーム『羊の方舟』を改題、再構築されたリメイク小説とのこと。内容としてはSF。作者である西川真音は『羊の方舟』のシナリオライター、小説はこの1作のみとなりました。

『シンフォニック=レイン』でおなじみ西川真音氏&しろ氏コンビの、初のノベライズです!小説『零と羊飼い』まもなく発売!

死神のキョウ 魁

「はじめまして、死神です。あなたのことを守りにきました」「いや、殺しに来たんじゃねぇの?」笹倉恭也は不幸の神様に見込まれているのか、やたら事故や事件に巻き込まれるも、いつも間一髪での生還を果たすと評判の高校生。そんなある日、木から降りられなくなったネコを助けていた恭也の前に、自分は死神だと名乗る「鏡」という少女が現れる。災難から恭也を守ろうとしては被害を拡大させてしまう鏡との、迷惑ながらもどこか楽しいドタバタな日常。そして友人たちとの穏やかな日常。しかし、大変な事故に遭遇したとき、恭也は忘れたはずの暗い過去を思い出す…。

こちらの作者魁もゲームシナリオライター。18禁も含めて恋愛アドベンチャーゲームなどを手掛けていたようです。本作の内容はラブコメ。最終的に全6巻となりました。

ある夏のお見合いと、あるいは空を泳ぐアネモイと。 朱門優

「―ほら、わんちゃん。いつものようにお散歩、しますわよ?」ちょっぴり変わったその片田舎の町の名は、十五夜草町。そこに住まう『日輪』と、その幼なじみの『穂積之宮いちこ』。二人は実に仲睦まじい―主従関係にあった。いちこは由緒正しい神社の巫女だが、とんでもないドS巫女。輪は今日も今日とて、下僕扱いされるペットな日々を送っていた。そんないちこが突然、真っ赤な顔で申し込んできたお見合い。でも、その『お見合い』は普通とはちょっと違っていて―。

こちらの作者朱門優もゲームシナリオライター。アダルトゲーム畑の人のようです。5ちゃんねるの過去スレを見ると、一迅社文庫デビュー時点でそれなりに固定ファンはいるようでした。

一迅社文庫の告知を見ると、内容はファンタジーらしい。

ANGEL+DIVE1 十文字青

温厚を通り越し自分に害をなす相手にまで心優しい損な少年・夏彦。いつも相手のことを第一に考え、自分のことは後回しばかり。幼馴染には心配をかけ、小学生の妹には叱りつけられる毎日。そんな頼りなく受動的な夏彦が、ある日偶然出会ったトワコという少女に不思議と心惹かれてゆくことに。―しかし、出会って間もなく彼女は姿を消してしまう。釈然としない夏彦は同級生たちの力を借りて彼女の捜査に乗り出すも、同じく彼女を追っている者たちと遭遇し…!?今、運命に翻弄される少年少女たちの物語が幕を開ける。

作者は十文字青は、一迅社文庫創刊時点、すでに角川スニーカー文庫『薔薇のマリア』で人気の作家。創刊ラインナップの作家としては、杉井光とともに看板となる作家だったでしょう。

創刊ラインナップの中でタイトルにナンバリングされているのは、本作のみ。内容はSFファンタジーらしい。

黒水村 黒史郎

漆黒の森、底知れぬ闇をたたえた深い山。光なき、黒い影に囲まれた山村「庫宇治村」。単位の足りない生徒のため組まれた課外学習の一環でこの村を訪れた、立花玲佳たち七人の生徒と引率の片平教諭は、この地に隠された恐ろしい伝承と名状しがたきものの存在を目にする。そして村に黒い雨が降るとき、耐え難き苦痛の記憶とともに死んだはずの者たちが目覚める。この村に隠された秘密とは。そして、黒き雨の降る地に花咲き実る、鮮血の色をした果実「アカモロ」の正体とは何か?新進気鋭のホラー作家、黒史郎による渾身の閉鎖村ホラー、ここに開幕。

作者黒史郎は、2007年「夜は一緒に散歩しよ」で第一回『幽』怪談文学賞長編部門大賞を受賞した、バリバリのホラー系作家。現在でもホラー・怪談系の作品で活躍している。本作の内容も、もちろんホラー。

ふたかた わかつきひかる

学園いちの美少女・瑞希がトラックにはねられ事故死した―。葬式も終わり、クラスメイトたちに日常が戻りつつあったある日、その事件は唐突に起こった。「み、瑞希さんっ…ど、どうして?」なんと死んだはずの瑞希が登校してきたのだ!!そんな彼女の正体は、姉に憑かれた双子の弟・高志(♂)だった!成仏したい姉に女装を強要され、高志の学園ライフは大混乱。「こんな可愛い子が男…?」「可愛いければ性別なんて!」男女ともに大盛り上がりの中、“女装少年”になってしまった高志の運命やいかに―。

作者のわかつきひかるは、一迅社文庫創刊時点で、すでにフランス書院美少女文庫で活躍するジュブナイルポルノ系作家。一迅社文庫の前に、HJ文庫『AKUMAで少女』で一般向けライトノベルデビューしている。

本作の内容は、エロ要素をおさえたラブコメ。

創刊ラインナップから

以上の7作品が、創刊ラインナップとなります。

作家としては、すでに名の知られていたのが、電撃文庫の杉井光と角川スニーカー文庫の十文字青、ジュブナイルポルノのわかつきひかる、ホラー作家の黒史郎。それ以外の3人はゲームシナリオライターからの転身。

ライトノベルの源流ともいえる、ソノラマ文庫やコバルト文庫、アニメージュ文庫などで、アニメシナリオライターからの転身が多かったのと似ている気がします。

内容はラブコメが2作品、ホラー1作品、SF・ファンタジーが3作品、伝奇ミステリ1作品。バラエティに富んでいるといえますが、舞台が現代ものばかりで、異世界を描くガッツリしたSFやファンタジーは無し。また、アダルトゲーム系、ジュブナイルポルノから作家を連れてきている割には、エロ要素がそれほど前面に出ていないですね。

これらの創刊ラインナップを全部読んだという当時のブログや、5ちゃんねるの過去スレを読む限り、わりと好意的な作品評価が多いようです。

さて、一迅社文庫のイメージである、肌色多い路線、最初から意図していたのかどうか。これは創刊ラインナップの作家が、アダルトゲームやジュブナイルポルノ出身の作家を登用していることから、当然あったと考えるのが自然でしょう。エロを前面に押し出すようなことはないにしろ、作家自身がすでに獲得しているファンがありますので、それらの期待に答えようとするならば、エロ路線になっていくわけです。

しかし、それほど露骨なエロ路線とはならず、ほのかなエロ路線で一迅社文庫は進んでいったわけですが、結果としては9年という期間で終了となりました。ひとえに看板となる大ヒット作がでなかったというのもありますが、一迅社文庫のとった路線が受け入れられなかったとも考えられます。

しばらくは一迅社文庫作品を読んでいきたいと思っています。

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