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小幡休彌『きゃんでぃっど 乙女とカメラと地獄突き』を読んで【一迅社文庫を読む】

さて、今回も一迅社文庫作品を読んだ感想です。カメラ女子をあつかった作品はライトノベルでは、めずらしいかな?

小幡 休彌(おばた やすみ)

東京都生まれ。中央大学経済学部卒。ゲームメーカー社員、雑誌編集者を経てフリーライターに。2008年、GA文庫『超自宅警備少女ちのり』で小説デビュー。GA文庫と一迅社文庫で執筆。

GA文庫
超自宅警備少女ちのり 全2巻、2008/11~2009/3
くりぽと すくすく☆魔法少女塾 全4巻、2009/10~2010/7

一迅社文庫
きゃんでぃっど 乙女とカメラと地獄突き 2012/06
ガセジャ! 2013/2
魔神フゥリエは明日から本気出す 2013/10

※作品名をクリックすると、amazonにジャンプします。

きゃんでぃっど 乙女とカメラと地獄突き

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著者:小幡 休彌
イラスト:飯塚 晴子
文庫:一迅社文庫
出版社:一迅社
発売日:2012/06

地元の女子校への入学を機に再会を果たした環と乙羽。カメラ少女になっていた環に触発されて、オールドスタイルの銀塩カメラを買ってしまった乙羽だが、案の定、使いこなしに苦労する。
クラスメートの美少女、菫を撮りたいと言い出す乙羽に、すでに声を掛けたが、きっぱりと断られたと告げる環。そこへ休部中の写真部を再開させないか、という話が持ち上がって―。
カメラ少女たちが繰り広げるガールズコメディ開演。

読んだ感想

カメラ女子や写真部を題材にした漫画やアニメと言われれば、古くは「究極超人あ~る」や「スマイルfor美依」、アニメだと「たまゆら」などなど、わりとあるのですがライトノベルではあまり見かけることがありません。

そんなラノベでは少ない「カメラ女子や写真部」を描いた作品が、『きゃんでぃっど 乙女とカメラと地獄突き』です。タイトルの「きゃんでぃっど」は、英語で書くとCandid、「素直な、包み隠しのない、正直な」という意味であると、まえがきにあります。

そして写真のジャンルに「キャンディッド・フォト」というのがありまして、「被写体に気づかれることなく、その自然な表情を撮影した写真のこと」と、検索するとでてきます。「ハイ!チーズ!(最近は言わないか)」を合図にキメ顔で撮ったり、写真館できちんとした衣装を着てポーズをつけて撮るような写真でなく、飾りけのない自然な姿態や素顔を撮った写真のことです。これこそが、作品のテーマとなっています。

女子校を舞台にした芸術系部活モノで、雰囲気でいうとアニメも大ヒットしたマンガ『けいおん!』に似ています。それほど大きな事件の起こらない日常系ともいえます。こういう作品は男子キャラの出て来ない世界ですので、読み手が男性の場合、物語の中に投影するキャラがいなくて、いまいち世界に入り込めない方もいるかも知れません。女の子が趣味的なことについてワチャワチャしているのを俯瞰的にみられるかが、この作品を楽しめるかどうかの分かれ目でしょうか。

物語は二人の女子を中心に進んでいきます。メインとなる環(たまき)は、中学生の頃にあった、とある出来事をきっかけにフィルムカメラを愛用するようになったカメラ女子。もう一人は環と小学校5・6年生の時のクラスメートで、親友であった音羽(おとわ)。音羽は父親の都合で海外の中学校へ。高校は日本に戻り、舞台となる桜宝女学館に入学し、そこで環と再会。環の影響でカメラを買うことになり、見た目でフィルムカメラを買ってしまう。漫才でいうと、ひたすらバカっぽい振る舞いをする音羽がボケで、環はツッコミ係。副題にある「地獄突き」は、いってみればこのツッコミのこと。二人の会話で物語はテンポよく進み、読んでいて楽しい。

ただ序盤は音羽の振る舞いが、鬱陶しく感じます。特にクラスメートでのちに写真部仲間になる早綾(さあや)へのおこないはひどいもので、若干いじめっぽくも思えます。そこだけがこの作品で残念なところ。ただ、この音羽の強引ともいえる他人との距離のつめ方こそが、重要な要素となっています。

環も音羽もクラスメートたちの写真を撮る中で、学年一といって良い美少女・菫(すみれ)の写真を撮ろうとしますが、それは本人からは拒否されることに。なんとかして撮りたいけど、モデルになることを頑なに拒否しつづける菫を、どう攻略するかが物語のポイントとなります。

菫には写真に撮られたくない理由となる過去のトラウマがあり、中盤からはそれを知った環たちが解消していくことに。その方法こそが、キャンディッドフォトであったと。とにかく最初は鬱陶しく感じる音羽の言動ですが、この性格こそが中学生の時の環と音羽をつなぐきっかけであり、環たちと菫をもつなぐことになります。

意外といっては失礼ですが、中学生の環と音羽、現在の環たちと菫、菫の過去など、人とのコミュニケーションのとり方がしっかりと描かれています。写真を撮る上で重要なのは、技術ではなくてコミュニケーションであると、暗に示しているように思われます。

あとがきによると著者は、デビューする前からカメラ少女の話が書きたかったと。「女の子がきれいな手でクラシックな金属カメラとか操っているのを見ると無性にゾクゾクする」なんて、変な性癖も吐露していますが、これは照れ隠しなんじゃないかと。著者は本当にカメラや写真が好きで、この作品を書いたのだと思われます。カメラが好きというと、ウンチクあふれる物語になりそうですが、それをせず人とのコミュニケーションにフォーカスをあてることで、マニア向けの物語にはしていません。一見、ただの日常系・芸術系部活モノですが、しっかりとしたテーマを持って描かれた良作です。

カメラ好きな人には、カメラに関する話が少なくてあっさりめに感じると思います。登場するカメラは機種名は書かれていませんが、オリンパスとニコンのフィルムカメラ。両方ともマニュアルとのことで、おそらくOM-1やFM2あたりだと思われます。技術的には被写界深度とかの言葉はでてきますが、詳しくは触れられていません。この作品はそういったマニアックな楽しみをする作品ではないということです。

なお、イラストを担当している飯塚晴子さんはアニメ「たまゆら」のキャラクターデザインの人、挿絵は初めてのことですが豪華です。

続きがあっても良さそうな作品ですが、残念ながらこの1巻のみ。

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