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早狩武志『ハーフボイルド・ワンダーガール』を読んで【一迅社文庫を読む】

さて、今回も一迅社文庫作品を読んだ感想です。青春ミステリードラマと謳われている作品ですが、これはなかなかの問題作。

早狩 武志

1999年、SFアンソロジー『宇宙への帰還』内の「輝ける閉じた未来」で作家デビュー。その後はアダルトゲームのシナリオライターを中心として活動。小説はSFや架空戦記などを手掛けた。ライトノベルは、『ハーフボイルド・ワンダーガール』のみ。

ハーフボイルド・ワンダーガール

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著者:早狩 武志
イラスト:バーニア600
文庫:一迅社文庫
出版社:一迅社
発売日:2008/09

「あたし…本当はちっちゃな頃から」
ずっと好きだった幼馴染みから受ける突然の告白―そうして始まったのは、バラ色の生活ではなくって…事件だった!?
身に覚えのない嫌疑をかけられ、途方暮れる湯佐俊紀の前に現れた助っ人は、ミステリー研究会の会長・佐倉井綾であった。推理に行動に何かと大胆な綾と、沈着冷静でちょっぴりヘタレな俊紀。そんな名(迷?)コンビによる調査は始まったのだが…。

早狩武志が贈る青春ミステリードラマが一迅社文庫に登場!
はたして、俊紀は身の潔白を証明できるのか。

読んだ感想

校舎脇に呼び出され、好意を寄せる幼なじみから愛の告白かと思いきや、「ちゃんと、責任とってくれるよね」の言葉。あらすじでは青春ミステリードラマと謳われていますが、謎を解くミステリーではなく、嘘を暴くミステリー?(疑問符つき)です。以下ネタバレを含みます。

主人公・湯佐俊紀はヘタレ男子といえばよいのでしょうか。幼なじみから身に覚えもないのに「子供が出来た。責任とって」といわれても、強く否定できず悩んでしまう始末。読んでいてイライラするタイプですが、まぁ、こういうヘタレ男子が主人公でも、なんとか許容できます。

相棒となるのがミステリー研究会の会長・佐倉井綾。ミステリー研究会といっても、探偵の真似事をやっているようなもので、主に他人の恋愛の相談をしているよう。タイトルのハーフボイルド・ワンダーガールは、半熟(未熟)ながらも、驚異的な(能力を持った)少女という意味の彼女を指す言葉でしょうか。

この二人のコンビで、俊紀が好意を寄せる幼なじみで美少女の美佳がついた嘘を暴いていく物語。犯人を探すのではなく、美佳を妊娠させた相手を探す物語です。ヘタレ男子は置いておき、探偵役の綾が魅力的です。好奇心旺盛で他人に興味津々、そして行動力もあります。いかにも学園ミステリの探偵役といった風情です。ただ、色々と偉そうなことをいうものの、自身の言動に反省したりするなど、探偵になりきれない姿もよく描かれています。

しかし、いくら行動的だといっても、調査のために俊紀といっしょにラブホテルに行くのは全くおかしな行動で、これには編集関係から指示があったのかと思ってしまいます。それに口絵でもこのシーン、しっかりと描かれていて、このあたりがいかにも一迅社文庫といったところなのでしょうか。

この作品がミステリーと謳うなら一番の問題なのが、美佳がついた嘘に大した謎がないこと。なぜ嘘をつくのかが最大の謎なわけですが、ここがイマイチ理解できませんでした。まぁ、青春のあやまちってことにしても良いのですが、最初から正直に話したほうが、多分家族的にはスムーズに話が進んでいたでしょうに。それなら物語にならないのですが、この物語自体のきっかけに問題があるともいえるのかと。

この物語の最大の欠点は、この嘘をつく少女が全く魅力的に思えないことでしょうか。主人公自身が犠牲になってでも守りたくなるような少女なら、もう少し物語に共感を覚えたかもしれませんが、読者からそう思えるようなエピソードがまったくないのですよね。主人公もこの少女に惹かれている理由が、幼なじみだから、美少女だからで終わっているような気がします。もう少し小さい頃のエピソードで関係性をしっかりと描いていればと。ただ、そうなってくると主人公の亡くなった兄のこと、美佳の妹の由香のことも関わってくるので、ネタバレにも繋がりそうで難しいでしょうか。

なににせよ妊娠させた相手を隠すために、主人公を犠牲にしようとするこの少女が恐ろしいです。主人公の好意、そして強くなれない性格をわかった上での行為に。そして、妊娠させた相手を探りに来た綾には、綾が俊紀に好意を持っているのをわかったうえで、子供が大きくなる18年後まで(俊紀を)貸してくれとまで言っています。なんという恐ろしさ。ここで気づきました。タイトルのハーフボイルド・ワンダーガールはこの少女のことなのかと。半熟なのは探偵として驚異的な能力を持った少女ではなくて、この驚くべき少女のことかと。ワンダー(wonder)の意味としては、”驚くべき”ととらえるのが自然でした。

amazonや読者メーターのレビューを読んでいても賛否両論、やや否が多いといったところでしょうか。最後は綾と俊紀の関係性でうまくまとめているので、そこまで読後感は悪くないのですが、やっぱり私もスッキリとしませんでした。でも、このあと綾と俊紀のバディもの、学園ミステリーとして話が続いたら面白いかもしれないと思いました。ヘタレ男子・俊紀の成長と、魅力的な探偵役・綾の物語なら面白いかもと。むしろ普通の学園ミステリーとして、先に綾と俊紀のバディ物語があって、コンビ結成秘話としてこの物語があれば、また違った見え方が出来たかもしれない。いきなりこの物語は、ちょっときつい、そんなふうに思いました。

著者はあとがきで「幸福感に包まれながら安らかな眠りにつけるような物語が書きたい」として、この物語を書いたとあります。これを読んで幸福感を感じる人は少数派のような気がします。著者はアダルトゲームのシナリオライターですので、ふだんはよっぽど歪んだ世界を描いているのかなと、ふとそんな偏見じみた思いを感じました。

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