さて、今回はシェアード・ワールド・ノベルズである、妖魔夜行シリーズ1作目『妖魔夜行 真夜中の翼』を読んだ感想です。
先日、縁あって某中古本チェーン店にて、『妖魔夜行』シリーズ全17巻中15巻を手に入れることができました。比較的きれいな状態で、大事に保管していたのを手放されたのでしょう。この作品は参加メンバーに山本弘や友野詳といった人気作家もいて、以前から気になっていた作品だったので、まとめて購入した次第です。
真夜中の翼
著者:山本 弘、下村 家恵子、友野 詳
イラスト:青木 邦夫
文庫:角川スニーカー文庫
出版社:角川書店
発売日:1993/09
あなたは、こんな噂をきいたことはありますか―。東京・渋谷の一角に、不思議なバーがある。そこへいけば、人間の力では解決できない奇妙な事件を解決してくれるという。なぜなら、そこにいるのは人ではなく…。今日も、そんな噂を頼りに、人知れず悩みを抱えた少女が渋谷の街に迷い込んだ。内気な女子高生・守崎摩耶の誰にも言えない秘密とは…。(第一話「真夜中の翼」)。コンプRPG誌上で好評連載中の「妖魔夜行」小説シリーズ、初の文庫化。山本弘、下村家恵子の連載作品に、友野詳の書下しも加えた豪華第1弾。
収録作
真夜中の翼 / 山本 弘(初出:コンプRPG vol.1 1991.11.30刊)
幽霊列車 / 下村 家恵子(初出:コンプRPG vol.2 1992.03.31刊)
血の望み / 友野 詳(描き下ろし)
妖怪ファイル
あとがき / 安田 均
読んだ感想
第1話 真夜中の翼 / 山本 弘
夜になると自室のテレビに、自身が出演しているポルノ動画が映るという女子高生・摩耶。原宿の占い師に相談して紹介されたのが、渋谷の一角にある不思議なバー〈うさぎの穴〉だった。そこで悩みを打ち明けると……
妖魔夜行の第1話として〈うさぎの穴〉主要メンバーが紹介されます。事件の対応に当たるのは、見た目は10代の少女・井神かなた。テレビに取り付く妖怪うわべり、事件の原因となる夢魔が登場します。
妖怪が社会を乱すというわけではなく、スニーカー文庫の対象者である中高生くらいが、興味を持てるような妖怪の関わり方になっています。民俗学的な要素はなくて、アクションシーンが見せ場となっているあたりは、ゲゲゲの鬼太郎的な感じといえばよいのでしょうか。
シリーズ最初の作品とあって、わかりやすい面白さのある作品だなと感じました。
第2話 幽霊列車 / 下村 家恵子
夜の2時に誰もいない地下鉄の駅を走る幽霊電車。そんな都市伝説のような話をもとにした物語。友人が幽霊列車に乗って行ってしまい、かれを探す大学生の主人公・浩二。電車の写真撮影を趣味とする兄が行方不明となってしまった少女・ゆかり。深夜の駅に潜り込んだふたりは幽霊列車に乗り込むことになるが……
第1話で原宿の占い師として名前の出ていた霧香と助手の加藤が登場。現実逃避したい人間を取り込む船頭鬼と戦うことになります。占い師の設定の霧香が能動的に動くのにちょっと戸惑いを持ちましたが、若者の夢と挫折、親との軋轢などを描いた物語になっています。
第3話 血の望み / 友野 詳
第1話に登場した摩耶が通う塾での噂話に興味を持った〈うさぎの穴〉のメンバーは、加藤をアルバイトとして塾に忍ばせることに。塾にいたのはろくろ首ならぬ……
妖怪である加藤と塾に通う少女・沙菜との恋愛を絡めた物語になっています。
まとめ
ホラー的な怖さはあまりなくて、妖怪と戦うアクション的な物語の印象が強く残りました。短編3つということで、読み応えのあるものというより、三者三様の多彩さを感じる1冊です。世界観は同じでも作者によって見せ方が違うあたりが、シェアード・ワールド・ノベルズの特徴なのでしょう。
全体的な印象は今のところ、ゲゲゲの鬼太郎の中高生版といったところでしょうか。青春模様や恋愛なども絡めていますが、思っていたよりコクが無いというか、あっさり目の物語というか。このあたりは短編だから仕方がないのかもしれません。
〈うさぎの穴〉に集うメンバーがもっと様々に絡み合う、読み応えのある物語が欲しいと思いました。次巻が山本弘の『悪夢ふたたび……』という長編なので、そちらに期待したいと思います。
妖魔夜行とは
妖魔夜行(ようまやこう)は、1991年から2000年にかけてグループSNE所属の小説家を中心に複数の作家によって書かれ角川スニーカー文庫より発刊された、現代の日本を舞台に、基本設定、登場キャラクター、作品間の時間軸を共有するシェアード・ワールド・ノベルズです。
大半のエピソードでは、渋谷の一角にある妖怪たちが集うバー〈うさぎの穴〉に出入りする妖怪が主人公で、妖怪が原因となった事件を解決していきます。各エピソードの内容は、ホラーを基本としていますが、アクション、パロディ、人間ドラマ、SFなど多岐にわたります。
2000年で終了しましたが、2011年山本弘『闇への第一歩』で復活。しかし、それ以降動きはありません。