さて、今回も山本弘作品を読んだ感想です。ハードSFの傑作という評判も聞こえてくる『時の果てのフェブラリー―赤方偏移世界』を読んでみました。
時の果てのフェブラリー―赤方偏移世界
著者:山本 弘
イラスト:結城 信輝
文庫:角川スニーカー文庫
出版社:角川書店
発売日:1989/12
読んだ感想
感想の前にまず、ハードSFについて。私は4~5年くらい前まで、間違った認識をしていました。ハードSFって壮絶な感じであったり、重い内容だったりと、ライトSF(軽い読み口、コメディタッチ)に相対するものだと思っていたのです。ハードボイルド的な印象と言ったら良いのでしょうか。
で、Wikipediaなどで調べてみると、私の思っていたのと違って「科学的知識に基づいたもの」を指すみたいです。現象に対して”ただそういうもの”とするのではなくて、科学的な裏付けを必要とするといったことでしょうか。いろいろ他にも定義があるようですけど、複数のサイトで確認すると内容の重さ軽さではないのは確かです。
で、この今回読んだ『時の果てのフェブラリー』はハードSFでした。読んでいて最初は、かなり理屈っぽいなぁと思いました。タイトルにでてくる赤方偏移とかよくわからないし。また父と娘のやり取りがまどろっこしいとも。だから前半はかなり読んでいて、これはちょっと…… なんて思っていたのですが、〈スポット〉に突入してから、俄然面白くなってきました。
しっかりとした理屈付けがあった上で、それを解明していく面白さといえばよいのでしょう。風の向きや重力などなど、最初は読んでいて疲れましたが、それらにはすべて意味があり、物語の展開にも関わってきます。あぁ、これがSFだったんだな、と改めて思い出した次第です。
途中、11歳の少女になんてことするんだというシーンも有りましたが、父と娘の関係もしっかりと意味がありました。まどろっこしく感じた前半のやり取りも、最後にきちんと回収されていて、ちょっと感動しました。
これがスニーカー文庫で出版されたのが、今となっては驚きです。ハヤカワ文庫JAなんかから出ていてもおかしくないSFだなぁと。ただ、少女を主人公にして、親子の関係をしっかりと描いているということから、ジュブナイルSFという考えもできるでしょう。それなら若者向けのスニーカー文庫から出版された意味もわかります。
これはおすすめです。
なお、この作品は2001年に徳間デュアル文庫から新装版が出版され、その際に全面改稿されているようです。現在は電子書籍でも読むことができますが、スニーカー文庫版なのか、デュアル文庫版なのかは不明です。