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瀬川ことび『厄落とし』を読んで【ホラーを読む】

さて、今回は珍しくホラー小説を読んだ感想です。

先日読んだホラーアンソロジー『悪夢制御装置』の中に、怖くないホラー、青春ホラーとでもいうべき作品が収録されていて、その作者、瀬川ことび氏に興味を持ったわけです。

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瀬川ことび

瀬川 貴次(せがわ たかつぐ)の別名義。1991年スーパーファンタジー文庫の『闇に歌えば』でデビュー。スーパーファンタジー文庫、コバルト文庫などで活躍。その後は一般文芸でも多数出版。代表作に『ばけもの好む中将』シリーズなど。

瀬川ことび名義では、1999年に「お葬式」で第6回日本ホラー小説大賞短編賞で佳作を受賞し、角川ホラー文庫でデビュー。角川ホラー文庫で6作、トクマ・ノベルズで1作発表するも、現在ではこの名義で活動していない模様。

厄落とし

著者:瀬川ことび
文庫:角川ホラー文庫
出版社:角川書店
発売日:2000/09

その夜、年明けの挨拶回りにつきあわされ、くたびれ果てて帰宅した恭子を待っていたのは、高校時代のクラスメイト、恵からの電話だった。
「お正月早々に墓掘りすることになったんよ」―。
表題作「厄落とし」をはじめ、青春ホラーの傑作短編5編を収録。第6回日本ホラー小説大賞短編賞「お葬式」につづく、待望の書き下ろし。

読んだ感想

厄落とし

年明けて仕事初めの日、学生時代からの親友・恵からの電話があり、恵の実家で正月早々にあった墓掘りの話を聞かされる恭子。その日以降、恭子が入浴すると湯船の中に、何かが見えるようになる。恵から厄を押し付けられた恭子だが、その結果お肌がツルツルになり、仕事場では同僚から美容法について質問攻めにあう始末に……

恐怖体験を描きつつも、厄を押し付けあう姿が終始ユーモアをもって描かれています。主人公が怖がりつつも、どこか飄々としている姿が面白くて良いですね。

テディMYラブ

奥さんの作った大量のテディベア人形が、奥さんの留守の日に襲ってくる話。と書けば、映画「チャイルド・プレイ」のようなものを想像するかもしれませんが、そこは瀬川ことび、決して怖くなりません。会社の部下に電話でクマの倒し方を聞くくだりなんかは、笑ってしまいます。

なんとか今回の事態は防げたものの、人形をメチャクチャにされた奥さんは……

さらなる事態を感じさせつつも最後の一文に、この家庭の行く末はいい感じになるんだろうと思わせます。

ところでこの作品で初めて、鉗子(かんし)という言葉と道具を知りました。医療ドラマなんかではよくでてくる、ハサミみたいなやつ、鉗子っていうのかと。

初心者のための能楽鑑賞

会社の同僚女性・由希子から能楽鑑賞に誘われ見に行くことになりますが、鑑賞中に寝てしまう。意識がはっきりしない状態で感じる、隣の席に座る人の気配。しかし、そこには誰もいなかった……

能楽鑑賞中の不思議な体験を描いた話。ホラーって怪奇とか恐怖とかっていう意味ですが、こちらは幻想小説といった感じです。それにしても瀬川ことび作品に登場する女性って、(見た目的な意味でない)可愛らしさを持っていて好感が持てます。

形見分け

千賀子の母が貰ってきた、友人の姑の形見分けの品物。部屋のスペースを埋めるそれらの品物に最初はうんざりする千賀子でしたが、そのモノの美しさに徐々に惹かれていきます。ある日、三面鏡に映る母の姿を見かけるものの、母はいません。また、廊下を走る足音を聞くのですが、妹は家にはいなかった……

形見分けとしてもらってきた品々の因縁と物や家を継ぐ覚悟を、不思議な現象を通して描いています。こちらも恐怖要素はなくて幻想的です。

戦慄の湯けむり旅情

冥土温泉に三途旅館という、いかにも怪しげな秘湯の温泉宿で起こる戦慄の出来事! なんですが怖がらせるポイントがちょっとずれているところに面白さがあります。事故にあっても死なずにそのまま旅行を続けるという不条理さがあって、ホラー的な事象をネタにしたパロディというかコメディになっています。

昔読んだ、筒井康隆の短編集を思い出しました。そこまでブラックではないですけど、不条理コメディ的な意味で。

まとめ

あらすじには”青春ホラーの傑作短編5編”なる文言がありますが、どれも”青春”って感じではありません。ここだけ気になります。

収録された作品全体にいえるのは、やはり怖くないということ。ホラー文庫で怖くないのはどうなのよ? と思いますが、これはこれでひとつのスタイルになっていて、非常に面白いのではないかと思います。

ただ私がそうであったように、ホラー小説ってちょっと…… という人間はこの作品に手を出さないであろう事を考えれば、ホラー文庫で出版するより、別の文庫のほうが良いのにと思ってしまいます。普通の角川文庫から出版されれば、筒井康隆的不条理コメディ作品、もしくはユーモアホラー的な評価をされるんじゃないかと思うのです。

全体的に登場する女性のキャラクターが、どこか飄々としていて好感が持てますし、作品からは恐怖的事象が起こっているにも関わらず、優しさや温かみを感じるのは私だけでしょうか。

もっと瀬川ことび作品を読みたくなりました。

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