今回は山本弘氏の日本初の本格ビブリオバトル小説、BISビブリオバトル部シリーズについてです。
現在単行本で4冊出版されているのですが、あまりにも面白くて1週間もかからずに、一気読みしてしまいました(図書館で借りました)。物語の面白さもあるのですが、取り上げられるタイトルも興味深いものが多く、紹介されている本が読みたくなってくるのです。
読み終えた後に紹介されていた本が気になったので、今後の参考のためにもビブリオバトルで取り上げられたタイトルをまとめておこうと考えました。登場するタイトルを知ることでネタバレになるものもあります。未読の方はご注意ください。
BISとは
BISは美心国際学園(Bishin International school)の略で、ビーアイエスと読みます。第3巻のあとがきによりますと、ビスと読む人が多いため3巻からルビをつけたとのこと。
インターナショナルスクールの場合は、〇〇アイエスと読むことが多いそうです。でも、雑誌bisとか、アイドルグループBiSがあるので、どうしてもビスって言ってしまいますね(笑)
ビブリオバトルとは
簡単に言うと、好きな本を持ち寄って行う書評合戦。Wikipediaによると、”京都大学情報学研究科共生システム論研究室の谷口忠大によって考案される”とのこと。現在はビブリオバトル普及委員会が結成され、ホームページで詳細を見ることができます。
ビブリオバトル公式ルール
- 発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。
- 順番に一人5分間で本を紹介する。
- それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2~3分行う。
- 全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員一票で行い,最多票を集めたものを『チャンプ本』とする。
ビブリオバトル普及委員会HPより
詳細についてもありますが、BISビブリオバトル部シリーズ各巻冒頭でも確認することができます。
翼を持つ少女 BISビブリオバトル部
出版社:東京創元社
装画:pomodorosa
初版:2014/12/26
中高一貫の美心国際学園(BIS)の高等部へ編入した、SF小説が大好きな15歳の少女・伏木空は、SFに理解のない同級生・埋火武人に誘われ、ビブリオバトル部に入部、個性的な五人の仲間と活動を始めるが…。「彼にSFを好きと言わせたい!」日本初の本格的ビブリオバトル青春小説。
文庫本では上下巻に分冊されるくらいボリュームのある第1巻。登場人物や背景、ビブリオバトルの紹介もあるので、これくらいのボリューム(単行本は400ページ)があって当然!
ビブリオバトルは3回行われます。それぞれ取り上げられた本を紹介します。タイトルをクリックすると、amazonにジャンプします。
校内ビブリオバトル
- 埋火武人 ザビーネ・キューグラー『ジャングルの子―幻のファユ族と育った日々』
- 安土聡 松本 修『全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路』
- 菊池明日香 都筑 卓司『不確定性原理―運命への挑戦』
- 輿水銀 今本 淳『ウミウシ―不思議ないきもの』
- 小金井ミーナ 荒川 稔久『小説 仮面ライダークウガ』
校内ビブリオバトル テーマ〈昔〉
- 伏木空 エドモンド・ハミルトン『反対進化』
- 安土聡 大倉 幸宏『「昔はよかった」と言うけれど: 戦前のマナー・モラルから考える』
- 小金井ミーナ 一本木 蛮『同人少女JB』(全4巻完結)
- 埋火武人 移民研究会『戦争と日本人移民』
- 菊池明日香 ローレンス・クラウス『宇宙が始まる前には何があったのか? 』
Vs.双子沢高校社会学研究会 テーマ〈この世界〉
- 菊池明日香 ルーカ&フランチェスコ・カヴァーリ‐スフォルツァ 『わたしは誰、どこから来たの―進化にみるヒトの「違い」の物語』
- 加治木哲秋 ジョン・ハンター『小学4年生の世界平和』
- 埋火武人 アンネ・フランク『増補新訂版 アンネの日記』
- 楯山剛 棄権
- 伏木空 エドモンド・ハミルトン『フェッセンデンの宇宙』
- 蟹江隆世 H.G.ウェルズ『世界史概観』
読んだ感想
第1章「エドモンド・ハミルトンは健全です」からいきなり多数のSF小説のタイトル・うんちくが語られ、SFファン以外はちょっと引いてしまうかもしれません。そこはある程度流し読みでも構わないでしょう。主人公である伏木空のSF小説への愛と受け取りましょう。
中盤では伏木空、埋火武人それぞれの過去・トラウマが語られます。SFとノンフィクション、趣味は違えど根っこは似ているようです。
双子沢高校とのバトルが決定してからが、若干不穏な空気。ヘイトや差別意識、それらに対抗しようとするBISの面々、どっちもどっち。読んでいてちょっと嫌な気分がしましたが、朝日奈先生の一喝で救われます。
部活青春モノとしても、オススメ本紹介モノとしても面白いです。特にSFや特撮好きには刺さる物語でしょう。もうひとつ裏のテーマとして読んでいて感じたのは、フィクションとノンフィクションの対立。伏木空と埋火武人の対立でもあります。SF作家である著者は、この対立にどういう結末を用意するのか楽しみです。
こちらはすでに文庫化されています。ボリュームがあるので、上下巻に分冊されています。表紙のイラストが変わっているのが残念。ちょっと大人しくなってしまっています。
幽霊なんて怖くない BISビブリオバトル部
出版社:東京創元社
装画:pomodorosa
初版:2015/06/26
美心国際学園(BIS)ビブリオバトル部のメンバーは、雑学本、ボーイズラブ、科学関係、ノンフィクション、SFなど、それぞれ得意分野について語り出すと止まらない個性派揃い。夏休み、造り酒屋を営む部員の家で合宿が開かれる。お楽しみは夜、ロウソク一本の明かりだけで行われるビブリオバトル。テーマはもちろん“怖い話”。さらに、合宿明けの八月には、“戦争”をテーマに公共図書館でビブリオバトルを実演することに。部員たちは体験したことのない“戦争”に、本を通してどう向き合うのか。
今回は部活モノにはお馴染み、合宿から。埋火家で〈恐怖〉をテーマにバトります。そして図書館からの依頼でおこなうバトルのテーマは〈戦争〉。どちらも夏の定番の題材です。
ビブリオバトルは2回、それぞれ取り上げられた本を紹介します。タイトルをクリックすると、amazonにジャンプします。
埋火家合宿 テーマ〈恐怖〉
- 伏木空 ジョン・ウィンダム『時間の種』
- 小金井ミーナ 小野 不由美『魔性の子 十二国記0』
- 安土聡 鉄人社編集部編『死ぬほど怖い噂100の真相』
- 埋火武人 今野 晴貴『生活保護―知られざる恐怖の現場』
- 輿水銀 久 正人 『びっくりモンスター大図鑑―知識の泉へようこそ!』
- 菊池明日香 藤野 恵美『七時間目の怪談授業』
八俣町図書館エキシビジョン テーマ〈戦争〉
- 輿水銀 宗田 理『ぼくらの太平洋戦争』
- 菊池明日香 デーヴ・グロスマン『戦争における「人殺し」の心理学』
- 安土聡 マクスウェル・テイラー・ケネディ 『特攻 空母バンカーヒルと二人のカミカゼ―米軍兵士が見た沖縄特攻戦の真実』
- 伏木空 筒井 康隆『馬の首風雲録』
- 埋火武人 山本 美香『戦争を取材する─子どもたちは何を体験したのか』
- 小金井ミーナ 中島 三千恒『軍靴のバルツァー』(既刊14巻)
読んだ感想
物語の中では夏休み中、夏らしく〈恐怖〉と〈戦争〉がテーマです。今巻ではビブリオバトルよりも、第3章「もし幽霊もいるなら私のところに来なさい!」における武雄と空のシーンが印象的でした。
そして〈戦争〉という重いテーマ。ノンフィクション派の武人は、戦争をゲームやフィクション小説で扱うことに疑問を呈します。ノンフィクションにおける人の命とフィクションにおけるそれは等価なのか? その疑問にBISの他の面々は自身が好きな本、オススメしたい本を語ることで答えていくことに。
前巻にもあった、武人の偏狭さや若さが垣間見えます。ノンフィクションでしか描けないこと、フィクションだからこそ描けることがあるのは当然といえば当然。章題の「だからこそ現実にしたいじゃない。本当はきれいごとがいいんだもん」が響きます。
今回のバトルの中で読んだことがあるのが小野 不由美『魔性の子 十二国記0』だけ、藤野 恵美『七時間目の怪談授業』と宗田 理『ぼくらの太平洋戦争』、それに筒井 康隆『馬の首風雲録』が読んでみたいと思いました。
こちらも文庫化されています。
世界が終わる前に BISビブリオバトル部
出版社:東京創元社
装画:pomodorosa
初版:2016/02/29
ライバルの真鶴高校ミステリ研究会と交流試合を行なうことになった美心国際学園(BIS)ビブリオバトル部。しかしミステリ研会長の早乙女寿美歌は圧倒的なプレゼン力と膨大なミステリの知識を持つ強敵で、周囲は振り回されるばかり。両校のビブリオバトル対決の行方は?寿美歌の個性的なキャラクターの陰に隠された素顔とは?空がコミケに初参加する番外編「空の夏休み」を併録。
コミケを描いた番外編「空の夏休み」にはビブリオバトル無し。コミケ後の打ち上げでそれぞれが好きな本を語るシーンがありますが、こちらは特撮マニア向け? 朝日奈先生が大活躍します。
本編は対戦相手がミステリ研究会ということもあり、ミステリー小説をメインとしたビブリオバトルが展開されます。物語自体もミステリー仕立てです。
ビブリオバトルは2回、それぞれ取り上げられた本を紹介します。タイトルをクリックすると、amazonにジャンプします。
Vs.真鶴高校ミステリ研究会 テーマ〈罪〉
1回戦
- 埋火武人 管賀 江留郎『戦前の少年犯罪』
- 帆村流歌 乾 くるみ『イニシエーション・ラブ』
- 輿水銀 時雨沢 恵一『男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。』(全3巻完結)
- 帆村詩歌 詠坂 雄二 『電氣人閒の虞 』
2回戦
- 早乙女寿美歌 アントニイ・バークリー『毒入りチョコレート事件』
- 小熊穣 東野 圭吾『超・殺人事件』
- 伏木空 新井 素子『ひとめあなたに…』
- 菊池明日香 『本当は間違っている心理学の話: 50の俗説の正体を暴く』
市立図書館南平川町分室エキシビジョン テーマ〈少年少女のためのミステリービブリオバトル〉
- 帆村詩歌 高木 敦史 『“菜々子さん”の戯曲 Nの悲劇と縛られた僕』
- 小熊穣 辻 真先『仮題・中学殺人事件』
- 帆村流歌 桜庭 一樹 『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet』
- 早乙女寿美歌 芦辺 拓『電送怪人―ネオ少年探偵』
- 伏木空 静月 遠火『パララバ-Parallel lovers-』
読んだ感想
前2巻に比べてエンタメ小説が多く登場。武人や明日香が勧める本には、いまいちピンとこない私には、今巻で紹介されている本がしっくりきます。既読本もありますが、どれも面白そう。
今巻では早乙女寿美歌という強烈な個性の少女が主役と言っても良いかもしれません。ミステリ仕立ての物語になっていて、ラストの2段落ちには驚かされました。また前巻の終わりのエピソードがあったからか、武人がやや軟化してきているように思えます。桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』に対する感想はそのあらわれかなと。
いずれにしても次巻は恋のバトル小説に突入しそう?
こちらも文庫化されています。
君の知らない方程式 BISビブリオバトル部
出版社:東京創元社
装画:pomodorosa
初版:2017/08/25
秋学期が始まり、“校内コスプレ大会”ワンダー・ウィークで盛り上がる美心国際学園(BIS)。ビブリオバトル部も、地区大会出場者を決めるバトルに向けて、日々の活動に力を入れていた。一方、空をめぐって対立することになった武人と銀は、周囲に秘密の“決闘”で決着をつけようとしていた。しかし、空は…。本格的ビブリオバトル青春小説シリーズ。
前回終わりでの輿水銀の伏木空への告白から、物語は一気に恋愛小説へ。
ビブリオバトルは2回、それぞれ取り上げられた本を紹介します。タイトルをクリックすると、amazonにジャンプします。
校内ビブリオバトル テーマ〈マンガ〉
- 安土聡 唐沢 なをき『マンガ極道』
- 菊池明日香 西餅『ハルロック』
- 小金井ミーナ 竹宮 恵子『私を月まで連れてって!』
- 伏木空 萩尾 望都『ウは宇宙船のウ』
- 埋火武人 にしかわたく(絵)、岡本まーこ・常岡浩介(文)『常岡さん、人質になる。』
- 輿水銀 速水螺旋人『速水螺旋人の馬車馬大作戦』
校内ビブリオバトル inワンダーウィーク
- 安土聡 友利昴『それどんな商品だよ! 本当にあったへんな商標』
- 輿水銀 宮澤伊織『ウは宇宙ヤバイのウ! ~セカイが滅ぶ5秒前~ 』
- 菊池明日香 NATROM『「ニセ医学」に騙されないために 危険な反医療論や治療法、健康法から身を守る! 』
- 埋火武人 ティーナS. 、ジェイミー・パスター ボルニック 『ティーナ16歳、トンネルの中の青春―ホームレス生活からの脱出』
- 伏木空 アーネスト・クライン『ゲームウォーズ』(上下巻)
- 小金井ミーナ 平坂読『ラノベ部』(全3巻)
読んだ感想
今巻では伏木空を巡る恋愛がメインです。そこに過去のいじめ問題も絡まり、空の恋に関する決断はいかに!という物語。結末は予想外でした。若干、空の考え方が理解できないというか、SF好きな普通の女の子かと思っていたのに、わりとぶっ飛んだ考えの子だなと。
ビブリオバトルでは、『ウは宇宙ヤバイのウ! ~セカイが滅ぶ5秒前~ 』と『ラノベ部』2つのラノベが取り上げられていますが、これらよりもっと重要な存在として、伏見つかさ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』がネタバレも含めて作中で語られています。
著者あとがきによると、今回のテーマは主にマンガとライトノベルとのこと。それに表現規制のことにも触れられています。ただ、物語の内容はそれほど堅苦しくなく、楽しく読むことができます。
今回登場した作品では、ビブリオバトル作品ではない、伏見つかさ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』とトム・ゴドウィン『宇宙のサバイバル戦争』が気になりました。
文庫化はされていません。
第5部『夢は光年の彼方に』
web東京創元社マガジンにて、第5部が4話まで公開されています。
前巻エピローグに登場した、もうひとりのSF少女・飯田狩菜。彼女のバックボーンが第1話で語られます。そして、BISの校内ビブリオバトルでは、関東・甲信越地区予選に出場するBISメンバーが決定。意外な形で、空と狩菜は出会うことに。
掲載第3話でビブリオバトルが行われています。取り上げられた本を紹介します。タイトルをクリックすると、amazonにジャンプします。
校内ビブリオバトルin文化祭
- 輿水銀 小林 雄次『ウルトラマン妹』
- 小金井ミーナ 『オタクの逝き方』
- 安土聡 ミヒャエラ・フィーザー『西洋“珍”職業づくし―数奇な稼業の物語』
- 埋火武人 鈴木邦男『失敗の愛国心』
- 伏木空 アーサー・C・クラーク『渇きの海』
- 菊池明日香 オスカル・プフングスト『ウマはなぜ「計算」できたのか―「りこうなハンス効果」の発見』
読んだ感想
前巻でも感じていたのですが、空という少女、ちょっと思っていたのと違うなと。否定するつもりは全く無いですが、ちょっとラノベっぽい展開だなと感じています。
空と狩菜の意外な形での出会い・共感、これらはどうなっていくのか。続きが待ち遠しい。
なお、山本弘さんは2018年に脳梗塞で入院、無事退院するも、なかなか元のように小説が書けないようです。詳しくはカクヨム掲載のリハビリ日記を参照してください。
続きが書かれることをいつまでも待っています。