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筒井康隆 ジュブナイルSFまとめ

さて、今回は小説の話です。

今年4月10日、大林宣彦さんが亡くなられました。その追悼番組として、6月8日にBSプレミアムで映画「時をかける少女」が放映されました。今さら説明もいらないと思いますが、原田知世主演のジュブナイルSFの名作映画です。何度も見た映画なのですが、やはり面白い。そして映画を見た後は、原作を読みたくなりました。

私の大好きな眉村卓はジュブナイルSFをたくさん書いています。それに引き換え名作「時をかける少女」を書いた筒井義隆のジュブナイルSFは、意外と少ない。本を読みながらそんなことを考えていました。

それならば、改めて筒井義隆のジュブナイルSFを調べてまとめてみようと。

 

筒井康隆

筒井 康隆(つつい やすたか、1934年(昭和9年)9月24日 – )は、日本の小説家・劇作家・俳優である。ホリプロ所属。身長166cm。小松左京、星新一と並んで「SF御三家」とも称される。パロディやスラップスティックな笑いを得意とし、初期にはナンセンスなSF作品を多数発表。1970年代よりメタフィクションの手法を用いた前衛的な作品が増え、エンターテインメントや純文学といった境界を越える実験作を多数発表している。

出典:Wikipediaより

今や文豪然とした筒井康隆ですが、デビュー時はSF作家でした。当時のSF作家は発表の場も限られていたため、活躍の場となったのが、ジュブナイルの世界。60~70年代の学年誌(旺文社の「中○時代」「高○時代」、学研の「中○コース」「高○コース」など)に、作品が発表されました。

改めて筒井康隆のジュブナイルSFを調べてみると、やはり多くはありません。すでに持っていた角川文庫の3冊に加え、未単行本化作品を集めた1冊で全て網羅することができました。なお、角川文庫では、小学校低学年向けの童話集もSFジュブナイルと銘打たれていますが、対象年齢が違うので今回は外しております。

ジュブナイル作品の発表年

作品数も少なく、単行本「細菌人間」の解説で発表媒体と発表年がまとめられていたので、ここに記しておきます。

悪夢の真相 「中二コース」 64年9~12月 ○
10万光年の追跡者 「ボーイズライフ」 65年2月 ▲
四枚のジャック 「ボーイズライフ」65年4月 ▲
時をかける少女 「中三コース」 65年11月~「高一コース」66年5月 ○
細菌人間 「週刊少年サンデー」 66年3月13日~7月10日 ▲
闇につげる声 「中三コース」66年5~10月 ▲
W世界の少年 「中二時代」66年11~67年3月 ▲
果てしなき多元宇宙 単行本「時をかける少女/盛光社」書下し 67年3月 ○
白いペン・赤いボタン 「高一コース」 67年9~11月 ●
マッド・タウン(→緑魔の町) 「週刊少年サンデー」 67年12月10日~68年3月3日 △
超能力・ア・ゴーゴー 「高一コース」 68年3月~「高二コース」68年5月 ●
デラックス狂詩曲 「高一コース」 68年5月~7月 ●
暗いピンクの未来 「高一時代」 68年9~11月 ●
ミラーマンの時間「いんなあとりっぷ」 70年8~12月 ●

これ以外には「高三コース 66年12月」に発表された「慶安の変始末記」が、「慶安大変記」として「SFマガジン」に転載、「SFマガジン」に掲載された「ベトナム観光公社」が「高一時代」に再録されているとのこと。

○:角川文庫「時をかける少女」収録、●:角川文庫「ミラーマンの時間」収録、△:角川文庫「緑魔の町」収録、▲:出版芸術社「細菌人間」収録

童話や絵本、ショートショートは省いています。

時をかける少女

収録作品の簡単な解説です。角川文庫「時をかける少女」には中編「時をかける少女」と短編「悪夢の真相」「果てしなき多元宇宙」の計3作が収録されています。

 

時をかける少女

何度も映画化にドラマ化された、名作中の名作ジュブナイルSFです。映画では尾道の町の情景が印象的ですが、原作ではそういった要素は全くなくて、シンプルなタイムリープものです。

悪夢の真相

般若の面がなぜか怖い、夜中トイレに行くのが怖い、橋を渡るのが怖い。これらの恐怖の正体は何かを探る、人間の深層心理についての物語。なぜか怖いと感じることにも原因があると教えてくれるジュブナイル作品。

果てしなき多元宇宙

パラレルワールドものの作品。未来の事故により似て非なる平行宇宙に飛ばされてしまう女の子の話。飛ばされた先では、自分の望むことがかなった世界ではあるが…

収録されている作品は、今から見ると筒井康隆らしくない素直な作品ばかり。「時をかける少女」を読みたいと思った人にも受け入れてもらえるであろう、ジュブナイル作品です。現在は新装版になっていて、江藤茂博の解説が収録されています。

つばさ文庫版は「時をかける少女」以外の収録作が違います。短編「時の女神」「姉弟」「きつね」を収録。

緑魔の町

シンプルな侵略ものSF。乗っ取られたお母さんが正体を見せるシーンや宇宙人の姿を描く描写が素晴らしい。自身の存在を否定された後の行動や、ラストシーンなど現在読んでもなかなか楽しめます。

筒井康隆ジュブナイルに登場する宇宙人といえば、オリオン星人が定番ですが、こちらの作品に登場するのはアンタレス人。

ミラーマンの時間

上の2作品と違い、筒井康隆らしいブラックな風味というか、毒のある作品が収録されています。これらは高校生向けの雑誌に掲載されたものなので、中学生向けよりは一般向け作品に近いテーストといえるでしょう。

暗いピンクの未来

絵描き志望の高校生が未来へタイプスリップすると、服飾デザイナーになっている。未来ではコンピューターによるファッションデザインが台頭してきていた。人によるデザインvsコンピューターによるデザインが、テレビ番組で対決することになる。

タイムスリップものではあるが、過去に戻ろうと奔走せずに、受け入れてしまうというのがミソですね。タイムスリップした未来が、昭和63年というのも今読めば面白い。テレビ番組でのくだりが、現在的で良いです。

デラックス狂詩曲

画面に映るものを現物化できるテレビを手に入れた少女が、商売人として成功していく。ドラえもん風な話であるが、最後に罰を受けると思いきや…

超能力・ア・ゴーゴー

勉強はできるが社交性ゼロの主人公。脳手術を受けて、音楽の才能を手に入れ、世界的な人気者になっていく。「デラックス狂詩曲」と違い、最後が少し悲しい終わりになってます。

白いペン・赤いボタン

主人公に盗み癖があるというところからして、ジュブナイル作品らしからぬところ。これもドラえもん風な秘密道具を手に入れて、成功する話。盗んだ白いペンは取り返されるが…

ミラーマンの時間

顔の右半分に黒痣のある主人公は、劣等感に悩まされている。ある日、鏡に右半身をあてると、鏡の中に右半身はのめり込み、左右対称の痣のないスーパーマンになった。空を歩ける能力を身につけた主人公は、スーパーマンとしての使命に悩むことになる。

暴行される少女をあれやこれやと理屈を言って結局助けないなど、読んでいてちょいと腹の立つ作品。超能力を手に入れることによって、活躍するのではなく、自身のコンプレックスと向かい合うことになる少年の話です。

少年期のコンプレックスを乗り越えるための通過儀礼を描く話です。

読書メーターなどで感想を読むと、受け取り方が人それぞれ。色々な解釈のできる面白い作品集です。私の好きなジュブナイルSFとは、方向性が違いますけどね。

細菌人間

上記の3作品は以前から文庫本を持っていたのですが、今回初めて読んだのが出版芸術社の「細菌人間」。これまで長らく単行本に収録されず、放置されていたジュブナイルSFをまとめた単行本です。文庫化はされていません。

細菌人間

侵略SF+体内冒険もの。脳にとりついたオリオン星人を倒すため、マイクロ光線で人間をミクロ化し、体内に侵入して戦う。映画「ミクロの決死圏」を思い浮かべる方もいると思いますが、こちらの方が発表は先です。どちらも元ネタは手塚治虫の「吸血魔団」およびそのリメイク「38度線上の怪物」、そのアイデアを流用したアニメ鉄腕アトム第88話「細菌部隊」。

見所としては、オリオン星人に乗っ取られたお父さんの豹変っぷり。ガソリンを飲んで、それが口から漏れる描写なんて最高です。そして、ミクロ化した体から徐々に元のサイズに戻るまでに、脱出できるかというハラハラ感。

最後はお父さんを助けて終わっているのですが、それ以外の人はどうなっちゃうのという疑問が残る消化不良な点もありますが、正統派ジュブナイルSFとして楽しめます。

10万光年の追跡者

宇宙を舞台にしたラブロマンスもの。短編なので、あっさり風味で若干の物足りなさが残ります。地球の蜘蛛に似たケンタウルス人、スパイダァが良い奴。

四枚のジャック

日下三蔵の解説によると、イギリスの古典的名作「四枚の羽根」のSF版をと依頼されたものとのこと。臆病者とののしられた宇宙軍士官学校生が、名誉を回復すべく単身戦地で活躍するもの。

オリオン星人との艦隊戦で、千日手に陥るところなどは、銀河英雄伝説(そういうのがあったのかはわからないが、雰囲気として)を思い浮かべてしまいました。

W世界の少年

「果てしなき多元宇宙」と同じく、パラレルワールドものの作品。飛ばされた先のエピソードで同じようなものがあります。飛ばされるのが男女のカップルというのが、「果てしなき多元宇宙」との違いです。

主人公の少年はSF好きで、飛ばされた先では宇宙人も登場。ドタバタSF風味でもあります。

闇につげる声

こちらの作品だけが初単行本化ではなく、過去に新潮社「筒井康隆全集4」に収録されたものです。ただし、文庫などには収録されていません。

さまざまな超能力を持った少年たちが力を合わせてスパイ組織と戦う物語です。筒井康隆の代表作、七瀬3部作のひとつ「七瀬ふたたび」の原型のような話。ただの活劇で終わらずに、超能力者の悲哀もきっちりと描かれております。

細菌人間
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ジュブナイルSFとしては、初期に発表されたものなので、「ミラーマンの時間」収録作のような毒っ気はなく、素直に楽しめるジュブナイル作品になっています。

オススメ筒井康隆作品

ジュブナイルSFではないものの、オススメの作品を紹介しておきます。

七瀬3部作

エスパー火田七瀬を主人公にした物語。3作ともテーストの違う作品になっています。筒井康隆の代表作といって良いと思います。

家族八景

家族八景 (新潮文庫)
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七瀬初登場作。テレパシーで人の心が見えてしまう七瀬がお手伝いさんとして、各家庭で働く様子を描く。そこに見えるのは各家庭に溢れる人間の欲や醜悪さ。テレパスの悲哀が描かれます。

七瀬ふたたび

NHK少年ドラマシリーズを始め、何度も映像化されている作品。超能力者同士が力を合わせ、組織との対決を描く超能力サスペンス。ジュブナイルSF的な作品です。

エディプスの恋人

超能力サスペンスから一転、哲学的内容に実験的な文章。壮大な物語ではありますが、エンターテインメント性は少ない。個人的にはオススメしない。

パプリカ

パプリカ (新潮文庫)
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今敏によるアニメ「パプリカ」の原作。私は未読ですが、筒井作品の中では「時かけ」「七瀬」「パプリカ」が稼いでくれた作品だそうです。

ビアンカ・オーバースタディ

70歳を過ぎた筒井康隆が書いたメタラノベ。私は未読ですが、エロ作品らしい。

わたしのグランパ

SFではないジュブナイル作品。断筆宣言明けに書かれた作品で、筒井康隆らしくないと思った人も多数。ストレートな良い話です。

愛のひだりがわ

左腕が不自由な小学六年生の少女が仲良しの大型犬デンを連れて、行方不明の父を探す旅に出る。未読ですが、感動作らしい。

以上、筒井康隆のジュブナイルSFまとめでした。

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