さて、今回は50~60代くらいの人には、懐かしいであろう、眉村卓のジュブナイルSFのまとめです。あえて今はもう絶版になっている、角川文庫版でまとめました。一番多くの作品が網羅されているからです。
取りあげたのは、角川文庫で発売された、ショートショートを除く、ジュブナイルSFです。ジュブナイルかどうかの判断は、眉村卓応援サイト「とべ、クマゴロー!」の「眉村 卓 著書リスト【ジュヴナイル】」を参考に、個人的に判断させていただきました。
80年代以降の、集英社から販売されたものは、持っていないので今回は割愛しています。あらすじとしては、文庫のカバー裏に書かれている内容を引用しています。
眉村卓
現在では、2017年11月に放送された「アメトーーク!」で、カズレーザーが大絶賛した「妻に捧げた1778話」の作者として有名かもしれません。現在の50~60歳くらいにとっては、中高生の頃の角川映画、薬師丸ひろ子主演「ねらわれた学園」の原作者として、その名を聞いたことがある人も多いと思います。
60~70年代の学年誌(学研の「中○コース」「高○コース」など)に、多数の中高生向きのSFを書いています。これらは当時ジュニアSF・ジュニア小説などと呼ばれました。現在では、ジュブナイルSF・ジュブナイル小説と呼ぶのが一般的です。
日本SF作家第一世代で、組織に属する個人を描くインサイダー文学論を提唱したことでも有名。代表作「司政官シリーズ」で1979年に泉鏡花文学賞、同年と1996年の2度、星雲賞日本長編部門を受賞しています。
なお、昭和38年に東都書房から「燃える傾斜」で、SF作家として最初の単行本を出した作家とのことです。(白い不等式収録の解説、光瀬龍によります)
なぞの転校生
中学二年生の広ー 君のクラスに転校してきた美しい少年。スポーツ万能、成績抜群、 あっという間にクラスの人気を独占してしまった。
だが時折り見せる彼の謎の部分 一雨やジェット機の爆音への度はずれた恐怖。停電の時に 手にしていた超能力のペンライト。そして突然悲痛な声で世界の終末を予言する・・・・・クラス一同の深まる疑惑と不安の中で広一君が握った少年の秘密は・・・・・・ ?
SF界の鬼才、眉村卓が描くジュニア小説の傑作。
眉村卓氏が初めて描いたジュブナイルSF。これが好評だったので、次から次へとジュブナイルの依頼が来たようです。
初出は『中学二年コース』(学習研究社)、1965年から始まり、学年を持ち上がり『中学三年コース』66年4月号にかけて連載されました。その後、盛光社「ジュニアSF」シリーズ第6巻として1967年に出版。角川文庫では1975年4月に出版。
容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の転校生が実は…という、今から見ればシンプルな物語。SFがまだ珍しい時代、SF的な物語というだけでも随分と新鮮だったと思われます。転校生の正体が分かってからが、この物語の本当の読みどころ。他者を受け入れるかどうか、現在の移民問題にも通じるところがあると思います。
1975年と2014年、2度ドラマ化された眉村卓ジュブナイルSFの名作。角川文庫版では、「なぞの転校生」と「侵された都市」の2編を収録。解説は、手塚治虫。
「侵された都市」は、1960年代から1999年へのタイムスリップもの。1999年の東京は廃墟と化し、バーナード人に支配されていた。運良くレジスタンスに助けられた主人公たちは、元の時代に帰ることが出来るのか…
現在は講談社文庫と講談社青い鳥文庫(新装版)で出版されていますが、どちらも「侵された都市」は未収録。講談社文庫版の解説は、2014年版ドラマの企画プロデュース・脚本をつとめた岩井俊二。
まぼろしのペンフレンド
誰にでもよくある<へんだな・・・・・・?>と思う一瞬。それが実は、あなたを知らず知らずのうちに、とんでもない事件に引きずり込む前兆であったりするのです。
ある日、中学一年生の明彦に突然舞い込んだ、見知らぬ女の子からの奇妙な手紙ーそこには下手な文章で、“あなたのすべてを詳しく教えて” と書かれ、一万円を同封してあった。好奇心に駆られた彼は、それがこれから日本全国を恐怖のどん底に落しいれる事件の前ぶれとも知らずに、返事を出したのだった。
鬼才、眉村卓の描く、SFスリラーサスペンス、表題作他2篇収録。
初出は『中学一年コース』(学習研究社)、1966年4月号から67年1月号にかけて連載されました。その後、岩崎書店「SF少年文庫」シリーズとして1970年に出版。角川文庫では1975年10月に出版。
文通相手の質問に色々と答えて返信していたら、自分そっくりの人間が目撃されるようになってしまって、さらに…という、現在のなりすまし詐欺や個人情報保護の観点から読み直しても面白いかも。
眉村ジュブナイルとしては、ちょっと恋愛要素が強めなのも特徴。序盤の謎が謎を呼ぶ展開も面白いのですが、囚われの身となる中盤からの展開がさらに面白いのです。今だったら本郷令子ちゃん萌ぇ~な人、続出まちがいなし。
今ではペンフレンドという言葉自体、死語になってしまいました。雑誌などを通して、文通相手を探していた時代の話です。1974年にNHK「少年ドラマシリーズ」で、ドラマ化されています。
角川文庫版では、「まぼろしのペンフレンド」「テスト」「時間戦士」の3編を収録。解説は、真鍋博。
「テスト」は不思議な世界に連れて行かれた、文芸部の部長を務める中学生の話。文芸の才能を評価され、その世界で先生になってほしいと頼まれるのだが…
「時間戦士」はザグバンダと呼ばれる侵略者から逃げるために、未来への時間跳躍をする物語。ザグバンダの意外な正体に驚きます。そして、主人公がつきつけられる選択とは?
「テスト」「時間戦士」ともに、”選択”がテーマとなっています。
近年では講談社青い鳥文庫から出版されていましたが、現在では絶版のようです。ハルキ文庫から出版された「閉ざされた時間割」にも、収録されています。こちらも絶版。
ねらわれた学園
もし、人や物を自由に動かすことができたらー誰しもが夢みる超能力。しかしそれが普通の人間に与えられていないことがどんなに幸福なことかは意外に知られていない・・・・・・。
ある日、おとなしかったはずの少女が突然、生徒会の会長選挙に立候補、鮮やかに当選してしまった。だが会長になった彼女は、魅惑の微笑と恐怖の超能力で学校を支配しはじめた。美しい顔に隠された彼女の真の正体は? 彼女の持つ謎の超能力とは?
平和な学園に訪れた戦慄の日々を描くスリラーの世界! 他に複製人間の恐怖を描いた「0からきた敵」を併録。
初出は『中学二年コース』(学習研究社)、1974年4月号から75年3月号にかけて連載されました。その後、角川文庫で1976年に出版。
眉村卓氏のジュブナイルSFの中では、メッセージ性が一番強い作品かもしれません。明らかにファシズムを意識した生徒会の行動とそれに対抗する主人公たちを描いています。
1977年 のNHK少年ドラマシリーズの「未来からの挑戦」(ねらわれた学園と地獄の才能が原作)を始め、4度のドラマ化に3度の映画化と、眉村卓ジュブナイルSFを代表する作品。
角川文庫版では、「ねらわれた学園」「0からきた敵」の2編を収録。解説は、豊田有恒。
「0からきた敵」は監禁された状態から始まる、謎が謎をよぶ物語。複製人間を巡る話ですが、最後は少し意外というか、ちょっと悪ノリしているようにも感じられます。
現在は講談社文庫と講談社青い鳥文庫(新装版)から、出版されています。どちらも「0からきた敵」は未収録。
地球への遠い道
暗黒の宇宙を飛び続ける一つの宇宙船があった。それには100年以上も前、人口爆発に悩む地球を逃れ、アルファ・ケンタウリ星に移民した人々の子孫が乗っていた。しかし今の彼らは、もはや希望に燃えた開拓者ではなく、異星での生活に敗れて地球へ戻ろうとする人々であった。
だが、長い飛行の末、太陽系に入ったとたんに彼らは、正体不明の宇宙船につかまってしまった。そして彼らの前には、冷たい微笑を浮かべ、重力を自由にあやつる美少女が・・・・・・。
眉村卓の傑作サスペンスSFジュブナイル。他に「さすらいの終幕」を併録。
こちらは学園を舞台にしたSFでは無く、移民した惑星から地球への帰還を描く宇宙ものSF。太陽系に到着するも地球とは連絡が取れず、謎の少女からは降伏を求められ…
宇宙だけを舞台にした眉村ジュブナイルは珍しいかもしれません。
「地球への遠い道」「さすらいの終幕」の2編を収録。解説は無し。現在はどこからも出版されていません。
「さすらいの終幕」は、歴史改変やタイムパトロールを絡めた学園モノ。体育会系の主人公とコンビを組むことになるガリ勉タイプの生徒が、中盤で謎を解くような逆転劇にアッと驚かされます。
閉ざされた時間割
この奇妙で恐るべき事件は、中学二年生の良平が珍しく勉強にうち込もうとしている夜に始まった。
はじめ良平は、ベランダに映る無気味な人影を見た。そして翌日、彼のノートにはメモした覚えのないことが書き込まれているのを発見。次には何故か夢遊病のように学内をふらつく先生と生徒を目撃・・・・・・。いったい何が起きたのか? そして魔の手はついに、ガールフレンドや、良平の家族にものびてきた!
○○○○○○○○○○○○○○との闘いを描くスリルあふれる眉村卓の傑作SFジュブナイル! 表題作ほか「押しかけ教師」等3篇収録。
カバー裏のあらすじに思いっきりネタバレが書いてありますので、読まないように! 上記では○で伏せてあります。
個人的には眉村ジュブナイルSFの中で一番好きな作品です。「なぞの転校生」「ねらわれた学園」と並んでもっと評価されても良い作品だと思っています。前半のスリリングな展開で引き込まれ、主人公の機転による反撃、余韻を残すラストと今読んでも面白いです。
角川文庫版では、「閉ざされた時間割」「少女」「月こそわが故郷」「押しかけ教師」の4編を収録。解説は、佐藤忠男。
近年、出版されたハルキ文庫版では、「閉ざされた時間割」「まぼろしのペンフレンド」を収録。なかなかお得な組み合わせでオススメですが、現在は絶版のようです。
つくられた明日
“そんな馬鹿なことが・・・・・・”手にした『未来予告』と題された本をめくるうちに、永山誠一は思わず声を出してしまった。そこには、“あなたは10月31日に重大な危険にさらされます”とあり、11月1日以降は空白になっていたのだ。誠一は死を予告されたのだろうか?
奇怪な出来事は次々と起こりはじめていた。先生の交通事故ーこれは予告どうりだった。そして、続いて起きた友人の失踪に、サファリを着た怪盗団の暗躍。11月1日は、日一日と迫りつつあった!
眉村卓の描く、読み出したらやめられない、学園SFサスペンス!
並行世界と時間流誘導をネタにしたSF。未来を予告するかのような占い本が導入部で登場して、占いブームであっただろう頃の中学生の興味を引きつける始まり方が面白いです。しかも、ある日以降は空白で、死ぬのかもと不安に陥れる切迫感。
ただ、物語自体は散漫な印象。そんな中で印象的なのがサファリルック。それを着ている描写が多いのですがその理由がよくわかりません。70年代初めに流行したらしいので、流行の最先端の意味を含んでいたのかもしれません。
流行のファションであるサファリルックの団体と、きちんとした身なりの紳士が登場、人は見た目だけで判断しちゃいけないというメッセージもあるのかもしれません。
併録、解説無し。現在はどこからも出版されていません。
天才はつくられる
恐るべき天才少年少女のグループがあらわれた! 彼らはテレパシーを修得し、念力で自由に物を動かし、テストでも抜群の成績を修めている。が、彼らは、何か巨大な悪の企みを抱いているらしい・・・・・・。
ある日、ひょんなことから、ちょっぴり超能力を身につけた史郎にも、グループに入るように誘いがきた。そして、断わった史郎に、彼らは命を取ると脅しをかけてきたのだ。史郎は、友人の敬子とともに、天才グループと断固闘う決意を固めたが・・・・・・。
スリルあふれる、学園SFサスペンスの傑作。「ぼくは呼ばない」を併録。
初出は『中学一年コース』(学習研究社)、1967年2月から始まり、4月から学年を持ち上がり『中学二年コース』67年10月号にかけて連載されました。角川文庫では1980年5月に出版。
「超能力の教科書」を偶然読んだ主人公が超能力を得て、超能力者グループに誘われることに。 超能力を使っていずれは日本を支配しようとするグループと、教師や新聞社、警察を巻き込んでの超能力バトルもの。
学生だけの戦いで終わっていないところが特徴です。両親や教師、警視、新聞社部長などの大人が頼もしくって、この時代の大人は本当に大人だったのだなと思わされます。
「天才はつくられる」「ぼくは呼ばない」の2編を収録。解説は、矢野徹。現在はどこからも出版されていません。
「ぼくは呼ばない」は、初出が高2コースだけあって高校生向けに書かれた作品。ある日突然、女性からモテモテになるという男子高校生の願望を刺激する物語。オチはしっかりとSFです。
地獄の才能
助けて!だれか来て! ・・・・続けておきる子供の悲鳴 中学生の俊治が駆けつけてみると、野良犬の群れが子供たちを襲っている。しかもその群れは、訓練された軍隊のように統制がとれ、まるで人間なみの知能を持つ指揮者にひきいられているかのようであった。
そんな折、ものすごすぎて、俊治たちには憎たらしい編入生がクラスに入ってきた。英語はペラペラ、スポーツ万能、まるでスーパーマンのような活躍で、あっという間にクラスのヒーローにのし上がってしまったのだ。が、ある日、俊治は、その編入生のそばに、子供たちを襲ったあの野良犬がいるのを見た・・・・・・。
恐るべき異能力を持つ集団との闘いを描く、SFスリラー!
初出は『中学一年コース』(学習研究社)、1970年4月号から71年3月号にかけて連載されました。その後、角川文庫で1980年に出版。
容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能な生徒が実は… という出だしは、「なぞの転校生」風の始まり。内容的には、この作品より後に書かれた「ねらわれた学園」に近い侵略SF。この侵略者の目的が結構ヒドくて、地球人を家畜にしちゃおうという計画。その手段も現地民を洗脳して手足として使おうと。
今から読むとビルへの立て籠もりや洗脳は、後の浅間山荘事件やオウム真理教事件を想起させます。書かれた当時は絵空事だったはずです。
片耳の犬や洗脳された生徒たちの最後が悲しい。
併録、解説無し。2009年にぶんか社文庫から復刊されましたが、現在は絶版のようです。
ねじれた町
そんな馬鹿な! 引っ越してきたQ市の迷い込んだ街角で行夫が見たのは、人力車に昔のポスト ・・・、周囲にあるのは何十年も過去に遡ったような光景だった。
それからこのQ市では、奇怪なことばかり起こった。以前、行夫が出したハガキが、明治13年に投函されたことになっていたり、鬼・妖怪が出るという噂が広がったり・・・。しかも奇怪なのは、この町の人々にとっては、それが日常茶飯事になっていることだった・・・。
狂ったこの町で、行夫たちが体験する恐怖の世界。眉村SFジュヴナイルの名作。
眉村ジュブナイルファンからの評価も高い1冊。
眉村氏は一般小説で、日常から少しずれたような異世界に迷い込む幻想小説をたくさん書いています。この物語の始まりはそれらと同じ雰囲気で、ハガキに関するくだりで一気に惹き込まれます。
しかし、鬼の日をきっかけに物語は超能力バトルものに変わっていきます。主人公が町に対する憤りを爆発させ、超能力を発揮する様子は眉村ジュブナイルとしては少々異質。最後の舞台は怨念と異次元が入り交じる世界。因習にとらわれた町はどうなるのか。学園モノとはまた違った面白さがあります。
併録なし、解説は権田萬治。
近年では、ハルキ文庫と講談社青い鳥文庫から出版されていましたが、現在は絶版のようです。
白い不等式
直也と孝次の二人が気付いたとき、そこは先ほどまで居た倉庫の中ではなく、びっしり と生い茂った森の真只中だった。
そして、二人の前に現われたのは、粗末な衣服を身につけて、弓や日本刀を手にした男たち・・・・・・。ここは恐らく江戸時代だ。そして先ほど倉庫にあった機械は、転送装置だったに違いない・・・・・・。二人は異様で、のっぴきならない世界に飛び込んでしまったことを知った!
異次元で行われる激烈な争いに巻きこまれた二人の少年の冒険を描く、SFスリラー!
瀕死の青年を助けようとしたら、次元転送装置に巻き込まれて江戸時代風の農村に飛ばされてしまうことになる2人の中学生。しかし、この中学生2人は最初から最後まで傍観者のよう。
本当の主役は、飛ばされた世界で支配組織の地区定住担当員である伊坂という男です。支配組織と農民の間に立ち葛藤する、いわば中間管理職の男。
中学生の立場となる読み手としては、異世界で起こった革命のその後を見ることになります。異次元の歴史モノといってよいのかもしれません。
併録なし、解説は光瀬龍。現在はどこからも出版されていません。
泣いたら死がくる
暗黒連合――それは全世界をはじめ、月世界や火星にまでも根を張り、果ては、全ての征服を企む、強大なギャング組織であった。
そして今、警視庁秘密捜査官の太刀川丈一は、暗黒連合の下っぱに化けて、その本拠をつきとめる指令を受けた。以前、両親をやつらのために殺された丈一は、復讐のために命を賭ける!
未来警察の捜査員が活躍する、SFハードボイルド・アクションの傑作! 他に「アンドロイドをつくるロボット技師」など収録。
学生が主人公でもなく、学園が舞台でもない物語は、眉村ジュブナイルとしては珍しい。
地球をはじめ、月や火星の征服を企むギャング組織 暗黒連合に潜入する秘密捜査官を描くスパイもの。超能力者も登場、キャラという女性幹部とのロマンスも絡めた冒険活劇。時代的にも007シリーズに影響を受けているのかもしれません。
「泣いたら死がくる」「アンドロイドをつくるロボット技師」「ピンポロン」の3編を収録。解説は無し。現在はどこからも出版されていません。
「アンドロイドをつくるロボット技師」はタイトルそのまま、アンドロイド開発を巡る賛成派、強硬派、反対派の戦いを描く物語。当時だとキャリアウーマンと呼ばれたであろう女性理恵が、ちょっとマッドで魅力的。
「ピンポロン」は、学生の授業への集中度が落ちると「ピンポロン」という音で知らせるシステムが導入された学校で、上手く学生を集中させられない先生の焦りを描く異色作。
とらえられたスクールバス
信じられないことが起こった! 得体の知れない少年が乗り込んできて、エンジンをかけた瞬間、信夫たちの乗ったスクールバスは、一気に終戦直後の混乱期に、タイム・スリップしてしまったのだ。
もう元の世界には戻れない! しかもその少年は、いずれ戦国時代を目指すというのだ。戦国時代などへ行けば、全員いつ殺されるかわからない。信夫たちの行く末には、いかなる試練が待っていることか・・・・・・?
時間旅行に巻き込まれた少年少女たちのスリルあふれる冒険、前編。
漫画雑誌「希望の友」に1977年1月号より1978年7月号まで連載、1981年6月に前編が角川文庫より出版。その年の10月に中編が、83年7月に後編が出版。
未来からの逃亡者がバスジャックして戦国時代を目指すタイムスリップSF。時間跳躍装置が貧弱なため、長時間の跳躍は出来ず、太平洋戦争終戦直後、戦時中の東京、戦前、幕末、関ヶ原合戦の直後、本能寺の変前日へと過去をさかのぼっていくことに。バスジャックした逃亡者、スクールバスに居合わせた先生・生徒、途中から加わる教授が協力してのタイムパトロールと戦いつつ戦国時代を目指すことになります。
タイムパトロールとの戦いもありますが、どちらかというと戦後教育を受けた先生・生徒がその時代をどう感じるかなどに重きが置かれています。逃亡者が来た未来、現在、そしてたどっていく過去、それらの時代による考え方の違い、それらを理解した上の友情を描いています。
1986年には萩尾望都のキャラクターデザインでアニメ映画化。映画化の時に映画タイトルに合わせて、「時空(とき)の旅人」に改題されています。なお、映画の内容は原作とはかなり異なっています。そもそも乗っ取られるのがスクールバスではなく、キャンピングカー。話の結末も大幅に異なります。
併録、解説無し。角川文庫版はタイトルが「とらえられたスクールバス」と「時空の旅人―Time stranger」の2種類があります。
近年ではハルキ文庫より出版されていましたが、こちらも絶版のようです。タイトルは「時空の旅人―とらえられたスクールバス」になっています。
二十四時間の侵入者
中学校のクラスメート、住野隆一と小沢未代子は、絵画部の写生会へと出かけた。そのとき突然、どこからともなく気色の悪い少年が現れた。少年は憎悪にゆがんだ顔立ちで、目を光らせ、まるで妖怪のようだった。
その日から通学途中を襲ったり、教室まで現れるのだった。やがて、隆一のおじでSF作家の岡本義助もその奇怪な事件に巻き込まれていった・・・・・・。
同じ頃、日本各地でも同じような被害が相次いで起っていた 。一体、謎の少年の正体は何者なのか?どこから来るのだろうか?
傑作推理SF、「二十四時間の侵入者」「闇からきた少女」を収録。
色白で整った顔立ちなのに、目をギラギラと光らせ唇の端を歪めた憎しみの表情を浮かべつつ、いきなり現れたり消えたりする少年。そんな少年がいきなり襲いかかってくる、ホラー風味の侵略SF。ただ、敵の正体やその撃退方法など、ちょっと大味というか雑というかで、そのあたりが残念な作品です。
「二十四時間の侵入者」「闇からきた少女」の2編を収録。解説は、竹上純希。現在はどこからも出版されていません。
「闇からきた少女」もホラー風味の始まりですがロマンチックで、こちらのほうが面白い。団地に現れる黒髪の美少女。幽霊か、はたまた怪物か。主人公の少年が連れて行かれた先でみたものは… と、せつない終わり方が良いです。
深夜放送のハプニング
いつものように、人気イラストレーター島浦紀久夫によるDJ番組”ミッドナイト・ジャンプ”がオン・エアーされた。
しかし、その日不思議なリクエストカードが舞い込んでいた。「ぼくがだれだか、教えてください。ぼくには、自分がだれだか、わからないのです。ぼくは、自分が何歳で、何をしていたのか、まったく知りません・・・・・・ 」と書かれていた。このカードを放送したことから、奇怪な事件が相次いで起ったのだった・・・・・・。
甦るミッドナイトSFミステリーの傑作! 同時収録「闇からのゆうわく」
DJのもとに送られてくるハガキをきっかけに起こる、不思議な話を描いた3篇の連作短編。眉村氏自身のラジオDJの経験を活かし、ラジオブースの描写や進行などラジオ放送関連にリアリティがあります。
記憶喪失、電波発言、呪いのお面と3編それぞれ扱っているテーマ・テイストが違いバラエティに富んだ内容です。3話で終わっているのがもったいなくて、もっと読んでみたくなります。
「深夜放送のハプニング」「闇からのゆうわく」の2編を収録。解説は、新戸雅章。現在はどこからも出版されていません。
「闇からのゆうわく」は学園超能力SF。新しく転任してきた美人の女教師は、目に怪しげな光を浮かべ不思議な力を使います。主人公を読書研究会に誘うこの女教師は、一体何が目的なのか。美人女教師・松葉先生が魅力的な1編です。
文庫リスト
眉村ジュブナイルの文庫リストです。秋元文庫は角川文庫とダブるので調べていません。
角川文庫
タイトル | 初版 | 併録作品 | 解説 | 備考 |
なぞの転校生 | 1975 | 侵された都市 | 手塚治虫 | |
まぼろしのペンフレンド | 1975 | テスト/時間戦士 | 真鍋博 | |
ねらわれた学園 | 1976 | 0からきた敵 | 豊田有恒 | |
地球への遠い道 | 1976 | さすらいの終幕 | ||
閉ざされた時間割 | 1977 | 少女/月こそわが故郷/押しかけ教師 | 佐藤忠男 | |
つくられた明日 | 1980 | |||
天才はつくられる | 1980 | ぼくは呼ばない | 矢野徹 | |
地獄の才能 | 1980 | |||
ねじれた町 | 1981 | 権田萬治 | ||
白い不等式 | 1981 | 光瀬龍 | ||
泣いたら死がくる | 1981 | アンドロイドをつくるロボット技師/ピンポロン | ||
とらわれたスクールバス(前) | 1981 | 改題:時空の旅人(前)86~ | ||
とらわれたスクールバス(中) | 1981 | 改題:時空の旅人(中)86~ | ||
とらわれたスクールバス(後) | 1983 | 改題:時空の旅人(後)86~ | ||
二十四時間の侵入者 | 1985 | 闇からきた少女 | 武上純希 | |
深夜放送のハプニング | 1985 | 闇からのゆうわく | 新戸雅章 |
集英社文庫コバルトシリーズ
タイトル | 初版 | 収録作品 | 解説 | 備考 |
逃げ姫 | 1983 | 逃げ姫/見知らぬ私/信じきれない/彼が消えた/奇妙な夜 | ||
孔雀の街 | 1984 |
孔雀の街/真利子/めまいの旅/デスブロイアの女王/しかたなく、ウェンディ
|
||
月光の底 | 1985 |
月光の底/大学構内/夢なんかじゃない/ロボットだ/唯代/歴史同好会員
|
||
侵入を阻止せよ | 1986 | あとがきあり | ||
里沙の日記 | 1988 |
寒い朝/里沙の日記/名門中学生/暗い進行形/目がさめると/ゲームのメンバー
|
未入手、詳細不明 | |
ライトグレーの部屋 | 1990 |
黄色いホテル/白い影/あかね色の坂/ライトグレーの部屋/群青色の女たち/イタチ色の晩夏
|
未入手、詳細不明 |
ハルキ文庫
タイトル | 初版 | 併録作品 | 解説 | 備考 |
ねじれた町 | 1998 | 瀬名秀明 | ||
閉ざされた時間割 | 1999 | まぼろしのペンフレンド | ||
時空の旅人―とらえられたスクールバス〈前編〉 | 1999 | |||
時空の旅人―とらえられたスクールバス〈中編〉 | 1999 | |||
時空の旅人―とらえられたスクールバス〈後編〉 | 1999 |
その他
文庫 | タイトル | 初版 | 併録作品 | 解説 | 備考 |
勁文社文庫 | それぞれの遭遇 | 1988 | 未入手、詳細不明 | ||
旺文社文庫 | 還らざる城 | 1988 | |||
ぶんか社文庫 | 地獄の才能 | 2009 | |||
講談社文庫 | ねらわれた学園 | 2012 | 青い鳥文庫あり | ||
講談社文庫 | なぞの転校生 | 2013 | 岩井俊二 | 青い鳥文庫あり |
さいごに
眉村卓の描くジュブナイルSFは、今となってはシンプルすぎて、物足りなく感じるかもしれません。しかし、そこに込められたメッセージは、現在も通用すると思います。
角川文庫版のものは、古書店で3冊100円で売られていたり、ブックオフなどでは100円で売られていたりしますので、気軽に買うことが出来ます。amazonだと、1円で売られていますが、送料で高くなってしまいますね。
文章も読みやすく、サクッと読めるので、時間つぶしにもなりますよ。