さて、今回は読書メモ、湊かなえ『往復書簡』を読んだ感想です。
こちらの作品を知ったのは、2016年の自転車日本一周で、礼文島へ行ったときです。
映画のセットをそのまま残した、北のカナリアパークにて、映画の原案になった本、ということで知ることに。物語が手紙のやりとりで進んでいくとのことで、ちょっと変わったミステリーだなと興味を持ちました。いつかは読みたいと思っていたのですが、なかなか読む機会はなく。
このたび、ブックオフの100円コーナーで、手に入れることが出来ました。
湊かなえ
作者の湊かなえさんは、デビュー作『告白』で2009年、第6回本屋大賞を受賞。イヤミスの女王とも呼ばれています。私も初めて知ったのですが、イヤミスとは読んだ後に「嫌な気分」になるミステリー小説のこと。後味が悪いとか、読後感が良くないとか、そういうものを指すようです。
そういう作品ばかりを書いているわけではないのでしょうが、デビュー作の『告白』がそういう内容であったため、女王なんて呼ばれるようになったのでしょう。私は過去に、湊かなえ作品を読んだことがありません。なので、この作品もイヤミスかもというような、先入観を持たずに読むことができました。
ちなみにWikipediaによると、港さんは大学時代はサイクリング同好会に所属して、自転車旅行で日本各地を旅していたとのこと。以外なところで、自転車旅つながりです。
往復書簡
往復書簡は、2010年9月に幻冬舎より発行。2012年8月に文庫化。
「十年後の卒業文集」「二十年後の宿題」「十五年後の補習」の3篇と、文庫化の際に追加された「一年後の連絡網」で構成されています。「一年後の連絡網」以外は、どれも過去の出来事の真相を、手紙のやりとりで解き明かしていくという形。
「十年後の卒業文集」は、友達と私。「二十年後の宿題」は、先生と私。「十五年後の補習」は、恋人と私。この関係性での手紙のやりとりです。
追加された「一年後の連絡網」は「十五年後の補習」を補完する内容の話で、ちょっと蛇足かも。「十五年後の補習」の最後が、色々な形でとらえられるので、作者なりの正解なのかもしれませんが。
ネタバレかも
それぞれの感想です。
「十年後の卒業文集」
まず、手紙のやりとりで話が進むということで、私が最初に思ったのは、叙述トリックなのでは?ということ。手紙を出していたひとが、別人でした!とか、簡単にできてしまいます。
作者もその辺はわかっているようで、のっけから差出人を疑う内容がでてきます。結果は読んでいただくとして、なんだか女性同士のやりとりのいやらしさというか、性格の悪さを感じました。
「二十年後の宿題」
映画『北のカナリアたち』の原案となった作品です。原作ではないので、内容はかなり違います。この作品だけ、過去の出来事に関係のない人が、手紙をだす形。
恩師の依頼を受け、過去の事故に関わった人を訪れ、それを報告する形です。なぜ、恩師がそのようなことを依頼するのかが、1番の疑問ですが、それもスッキリと回収されることに。
最後のどんでん返しが、ちょっとズルいかなとも思いつつ、面白く読めました。名前がねぇ。
「十五年後の補習」
遠距離恋愛中の恋人同士の手紙のやりとりから、過去の出来事の真相に迫っていきます。3篇の中では、これが一番面白い。最後のたたみかけるような、どんでん返しは、手紙でのやりとりで過去を探るという手法があってこそ。
いくらでもどんでん返しが作れるということなので、これもズルいと言えば、ズルい。色々な解釈が成り立つ、この終わり方は良かったです。
まとめ
読んだ感想としては、面白いけどズルいなぁといったところ。卑怯な手を使うのではなくて、やられたぁというような、いい意味でのズルさを感じたわけです。
トリックに騙されたわけではなく、事実を描く手法に騙されたというところ。手紙でのやりとりで、過去の真相を解明するという手法を考えた時点で、作者の勝ちです。それを違和感を持たせず、かつ飽きさせず読ませる、作者の力量はさすがだなと。
また、学生の頃のドロドロとした感情や、関係性もうまく描かれてます。著者は教師をしていた時期もあったようなので、そういうのを肌で感じていたのでしょうか。
最後にアマゾンなどで連作ミステリーと紹介されていることもありますが、3篇に関連はないので、要注意です。