さて、今回はスニーカー・ミステリ倶楽部のミステリ・アンソロジー第5弾、『血文字パズル』を読んだ感想です。
ミステリ・アンソロジー 5 血文字パズル
著者:有栖川有栖、太田忠司、麻耶雄嵩、若竹七海
文庫:角川スニーカー文庫(スニーカー・ミステリ倶楽部)
出版社:角川書店
発売日:2003/03
死者が遺した、奇妙な手がかりを読み解け! あの名コンビ火村と有栖が「叫び」人形の謎に挑む〈砕けた叫び〉。安楽椅子探偵・デュパン鮎子とその孫・奈緒が“風の町”の秘密を解く〈八神翁の遺産〉。希代の銘探偵・メルカトル鮎が“5秒で解決できる事件”に仕掛けたとっておきの趣向―〈氷山の一角〉。渚が誕生日に出会った青年と過ごす、キュートで残酷な夏休み〈みたびのサマータイム〉。あまりにも豪華な書き下ろしアンソロジー!!
スニーカー・ミステリ倶楽部最後の作品となったこちらは、装丁が従来のものとは変わり、イラストなしの幾何学模様です。
読んだ感想
砕けた叫び / 有栖川有栖
火村英生と推理作家・有栖川有栖のコンビが謎を解く、作家アリスシリーズの1篇。死体が握っていたのが、ムンクの「叫び」に描かれた叫ぶ人をかたどった人形。これはダイイングメッセージなのか……
「叫び」の人形が、とあるものにつながるアイデアが面白いです。収録作の中では正統派な内容で、楽しめました。
なお、この作品は後ちに発売された角川文庫のアンソロジー『赤に捧げる殺意』にも収録されています。
八神翁の遺産 / 太田忠司
安楽椅子型探偵のデュパン鮎子とその孫の美少女女子高生・奈緒が、ダイイングメッセージの謎を解くと同時に、町に作られた公園の謎も解くという物語。シリーズものの番外編的なものかと思いましたが、シリーズ化はされていないようです。
ダイイングメッセージについては、本当にそれがダイイングメッセージになり得るのか疑問に思ってしまいますが、物語としてはそれ以降の町にかかわる謎がメインなのかもしれません。
デュパン鮎子の設定がちょっと特殊で面白いと同時にもっと奈緒の活躍が読んでみたいなと思いました。
この作品はこのアンソロジーでしか読むことが出来ません。
氷山の一角 / 麻耶雄嵩
タキシード姿にシルクハットのメルカトル鮎と推理作家美袋のコンビが謎を解く、メルカトル鮎シリーズの1編。癖の強い銘探偵キャラクターが面白い。謎解きよりもキャラ同士の掛け合いが楽しく、スニーカー文庫にも似合っていると感じました。
このシリーズの他の作品もこのコンビはこんな調子なのでしょうか? ちょっと興味があります。
この作品も後ちに発売された角川文庫のアンソロジー『赤に捧げる殺意』にも収録されています。
みたびのサマータイム / 若竹七海
探偵とその助手を描く他の3作品と違って、ひとりの少女を主人公とした青春小説のような味わいです。著者の『クール・キャンデー』に登場した渚の、その後が描かれています。
謎解きという面ではそれほど凝った作りではありませんが、面白みはそこではなく、少女の揺れ動く内面にあると思います。
この作品は後ちに発売された角川文庫のアンソロジー『青に捧げる悪夢』に収録されています。
まとめ
豪華メンバーかつどの作品も楽しめる、満足の1冊でした。若竹作品以外「探偵とその助手」パターン。アリスシリーズは正統派な感じですが、デュパン鮎子&奈緒、メルカトル鮎&美袋はちょっと特殊な設定。
スニーカー文庫で読む作品としては、正統派なアリスよりも、キャラの立ったメルカトル鮎のほうがピッタリの感じがします。ライトノベルはキャラクターノベルとも言われたりしますが、ミステリはシャーロック・ホームズの時代から名探偵キャラが重要な要素なので、実は非常に親しい存在なのでは? と今作品を読んでいて思いました。