さて、今回はスニーカー・ミステリ倶楽部のミステリ・アンソロジー第2弾、『殺人鬼の放課後』を読んだ感想です。
ミステリ・アンソロジー 2 殺人鬼の放課後
著者:恩田陸、小林泰三、新津きよみ、乙一
イラスト:藤田新策
文庫:角川スニーカー文庫(スニーカー・ミステリ倶楽部)
出版社:角川書店
発売日:2002/02
殺人鬼こそ本格ミステリの主役!? 湿原に建つ全寮制の学校。悪意のゲーム『笑いカワセミ』に挑むのは、美貌の少年ヨハン!〈水晶の夜、翡翠の朝〉。恵美が僕に語る、誘拐された少女3人の運命〈攫われて〉。新しい受講生は、死んだあの娘とあまりにも似ていた〈還って来た少女〉。コンクリートで固められた7つの立方体を支配する、恐るべき死の法則〈SEVEN ROOMS〉。恐怖とサスペンスに満ちた、書き下ろしアンソロジー第2弾!
読んだ感想
水晶の夜、翡翠の朝 / 恩田陸
『麦の海に沈む果実』に登場するヨハンを主人公とする、同作の後日譚。陸の孤島ともいえる場所に作られた全寮制の中高一貫校を舞台に、連続する事故・事件の謎をヨハンが解くことになります。中高合わせた6学年を縦割りにしたグループ「ファミリー」の関係性、学生に理解のある校長など、青春モノの要素を織り交ぜつつ、意外な結末が描かれます。
読書メーターなどのレビューで『麦の海に沈む果実』を読んでいないとわからないのでは?という意見もありましたが、未読でこの作品を読んでも楽しめました。むしろこの作品を読んだことで、ちょっと不思議な学校の設定や校長の存在に興味を覚え、『麦の海に沈む果実』も読んでみたいと思いました。
なお、この作品は後ちに発売された角川文庫のアンソロジー『青に捧げる悪夢』にも収録されています。
攫われて / 小林泰三
過去に誘拐されたことがあるという少女の回想譚。攫われた少女は、どのようにその状況を切り抜けるのかを期待するのですが、グロテスクな描写が多くてちょっと嫌な気持ちになります。密室トリックネタとも言える内容ですが、それ以上に残酷さが目立ち、ミステリというより、ホラー・残酷小説といった内容です。
ただ「殺人鬼」を描いているのですが、殺人鬼の心理が解らなくて、残酷描写ばかりになっているのが残念です。
こちらも角川文庫のアンソロジー『青に捧げる悪夢』に収録されています。
還って来た少女 / 新津きよみ
幽霊が見えるという同級生に、自分そっくりの少女を見たと聞いた七穂は実際に会ってみようとする。一方、学習塾に入学してきた七穂を見た塾講師の綾子は、かつて教育実習生のときに受け持った学生に瓜二つなことに恐怖を覚える……
幽霊話と思いきや、意外な展開を見せて楽しませてくれます。幽霊とか同級生の噂とか、教生との関係とか、収録作の中で1番スニーカー文庫らしいと思いました。
こちらも角川文庫のアンソロジー『青に捧げる悪夢』に収録されています。
SEVEN ROOMS / 乙一
姉とともに、コンクリートの不思議な部屋に閉じ込められた少年。小学生がやっと通れるくらいの汚水が流れる溝を利用して調べてみると、そこは同じような部屋が7つ並び、毎晩6時には……
凄まじいインパクトの作品で、前3作の内容が吹っ飛んでしまうくらいの恐怖。「攫われて」同様、殺人鬼についてはあまり描かれず、どうやってこの状況を切り抜けるかというサスペンス仕立てです。兄弟愛や姉の心の強さが描かれているのは良いのですが、残酷な描写もあって、ちょっと嫌になってしまいます。こちらもミステリというよりホラーです。
こちらの作品は乙一の短編集「ZOO 1」(集英社文庫)にも収録されています。
まとめ
男性作家と女性作家で、くっきりと作風が分かれたアンソロジーです。
恩田陸・新津きよみ作品はミステリに軸をおいた、やや苦味のある作品。「還って来た少女」が収録作の中では1番好きです。ただ、この本のテーマを「殺人鬼」とした場合、その部分がちょっと弱いかなとは思います。タイトルに殺人鬼とあるだけで、別にそれをお題としたアンソロジーではないと言われればそれまでですが。
小林泰三・乙一作品はミステリというよりホラー、もっといえば残酷小説のように感じます。理由なく痛めつけられる不条理とグロテスクな描写は、読んでいて楽しくありません。こういう小説が書かれるということは、それなりに需要があるのでしょうが、気持ちのよいものではありませんね。できれば読みたくないです。
ホラー・残酷小説が苦手な人間にとっては、手を出さないほうが良いでしょう。
なお、収められた4編中、乙一作品を除く3編が角川文庫から2013年に出版されたアンソロジー『青に捧げる悪夢』に収録されています。このアンソロジー、スニーカー・ミステリ倶楽部のアンソロジーから10編を選んだお得なアンソロジーのようです。