さて、今回はラノベの読書感想文です。筒井康隆のジュブナイルSFを読んでいたら、なぜかラノベが無性に読みたくなりました。それならばと、テーマを決めてラノベを読みまくってやることにしました。
考えたテーマは、「名作単巻ラノベを読む」です。ラノベというと、人気作は何十巻と続くものもあります。そんなのは読んでいられないので、1巻で終わっているもので、名作と呼ばれているものを中心に読んでみることにしました。サクッと読めて、楽しめる作品を求めていきたいと思っています。
2010年頃に一度、ラノベにはまっていた時期がありました。その時も名作単巻ラノベはずいぶんと読んだのですが、今回は既読のものも改めて読み直していこうと思います。ラノベは断捨離でずいぶんと処分してしまったのですが、もう一度手に入れることにします。本(マンガ)は断捨離で処分しない方が良いですね。絶対にまた買うことになりますから。
第1回目はロミオの災難です。断捨離せずに本棚に残っていた数少ないラノベで、お気に入りの1冊です。
ロミオの災難
著者:来楽零
イラスト:さくや朔日
文庫:電撃文庫
出版社:アスキー・メディアワークス
発売日:2008/1/10
そこにいるだけで空気が華やぐような綺麗な少女、雛田香奈実。彼女にうっかり一目惚れした僕が演劇部に入部してしまってから数カ月、文化祭公演のための台本を選ぶ時期がやってきた。
現役の演劇部部員は僕と雛田を含め、一年生五人きり。僕たち五人にはそれぞれ想い人がいたりいなかったりしたのだけれど、部室で見つけた、ぼろぼろの『ロミオとジュリエット』の台本を使うことに決めたときから、五人の心に奇妙な変化が起こり始め―。
これは、「すき」と言えない高校生の揺れる思いを描く、ちょっと怖い物語。
読んだ感想
演劇部を舞台にした、ホラー風味の青春恋愛ものです。このホラー風味のところが、ラノベらしさになります。
文化祭で公演する劇を検討中に、たまたま部室で見つけた「ロミオとジュリエット」の台本。その台本には亡くなったの先輩たちの残留思念があり、怨念にも似た思いが現在の部員たちの心に入り込みます。
現在持っている感情(≒恋心)に過去の演劇部員の感情が入り込み、今の思いは本当の思いなのか、それとも過去の演劇部員に影響を受けた思いなのか戸惑うことになります。現在の演劇部員の感情、過去の演劇部員の感情、それに演じる劇の役の感情と3層構造になっているところが面白いのです。
過去の演劇部員が唯一の男子であるロミオ役に恋心を持っているのですが、現在の部員たちはそれぞれ別の思い人がいます。
メインヒロインの雛田は恋心というものがまだわからない。美女ゆえに言い寄ってくる男子は多いが、自身の気持ちがまだ理解できない。そこに主人公ロミオ役の如月への恋心。初めて感じる好きという感情に戸惑いを見せます。演じる役はロミオの”友人”マキューシオ。
サブヒロインの新堂は、はじめから如月への恋心を持っています。過去の演劇部員の感情が取り憑いても変わったようには見えませんが、如月への思いが一番強く、最後には思い切った行動をとることに。演じる役もジュリエットと、ひたすら主人公への思いを持っているキャラクターになっています。
もう一人の女子部員、村上はあまり多くは語られませんが、如月への恋心は持っていないよう。過去の演劇部員の感情に取り憑かれ行動を起こすものの、現在の感情が自制を効かせるシーンも多い。演じる役はマキューシオを殺し、ロミオに殺されることになるティボルト。
もうひとりの男子部員である西園寺は、村上に対して恋心をよせている。過去の演劇部員の感情に取り憑かれて、如月に抱きついたりもしますが、村上と同様に自制を効かせるシーンも多い。演じる役は、ロミオとジュリエットの理解者であるロレンス神父。
主人公のロミオ役如月は過去の感情にそれほど影響は受けないのですが、これは恋心を向けられる側は意外と強い思いを持っていないからでしょう。過去のロミオ役は自身をめぐる女子たちの行動を楽しんでいる節があると作中にあるように、軽めの人間と読みとれます。メインヒロインの雛田に一目惚れをしたことから演劇部に入っていますが、他の部員から(本物か偽物かわからない)恋心をよせられ、心が揺らぎます。
物語の前半はコメディタッチで進み、中盤の夏休み合宿で、過去の演劇部員の感情の激しさが描かれ、クライマックスの文化祭の舞台へ。
舞台では他者への足の引っ張り合いから、数々のアクシデントが発生。最後は「ロミオとジュリエット」の結末すら変わってしまうことになります。しかし、舞台を演じきることで、過去の演劇部員の感情は無くなってしまいます。
第3幕のラスト付近に、「五人に被さっている他人の感情。それが剥がされたときに、現れてくるのはなんだろう。多分もう、完全に元通りのものではなくなっている」とあります。過去の演劇部員の感情に支配されていた状況から、それが無くなってしまったときに残る感情はどうなってしまうのか。
この物語のテーマは「本当の自分の気持ち(≒恋心)を知ること」という、非常に普遍的なテーマであります。高校生特有の思い込みの激しさや気持ちの不安定さを、現在と過去の部員たちの感情、およびその感情の行き来にこめています。そして、演劇という舞台で他者を演じる行為もプラスして、重層的に描かれています。文化祭の舞台が終わってからが、この物語の本当のクライマックス。演劇部の部員たちは、自分の本当の気持ちを知ることができたのでしょうか。
ホラー風味でありますが、読後感は非常に爽やか。著者のあとがきに「一歩間違ったら憎しみドロドロのホラーになっていた可能性もあったお話ですが、どうにかメインテーマは恋の青春物語になりました」とあるように、爽やかなひと夏の恋の青春物語であります。