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『「若者の読書離れ」というウソ 』を読んで、「ラノベと中高生」の現在地を知る

さて、今回は平凡社新書から出版された、飯田一史『「若者の読書離れ」というウソ 中高生はどのくらい、どんな本を読んでいるのか』を読んで考えたことを記そうと思います。

この本に興味を持ったきっかけ

この本を知ったきっかけは、とある編集者のつぶやき。

星海社というラノベも出版している会社の編集者のつぶやきだったのですが、なかなか興味深い内容の引用。で、これに対するリプライや引用リツイートに、引用元の本を読んでもいないのに、よくこんなことを言えるなというツイートがたくさんありました。この引用内容について私も色々と思うところがあり、語るには引用元の本を読むしかないと、この本を手に取った次第です。

で、読んでみたところ、めっちゃ面白い。そして、タメになる。中でもラノベと中高生の関係というか、文庫ラノベの現在の立ち位置を知ることができた気がします。私の興味はもっぱらラノベですので、今回はこの本のラノベに関して書かれた部分に注目し、そこから自分なりに考えたことを書こうと思います。

「若者の読書離れ」というウソ 中高生はどのくらい、どんな本を読んでいるのか

まずはこの本について。あとがきによると、2020年に出版された『いま、子どもの本が売れる理由』の中高生編であるとのこと。

第1章 10代の読書に関する調査
第2章 読まれる本の「3大ニーズ」と「4つの型」
第3章 カテゴリー、ジャンル別に見た中高生が読む本
第4章 10代の読書はこれからどうなるのか

全4章からなっていて、第1章でデータから現在の10代の読書傾向を読み解き、第2・3章でどのような小説が中高生に読まれているのか、好みの傾向や実際のタイトルを挙げて詳しく述べられています。

個人的には納得の内容。著者のデータ(数字)から読み解く分析力や、実際に本を読んだ上での分析・解説など、非常にタメになる内容でした。

文庫ラノベ市場は減少している

この本の第1章では、タイトルでもある『「若者の読書離れ」というウソ』がデータを持って示されています。全国学校図書館協議会の「学校読書調査」から、小中高生の平均読書冊数(1ヶ月)と不読率(1冊も本を読まない人の割合)の推移がグラフ化されています。

2000年から小学生の平均読書冊数(書籍)は増加、中学生は微増、高校生は横ばい。不読率も小中学生は下がっていて、高校生は変わらずということ。00年に比べると、小中学生は書籍を読むようになっていて、高校生はほぼ変わっていない。これには00年からの政治による読書推進効果(朝読など)があったことが書かれています。なお、この部分に関しては『いま、子どもの本が売れる理由』のほうが、より詳しく書かれています。

で、この影響もあり児童書市場は少子化しているにも関わらず、子供1人あたりの書籍代も増加傾向にあると。ただ、児童書の売上とは対象的に文庫のライトノベル市場は減少していると書かれています。ここでのライトノベルの定義は、電撃文庫や角川スニーカー文庫といった特定のレーベルから刊行されるエンターテインメント小説で、カバーや口絵、挿絵にキャラクターのイラストが用いられており、マンガやアニメ、ゲームと近い感覚で読める、サブカルチャーとしての文芸です。なお、著者は文庫サイズと単行本(四六判)サイズでラノベを区別しています。

出版科学研究所調べの数字で文庫ラノベ市場は、2012年の284億円をピークに2021年には123億円と半減。件のツイートのときにもあった反応ですが、文庫ラノベから単行本ラノベへ移っただけでは?と考える方もいると思いますが、そこもきちんと触れられていて、単行本ラノベ市場は、2013年で30億円(推定)、2016年で100億円市場となり、その後は横ばい。

ラノベ市場は2016年の302億円(文庫202億円、単行本100億円)がピークで、2020年では文庫単行本合算で244億円となったとのことで、文庫ラノベの減少が目立っているということです。

なお、ここに書いた部分は、文春オンラインでも読むことができます。

少子化でも、作品の劣化でもない…「ラノベ市場」が10年で半分以下に衰退した“意外すぎる理由” | 文春オンライン
少子化でもなく、作品の質の低下でもない……かつて出版業界の成長産業として、大きく期待されていた「ラノベ」はなぜ読まれなくなったのか? ライターの飯田一史氏の新刊『「若者の読書離れ」というウソ:中高生…

で、この文庫ラノベの減少の原因が件のツイートでも触れられていた、「大人向けへのシフト」です。

文庫ラノベは大人向けへシフト

まず、ライトノベルはもともと中高生向けだったのは、説明しなくても納得してもらえると思います。昔から大人でも読んでいる人もいましたが、「中高生向け」だけは建前としてはずっとあったと思います。基本、主人公は若者で若者の共感を呼ぶのが基本だったと。

それが2010年代になり、WEB小説を単行本化した単行本ラノベがヒットしたため、文庫ラノベも同じようにWEB小説を文庫化し始め、主人公やヒロインを大人とした作品が刊行されるように。要は「中高生向け」という建前を捨てたわけです。

ここでの著者の例えが面白いです。

結果、起こったのが本来メインターゲットだったはずの10代の急速な客離れであり、市場の半減だ。なぜ10代向け市場に大人向けを加えると10代に敬遠されるのか。たとえば若者向けの服の売場に突然おじさん向けの服も売られるようになったら「従来どおりのものも売っていますよ」と言われたところで、若い人は「なんか違う」と感じ、積極的にその店を使いたいと思えなくなるだろう。それと同じで、2000年代までは中高生にとってラノベというカテゴリは「自分たち向けのジャンル」と積極的に思える場所だったが、2010年代以降は「自分たち向けの作品も一部にあるジャンル」程度の位置づけに変わってしまったのである。ターゲット顧客と提供価値がブレれば、当然、客離れが起こる。

出典:「若者の読書離れ」というウソ 中高生はどのくらい、どんな本を読んでいるのか(P.31-32)

「ライトノベルという中高生向けブランド」の崩壊と考えればよいでしょうか。

単行本ラノベは元々値段が高いし、WEB小説から単行本化された作品は、内容的にもサラリーマンが異世界に転生するといったものも多く、明らかに20代より上の年齢層を狙ったもののように思います。それの成功を見て文庫ラノベでも、同じようなことをしてしまいブランド価値を下げたということですね。

WEB小説から文庫化する際に、もっと10代向けを意識していればよかったのですが、そうでなかったということなのでしょう。

単行本ラノベが、13年30億円市場から16年100億円市場となりそのまま横ばい、文庫ラノベは12年284億円をピークに2021年には123億円と半減だから、文庫ラノベから単行本ラノベへ移行しただけでなく、文庫ラノベは減少していると。その原因として、ライトノベルが大人向けにシフトしたからというのが著者の考えです。

若者のライトノベル離れ

大人が知らない間に「若者のライトノベル離れ」が起きていた…!(飯田 一史) @gendai_biz
ライトノベルの読者年齢が上がっているとよく言われる。ラノベはもう10代に読まれなくなったのか?

上記、2020年11月の記事でも著者は「若者のライトノベル離れ」を書いているのですが、

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』は、宝島社が毎年刊行し、投票形式で年間ランキングを決めるムック『このライトノベルがすごい!』で3年にわたって1位を取って殿堂入りを果たし、シリーズ累計発行部数が1000万を超えているにもかかわらず、学校読書調査や「『朝の読書』で読まれた本」のランキングには、ほとんど顔を出したことがない。

とあって、このラノ殿堂入り作品が

学校読書調査は毎年各3000~4000人の中学生、高校生の男女(各学年男女各500人前後)を対象にして「5月1か月間で読んだ本」について尋ねており、中学生ではそのうち5、6人、高校生では2、3人に読まれればトップ20に入る。中学生500人に1人、高校生1000人に1人読んでいれば入る。

にもかかわらず『俺ガイル』は一度だけ、しかも一学年にしか入らず、しかし、累計1000万部超のヒットなのだ。ということは、高校生より上の年齢を中心に読まれていたのだろうと考えざるをえない。

「このライトノベルがすごい 2014」から3年連続の作品部門で1位を獲得し、殿堂入りをはたした累計1000万部超のヒット作が、学校読書調査にはほぼランクインせず。高校生1000人に1人が読んでいればランクインするのに、ランクインしたのが1度だけということです。

90年代はじめあたりは『ロードス島戦記』、90年代後半には『スレイヤーズ!』が、学校読書調査でも中高生に圧倒的な人気があったとも聞きますので、それに比べれば売上部数に対して中高生の反応がないということでしょう。

ただ、この著者の考える「若者のライトノベル離れ」は基本的に、学校読書調査や「『朝の読書』で読まれた本」のランキングに入っていないことを根拠にしているので、その辺りもっと他にデータはないのかなとも思うのですが。

中高生に読まれるラノベ

中高生がラノベを読まなくなったという、件のツイートの反応に、単行本ラノベに移った、無料のWEB小説を読むようになった、youtubeやtiktokを見るようになった、ソーシャルゲームをするようになったなどがありました。

単行本ラノベに関しては売上金額的には16年から横ばいですので、文庫ラノベからの移行しているとは言いづらい。そして、それ以外のネット関連に移行したのであれば、「若者のラノベ離れ」でなく、「若者の読書離れ」になるはずです。ここが重要です。

中学生は00年から平均読書冊数(書籍)は微増、高校生は横ばいです。不読率も中学生は下がっていて、高校生は変わらず。このデータがあるのですから、「若者が読書しなくなったわけではなく、ラノベを読まなくなった」というのが著者の分析なのです。このあたりツイートの切り取られた部分を見ただけで、あーだこーだ言っている人はわかっていないのだと思います。

それでは中高生はどういった本を読んでいるのか。

著者の調べでは、中学生では児童文庫や児童書、漫画ノベライズが増えているようです。中学生の平均読書冊数(書籍)は微増しているのに、ラノベのタイトルは少ない。件のツイートのキモの部分はここで、中学生の読者をラノベは獲得できていなくって、児童文庫に持っていかれていると。

児童文庫は角川つばさ文庫創刊以降レーベルも増えて、中学生が読んでも子供っぽいと感じにくい内容や装丁になってきているとのことです。

このあたりラノベレーベル編集者は目先の売上に囚われてWEB小説の安易な文庫化に走り、児童文庫レーベル編集者は小中学生の変化をしっかりと見ていたと言えるのかもしれません。

では、高校生はどんな本を読んでいるのかというと、割とライトノベルを読んでいるみたいです。ただし、最近の「このライトノベルがすごい」の上位にランクインするようなラブコメ作品とかではなく、昔から続く定番もの。タイトルとして著者が挙げるのが「キノの旅」「ソード・アート・オンライン」「ようこそ実力至上主義の教室へ」「Re:ゼロから始める異世界生活」です。なぜこれらの作品が根強く指示されているかを、著者はしっかりと分析していて、この本の読みどころとなっています。

今年、「このラノ」殿堂入りした「千歳くんはラムネ瓶の中」やアニメ化され人気もあった「弱キャラ友崎くん」なんかも、学校読書調査ではランクインしていないようです。

ラノベ以外では住野よる「君の膵臓をたべたい」や米澤穂信「古典部シリーズ」などの若者よりの一般文芸、最近ではボカロ小説も勢いを取り戻しているとのこと。太宰治「人間失格」は今でも読まれているようです。

ラブコメラノベは誰が読む?

ラノベに興味がある私として一番興味深いのが、ラブコメラノベは中高生に読まれていないのか?ということです。特に「千歳くんはラムネ瓶の中」は大人気のように捉えていたので、これは意外でした。

このあたりも著者はしっかりと触れていて、「このライトノベルがすごい」の投票では、10・20代のラノベ好きにはラブコメは人気だが、「ラノベも読む」というくらいのライトなラノベファンにはそれほど受け入れられていないと分析。

また、最近露骨なタイトルで目立つようになってきたエロ要素の強いラノベは、中高生男子全体で見るとニッチなジャンル。また、若者の性的な関心自体が平均してみると減退傾向にあることも重要。韓国発のウェブトゥーンでは、ソフトエロ展開は全くウケなくて、エロはエロ、一般向けは一般向けと分けたほうが良いと。

エロでも獲得できる、ビジネス的には十分すぎるパイはあるが、それ以上の獲得を考えるとすれば、エロは足かせにもなりうるという分析が面白い。「小説になろう」発で大ヒット作の「転生したらスライムだった件」では、ラッキースケベ的なものも含めエロ要素は殆どないとのこと。これくらいのヒットを考えるなら、エロはない方が良いということでしょう。

ラノベの売上とかラノベ離れとか関係なくね?

件のツイートを出発点として、「ラノベの売上とかラノベ離れとか関係なくね?」という意見が聞こえてきました。おそらく20代のラノベファンだと思うのですが、好きなものは好きで売上とか過度に気にする必要はないんじゃないかといった主旨だったと思います。

実際ラノベを楽しんでいる人からすれば、売上減少なんていうのは、好きなものを貶められているようにも聞こえるし、気分のいいものではないでしょう。ラノベの売上が減少したからといってラノベに興味がなくなるわけでなく、好きなものを好きなまま突き進めば良いと思います。

ただ、中学生にラノベが読まれていないということは、ラノベに新規に入ってくる人が少なくなり、さらにラノベの売上が減少していくと、ラノベは先細っていくことになります。現在の文庫ラノベは市場が縮小する中で、年間出版点数も2014年のピーク時から少なくなってきています(ラノベの杜データベースを参照しました)。単行本ラノベは出版点数を増やしているので、ラノベというジャンル・カテゴリーが無くなることはないでしょうが、衰退していく可能性はありえます。

このあたり現在のノベルスの状況を見ると、衰退する恐ろしさを実感します。80~90年代に、たくさん出版されていたノベルスですが、現在は見る影もなく。文庫ラノベも同じ様になってしまう可能性も無きにしもあらずです。

ラノベが衰退したところで他のものを読めば良いという考えも私にはあるのですが、雑多なジャンルを飲み込み、何でもありといって良いラノベというジャンル・カテゴリーを衰退させるのも惜しいという思いも。

今回、『「若者の読書離れ」というウソ』という本をきっかけに、「ラノベと中高生」の現在地を知ることになったわけですが、はたしてラノベはどうなるのでしょう。

ブックオフでは文庫ラノベ棚が減少している!

文庫ラノベの販売が減少しているのを実感するのが、ブックオフの文庫ラノベコーナーの縮小を目の当たりにしたときです。近くにあるブックオフ2店舗とも、文庫ラノベコーナーの棚が少なくなっています。1店舗ではその分単行本ラノベが増えているのですが、もう1店舗では単行本も含むラノベコーナー自体が縮小となっていました。

新刊で売れないともちろんブックオフへも回ってこないでしょうから、文庫ラノベ自体売れなくなってきているんだろうなぁと実感していたところです。

また、文庫ラノベコーナーに並ぶタイトルは有名作品ばかりで、マイナー作品が並ぶことは少なくなっているような気がします。当たり外れを気にせずラノベを購入して、面白くなかったらすぐに売ってしまうという、ライトなラノベ購入層が減っているのかなと思ったり。

WEB小説を読む行為は読書?

さて、今回本を読みながらずっと気になっていたことがあります。WEB小説を読む行為は読書になるのかどうかです。

学校読書調査では「読んだ本」があるかどうかを調査するわけで、WEB小説のタイトルが挙がる事はありません。それが文庫・単行本として出版されていてもWEBで読んでいるだけでは、カウントされないわけです。このあたりをどうすればすくい上げることができるのか、と思うわけです。

文庫ラノベの売上減少の原因に、文庫ラノベは買わずにWEB小説で済ます層がいることは考えられます。仮に文庫ラノベが衰退して、その需要をWEB小説が賄うようになった時、はたして学校読書調査はどう反応するのか、興味深いです。

ちなみに現在のWEB小説を読む中高生、WEB小説しか読まないのか、本も読むしWEB小説も読むのかどうなのだろう。高校生の不読率が50%くらい前後で推移しているので、小説を読む人は媒体関係なく読むだろうし、読まない人はたとえ無料のWEB小説でも読まない気がするんですよね。

それにしても「学校読書調査」、80年代からずっと調べてみたいものです。ふと、そんなことを今回思いました。

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