【妄想ラノベ史】ライトノベルにおける、不思議要素のない学園ラブコメを探る。その2【97~99年】

さて、今回もライトノベル(以下、ラノベ)における、学園ラブコメについてあれこれ考えたいと思います。今回は本来、00年からの内容を書くつもりでしたが、調べていくうちに97~99年あたりに重要な要素があるように思われたため、前回と内容がダブるのですが、もういちど97~99年を詳しく探ります。

なお、この記事におけるライトノベルの定義ですが、80年代末の角川スニーカー文庫、富士見ファンタジア文庫を始まりとする、表紙や口絵・本文にイラストのある、10代の少年向けエンタメ小説とします。

ブギーポップ以降・ブギーポップ以前

まず98年に登場した上遠野浩平『ブギーポップは笑わない』(以下、『ブギーポップ』と略)の話です。

学園ラブコメとは関係はないのですが、ラノベ史上でも重要な位置づけにある作品で、Wikipediaによると「ライトノベル業界全体にも大きな影響を与え、『ブギーポップ以降・ブギーポップ以前』という言葉を生み出した」とあります。

私は未読なので内容はよくわかりません。あらすじやレビューを読んだところで要領を得ないというか。物語の構成が斬新で、ジャンルレスでよくわからないがなにかすごい、というような感じでしょうか。

98年2月の第1巻発売後、約2ヶ月に1冊ペースで続編が刊行され、わずか1年でシリーズ売上100万部を突破したとのことです(『ライトノベル☆めった斬り!』より)。また、作家への影響も大きかったようで、『キノの旅』の時雨沢恵一は『ブギーポップ』を読んで、電撃ゲーム小説大賞へ応募することを決めたとか、西尾維新のデビュー作『戯言シリーズ』や『人間シリーズ』はオマージュ作品だとかネットでは書かれています。『medium 霊媒探偵城塚翡翠』でミステリ関連の賞を受賞した相沢沙呼も、小説を書くきっかけになったと述べています。

相沢沙呼さんが電撃に打たれたライトノベル『ブギーポップは笑わない』 僕の青春を救ってくれた|好書好日
ブギーポップの話をしよう。 僕が『ブギーポップは笑わない』と出会ったのは、十代の半ば頃のことだ。 今でこそ小説家という仕事をしているけれど、僕自身、幼かった頃はそれほど読書家だったというわけではない。両親はほとんど小説というものとは...

ここで重要なのは『ブギーポップ』がヒットしたから、ライトノベルに多様性が生まれたのではないということです。異世界ファンタジー小説のブームが97年くらいにはピークを過ぎてきて、次なる一手を各レーベルは模索していました。その中で生まれた大ヒット作が『ブギーポップ』で、異世界ファンタジーブームにとどめを刺した作品、異世界ファンタジー以外でもヒットさせることができると出版社に勇気を与えた作品であったのは確かです。しかしライトノベルの可能性を求める動きは、『ブギーポップ』が発売される前からありました。『ブギーポップ』はそれらの中で結果を残した作品です。

『ブギーポップ』がライトノベルを変えたのではなく、ライトノベルが変わりつつあった時代に大ヒットした作品です。ただ、区切りとしては「ブギーポップ以降・ブギーポップ以前」はわかりやすい区切りなのかもしれません。

97~99年までの各レーベルの状況

97年くらいから、各レーベルがどのような作品を出していたのか。ちょっと調べてみました。

富士見ファンタジア文庫

90年代ラノベの覇者、富士見ファンタジア文庫は人気シリーズがたくさんありました。97年の時点で、神坂一『スレイヤーズ!』、秋田禎信『魔術士オーフェンはぐれ旅』、庄司卓『それゆけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ』、竹河聖『風の大陸』、ろくごまるに『封仙娘娘追宝録』などなど、人気シリーズが目白押しです。

97年からは雑賀礼史『召喚教師リアルバウトハイスクール』もスタートしています。また、96年の第8回ファンタジア長編小説大賞・準入選作、昆飛雄『杖術師夢幻帳』が97年に発売されています。こちらは伝奇時代劇的な作品。メインとなる人気異世界ファンタジー作品があるので、ちょっと傾向の違った作品が出版されています。

98年には賀東招二『フルメタル・パニック!』が登場。学園を舞台としたロボットミリタリーアクション。長編はシリアス調、短編はコメディ調で展開していきます。99年は目新しいヒット作はありませんが、定番作品をコンスタントに出し続けています。ただ、異世界ファンタジー一辺倒ではなくなってきています。

そして、00年からはファンタジー作品にとらわれないレーベル、富士見ミステリー文庫を創刊することになります。

電撃文庫

97年の時点で角川スニーカー文庫移籍組、中村うさぎ『ゴクドーくん漫遊記外伝』や深沢美潮『新フォーチュン・クエストL』がありました。しかし、97年は注目作が目白押し。95年に単行本で出版された高畑京一郎『タイム・リープ あしたはきのう 』がこの年に文庫化。川上稔『パンツァーポリス1935』、高畑京一郎『クリス・クロス 混沌の魔王』、古橋秀之『ブラックロッド』と評価の高いSF作品も登場。そしてなぜか「スターウォーズ」のノベライズも電撃文庫で出版されています。90年代はSF冬の時代と言われていたので、このあたりから電撃文庫に注目したSFファンも多かったのかもしれません。

98年に入ると、上遠野浩平『ブギーポップは笑わない』と、もう一つ個人的注目作の阿智太郎『僕の血を吸わないで』が出版。どちらも電撃ゲーム小説大賞入賞作。『ブギーポップ』は学園モノをベースとしノンジャンル作品。『僕の血を吸わないで』は吸血鬼+ラブコメ作品で、不思議要素が入っているとはいえ、この時点で学園ラブコメは他レーベル含めほぼありません(スニーカー文庫で1冊、シリーズで続いたものはこれのみ)。

99年には志村一矢『月と貴方に花束を』がちょっと注目。人狼が主人公のラブストーリー要素ありのバトルモノのようです。

異世界ファンタジーにSF作品、さらに学園ものにラブコメ作品と、電撃文庫はかなり積極的に多彩なジャンルを出版しています。かなり攻めているといえます。『ブギーポップ』以降は、電撃文庫がトップラノベレーベルといって良いのかもしれません。

電撃G’s文庫

電撃G’s文庫は97年創刊の電撃文庫の派生レーベルで、主に美少女ゲームのノベライズを出版していたレーベルです。

97~01年にかけて、『ときめきメモリアル』『ルームメイト』『To Heart』『小説 北へ。 』『ぽけかの』など、恋愛シミュレーションゲームのノベライズを多数出版しました。

ライトノベルの多様性を語る上では見逃せないレーベルです。電撃文庫では恋愛要素のある作品は、ゲームノベライズでまかなっていたようにも見えます。この恋愛要素が徐々に本家の電撃文庫に流入していくようです。

角川スニーカー文庫

97年から角川学園小説大賞を創設して学園小説に挑んだわけですが、第1回の大賞受賞作『銀河鉄道☆スペースジャック』、『トラブル・てりぶる・ハッカーズ』ともに大きな話題にはならなかったようです。その後も中村うさぎ『ボクらは霊能探偵団!』、小林めぐみ『電脳羊倶楽部』など、現代を舞台にした作品を投入していますが、大きな流れにはなりませんでした。また97・98年には、大倉らいた『センチメンタルグラフティ』が2作品出版。これは『ときめきメモリアル』の後釜を狙った恋愛シミュレーションゲームのノベライズ(というかメディアミックス)。このあたり学園モノ志向がスニーカー文庫に見られます。

しかし、そんな中98年に、安井健太郎『ラグナロク 黒き獣』がヒット。こちらはスニーカー大賞受賞作で、正統派異世界ファンタジーの流れをくむ作品。皮肉なものです。

で結局、スニーカー文庫は元の路線というか、異世界ファンタジーモノがメインになっていきますが、もう一つのスニーカー文庫の柱、『機動戦士ガンダム』シリーズのノベライズも増えてきます。これはガンダム放映開始20周年もあり、OVAやゲームなど色々な動きがあったことと『∀ガンダム』放映開始にあわせたことが考えられます。もうひとつ、なぜか「スタートレック」のノベライズも出版されています。

この時期のスニーカー文庫は、学園小説大賞を創設したわりには学園モノは少なくて、当初意図した方向へはいかなかったような気がします。迷走状態といってよいのでしょう。

スーパーファンタジー文庫

スーパーファンタジー文庫は残念ながら、誰もが名前を知っているような大ヒットシリーズにめぐまれず。97年くらいからは中華ファンタジーもあり、少数ながらSFやミステリー、BL風な作品まで色々と模索されていたようです。

注目は99年の矢成みゆき・あかほりさとる『要塞学園アルファルファ アズ・soon・as』でしょうか。学園のカウンセリング部を舞台にした、少女漫画テイストの少し不思議要素ありのコメディ作品のようです。さすが時代の動きに聡いあかほりさとる、といったところでしょうか。

00年7月にスーパーダッシュ文庫が創刊され、ファンタジー以外はそちらで出版されることに。残念ながらスーパーファンタジー文庫は01年4月を持って終了です。

ファミ通文庫

98年創刊のファミ通文庫は、アスペクト発行のログアウト冒険文庫(1993年 – 1996年)・ログアウト文庫(1997年 – 1998年)とファミ通ゲーム文庫(1996年 – 1998年)が前身です。ログアウト冒険文庫はゲームノベライズを中心にファンタジー・SF作品など。ファミ通ゲーム文庫はその名の通り、ゲームノベライズの文庫でした。

98年にファミ通文庫になっても、当初はゲームノベライズが中心です。この時期は恋愛シミュレーションゲームのブームでもあったのですが、ファミ通文庫からは98年『〜放課後恋愛クラブ〜』、99年『トゥルーラブストーリー2』くらいです。

99年にオリジナル作品として、吉岡平『無責任』シリーズがこちらに移ってきていますが、ファミ通文庫が独自性を出してくるのはもう少し先のことです。そのキッカケとして、桜庭一樹が99年に『ロンリネス・ガーディアン AD2015隔離都市』でデビューしています。これはファミ通エンタテインメント大賞小説部門佳作受賞作品で、内容はSF。この時点ではそれほど重要な作家ではありませんが、のちにファミ通文庫の中で異彩を放つ作家になっていきます。

97・98年はラノベにとって重要な年

今回97~99年あたりのラノベタイトルを調べてみたのですが、どうやら97・98年あたりがラノベにとって重要な年に思えました。異世界ファンタジー人気のピークが96・97年くらいと言われているようです。出版社側もある程度マンネリ感はあっただろうと想像できます。

そこで角川書店が打ち出したのが角川学園小説大賞。しかし、これはうまくいかず、ヒットしたのが『ラグナロク』です。対して人気シリーズが多数あった富士見ファンタジア文庫は、異世界ファンタジーではない『召喚教師リアルバウトハイスクール』『フルメタル・パニック!』などを投入。それまでの路線を継承しつつも、異世界ファンタジーではない作品をラインナップに加えています。

電撃文庫は電撃ゲーム小説大賞出身の、高畑京一郎や古橋秀之、川上稔のSF作品を投入後、98年に現代の学園を舞台にした『ブギーポップ』で大ヒットを飛ばします。97年から積極的に異世界ファンタジー以外の作品を出版して結果を出したということでしょう。サブレーベルの電撃G’s文庫からは97年に『ときめきメモリアル』のノベライズを中心に、学園恋愛モノを投入。これらはオリジナル作品への影響はあまりなかったようですが、恋愛モノのラインナップがあったことに注目です。

97・98年に出版(シリーズがスタート)された、注目すべき作品をまとめると、

97年
富士見ファンタジア文庫 雑賀礼史『召喚教師リアルバウトハイスクール』
電撃文庫 古橋秀之『ブラックロッド』、高畑京一郎『クリス・クロス 混沌の魔王』、川上稔『パンツァーポリス1935』
電撃G’s文庫 花田十輝『ときめきメモリアル』
角川スニーカー文庫 相河万里『銀河鉄道☆スペースジャック』、大倉らいた『センチメンタルグラフティ 約束』

98年
富士見ファンタジア文庫 賀東招二『フルメタル・パニック!』
電撃文庫 上遠野浩平『ブギーポップは笑わない』、阿智太郎『僕の血を吸わないで』
角川スニーカー文庫 安井健太郎『ラグナロク 黒き獣』

今回、学園ラブコメを探る視点でピックアップしたタイトルなので、現在では知られていないタイトルもありますが、なかなかビッグタイトルが並んでいると思います。特に電撃文庫のラインナップの多彩さは注目すべきではないでしょうか。

『ブギーポップ』フォロアーは?

97・98年をラノベ変革の年と考えたときに、象徴となる作品が『ブギーポップ』であることはヒットの規模から考えて、間違いではないでしょう。ただ、以前から疑問がありました。ラノベ史に関する話に『ブギーポップ』の名前が挙がる度、それほど後続のラノベに影響をあたえたのか? と。

ピクシブ百科事典の「ブギーポップは笑わない」に以下のような記述があります。

現代ライトノベルの方向性を定めた作品の一つであり、セカイ系の源流の一つとなった小説。後進に与えた影響は大きく、西尾維新、時雨沢恵一、奈須きのこなどが上遠野の影響を受けた作家としてあげられる。
この作品のヒットともに、それまで異世界ファンタジーが主流であったライトノベルは
エブリデイ・マジック・異能バトルものを中心に変化・発展していくこととなる。
また西尾や奈須を中心に伝奇としてのライトノベルを確立する契機にもなった。
これらの意味では先述の通りこれら諸ジャンルの元になった作品と呼ぶこともできよう。

これを読む限り影響を受けた作家、西尾維新・奈須きのこが活躍したのは、厳密に言うとライトノベルではないような気がします。当時のラノベレーベルで、「いかにも『ブギーポップ』に影響を受けました!」という作品があるのでしょうか?

角川スニーカー文庫の動きを見てみると、学園小説大賞を創設するも、ヒットしたのはスニーカー大賞受賞作『ラグナロク』で、結局元の路線にもどっています。その点、電撃文庫は『ブギーポップ』の成功で異世界ファンタジー作品以外をたくさん出版しています。異世界ファンタジーでなくても行けるという手応えはあったあったでしょうが、それが即「現代ライトノベルの方向性を定めた作品」とまでいえるのでしょうか?

『ブギーポップ』シリーズは、98年2月から00年2月までで合計9冊出版されています。2000年1月からはアニメも放映されていて、すごい勢いです。ただ、そのわりには『ブギーポップ』フォロアー的な作品は見当たりません。「セカイ系の源流の一つとなった」とも書かれていますが、この「セカイ系」という言葉も定義不明で、後の作品にどう影響があったのかどうか不明です。

「〇〇があったので、後に同じような作品があふれた」というのであればわかりやすいのですが、『ブギーポップ』ではそれがありません。それゆえに「現代ライトノベルの方向性を定めた作品」といった、何とも微妙な表現にしかできないのではないでしょうか。

『ブギーポップ』がもう少しカテゴライズのし易い、わかりやすい作品であったなら、学園モノの時代が来たとか、現代ファンタジーの時代が来たとか言えたのかもしれません。しかし、そうではなかったと。「エブリデイ・マジック・異能バトルものを中心に変化・発展していくこととなる」なんて書かれていますが、これは『ブギーポップ』の影響なのでしょうか? とくに「エブリデイ・マジック」なら阿智太郎『僕の血を吸わないで』が元祖にふさわしいのではないかと。

ここで考えたのは、『ブギーポップ』は異世界ファンタジーブームを終了させた作品であって、新たな人気ジャンルを生みだした作品ではないということ。乱暴な言い方をすれば、ラノベに混乱を巻き起こした作品ではないかと。この作品以降、ラノベはなんでもアリになり、新しい流れを生み出すのは『涼宮ハルヒの憂鬱』を待つしかなかったと。

学園ラブコメ

で、ここからが本題です。『ブギーポップ』によって異世界ファンタジーのブームがとどめを刺され、ライトノベルはなんでもアリの状態になりました。学園ラブコメが登場する下地が出来たということです。大きな流れになるのはまだまだずっと先ですが、芽が出てきたということでしょうか。

学園ラブコメの芽としては、成功はしませんでしたが角川スニーカー文庫の相河万里『銀河鉄道☆スペースジャック』です。少女を主人公に演劇部を舞台にした作品で、恋愛要素は少ないものの少女漫画的ラブコメ作品といえると思います。

不思議要素のある学園ラブコメとしては、阿智太郎『僕の血を吸わないで』があります。吸血鬼+学園ラブコメでラノベにおけるエブリディマジック型としては、これが元祖と言えるかもしれません。

3大レーベル以外では、スーパーファンタジー文庫の矢成みゆき・あかほりさとる『要塞学園アルファルファ』が学園を舞台としたドタバタコメディのようです。

ラノベにおける学園ラブコメを考えるにおいて、ちょっと注目するべきポイントがあります。『銀河鉄道☆スペースジャック』と『要塞学園アルファルファ』は少女が主人公です。内容もどちらかというと少女漫画的なような気がします。それに対して、『僕の血を吸わないで』は少年が主人公です。パターンとしては『うる星やつら』的といいましょうか。これらは学園ラブコメとして一緒にしてしまいそうですが、実は根っこが違うような気がします。後の『とらドラ』と『僕は友達が少ない』なんかでは、同じ学園ラブコメといっても全然テイストが違うと感じるのは、このような根っこが違うからではないかと思うのです。2つの流れがあるように感じます。

もう1つの流れとして、恋愛シミュレーションゲームのノベライズがあります。花田十輝『ときめきメモリアル』や大倉らいた『センチメンタルグラフティ』などです。ただ、これらの影響を受けたらしき、オリジナル作品がないのもたしかです。ひょっとしたら当時のラノベ読書層は、読む作品としてファンタジーがあって、遊ぶ作品として恋愛シミュレーションゲームがあったのではないかと。遊んでいるゲームのノベライズを読むことがあっても、恋愛小説を求めていなかった、と考えることができます。だからこそ、オリジナルの恋愛小説はラノベではなかなか登場しなかったのではないでしょうか。

さて、なんでもアリとなったラノベですが、00年からはさらに多彩な作品が登場してくることになります。不思議要素のない学園ラブコメが人気になるのは、まだまだ先のこと。それまでにラノベには様々な要素が流入してきます。そして、ラノベの新しい流れとなるのは、03年に登場する『涼宮ハルヒの憂鬱』かと思われます。

続く。

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