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【妄想ラノベ史】ライトノベルにおける、不思議要素のない学園ラブコメを探る 。その1【88~00年】

さて、今回はライトノベル(以下、ラノベ)における、学園ラブコメについてあれこれ考えたいと思います。

先日大阪・阿倍野にある大吉堂さんへ、委託ボックスの入れ替えに行ってきました。そのときに大吉堂さんといろいろ話をしたのですが、その中の話題のひとつに、最近のラノベでは学園ラブコメが流行っているみたいだけど、90年代のラノベにSFやファンタジー的要素のない学園ラブコメってないよねというのがありました。それで拡散力のある大吉堂さんに、twitterでつぶやいていただきました。

00年代なら『乃木坂春香の秘密』や『とらドラ』、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』なんかのタイトルがすぐに浮かびます。でも、そもそも学園ラブコメといえば、どちらかというと少女小説で人気のジャンル。90年代ラノベになかったのに、なぜ00年代に入って、これらのような学園ラブコメが登場したのか、また学園ラブコメが男子向けのラノベで隆盛を誇るきっかけとなった作品はあるのか、そのようなことが気になりました。

件のツイートのレスに、大吉堂さんから帰ってすぐに調べた考察を書いてみたのですが、もう少し突っ込んで考えたいと思います。

なお、この記事におけるライトノベルの定義ですが、80年代末の角川スニーカー文庫、富士見ファンタジア文庫を始まりとする、表紙や口絵・本文にイラストのある、10代の少年向けエンタメ小説とします。

現在人気の学園ラブコメラノベ

まずはじめに現在のラノベの確認です。ラノベというと異世界に転生してうんぬんばっかり、と思われる方も多いかもしれませんが、「このライトノベルがすごい!」のランキングで見ると、学園ラブコメも何作かトップ10に入っています。

2021年から2年連続文庫部門1位を獲得した『千歳くんはラムネ瓶のなか』、2017年版から文庫部門で5年連続TOP10入りの『弱キャラ友崎くん』、この7月からアニメが放送される『継母の連れ子が元カノだった』、今注目?の『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』などなど。

新刊ラインナップにも、タイトルから学園ラブコメと思われるものが多数あります。ということで今のラノベは異世界もの一辺倒ではなく、学園ラブコメも一大勢力となっているのです。

書評家・タニグチリウイチ氏の記事に以下のようなものがあります。

ラノベ=異能・異世界はもう古い? ライトノベルでラブコメ人気がブーストした理由
ライトノベルでラブコメ熱が高まっている。書店にならぶ新刊も、「青春ラブコメ」「私以外とのラブコメ」といった具合に、そのものズバリの言葉がタイトルに入ったものや、「英国カノジョ」「カワイイ私」のような、ラブコメ展開を想像させるものが並んでブームを感じさせる。ライトノベルはこのままラブコメ一色になっていく…

このなかで20~30代にも人気の異世界転生モノは単行本に集まり、単行本よりは価格的に手に取りやすい文庫版のライトノベルジャンルでは、ティーン層が好むラブコメが増えたとあります。

いつの時代もティーン層にはラブコメが人気があると思うのです。それなのになぜか90年代ラノベの学園ラブコメタイトルが思い浮かびません。

90年代ラノベに学園ラブコメは?

まず90年代ラノベに学園ラブコメがあったのか? まずはこのあたりを探ります。

90年代ライトノベルの代表作といえば、『ロードス島戦記』『スレイヤーズ!』『風の大陸』『フォーチュン・クエスト』『〈卵王子〉カイルロッド』『魔術士オーフェン』などなどファンタジー作品が主流。これらはファミコンRPGやTRPGからの影響といわれています。そもそもライトノベルはマンガ・アニメ・ゲームといった隣接ジャンルからの影響が大きい、といわれています。

マンガには学園ラブコメがあるのに……

で、80年代から90年代にかけて、少年漫画では『The・かぼちゃワイン』『ストップ!! ひばりくん!』『きまぐれオレンジロード』『BOYS BE…』など、不思議要素のない人気学園ラブコメがあります。「きまぐれ~」は超能力要素があるので、ちょっと違うかもしれませんが、少年漫画では学園ラブコメがすでにあったということが重要です。特に90年代に人気を博した『BOYS BE…』の存在は注目しなければなりません。またこれら以外にも『うる星やつら』や『タッチ』など、他要素(SFやスポーツ)に恋愛をくわえたものが、人気を博していたというのもあります。

それなのにラノベではファンタジーが主流、それにくわえ少しばかりのSF作品。私はリアルタイムで90年代ラノベを読んでいないので、00年代に入って出版されたラノベ解説本を頼りにするしかないのですが、学園ラブコメのヒット作というのは見つかりません。

90年代の学園ラブコメ

それでは90年代のラノベには、本当に学園ラブコメはなかったのか、探っていきたいと思います。方法としては、ラノベの杜のデータベースをたよりに、恋愛モノ・学園モノらしきタイトルを探し、amazonなどのあらすじやWikipediaの記述から学園ラブコメかどうかをチェックするというものです。ここではレーベルごとに見ていこうと思います。

角川スニーカー文庫

1987年10月に「現代日本文学」分類の「角川文庫・緑帯」から「角川文庫・青帯」として独立、1989年2月に公募で選ばれた「スニーカー文庫」の名称が巻末の既刊紹介や帯で使用され、1989年8月に「角川スニーカー文庫」として正式に創刊。

以上、Wikipediaより

1989年にスニーカー文庫は創刊されているのですが、その前に角川文庫・青帯があり、さらにその前に「角川文庫ファンタジーフェア」やファミコンRPG・TRPG人気があったというのが、一般的な認識かと思います。ただ、これはファンタジー作品から見たラノベ史といって良いのかもしれません。

調べたところ初期のスニーカー文庫には、少女向け小説(表紙の上下がピンクの帯になっている)もありました。1988年3月に、正本ノン『九月、雨あがりの街角で』、久美沙織『SPEAK EASY(スピークイージィ)の魚たち』、唯川恵『二十二歳 季節がひとつ過ぎていく』など、コバルト文庫で活躍していた作家の作品も出版されています。ただ、ラブコメというより、純粋なラブストーリーのようです。そして、この少女小説の流れは91年頃までです。これには同時期に発売された『ロードス島戦記」のヒットがあって、スニーカー文庫=ファンタジー作品のイメージが定着し、ファンタジー路線に絞ったためかと思われます。92年からはルビー文庫という少女向けレーベルが出来ているので、恋愛モノはそちらに吸収されたのかもしれません。

なお、スニーカー文庫の前身、青帯に関しての話が、2004年発行の『ライトノベル完全読本』に載っています。2004年当時のスニーカー編集部・編集長 野崎岳彦氏へのインタビュー記事で、「86年のファンタジーフェアのヒットがあり、若者向けレーベルを立ち上げることになった。当初は少女向け小説を立ち上げようと動いていたが、当時のトップに「若者向けを全部やっちゃえば」と言われ、角川文庫・青帯を創刊、スニーカー文庫にいたった」という旨が載っています(p.50)。当時、コバルト文庫や講談社X文庫ティーンズハートが勢いのあった時代なので、最初は少女向け小説の準備をしていたのでしょう。

ちなにに1988年3月発行の作品に、越沼初美『由麻くん、松葉くずしはまだ早い!!』というすごいタイトルの作品があります。しかも、これイラストが美樹本晴彦!

amazonであらすじを見るとどうやら学園ラブコメのようで、これが角川文庫・青帯初期の学園ラブコメと言えるかもしれません。

90年代序盤は『ロードス島戦記』『フォーチュン・クエスト』『ゴクドーくん漫遊記』『魔獣戦士ルナ・ヴァルガー』などで人気を博すも、92年、いわゆる角川お家騒動が勃発。角川書店を離れた角川歴彦氏が、メディアワークスを設立し電撃文庫を創刊。スニーカー文庫から移籍した作家もいたので、事実上の分裂です。『ロードス島戦記』など人気タイトルは残ったものの、この後スニーカー文庫は『スレイヤーズ!』が大ヒットしたファンタジア文庫に水をあけられることになります。これにはファンタジア文庫が創刊後すぐに、「ファンタジア長編小説大賞」で人材を発掘していったことに対し、遅れを取ったからとも考えられます。

そんなスニーカー文庫も96年から「スニーカー大賞」を実施、安井健太郎『ラグナロク』などのヒット作を生みますが、大ヒット作は03年の『涼宮ハルヒの憂鬱』までまたなければなりません。

話が少しそれましたが、学園ラブコメを考える上で、注目すべきは97年からの「角川学園小説大賞」。その第1回大賞受賞作が、相河万里『銀河鉄道☆スペースジャック』。タイトルからはファンタジーっぽく感じますが、演劇部を舞台にした少女が主役の学園ラブコメです。これ以外にも、おなじく大賞受賞作で学園ハッカー小説?の後池田真也『トラブル・てりぶる・ハッカーズ』、青春ホラーの関俊介『歪む教室』が出版されています。それと同時期に、芥川賞作家・高橋三千綱の学園小説『悲しみ君、さよなら』や、漫画家でもある白倉由美の青春ラブストーリー『夢から、さめない』なんていうのもあります。ファンタジー小説のブームもおさまってきた頃に、学園モノを模索したようです。ただ、これ以降の90年代作品に学園モノらしき作品は、ゲーム関連作以外には見当たりません。

ゲームノベライズとしては、ゲーム「卒業II ~Neo Generation~」のノベライズが94年に、とまとあき・塚本裕美子共著で4作品出版されています。ゲーム「卒業」はPCをスタートに家庭用ゲーム機にも移植された育成シミュレーションゲーム。90年代なかば、PCだけでなく家庭用ゲーム機でも、美少女ゲームが増えてきます。92年の「卒業」はそのハシリ。

もうひとつが97年の「センチメンタルグラフティ」。94年の「ときめきメモリアル」大ヒット受けて、企画された作品。こちらはメディアミックスでゲーム発売前に小説が『電撃G’sマガジン』にて連載、98年のゲーム販売に先駆けて文庫本が出版されています。

90年代後半、美少女・恋愛シミュレーションゲームのノベライズが他のレーベルでも増えていきますが、ライトノベルオリジナルとして恋愛メインの小説はほぼありません。もちろん学園ラブコメもありません。

富士見ファンタジア文庫

1988年1月に創刊されたドラゴンマガジンを母艦誌としたレーベルで、本レーベルの創刊は同年の11月。86年の角川文庫ファンタジーフェアの成功を受けて、富士見書房でもファンタジー作品を出版するべく作られたようです。

初期のファンタジー作品としては、竹河聖『風の大陸』がありますが、なんといってもファンタジア文庫といえば『スレイヤーズ!』でしょう。それ以外にも秋田禎信『魔術士オーフェンはぐれ旅』、冴木忍『〈卵王子〉カイルロッドの苦難』などの大ヒット作があります。SF作品では吉岡平『宇宙一の無責任男シリーズ』、庄司卓『それゆけ! 宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ』など。

今回90年代の学園ラブコメを調べたのですが、潔いくらい学園ラブコメはありませんでした。ごく初期の作品に南田操『コミケ中止命令!』 という、「コミケ版ローマの休日」とamazonのレビューに書かれているラブコメっぽい作品があるくらい。

もうひとつ純粋な学園モノではありませんが、学園を舞台とした『蓬莱学園シリーズ』。複数作家によるシェアードワールドものですが、『パーフェクト・ラブレター―蓬莱学園 恋愛編』という恋愛をテーマとした短編集があります。そして、恋愛シミュレーションゲームのノベライズに、イタバシマサヒロ『エーベルージュ―魔法を信じるかい? 』があるくらいです。イタバシマサヒロは90年代恋愛漫画『BOYS BE…』の原作者であります。

個人的に90年代のライトノベルは富士見ファンタジア文庫の時代だと思っているのですが、そのほとんどがファンタジー・SF作品です。90年代おわりの賀東招二『フルメタル・パニック』の短編集が学園コメディといえるくらい。ファンタジー要素を持ったラブコメとしては、01年の築地俊彦『まぶらほ』までないかもしれません。そして、ファンタジー・SF要素のない学園ものとしては、08年の『生徒会の一存』まで待たないといけません。これは00年に富士見ミステリー文庫を創刊し、恋愛要素のある作品はそちらで展開されたためでしょう。

90年代の富士見ファンタジア文庫には、学園ラブコメはおろか、学園モノもほぼありませんでした。

電撃文庫

92年から始まる角川お家騒動で創刊されることになった電撃文庫。初期のラインナップは、スニーカー文庫時代から付き合いのあった作家の作品が多々見られます。中村うさぎ、水野良、松枝蔵人、あかほりさとる、深沢美潮など。ただ、どれも大ヒットとはならず、スニーカー文庫ともども富士見ファンタジア文庫には差をつけられる形です。

ただ、電撃文庫の特徴は、ファンタジー作品にこだわらなかったことでしょう。電撃ゲーム小説大賞出身の川上稔『パンツァーポリス1935』、高畑京一郎『クリス・クロス 混沌の魔王』、古橋秀之『ブラックロッド』シリーズなど90年代後半はSF色が強いのが特徴です。そして98年の上遠野浩平『ブギーポップは笑わない』のヒットで、一気に流れが変わったようです。ここからはラノベの主流レーベルとして、電撃文庫の存在は大きくなっていきます。

学園恋愛モノとしては、93年『卒業 センチメンタル・サマー』、94年『誕生 夢・輝いて』、96年『結婚 〜Marriage〜 いつかあなたと…』、97年『ルームメイト 井上涼子の場合』など、ゲームノベライズがあります。なお、電撃文庫のサブブランドにあたる、電撃G’s文庫には97年『ときめきメモリアル』、電撃ゲーム文庫には99年に『小説 北へ。 いつか出会うあなたに…』などもあります。両方ともゲームノベライズで、学園恋愛モノです。

で、電撃文庫には注目するべき作品が一つあります。『ブギーポップは笑わない』と同じ98年8月に発売された、阿智太郎『僕の血を吸わないで』です。タイトルから想像できるように吸血鬼モノなのですが、内容がラブコメなのです。人間とは異なる存在が家に転がり込んできて、現実世界でドタバタを展開する物語は、ラノベではこれがはじめてなのかもしれないと思っています。

僕の血を吸わないで (電撃文庫 あ 7-1)
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04年出版の『ライトノベル☆めった斬り!』において、大森望氏が「最近の流行かなと思うのは、一種のほのぼの系」「エブリディマジック型。日常のドラマの中に非日常な要素が同居してるやつ」とあります。『うる星やつら』の流れとも。それに対し、三村美依氏がエブリディマジック型は、「落ちもの」ジャンルが全てそうではないかと。「落ちもの」とは、空から変な女の子が降ってきて、その子と同居するパターンでアニメ・マンガに多いとのこと。

大森氏は「なぜかライトノベルでは少なかったけど、最近(2004年ころ)ものすごく増えてきた」といっています。その始まりが、阿智太郎『僕の血を吸わないで』ではないかと思います。

その他のレーベル

90年に入るとスニーカー文庫のヒットを受けて、続々と新しいレーベルが誕生します。エニックス文庫、大陸ネオファンタジー文庫、スーパーファンタジー文庫、スーパークエスト文庫、ログアウト冒険文庫などです。

89年創刊のエニックス文庫は、初期にはオリジナル作品もあったようですがゲーム・アニメノベライズが中心。後期はドラゴンクエストのノベライズのみとなっています。97年ころまで。

大陸ネオファンタジー文庫は、大陸書房が90年から92年の倒産まで刊行していた文庫レーベル。オリジナルのファンタジー作品が中心ですが、アニメノベライズも少数。

スーパーファンタジー文庫は、集英社が91年3月から01年4月まで刊行していた文庫レーベル。その名の通りほとんどがファンタジー作品。同じ集英社のコバルト文庫で活躍していた作家が、こちらでも書いている場合もあります。00年に入ると、スーパーダッシュ文庫に吸収されます。

ちなみにスーパーファンタジー文庫でファンタジー作品でないものとして、霜越かほる『高天原なリアル』があります。女子高生を主役とした、声優業界モノでスーパーファンタジー文庫の中で異彩を放っています。

スーパークエスト文庫は小学館の文庫レーベル。92年6月から01年12月まで。主にファンタジー作品でアニメやマンガ、特撮作品のノベライズもありましたが、それほどヒット作は現れず。レーベル休止後、小学館がラノベに再参入するのは、07年のガガガ文庫までまたなければなりません。

ログアウト冒険文庫はアスペクトが刊行していた文庫レーベル。93年10月創刊。アスペクトの親会社アスキーが刊行していたテーブルトークRPG誌『LOGOUT』が基盤。97年にログアウト文庫、98年にファミ通文庫へと変わっていきます。冒険文庫の名のとおり、こちらもファンタジー作品がメイン。

以上の5レーベルも時代の流行りに合わせて、ファンタジー・SF作品を刊行したのですが、大ヒット作も特に無く消えていきました。学園モノや恋愛モノもノベライズ以外ほとんど無いようです。しかし、ここに注目のレーベルが隠れています。それはログアウト冒険文庫が姿を変えたファミ通文庫です。90年代後半のレーベル初期はファンタジー・SF・ノベライズ作品がほとんどでしたが、00年に入り少しずつ変わっていきます。この辺は次回の話です。

まとめ

ということで、角川スニーカー文庫、富士見ファンタジア文庫、電撃文庫の3大レーベル、およびその他レーベルのタイトルをざっと調べてみたのですが、驚くことに学園ラブコメはほぼ見つかりませんでした。複数あったのは初期スニーカー文庫(というより角川文庫・青帯時代)の頃くらいです。

学園恋愛モノとしては、パソコンや家庭用ゲーム機でヒットした、恋愛シミュレーションゲームのノベライズが多数見受けられますが、ノベライズ止まりでそれに影響を受けたオリジナル作品は見られません。とくに90~96年ころまでのオリジナル作品は、ファンタジー・SF作品のみといってよいでしょう。

ここから考えられるのは、現在「ライトノベルレーベルはなんでもアリのレーベル」と捉えられていますが、90年代はそうではなかったのであろうと。90年代のライトノベルというのは、ファンタジー・SF作品を指していたのではないかということです。要はファンタジー作品を出すレーベルこそが、ライトノベルレーベルであっとのではないかと。

ここで少し興味深い対談を。2019年におこなわれた、角川歴彦、水野良、神坂一、鏡貴也の四氏による対談です。

Special Interview 『キミの一冊』ライトノベルの30年 | キミラノ ライトノベルのレコメンドサイト
3人の人気作家『スレイヤーズ』神坂一、『ロードス島戦記』水野良、『伝説の勇者の伝説』鏡貴也に、KADOKAWAのサブカルチャー文化を開拓し牽引してきた角川会長が加わり、ライトノベルの30年を語る豪華座談会が実現! これまでとこれからについてじっくり語っていただきました。

この中で水野氏が「90年代の後半ごろから、〈ライトファンタジー〉という言葉が富士見ファンタジア文庫を中心に広まっていた印象がある」と述べています。90年代の後半ごろとあるのは、ひょっとして80年代の後半の間違いかなとも思いますが。

そして対談後半には、「〈ライトノベル〉という言葉は、作家の立場からすると、電撃文庫が登場して以降のパラダイムを示すものだという気がする」と水野氏が述べ、鏡氏もそれに同意しています。

今回、90年代ライトノベルに学園ラブコメがあるのかという調査でしたが、ここから浮かんできたのは、90年代のライトノベルレーベルはライトファンタジーレーベルであったということです。その勝者として富士見ファンタジア文庫があったのだと思います。

お家騒動でつまづいたスニーカー文庫は、ファンタジー作品では敵わなかったため、97年に角川学園小説大賞を始めたと。先程の対談の中で角川歴彦氏の発言、

そうしたライトノベルの新人賞も、長く続く内にやはりレギュレーションのようなものが生まれてしまい、一度、壁に当たりました。そこで僕が考えたのが、「角川学園小説大賞」だったんです。ライトノベルの中に「学園小説という新しい枠組みを設けることで、応募作や、それを選考する編集者たちの意識に変化を起こせないか」と考えたんですね。角川文庫に青帯を作ったときくらい、社内からはすごく抵抗されました(笑)。

この発言に続いて水野氏が、学園モノの流れは来て『涼宮ハルヒの憂鬱』が生まれたと言っているのですが、これは角川歴彦氏へのリップサービスでしょう(笑) そこまで一足飛びではないと考えています。

90年代後半に重要なのはやはり電撃文庫で、とくに電撃ゲーム小説大賞が重要だったと。スニーカー文庫から連れてきた作家たちも大ヒットを出せず苦戦し、新たな人材の発掘に取り組んだのでしょう。”ファンタジー”小説大賞ではなくて、”ゲーム”小説大賞だったのが良かったのかも。ここに集まったのが古橋秀之や高畑京一郎、川上稔などSFを描く作家。そして『ブギーポップ』。

『ブギーポップ』のすぐ後には『キノの旅』があって、電撃文庫の時代を迎えるのですが、ラノベにおける学園ラブコメ史を考える上で見逃せないのが、阿智太郎『僕の血を吸わないで』ではないかと。『うる星やつら』的なSF+学園ラブコメ作品で、シリアスな作品の多い電撃文庫の中で新しい流れになったのでは? と考えます。従来からのファンタジー、古橋・高畑・川上・秋山瑞人などのSF作品、学園モノ『ブギーポップ』、さらに(不思議要素のある)ラブコメが加わり、なんでもアリになってきています。ここで現在のライトノベルのイメージが出来上がってきたのではないでしょうか。

90年代後半にはファンタジー人気も落ちてきて、ヒットシリーズを持っていなかったスニーカー文庫や電撃文庫が新しい方向を模索。ヒットシリーズを多数抱えていた富士見ファンタジア文庫はやや遅れを取り、電撃文庫に逆転され、対抗として打ち出したのが00年から始まる富士見ミステリー文庫です。これにログアウト文庫を引き継いだファミ通文庫、新規レーベルMF文庫Jの登場もあって、00年代からはさらになんでもアリが加速していきます。

まとめ(仮)

90年代ライトノベルには、学園ラブコメはほぼありません。

恋愛シミュレーションゲームのノベライズはあるものの、オリジナル作品への影響はほぼ無し。

90年代のライトノベルレーベルは、ファンタジー・SF作品のレーベル。

ファンタジーブームの終焉とともに、電撃文庫がファンタジー・SF・学園モノ・ラブコメなど多彩な内容の作品を出版するようになっていき、それがライトノベルのイメージとして定着。

といったところでしょうか。00年代に入り、どのようにして不思議要素のない学園ラブコメが登場したのか、どのように定着していったのか、次回に続きます。

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