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【ラノベの源流を読む1】新井素子『あたしの中の……』を読んで

さて、今回は名作単巻ラノベから少し離れて、ラノベの源流としてあげられる新井素子さんの作品を読んでみました。

あたしの中の……

著者:新井素子
イラスト:四位広猫
文庫:コバルト文庫
出版社:集英社
発売日:2005/12
データはコバルト文庫新装版のものです。

あたしが目を覚ますと、そこは病室。なんでもあたしの名前は田崎京子で、バスの転落事故に巻き込まれて奇跡的に助かったらしい。しかもこの一週間で二十九回も事故にあっているのに、まったくの無傷らしい。けれどあたしには記憶がない!警察はあたしのことを疑っているみたい。あたしは誰なんだろう…!?(「あたしの中の…」)表題作ほか三編を収録。新井素子デビュー作の新装版。

「あたしの中の……」は1977年に奇想天外社から出版され、1981年に集英社文庫コバルトシリーズ(後のコバルト文庫)に納められたものです。収録されているのは、「あたしの中の……」、「ずれ」、「大きな壁の中と外」、「チューリップさん物語」の4編です。「チューリップさん物語」は文庫化された時に追加されたもので、奇想天外社版は3編でした。

私が読んだのは1996年に出版された愛蔵版で、コバルト文庫版を元に愛蔵版あとがきが追加されております。2005年にコバルト文庫では新装版が出版されており、文庫版あとがきがなくなり、新装版あとがきが追加になっています。

読んだ感想

表題作の「あたしの中の……」は第1回奇想天外SF新人賞佳作作品であり、新井素子さんのデビュー作です。”あたし”の一人称・口語体で語られる物語は40年以上前に書かれた小説なのに、古くささは感じません。同じ時代に書かれた高千穂遙や清水義範のソノラマ文庫作品には、それなりの時代を感じてしまうのに…

星新一は解説で、「あたしの中の……」を読んだ感想をこのように書いています。「文章が新鮮であった。この世代なら誰でも書くという説もあるが、小説に活用したのははじめてだろうと思う。今後だれかが試みれば、新井素子の亜流となってしまうのだ。また、この模倣は、容易そうだが、けっこうむずかしいのではなかろうか」と。

多分、古くささを感じなかったのは、この文章によるものだと思われます。語り口が現在のラノベとつながっているのです。先日ブログにも書いた「紫色のクオリア」の中の「1/1,000,000,000のキス」を読んだ時に、あたしあたしと語られる文章に、実は新井素子作品を思い出していました。

新しい世代の言語感覚による「文章で書いた漫画」であると指摘されており、後の作家に対する影響力は無視できない。新井素子の文体は後のライトノベル文体に少なからず影響を与え、元祖的もしくは雛形的存在と称されることもある。

出典:Wikipedia 「新井素子」より

Wikipediaにある通りだと思っています。

内容的には40年前の作品なので、スゴいといえるほどではありませんが、どの作品もきっちりとオチがあって楽しめました。ライトノベルの定義は様々ですが、私はこの作品をオールタイムベストラノベの1つに挙げたいし、単巻名作ラノベだと思っています。

あたしの中の……

新井素子16歳の作品。上にも書いた通り第1回奇想天外SF新人賞佳作のデビュー作。事故にあっても死なない女子高生の物語。自身の中に入り込んだ別の意識とのやりとりや、会話のテンポの良さが秀逸です。「莫迦ですね、あたしゃ」とか、「はいはい、判ってますってんだ、ルナちゃんよ」とか、ところどころで江戸っ子か? と思わせる表現もかわいらしい。感動的に見せかけて、実は…っていうオチも面白くて、16歳の女子高生が書いたとは思えないくらいの出来です。

ずれ

新井素子17歳の作品。「あたしの中の……」を掲載した雑誌が発売される前に、星新一が「すごいのがあらわれたぞ」と話したのを受けて、「いんなあとりっぷ」という雑誌の編集者が依頼したとのこと。「あたしの中の……」が高2の春に書いた作品で、こちらは高2の冬休みに書いた作品。受賞作が掲載されたのが「奇想天外 1978年2月号」で、その約2ヶ月後の「いんなあとりっぷ 1978年4月号」に掲載されたようです。いまだと受賞はヤラセだったのでは? と疑われてしまいそうですね。

ちょっと物足りなさの残る作品ですが、こちらも最後のオチが怖くもあり面白くもあります。

大きな壁の中と外

新井素子17歳、高3春の作品。収録された4編の中で、一番読み応えのある作品です。短編というより中編。

第3次世界大戦後の人類復興プログラムによる、再生の物語。エデン計画に隠された最終プログラム―スネイク計画が描かれます。途中、ヒトタンパクというフレーズが出てくるのですが、これが恐ろしい。

読者レビューを読んでいると、4編の中でこの作品を支持する人が多いようです。

チューリップさん物語

新井素子20歳の作品。童話風にみせたショートショートで、ブラックな味のする作品です。

まとめ

今更、新井素子さんを語る必要は無いのかもしれませんが、ラノベの文脈の中での新井素子作品の再確認と言ったところです。それにしてもamazonを見ると絶版になっているようで、非常に残念。ラノベの中では重要な位置づけの作品だと思いますが、文学界や出版界から見れば重要ではないと言うことでしょうか。

なお、解説で星新一が引用している毎日新聞の記事ですが、↓こちらのサイトで読むことが出来ます。

新井素子works:新聞「毎日新聞1978年1月22日」
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