さて、今回は角川スニーカー文庫という名前が登場する直前、角川文庫・青帯時代の88年に出版された、山本弘『ラプラスの魔』を読んだ感想です。
ラプラスの魔
著者:山本弘
原案:安田均
イラスト:結城 信輝
文庫:角川文庫・青帯
出版社:角川書店
発売日:1988/03
1924年、アメリカのマサチューセッツ湾にある田舎街ニューカム。その町外れに立つウェザートップ屋敷は土地の者には幽霊屋敷とよばれる空屋だった。ここで惨劇がおこる。2人の少年がまるで食いちぎられたようなバラバラ死体で発見され、一人の少女が行方不明になったのだ。怪奇事件の謎を追う女性記者モーガン、私立探偵アレックス、オカルト学者、霊媒師、日本人の超能力者、草壁健一郎たちが見たのは、怖るべき魔物と異世界の秘密であった…。人気RPGを原作に、クトゥルー神話まで飲みこみ広がっていく新鋭山本弘の戦慄の怪奇ファンタジー。ここに書下しなる!
読んだ感想
もともとはパソコン向けに発売されたRPG。当時は多くのコンピュータRPGが剣と魔法のファンタジー的世界だったのに対し、こちらはちょっと珍しい? 1920年代のアメリカの片田舎を舞台にした幽霊屋敷探索ゲームでした。
どこまでがゲームオリジナルの設定で、どこからが山本弘氏オリジナルなのかは、ゲームをプレイしていないのでわかりません。あとがきで安田均氏がゲームの小説化ながらストーリーは山本弘氏が練り直し、原作ゲームとは一部異なっているとのこと。
で、小説はあらすじに「戦慄の怪奇ファンタジー」とあるように、ホラー要素のある作品です。登場する化け物が、ちょっとグロテスクな感じ。物語はこの化け物を退治するゴーストハントモノになります。
ストーリーは幽霊屋敷の中で化け物と戦い、秘密の部屋を見つけ、異世界にワープするという展開で、いかにもゲーム的です。ただ、それだけで終わっていないのが、この作品の面白いところ。キャラクターの肉付けやクトゥルー神話との絡みで最後まで楽しませてくれます。
最初、女性記者モーガンが大活躍するような物語かと思っていたのですが、元のゲームがパーティプレイなので複数のキャラクターが登場し、それぞれにしっかりとした背景のある群像劇でした。特に、ちょっとさえない科学者ビンセントと、元カレが忘れられないジョアンナとの関係性なんかがすごく良かったです。このあたりはゲームでは表現する難しいので、小説オリジナルなんでしょう。なお、ビンセントの装備は映画「ゴースト・バスターズ」思い出しました。
それ以外にも、草壁の復活シーンやカサンドラの最後など、キャラクターを魅せる読みどころが多く、ゲームのストーリーを辿っただけの小説になっていないのが素晴らしいです。
クトゥルー神話に関しては、詳しく知らなくても充分楽しめました。知っていればより楽しめるのでしょうけど、絶対必要な知識ということではないです。それよりも物語の中で、神々の存在がクトゥルーどうこう関係なく、存在そのものが面白いなと思いました。
80年代のゲームノベライズとしては、飛火野耀『イース―失われた王国』、井沢元彦『ドラゴンバスター』なんかを読みましたが、意外と面白いなと改めて思いました。ゲームノベライズに改めて注目してみるのも面白いかも、なんて思うのでした。ただ高屋敷版『ドラゴンクエスト』はちょっといまいちでしたが……
なお、『ラプラスの魔』は2002年スニーカー文庫から新装版が出ています。
また、2014年には、1993年発表の文庫未収録作「ラプラスの魔外伝 死のゲーム」を加えた完全版(単行本)が出版されています。