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峰守ひろかず『こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌』全2巻を読んで

さて、今回は大ヒット作品、三上延『ビブリア古書堂の事件手帖』のスピンオフ作品で、電撃文庫から出版された峰守ひろかず『ビブリア古書堂の事件手帖スピンオフ こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌』全2巻を読んだ感想です。

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『ビブリア古書堂の事件手帖』のスピンオフ

『こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌』は、メディアワークス文庫の『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズのスピンオフ作品。人気シリーズの外伝を原作とは別の作家が書く、雑誌「電撃文庫MAGAZINE」 50号突破記念企画「電撃文庫リザレクションシリーズ」の第3弾として、2016年11月号(vol.52)から2017年3月号(vol.54)、2018年3月号(vol.60)、2018年5月号(vol.61)、2018年11月号(vol.61)に掲載されたものです。

内容は本家のミステリと違い、少年少女のコンビが「ビブリアファイト」という架空の書評競技で名作をオススメする話です。ビブリオバトルを描いた山本弘『BISビブリオバトル部』シリース的なものとイメージしていただければよいでしょう(実際はちょっと違うのですが)。『ビブリア古書堂の事件手帖』的な、古書にまつわるミステリではありませんので、ご注意ください。

一応公式スピンオフ作品なので本家のキャラクターも登場しますが、それほど関わってきませんので、そのあたりは期待しないほうが良いです。

こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌

 鎌倉のとある高校に、豊富な蔵書を持ちながら、利用者が少なく廃止寸前の旧図書室があった。図書部に在籍する、読書すると作品世界に没頭しちゃう小動物系な卯城野こぐち。彼女はその体質から、落ち着いて読書できるのが旧図書室だけだった。そんな旧図書室とこぐちを助けるため、秘密の趣味は朗読配信と中二病な小説執筆の前河響平が立ち上がる。生徒会長に掛け合うと、旧図書室維持のため、生徒同士で書評バトルを行う「ビブリアファイト」に挑むことになり―。
お勧めの本をプレゼンするビブリアファイトでは、実在の名作を多数紹介。原作小説の栞子さんも登場する、本好き少女と恋する少年を描く、青春の1ページ。

第1巻で取り上げられた作品

第1話 コナン=ドイル『名探偵ホームズ(1)赤い文字の謎』
第2話 中島敦『李陵・弟子・名人伝』、山田風太郎『甲賀忍法帖』
第3話 ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』、L.M.オールコット『若草物語』
第4話 ル=グウィン『影との戦い ゲド戦記Ⅰ』
第5話 鎌池和馬『とある魔術の禁書目録』、ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』

読んだ感想

最初に読んだ時の感想は、美少女だらけのハーレム構造に、横暴な生徒会長、バトルを中心とした展開などラノベのテンプレを使いつつ、過去の名作にライトノベル的な解釈を与え、古い本にも興味を持ってもらえるようにしていて、これは面白いなと。普段ラノベしか読まない層に、過去の名作児童文学(以外もありますが)を知ってもらうために書かれた作品で、高校の図書室にぜひおいてほしい1冊だ、なんて思いました。過去の作品も解釈次第では新しい見方を持って読める、そこにインパクトがあったわけです。

今回、この記事を書くために2度目として読んだのですが、初読のようなインパクトはありませんでした(当然ですね)。で、今回強く感じたのが、好きな本について語り合える人がいるのはいいなと。また、ゆっくりと語り合える場所があるのも。先日感想を書いた『ラノベ部』もですが、好きなものについて語り合える人、場所の重要性というのを感じるわけです。学生のうちにこういう場が持てることこそ、最高の幸せではないかと思ったのでありました。

こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌2

 旧図書室を護るため、生徒会長の旭山扉から課されたビブリアファイトを戦い抜いた響平とこぐち。なんとか部室の廃止は免れ、二人も新学年へと進級した。
新部員の戸成早紀も加わり、ますますビブリアファイトへの熱も高まるかと思いきや、ちょっとだけ増えた旧図書室の利用者の相手をしたり、響平はこぐちに想いを伝えられずモヤモヤしたりと相変わらずの日々。しかし、思いがけず市立図書館で小学生に本の紹介をすることになった一行は、そこで出会った聖桜女学園のお嬢様、天塚のどかとビブリアファイト三番勝負をすることになり―。
実在の名作も多数登場する、本好き少女と恋する少年を描く、青春の1ページ。

第2巻で取り上げられた作品

第1話 サン=テグジュペリ『星の王子さま』、J.R.R.トールキン『ホビットの冒険』
第2話 A.A.ミルン『くまのプーさん』、アーノルド・ローベル『ふたりはともだち』
第3話 フィリパ・ピアス『トムは真夜中の庭で』、ジャック・ロンドン『荒野の呼び声』
第4話 メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』、上遠野浩平『ブギーポップは笑わない』
第5話 キャサリン=パターソン『テラビシアにかける橋』、竹宮ゆゆこ『とらドラ!』

第4話で太宰治『晩年』のタイトルがでてきますが、内容には触れられていないので割愛しました。また、第5話でC.S.ルイス『ナルニア国ものがたり』が重要な作品として登場します。

読んだ感想

第1巻に比べると、過去の名作児童文学をライトノベル的に解釈するようなことはなく、わりと普通に紹介するようになっています。また、「ビブリアファイト」というよりも、かなり「ビブリオバトル」的です。

しかも、どちらかというと本の紹介がメインではなく、響平とこぐちの恋愛要素が強くて、青春恋愛物語といって良さそうです。

最終的に『ビブリア古書堂の事件手帖』のスピンオフ作品でなくても良かった、というのが率直な感想。「ビブリア古書堂」のキャラも特にいらない。企画のスタートがスピンオフだったから仕方がないのかもしれないけど、ちょっともったいないなと。

響平とこぐち、旧図書室と本を巡る物語として、もっと続きが読みたいなと素直に思いました。この巻から登場する後輩・戸成早紀、ライバルキャラかつ友達となる天塚のどか、両キャラともに好感が持てるし、このメンバーでの話がもっと読みたい。全2巻で終わってしまっているのが残念です。

ビブリアファイトとビブリオバトル

この作品で行われる書評競技は「ビブリアファイト」といって、現実におこなわれている「ビブリアバトル」とは違います。「ビブリオバトル」には公式ルールがあって、それほど細かくはありませんが、色々と取り決めがあります。

知的書評合戦ビブリオバトル公式サイト
ビブリオバトルとは? ビブリオバトルは、誰でも開催できる本の紹介コミュニケーションゲームです。 「人を通して本を知る。本を通して人を知る」をキャッチコピーに全国に広がり、小中高校、大学、一般企業の研修・勉強会、図書館、書店、サークル、カフェ、家族の団欒などで、広く活用されています! ぜひ皆さんも、友人と、同僚と、仲間達...

一方、「ビブリアファイト」は作中で生徒会長が、「ビブリアバトル」を意識した上で作り出した競技。しかもルールがその都度変わるので、ある意味恣意的な活用ができる競技になってます。そんな中で「ビブリオバトル」との大きな違いがあります。

「ビブリオバトル」では、レジュメや原稿を準備せずに、本について語ることになっているのですが、「ビブリアファイト」では原稿を書くのと発表をするのが別の人間でもOKになっています。この部分こそが物語のキモになっているので、「ビブリオバトル」ではなく、「ビブリアファイト」というオリジナルの競技にしなくてはいけなかったのでしょう。

この点について『BISビブリオバトル部』シリーズ作者の山本弘さんが、なかなか厳しい批判をしています。

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そもそも物語の中では、生徒会長が自身の内申評価を高めるためオリジナルにしたほうが良いという、ラノベらしい設定もあることですし、図書室にある名作を取り上げるので、プレゼンの方法や解釈の仕方で戦わすしかなかったのではと思うのです。旧図書室の存続をめぐるのがきっかけで、面白い本が知りたいということで始まるバトルではないので、そこに「ビブリオバトル」という形にこだわる必要はなかったのではないでしょうか。

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