平坂読『ラノベ部』全3巻を読んで

今回はちょっと古い作品ですが、『僕は友達が少ない』で有名な平坂読の『ラノベ部』全3巻を読んだ感想です。この作品は大好きな作品で、ぜひ皆様におすすめしたいと思っています。

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平坂読(ひらさか よみ)

『ホーンテッド!』で第0回MF文庫Jライトノベル新人賞(メディアファクトリー主催)優秀賞を受賞し、2004年に同作でデビュー。2009年8月からスタートした『僕は友達が少ない』が、TVアニメ化・実写映画化されるなど大ヒット。同作品は『このライトノベルがすごい!』2011年度版では2位、2011年に最も売れたライトノベルとのことです。その後の作品に『妹さえいればいい。』や『〆切前には百合が捗る』などがあります。

今回取り上げる『ラノベ部』は『僕は友達が少ない』の1つ前に書かれた作品です。

ラノベ部

『ラノベ部』は公立富津高校(通称フツ校)の軽小説部を舞台にした、日常系部活小説です。

2000年代半ばラノベ・アニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』が大ヒットし、ちょっと変わった部活を舞台にした小説が沢山登場しました(学校の階段、ベン・トーなど)。またアニメでは『らき☆すた』、『けいおん!』など四コマ漫画をもとにした、日常系のゆるい作品が大ヒット。

これを受けてか、ラノベでは部活を舞台にした、日常系ゆるゆる小説が増えてくることに。2008年1月には学校の生徒会を舞台にした、葵せきな『生徒会の一存』が出版され人気を博しました。

そして2008年9月に登場したのが、平坂読『ラノベ部』です。部活に集まり、グダグダと喋ったり、リレー小説を書いたりするショートストーリー集。『生徒会の一存』シリーズに影響を受けたのかどうかはわかりませんが、同時代に似たような作品が生まれるのはラノベにはよくあることです。この後2010年には『GJ部』という、四コマ小説を名乗る日常系部活小説も登場し、人気となっています。

ラノベ部の特徴としては、ライトノベル・アニメのパロディ・あるあるネタがふんだんに登場し、ラノベ好きを楽しませてくれること。『このライトノベルがすごい!』2010年度版では、ラノベに造詣の深いであろう協力者票で第1位を取っています。

平坂読作品としては、『僕は友達が少ない』や『妹さえいればいい。』に隠れてしまっていますが、ツウ受けのするなかなか面白い作品です。

ラノベ部

ラノベ部 (MF文庫J)
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物部文香はごくごく普通の高校一年生。高校に入学して一週間、今まで通りさして特徴のないごくごく普通の毎日を送ってきた文香だが、ある時ふと気がつくと軽小説部、通称『ラノベ部』に所属することになっていた…!かといってたいそうな事件が起こることはなく、ライトノベルを読んだりちょっとだけ変わった友達と友情を育んだり、一風変わった先輩に絡まれたりと、楽しく日常を過ごしたり過ごさなかったりしていた。そんな、どこにでもありそうな、でもどこにもなさそうな日々が繰り広げられる新感覚ライトノベルのはじまりはじまり。

ラノベ部というタイトルだからこそ、ライトノベルとはなんぞや? を明確にする必要があります。第1巻の「暫定的プロローグ ~ラノベ部はじめました。」では、主人公である物部文香が「ライトノベル」って何? と問いかけています。色々とライトノベルの定義に関して触れられるのですが、

「読んだこともないものを偏見から判断することなく、ジャンルや定義や権威に囚われることなく、『漫画みたい』『アニメみたい』という形容をネガティブなものとして捉えることなく、こういう小説のことをただこういう小説であると受け入れることができる新しい感性を持った少年少女のために、『こういう小説』は書かれている」

ラノベ部 p.31-32より

藤倉暦(中学生の時にラノベ作家としてデビューした少女、この時点ではそのことを誰も知らない)が、以上のように述べています。これが著者の考えるライトノベルであるといってよいでしょう。

第1巻は登場人物の紹介がメインとなりますが、ラノベについてのネタもたくさん登場します。「ネコミミ」「チョココロネの食べ方」「ハーレム」「語尾に『にゃ』をつける女の子」「ツンデレ」などなど。章の冒頭、部長である美咲が「~ってあ(い)るじゃない」で始まる、ラノベネタ話が面白いのです。

また、部員が全員集まったときに開催されるリレー小説の爆発力の凄さ。おのおのが自分の趣味嗜好に合わせて、強引に物語を作っていくさまが面白いのです。作中では素人が書いた作品ですが、プロが生み出す「素人が書いた作品」のなんと面白いことよ。

そして、「コイバナ」。高校生の物語なのですから、やはり恋愛要素は外せません。部長の美咲がとある同級生に恋する話が描かれます。ただ、これは次巻以降への前フリとなります。

美咲と幼なじみの竹田龍之介、龍之介が気になる文香、3人の関係がどうなっていくのか気になりますね。

ラノベ部2

ラノベ部〈2〉 (MF文庫J)
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軽小説部―通称『ラノベ部』。そんな不思議な部に入部した物部文香。クラスメイト・藤倉暦や部長・浅羽美咲らとともに、本を読んだりお喋りしたり、たまには勉強もしてみたりといつまでも続きそうな毎日を過ごしていた。そんなある日、文香たちのクラスに留学生・リアがやってきた。リアは幼い頃から日本の漫画や小説が大好きだったらしく、それがきっかけで文香と仲良くなっていく。でも、ラノベ部の日常は変わりなく過ぎていき―。美咲&竹田のラノベ部設立のエピソードも収録した、大好評の日常系ライトノベル第2弾。

第2巻では、ラノベ部創設と、美咲と龍之介、幼なじみの関係性を描く「ラノベ部はじめて物語」を軸に、ラノベネタやリレー小説をはさみ、外国人留学生の新キャラ・リア投入などなど。

ラノベ部創設にあたり、それまでラノベを読んだことのない龍之介が十数冊のラノベを読み終えた後に語る、ライトノベルというジャンルについて、面白い叙述があります。

 ライトノベル、というジャンルが具体的にどういうジャンルなのかさっぱりわからない。
軽い。
何が軽いのか、と考える。

(中略)

ライトノベルの軽いとは、『ライトノベル』というカテゴリー名自体の持つ意味や価値の軽さ──どうでもよさのことなのかもしれない。
厳密な定義や伝統や権威に縛られていないからこそ、多種多様な物語が自由に共存できているのかもしれない。

ラノベ部2 p.51-52より

ライトノベルのライト=軽いを、内容や文章表現ではなく、カテゴライズのゆるさこそが「軽い」部分であると言っているのが、面白いですね。

ラノベネタとしては、「コスプレ」「超能力」「メタ論」「二つ名」「入れ替わり」などが語られます。

今回は美咲と龍之介の幼なじみの関係性、同級生コンビ文香と暦、新登場のリアとの関係性を中心に、相変わらず大きな展開はないですが、愛おしい日常(青春の1ページ)が描かれています。

ラノベ部3

ラノベ部 3 (MF文庫J ひ 2-18)
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留学生のリアも加わりますます賑やかになりつつも、やっぱり基本的にはまったりとした読書生活を送る軽小説部―通称ラノベ部の部員たち。本屋で偶然出会ったり、部室で何でもない話をしたり、勉強をしたり、家に遊びにいったり―。文香もまた、のんびりと、でも確実に暦やリア、美咲たちとの絆を深めていく。そんなある日、部屋で龍之介と二人になった文香は、自分が抱く初めての気持ちを抑えきれなくなり―?リレー小説ももちろん収録、大好評の日常系スクールライフノベル待望の第三弾。

第3巻では龍之介を巡る恋愛模様が描かれます。著者あとがきで、2巻半ばでラノベあるあるネタは苦しくなり、3巻では主題をラノベから物語そのものにシフトしたとあります。ラノベあるあるは少なくなり、「ゲシュタルト崩壊」や「いかんせん」など言葉をあつかった内容が目立ちます。なお、「いかんせん」の章は全3巻通しても、笑えるという意味で一番面白いと思います。

そんな中、私が好きなのは「竹泡対談~それでも世界は廻っている~」です。前半はエロゲーなどの規制について当時の時事ネタ(「東京都青少年の健全な育成に関する条例」が本格的に議論される少し前)が語られていますが、後半は「日常」系作品について語られています。2ヶ所好きなところがあります。

「いわゆる日常系と呼ばれる作品群で描かれる『どこにでもあるようないつまでも続く平凡な日常』なんてものは、実はこの世界のどこにも存在しないんだと思う。むしろよくある物語の主人公のように、どれだけ頑張っても勝てないような強大な敵と戦ったり、どうにもならない不条理で理不尽な現実に必死で抗うことこそ、誰もが日常的にやっていることだと思うんだ。物語の主人公と現実に生きるぼくたちとの違いは、敗北し膝をついたまま終わることがあるかどうかでしかないんだよ」

ラノベ部3 p.201より

これは日常系の作品が好きという堂島のセリフ。日常系の作品が好きな理由を「世界が優しいから」といい、世界が人間に優しかったことがないと述べた後に、上記のセリフが出てきます。日常系こそ現実にはあり得ない世界であり、あり得ない世界を描いているフィクションの困難な部分こそ現実。この部分、いいですよね。

もうひとつが、「優しくない世界でも、『人が優しくあれる場所』を作ることは可能」と言ったあとの龍之介のセリフ。

「かつてブギーポップは『笑うのは君たちの仕事だ』と言った。優しくないこの世界で足掻き、不条理な現実の前に悩み苦しみそれでも抗い続け、そして最後に幸せになるのは、『世界の敵と人知れず戦う』という非日常的幻想物語のキャラクターである自分ではなく、日常の物語を懸命に生きる人間たち一人一人の役目だと。世界は優しくないが、別に敵意をもって襲ってくるわけでもない。剥き出しの世界が優しくないのなら、世界を一人一人の優しさで埋め尽くしてしまえばいいんだ」

ラノベ部3 p.203より

私自身は『ブギーポップ』を未読なため、この部分についてはどこまで『ブギーポップ』からの引用かはわからないのですが、著者の「ライトノベルの力を信じる姿勢」が感じられます。

この第3巻を持ってラノベ部は終了。あとがきにて「(ラノベ部として)書くべきことは全部書いたつもりです。なので、竹田や文香や暦の物語は終わりませんがラノベ部という作品はこれで終わりです」とあります。

作者として描ききった上で終了ということです。

全3巻を読んで

ひさしぶりに全3巻を通して読んでみたのですが、やはり面白い。ただ、この面白さを人に伝えるときに、どう伝えたら良いだろうかと。

『ラノベ部』の面白さは、ラノベあるあるネタやアニメのパロディが飛び交うギャグであり、部活内での恋愛模様を描くラブコメとしての面白さでもあるのですが、ずっと、多分それだけじゃないような気がしていたのです。

改めてブログを書くために読み直して、気になったところをピックアップして最終的に至ったのが、著者である平坂読氏の「ラノベ愛」こそが、この作品の面白さではないかと。

そもそも過去のラノベを物語の中でネタにするということは、表面的にタイトルを知っているだけでは出来ないわけです。それだけラノベを読み、理解しているからこそネタにできるわけなのです。

この小説が3巻で終わってしまって、続きが読みたいと思った人は、この作品の恋愛模様が気になっているのだと思います。この小説が笑えて面白いという人は、ラノベあるあるネタやキャラクターの言動に笑えたのだと思います。しかし、それらは表面的なことに過ぎず、奥には著者のラノベ愛がベースとしてあるからこそ楽しめるのだと思うのです。

そういうふうに考えれば、ライトノベルを愛する人こそ、共感を持って楽しめる作品であると。

今読んでどうなのか

この作品が出版されたのが、2008年から2009年にかけて。そして作中で扱われているネタ元としてのラノベは90年代後半から00年代初頭のものです。2009年ではそれなりに知られていたラノベタイトルも、2022年の現在では忘れ去られている作品は多いでしょう。明確なタイトルが出てこないので、検索もしにくいですし。

その点から考えると、現在この『ラノベ部』を読んだところで、面白さは伝わらないのではないか、と考えていました。しかし、今回改めて読んでみて感じた、ラノベ愛という部分をもってすれば、充分現在でも通用するのではないかと思うのです。ただそれは、元ネタを知っている人間が言っていることなので、元ネタを知らない人が読んだ場合はそうでないのかもしれません。

しかし、文中にたびたび登場するラノベへの愛は、受け取ることは可能ではないかと思うのです。

話はそれますが、3巻の著者の各話あとがき【経験値上昇中】の項に、こんな記載があります。

時事ネタは風化するのでやめた方がいいという考えもありますが、ラノベ部では「今」を描くために積極的に使っています。 作品が長く読み継がれるに越したことはありません が、全ての作品が不朽の名作である必要はないと思います。ラノベ部も多分数年後には本屋さんで見かけなくなるでしょうが、数年後の読者さんは、数年後に書かれたその時代に最適化されたラノベ部みたいな小説を読めばいいと思います。ラノベ部他無数の作品の遺伝子は、ちゃんとその中に受け継がれている筈です。

ラノベ部3 p.243より

ライトノベルを信頼する著者の姿勢が素晴らしいですね。この『ラノベ部』も残念ながら新刊書店で見かけることはほぼなく、ブックオフなどの古本チェーン店でも見かけることは少なくなっています。

この小説を今薦めるよりは、現在新刊として発売されている作品を薦めるべきなのだろうか、とも思います。でも、やっぱりこの作品が面白いので、この作品を薦めたいのです。今なら、電子書籍もありますしね。

ライトノベルに愛を持っているという人は、読んでみませんか?

ラノベオタクを自負するなら作中に登場する作品を調べ、遡って読むくらいのことはできるはず、ですよね。

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