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【富士見ミステリー文庫を読む】舞阪洸『御手洗学園高等部実践ミステリ倶楽部』 全2巻+αを読む

さて、今回は富士見ミステリー文庫作品を読んだ感想です。

富士見ミステリー文庫の創刊ラインナップの一つ、舞阪洸の『御手洗学園高等部実践ミステリ倶楽部』 シリーズ2巻と、文庫に収録されていない短編「黒い森の殺人」を読んでみました。マンモス学園の部活を舞台に、殺人事件の謎を解く本格(風)ミステリです。

亜是流(あぜる)城館の殺人

著者:舞阪洸
イラスト:八雲剣豪
文庫:富士見ミステリー文庫
出版社:富士見書房
発売日:2000/11

「なぁんか足りないよねぇ。高原の美味い空気、食事、ビールに殺人事件まであるってのに」村櫛天由美はつぶやいた。「温泉よ、温泉がたりないのよ! 温泉で血の巡りをよくすれば、迷推理が浮かぶはずよ! 」すかさず、有栖が叫んだ。伊場薫子は、御手洗高校に入学してきた一年生。ミステリー作家になる夢の実現のため、入部した部活「実践ミステリー倶楽部」は、アヤシイ部員ばかり。「殺人を呼ぶ」女装の麗人、夏比古。各地に別荘を持つお嬢様の有栖。顧問で謎の多い大学院生の天由美。奇妙な面々が、ふたつの密室殺人に挑む!ドタバタ本格ミステリー。

ライトノベルらしいキャラで、本格ミステリに挑んだ作品。実践ミステリ倶楽部のメンツが、超お金持ちの部長・西来院有栖に、何故かいつも女装している男子・榛原夏比古、顧問はナイスバディでビールばかり飲んでいる大学院生・村櫛天由美と、いかにもライトノベルらしいキャラの立った設定。

富士見ミステリー文庫としては、こういうキャラ+ミステリ(殺人事件)を1つの路線として、出して行きたかったんだろうなと想像してしまいます。

謎解き自体はミステリに目が肥えた人からすると、大した事がないのかもしれませんが、ミステリ初心者には充分楽しめると思います。

ただ収録されている2篇「事件簿1 完全密室の死体」「事件簿2 亜是流城館の殺人」ともに、避暑地の別荘が舞台、殺されるのが作家、密室殺人ということで、似たような印象になってしまっているところが残念です。

なお、主人公の伊場薫子は謎解きにおいてはほとんど活躍せず、推理するのは村櫛天由美です。各キャラクターにはそれぞれ、なにやら背景があるようで、続きが読みたくなりました。

彫刻の家の殺人

著者:舞阪洸
イラスト:仏さんじょ
文庫:富士見ミステリー文庫
出版社:富士見書房
発売日:2001/09

薫子は、サンルームから太平洋に沈む夕日を見つめる。巨大な太陽が、風景の全てを赤く染め上げる。海も、船も、水鳥も。数瞬後、漆黒の闇が訪れた。「…逢魔が時の訪れ…」なぜか、薫子は不吉な思いにとらわれ、震えた。実践ミステリ倶楽部部長、有栖の誘いにより、伊豆半島の南彫刻の家と呼ばれる館のパーティーに出席する四人組。不幸を呼ぶ男夏比古のせいなのか、初夏の伊豆を舞台に起こる不可能犯罪。犯人の動機は、そしてトリックとは?ビールを飲むほどに推理が冴える村櫛天由美の出した結論は…。ヘッポコ本格ミステリー第二弾。

まず建物の見取り図や登場人物表が巻頭にあるのが、いかにも推理小説っていう感じで良いですね。

ちょっと事件までの導入部分が長いのが気になりましたが、謎解きだけが話のメインではなくて、個性的なキャラクターを見せるという意味で長くなってしまったのではないかと思います。特に天由美の発言や考え方は物語の最後につながっているので、とても重要ですし、多分に10代の読者へのメッセージとも受け取れます。

トリックに関しては本格推理をそれほど読んでいない私には、予想外で楽しめました。状況を丁寧に描写した後に、読者への挑戦状があるのもよいですね。しかも謎を解いたあとに、もうひとひねりあって、ここが面白いというか、アツいですね。

前巻の物語もでしたが、終わり方が断罪するだけでなく、読者に考えさせるようになっているのが、このシリーズの良いところだと思います。犯人を追い詰め犯行を認めさせる、テレビの2時間サスペンスのようなものになっていないところに、作者の良心を感じます。

こういったラノベのキャラクターに好き嫌いあるかと思いますが、これはもっと評価されてもいい作品じゃないかと思います。

黒い森の殺人

『彫刻の家の殺人』のあとがきでふれられていた短編「黒い森の殺人」は『月刊ドラゴンマガジン2001年10月号増刊 ファンタジア バトルロイヤル』に掲載されています。

物語は村櫛天由美の大学時代、1年休学してヨーロッパを放浪していた時に出くわした事件です。ドイツを旅していた天由美は、突然の尿管結石で入院することに。その病院で出会った日本人女性・紫音。2人は意気投合し、天由美は紫音の家に招かれることになります。

美味しいものを食べ、たっぷりビールを飲み酔いつぶれ、部屋で寝てしまった天由美。目が覚めると突然の悲鳴と銃声。紫音は縄で縛られ、紫音の夫は銃で撃たれていました。紫音の縄を解いた天由美でしたが、後頭部を殴られ意識をなくしてしまいます。

紫音の声で意識を取り戻した天由美でしたが、紫音の家は火をつけられ、紫音と共に逃げ出すのがやっとでした。紫音の夫は焼死、彼を殺し、家に火を放った犯人は誰なのか。疑われたのは紫音の夫の兄弟でしたが、2人にはアリバイが。結局、事件は流しの強盗ということに。

天由美の回想が「問題編」となり、読者への挑戦ではなく、ミステリ倶楽部メンバーへの挑戦という形になっています。「解決編」では天由美の考える事件の真相が語られます。短編なのでそれほど込み入った謎ではなく、ひとつのトリックに気付くかどうかです。

謎解きというよりは、天由美がビールばかりをひたすら飲むようになった理由や、事件に対する態度や真相にたどり着こうとする姿勢になったきっかけが語られていて、天由美というキャラクターを掘り下げた短編になっています。

まとめ

『亜是流城館の殺人』を読んだ後に、富士見ミステリー文庫としては、ライトノベルらしいキャラ+ミステリ(殺人事件)を1つの路線として、出して行きたかったんだろうなと想像しました。言ってみれば漫画の「金田一少年の事件簿」や「名探偵コナン」のような、キャラクターが立っていて、殺人事件の謎を解いていくような物語です。これはミステリー文庫と名乗った時点で、ある程度想像できるでしょう。

今となっては富士見ミステリー文庫がどういう方向を目指していたのかはわかりませんが、この路線の1つの正解が『御手洗学園高等部実践ミステリ倶楽部』シリーズであったように思います。ただ、残念ながらあまり受け入れられなかったようで、第2巻をもってシリーズは終了、雑誌に掲載された短編は、文庫化されることはなく終わってしまいました。

『彫刻の家の殺人』のあとがきに、富士見ミステリー文庫で書くにあたって「キャラクター小説であり、本格(風)の味わいを持った小説にする」と目標を立てたとあって、その通りの出来になっていると思います。

キャラクターに拒否反応を起こす人もいると思いますが、なかなかの本格推理小説なのではと思います。

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