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【富士見ミステリー文庫を読む】リレーノベル『ネコのおと リレーノベル・ラブバージョン』を読む

さて、本日も富士見ミステリー文庫作品を読んだ感想です。

今回読んだのは、複数の作家がストーリーを書きつないでいく、リレー小説『ネコのおと』。読む前から芳しくない評判は知っていたのですが、読んだ結果は……

リレーノベル

リレーノベル(リレー小説)とは、複数の作家が書きつないで作る小説です。ある程度の縛りはあるとしても、つないでいく作家が自由に展開できることで、予想外の方向に話がすすむという面白さがあります。

しかし、無茶苦茶な展開になってしまうと最後どうやって話をまとめるのか? ということになってしまい、物語の完成度を考えると非常に難しいともいえます。

商業出版ではあまり出ていないようで、古いところでは、江戸川乱歩や横溝正史による合作探偵小説なんかがあったようですが、近年ではwikipediaで調べたところ、宮部みゆきなどによる時代小説『運命の剣 のきばしら』、北村薫や若竹七海によるリレーミステリ『吹雪の山荘』くらいのようです。

『ネコのおと』企画決定の経緯

で、『ネコのおと』はというと、2005年10月23日に開催された、秋葉原エンタまつりの「富士ミス企画を考えてみよう!」というイベントで企画が決定したようです。

この企画が決定した経緯を書いたレポート記事を読むと、作家と参加者によるプロットがなかなかまとまらなかったところに、客席からキーアイテムとして「〇〇ノート」の提案があり、それを水城正太郎が「ネコノート」にしたようです。なお、客席からの提案は「〇〇×××」とレポート記事ではふせられています。「急遽、“×××”が次々に学生の手を渡っていく物語にしようと瞬間決定」とあります。

で、編集長が鶴の一声で「じゃあ、作家さん全員が1章ずつ書いて、合計7章で、一冊の本にしよう」と決めた模様。

なお、このイベントに参加していた作家は、築地俊彦、水城正太郎、新井輝、師走トオル、田代裕彦、吉田茄矢の6名だったのですが、客席にいたあざの耕平が無理矢理参加させられることになったようです。

執筆順はじゃんけんでトップバッターが新井輝、先手からの指名制で新井→築地→水城→師走→田代→吉田→あざの、の順に決まったとのことです。05年の時点で若手でもベテラン組の新井・築地・水城の3氏が比較的自由に展開できそうな前半で、後半の厳しくなりそうなところは師走(03年デビュー)、田代(04年デビュー)、吉田(05年デビュー)の若手が担当と作家のヒエラルキーが垣間見えるところが恐ろしいです。そのかわり、多分一番大変になるであろうトリは、当時作品がアニメ化されるなど人気絶好調で実力もある、あざの耕平が担当するのは良心的というか、あざの耕平への信頼感がみえるというか。

一応この経緯を知っておくと、作品への理解が深まります。

読んだ感想

まず、とんでも作品という評判は聞いておりました。リレー小説に物語としての完成度を求めるものではないし、あくまでも作家や編集のお遊び的なものかと。で、読み終えてまず思ったのが、途中から内輪受けになってしまい残念だなと。はっちゃけ方が思っていたのと違った。

トップバッターの新井輝、それを受けた都筑俊彦はまぁ、それなりに展開していたのですが、3番手の水城正太郎が酷いというか。参加作家を登場させてメタ・フィクション的な方向に持っていき内輪受けな物語になり、それに悪ノリした師走トオルが物語を破綻させてしまった。田代裕彦がなんとか物語を再構築し、それを吉田茄矢がなんとか引き継いだが、結局、最後は内輪受けで終わらせるしかなかったのかと。無理矢理にでもまとめたあざの耕平は大変だったと思うのですが、結局は作家による編集長への恨み言で終わってしまったなと。

企画決定の経緯を知っていれば、これもまた楽しめるのかもしれません。本を読み終えて、企画決定経緯が報告されたレポート(当時書かれたものはリンク切れ、アーカイブサイトにあり)を読めば、作家陣の恨み言も理解できるのですが、これを1冊の本として読んだだけでは残念な気持ちしか思い浮かびませんでした。

そもそも各作家のキャラクターをひとつの世界(富士見須学園)に閉じ込めようとしたことに無理があったと言えるかもしれません。だから作者と各キャラクターが出て物語や別世界を作らざるをえなかったと。また、ひょっとして作家陣としては、自身が生み出した愛着のあるキャラクターにネコ耳をつけるなど許せなかったのかも、とも思ったりしました。

ただ、そこはそれ、富士見須学園を舞台に、人気キャラクターたちをもっと遊ばせて欲しかったなと思うのです。こういう内輪受けノリを許容できる・楽しめる人は面白いと思うのかもしれませんが、商業出版でこれはないかなとも思います。

唯一の収穫は、田代裕彦という作家を知れたこと。この人の作品は順次集めてみようと思いました。

参加作家と代表作

最後に参加作家について、執筆順に紹介を。

新井輝

1997年、電撃文庫『クルーエル 2 火星の天使』でデビュー(「クルーエル」第1巻は成田美弥子著、経緯は詳細不明)富士見ミステリー文庫では、2001年からの「DEAR」シリーズや03年からの「ROOM NO.1301」シリーズなど。後者は当時のライトノベルには珍しい高校生の恋愛・肉体関係を描いた青春小説で、富士見ミステリー文庫の最後の出版作品になる大ヒット作。

築地俊彦

1999年、富士見ファンタジア文庫『ライトセイバーズ 運命を斬る勇者』でデビュー。ファンタジーにラブコメ要素を融合させた「まぶらほ」シリーズがアニメ化されるなど大ヒット。富士見ミステリー文庫では『ネコのおと』以外では、作品を発表していません。

水城正太郎

2001年、富士見ミステリー文庫『東京タブロイド 新都疾る少年記者』でデビュー。あざの耕平・南房秀久とともに、初期富士見ミステリー文庫の人気作家に。

師走トオル

2001年の第2回富士見ヤングミステリー大賞で『タクティカル・ジャッジメント』が準入選し、同作品で2003年デビュー。07年まで続いた「タクティカル・ジャッジメント」シリーズは、富士見ミステリー文庫中期〜後期のヒット作。

田代裕彦

2002年の第3回ヤングミステリー大賞で『平井骸惚此中ニ有リ』が大賞を受賞し、同作品で2004年デビュー。富士見ミステリー文庫で複数の作品を発表、富士見ミステリー文庫配管後はファミ通文庫などでも作品を発表。

吉田茄矢

2003年の第4回富士見ヤングミステリー大賞で『12月の銃と少女 BAD×BUDDY』が最終選考候補作品となり、同作品で2005年デビュー。作品は富士見ミステリー文庫のみで、廃刊後は作品の発表はない。

あざの耕平

1999年、富士見ファンタジア文庫より『ブートレガーズ 神仙酒コンチェルト』で文庫デビュー。富士見ミステリー文庫の創刊ラインナップのひとつであった『Dクラッカーズ』が人気となる。その後、富士見ファンタジア文庫から出版された『BLACK BLOOD BROTHERS』がアニメ化されるなど大ヒット。

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